DFF
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
カレシャツ
空の雲行きが怪しい。
風の流れに敏感な青年とそう話していた時、黒い雲が空一面を覆いつくした。ぽつりと一滴落ちてきた雨は瞬く間に激しい音を立てて降り出す。通り雨を凌ごうと周囲を見渡すも、荒野が広がるばかり。ようやく見つけた廃屋に飛び込んだ時には既に全員びしょ濡れであった。
インナーまで雨が染み込んでしまい、このままでは風邪を引くのがオチなので各自着替えをすることになった。廃屋といえどドアとして作用する部屋が一つあるので、紅一点のキリカがそこを使って手早く着替えを済ませた。
しかし。キリカは彼らと違って着替えを持ち合わせていなかった。それにいち早く察したバッツが自分の替えのシャツだと言ってキリカに手渡してきたものだ。鮮やかな深紅の長袖シャツ、これはバッツが踊り子の時に着ているものだ。
体格が違うために袖を通すにはだいぶ袖があまった。裾も同様にシャツワンピのように長いが、それをヘソの上で結んだりはしない。裾はいいとして袖だけは七分の長さに捲っておく。
濡れた衣服を窓際になんとか吊るして、濡れた髪の水分をタオルで拭き取る。既に湿気を含んでいるタオルでは限度があるものの、拭かないよりはマシだと雫を絞った。その下にくすんだ木の床に小さな水たまりが出来ていた。
窓際にタオルを広げて干した後、部屋を出ようとしたキリカはふと気が付いてしまった。自分の恰好を今一度確認する。
「……これって彼シャツ」
一度その事に気付くと、どう足掻いても払拭することが出来なくなる。急に恥ずかしくなったので部屋に籠ろうかとも考えた。だが、そうもいかない。三人のうち誰か一人は必ず様子を見にくる。そこで見られてしまうなら、潔く出ていった方が良い。そもそも、彼シャツという概念が彼らの世界にはないだろう。それを願ってキリカは部屋を後にした。
三人が集まっていた部屋は一階の元リビングのような場所。そこでは普段見慣れない光景が広がっていた。と言ってもそのうち二人の服装はキリカにとって懐かしいものでもあった。
バッツは長袖の青い衣服に身を包み、足元は緑単色のブーツ。肌の露出がぐっと抑えられているせいか逆に違和感すら覚える。スコールのきっちりとした服装はSeeDの学生服で、金色に縁取られている。赤い袖や腰を留めるベルト、肩の装飾を見ると学生服というよりは軍服のような作りにも見えた。ジタンの恰好はほぼ変わらないのだが、色合いが随分シックなものになっていて落ち着いた大人の雰囲気を醸し出していた。
「みんなも着替えたんだ。スコール、なんだか学生っぽい」
俺は元々学生だ。そう言いたげにキリカを見、そして視線を逸らした。まるで何かイケない物を見たかのように。そのことに気付いていないキリカはバッツとスコールの間に腰を下ろした。下着が見えては困るので、そこは乙女座りで配慮する。
「なんかそれキリカが着てると違和感あるなー」
「う、うん。私も変な感じ。ジタンは何だか大人っぽく見えるわね」
「へへ、そうかい?じゃあ今度からこっちメインにするか」
服装を女性に褒められたのが余程嬉しかったようで、ニコニコと上機嫌にジタンは笑っていた。
赤いシャツに着られているキリカをじっと見ていたバッツは振り向いた小さな頭と目が合う。逆に目を覗き込まれ、思わずたじろいだ。
「どうしたんだ」
「目、青い。普段は琥珀色なのに、不思議」
「え。そうなのか?」
「ああ。今のお前は碧眼だぜ」
ジタンに同意するようにスコールが無言で頷く。この服自体あまり着る機会がないせいもあるが、誰も一切触れてこないので気付かなかったようだ。
最初は物珍しい目を向けていたキリカだが、表情が次第に和らいでいく。まるで久しぶりに旧友と会ったように。
「懐かしいなあ。…その服にその目、いかにもバッツって感じ。何だかんだ言ってその恰好が一番好きだったわ」
「へー。初恋の?」
「そうそう、……えっ!?いや、ちがっ!」
ニヤニヤと笑うジタンに否定の意味で手をぶんぶんと振るが、真っ赤にした顔でそれは効果が全くといってない。
その横からはバッツが抱き着いてきたので、布越しに伝わる体温が普段よりも温かいと感じたのは着ている物があれだからか。とにかく心臓がやかましく騒いでいた。
「俺はキリカのその恰好色っぽくて好きだな」
「色っ!?」
「……彼シャツ」
「え、ちょっなんでスコールその言葉知ってるの!」
「なになに、カレシャツってどういう意味なんだスコール」
「ジタン聞かなくていいからー!」
スコールとキリカの世界は文明レベルが近い。それをすっかり忘れていた。姿を見せた時の反応が通りで微妙だったと振り返るも、二人がスコールから聞き出そうと詰め寄る。邪魔が入らないようにと「バッツ!キリカを押さえとけよ!」「任せろ!」と見事なチームワークを見せ付けられる。
子どもを抱っこするような形で抱きしめられてしまい、身動きが取れない。その間にちゃっかりジタンは彼シャツの意味を聞き出していたのである。
