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伝記の戦士たち
「ちょ、ちょっと待てって!」
バッツは抗議の声を上げた。連れて行かれそうになるキリカの腕を慌てて掴む。すると振り向いたライトニングの鋭い視線が彼を睨み付けた。
「バッツ、お前はついてくるな。私はキリカに話があるんだ」
「キリカのこと疑ってるのか?彼女はあいつらの仲間じゃ」
「煩い。黙れ浮つき者」
この清々しい青空の下、まるで雷光が轟いたようだとキリカは思った。目鼻が整った美人に罵声を浴びせられた風の青年は雷に打たれたように静止。
青年自身は浮ついているつもりなど一切ないのだが、全く言い返すことができない。ようやく相手が黙ったことを機に、ライトニングはキリカを連れてその場から離れていった。
*
「この辺りなら邪魔が入らないな」
穏やかな風が丘の草原を撫でていく。風で乱れた薄い桃色の髪を耳にかけた女性は振り返った。半ば強制的に連れてきた異世界の女に詫びるような言葉をかける。
「すまない。どうしても自分で確認をしたかったんだ」
「あ、いえ……私の事って秩序側の人達に広まってるんですね。戦えない事、……それに」
「私達の事を知っている」
そう言いきったライトニングの表情は変わらなかったが、眼光の鋭さにキリカは身構えた。争いから遠ざけられた世界で生きてきた者とは全く違う、戦士の目。
「私はなにもお前の全てを否定しに来たわけじゃない。ただ、噂は噂を呼ぶ。だから一度会っておきたかった。……何故、私達のことを知っているのか話してくれ」
異世界から来訪した女が戦士達とは違い、特異な存在であることは各々承知であった。
戦いの場にやむを得ず招かれた非戦士。そして、他の戦士達の世界を知っている。
一時はそれが原因で行動を共にしていた仲間と物議を醸すこととなったが、結果的に丸く収まった。
ライトニングと口論になりかけたのは疑いの余地はないとバッツが主張した為。
疑いをかけられることには慣れそうにないが、キリカは話を真っ向から受け止めようとする女戦士に事の顛末を話始めた。
「わかりました。ライトニングさんは伝記という書物をご存知ですか」
「ああ。それが?」
「私の世界に貴女たちの事が記された媒体があるんです。それぞれ、みんなの世界の数だけ存在しています」
「私達の、ことが……?」
軽く目が見開かれる。自分の事が記された物が別の世界に存在するという。にわかには信じがたい話だと一度己の中でかみ砕いた。
ライトニングは視線をキリカにすっと向ける。深海を映したような黒い瞳は真っ直ぐに前を向き、神妙な面持ちをしていた。
嘘をついている様子はない。行動を共にしている三人も既に事情を把握しており、疑いを持っていなかった。何よりもあの青年が庇い立てした。普段の軽はずみな言動は全くなく、真剣に。
ライトニングは溜息をついた。
「……私の事は知らないんだな」
「ライトニングさんだけじゃないです。他にも知らない方が結構いまして…実はウォーリアさんのことも」
「そうなのか?」
「はい。偶々、私が彼らの世界に触れる機会がなかったので」
すみませんと謝るキリカの黒い睫毛に縁どられた目が伏せられた。自分のことを知らないからと言って咎めるつもりなどなかった。むしろ好都合だとライトニングは軽く首を横に振る。
「一から十まで知られているのもな。……聞けて良かった、礼を言う」
「いえ、お礼を言われるほどのことしてませんから」
感情を露わにしやすい風。それに比べ、異世界の少女は穏やかな凪のようだった。考え方が違えば意見の食い違いも多くなる。この二人がよく一緒に居られるものだ。
「お前たちはよく一緒に居られるな。性格が正反対じゃないか」
「うーん…そうですね。憎めないというか、惚れた弱みというか」
「あれのどこに惚れたのか理解できないがな。……冗談だ」
この不安定な世界で生きる糧を見出している者達。混沌に満ちた戦場ではそれが命綱にも成り代わる。