彼らがじゃれ合っている間にも通り雨は止み、日差しが雲の隙間から差し込んでいた。
空の雲行きが怪しい。
風の流れに敏感な青年とそう話していた時、黒い雲が空一面を覆いつくした。ぽつりと一滴落ちてきた雨は瞬く間に激しい音を立てて降り出す。通り雨を凌ごうと周囲を見渡すも、荒野が広がるばかり。ようやく見つけた廃屋に飛び込んだ時には既に全員びしょ濡れであった。
インナーまで雨が染み込んでしまい、このままでは風邪を引くのがオチなので各自着替えをすることになった。廃屋といえどドアとして作用する部屋が一つあるので、紅一点のキリカがそこを使って手早く着替えを済ませた。
しかし。キリカは彼らと違って着替えを持ち合わせていなかった。それにいち早く察したバッツが自分の替えのシャツだと言ってキリカに手渡してきたものだ。鮮やかな深紅の長袖シャツ、これはバッツが踊り子の時に着ているものだ。
体格が違うために袖を通すにはだいぶ袖があまった。裾も同様にシャツワンピのように長いが、それをヘソの上で結んだりはしない。裾はいいとして袖だけは七分の長さに捲っておく。
濡れた衣服を窓際になんとか吊るして、濡れた髪の水分をタオルで拭き取る。既に湿気を含んでいるタオルでは限度があるものの、拭かないよりはマシだと雫を絞った。その下にくすんだ木の床に小さな水たまりが出来ていた。
窓際にタオルを広げて干した後、部屋を出ようとしたキリカはふと気が付いてしまった。自分の恰好を今一度確認する。
「……これって彼シャツ」
一度その事に気付くと、どう足掻いても払拭することが出来なくなる。急に恥ずかしくなったので部屋に籠ろうかとも考えた。だが、そうもいかない。三人のうち誰か一人は必ず様子を見にくる。そこで見られてしまうなら、潔く出ていった方が良い。そもそも、彼シャツという概念が彼らの世界にはないだろう。それを願ってキリカは部屋を後にした。
三人が集まっていた部屋は一階の元リビングのような場所。そこでは普段見慣れない光景が広がっていた。と言ってもそのうち二人の服装はキリカにとって懐かしいものでもあった。
バッツは長袖の青い衣服に身を包み、足元は緑単色のブーツ。肌の露出がぐっと抑えられているせいか逆に違和感すら覚える。スコールのきっちりとした服装はSeeDの学生服で、金色に縁取られている。赤い袖や腰を留めるベルト、肩の装飾を見ると学生服というよりは軍服のような作りにも見えた。ジタンの恰好はほぼ変わらないのだが、色合いが随分シックなものになっていて落ち着いた大人の雰囲気を醸し出していた。
「みんなも着替えたんだ。スコール、なんだか学生っぽい」
俺は元々学生だ。そう言いたげにキリカを見、そして視線を逸らした。まるで何かイケない物を見たかのように。そのことに気付いていないキリカはバッツとスコールの間に腰を下ろした。下着が見えては困るので、そこは乙女座りで配慮する。
「なんかそれキリカが着てると違和感あるなー」
「う、うん。私も変な感じ。ジタンは何だか大人っぽく見えるわね」
「へへ、そうかい?じゃあ今度からこっちメインにするか」
服装を女性に褒められたのが余程嬉しかったようで、ニコニコと上機嫌にジタンは笑っていた。
赤いシャツに着られているキリカをじっと見ていたバッツは振り向いた小さな頭と目が合う。逆に目を覗き込まれ、思わずたじろいだ。
「どうしたんだ」
「目、青い。普段は琥珀色なのに、不思議」
「え。そうなのか?」
「ああ。今のお前は碧眼だぜ」
ジタンに同意するようにスコールが無言で頷く。この服自体あまり着る機会がないせいもあるが、誰も一切触れてこないので気付かなかったようだ。
最初は物珍しい目を向けていたキリカだが、表情が次第に和らいでいく。まるで久しぶりに旧友と会ったように。
「懐かしいなあ。…その服にその目、いかにもバッツって感じ。何だかんだ言ってその恰好が一番好きだったわ」
「へー。初恋の?」
「そうそう、……えっ!?いや、ちがっ!」
ニヤニヤと笑うジタンに否定の意味で手をぶんぶんと振るが、真っ赤にした顔でそれは効果が全くといってない。
その横からはバッツが抱き着いてきたので、布越しに伝わる体温が普段よりも温かいと感じたのは着ている物があれだからか。とにかく心臓がやかましく騒いでいた。
「俺はキリカのその恰好色っぽくて好きだな」
「色っ!?」
「……彼シャツ」
「え、ちょっなんでスコールその言葉知ってるの!」
「なになに、カレシャツってどういう意味なんだスコール」
「ジタン聞かなくていいからー!」
スコールとキリカの世界は文明レベルが近い。それをすっかり忘れていた。姿を見せた時の反応が通りで微妙だったと振り返るも、二人がスコールから聞き出そうと詰め寄る。邪魔が入らないようにと「バッツ!キリカを押さえとけよ!」「任せろ!」と見事なチームワークを見せ付けられる。
子どもを抱っこするような形で抱きしめられてしまい、身動きが取れない。その間にちゃっかりジタンは彼シャツの意味を聞き出していたのである。
彼らがじゃれ合っている間にも通り雨は止み、日差しが雲の隙間から差し込んでいた。