異世界の者同士、数奇な出逢いではあるが、お互いを支えてほしいと雷光は祈りを込めた。
「ちょ、ちょっと待てって!」
バッツは抗議の声を上げた。連れて行かれそうになるキリカの腕を慌てて掴む。すると振り向いたライトニングの鋭い視線が彼を睨み付けた。
「バッツ、お前はついてくるな。私はキリカに話があるんだ」
「キリカのこと疑ってるのか?彼女はあいつらの仲間じゃ」
「煩い。黙れ浮つき者」
この清々しい青空の下、まるで雷光が轟いたようだとキリカは思った。目鼻が整った美人に罵声を浴びせられた風の青年は雷に打たれたように静止。
青年自身は浮ついているつもりなど一切ないのだが、全く言い返すことができない。ようやく相手が黙ったことを機に、ライトニングはキリカを連れてその場から離れていった。
*
「この辺りなら邪魔が入らないな」
穏やかな風が丘の草原を撫でていく。風で乱れた薄い桃色の髪を耳にかけた女性は振り返った。半ば強制的に連れてきた異世界の女に詫びるような言葉をかける。
「すまない。どうしても自分で確認をしたかったんだ」
「あ、いえ……私の事って秩序側の人達に広まってるんですね。戦えない事、……それに」
「私達の事を知っている」
そう言いきったライトニングの表情は変わらなかったが、眼光の鋭さにキリカは身構えた。争いから遠ざけられた世界で生きてきた者とは全く違う、戦士の目。
「私はなにもお前の全てを否定しに来たわけじゃない。ただ、噂は噂を呼ぶ。だから一度会っておきたかった。……何故、私達のことを知っているのか話してくれ」
異世界から来訪した女が戦士達とは違い、特異な存在であることは各々承知であった。
戦いの場にやむを得ず招かれた非戦士。そして、他の戦士達の世界を知っている。
一時はそれが原因で行動を共にしていた仲間と物議を醸すこととなったが、結果的に丸く収まった。
ライトニングと口論になりかけたのは疑いの余地はないとバッツが主張した為。
疑いをかけられることには慣れそうにないが、キリカは話を真っ向から受け止めようとする女戦士に事の顛末を話始めた。
「わかりました。ライトニングさんは伝記という書物をご存知ですか」
「ああ。それが?」
「私の世界に貴女たちの事が記された媒体があるんです。それぞれ、みんなの世界の数だけ存在しています」
「私達の、ことが……?」
軽く目が見開かれる。自分の事が記された物が別の世界に存在するという。にわかには信じがたい話だと一度己の中でかみ砕いた。
ライトニングは視線をキリカにすっと向ける。深海を映したような黒い瞳は真っ直ぐに前を向き、神妙な面持ちをしていた。
嘘をついている様子はない。行動を共にしている三人も既に事情を把握しており、疑いを持っていなかった。何よりもあの青年が庇い立てした。普段の軽はずみな言動は全くなく、真剣に。
ライトニングは溜息をついた。
「……私の事は知らないんだな」
「ライトニングさんだけじゃないです。他にも知らない方が結構いまして…実はウォーリアさんのことも」
「そうなのか?」
「はい。偶々、私が彼らの世界に触れる機会がなかったので」
すみませんと謝るキリカの黒い睫毛に縁どられた目が伏せられた。自分のことを知らないからと言って咎めるつもりなどなかった。むしろ好都合だとライトニングは軽く首を横に振る。
「一から十まで知られているのもな。……聞けて良かった、礼を言う」
「いえ、お礼を言われるほどのことしてませんから」
感情を露わにしやすい風。それに比べ、異世界の少女は穏やかな凪のようだった。考え方が違えば意見の食い違いも多くなる。この二人がよく一緒に居られるものだ。
「お前たちはよく一緒に居られるな。性格が正反対じゃないか」
「うーん…そうですね。憎めないというか、惚れた弱みというか」
「あれのどこに惚れたのか理解できないがな。……冗談だ」
この不安定な世界で生きる糧を見出している者達。混沌に満ちた戦場ではそれが命綱にも成り代わる。
異世界の者同士、数奇な出逢いではあるが、お互いを支えてほしいと雷光は祈りを込めた。