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お邪魔します! 4
見張りの要らない夜だからゆっくり眠れる。二人はそう話していた。確かにここの所野宿ばかりだったから、久しぶりだ。俺の横にジタン、スコールが肩を並べて眠っている。二人はすっかり夢の中にいるようで、規則正しい寝息が聞こえてくる。
眠れなかった。色々あったせいだろう。まさかまたこの世界に来ることになるなんて考えもしなかった。でもキリカと一緒に少しだけど街を見れたし、これはこれで楽しかったな。
俺は天井に手を伸ばした。ぼんやりと薄暗い天井を見つめ、その手を顔の上に落とした。
彼女は此処に残るんだろうか。聞くだけ無駄な質問を自分に投げかける。 答えは決まっているようなものなのに。此処で別れたら、もう二度と会えない。それが俺にとっては一番辛い。彼女が居ない生活なんて考えられない。
眠れない。幾度となく寝返りを打って、布団を被りなおす。チョコボを心の中で数えてみるが、すぐに百匹を超えた。
起きて見張りでもするか。キリカは「そこまで物騒な場所じゃないから、大丈夫だから」って言ってたけど、万が一ってことがある。
目もすっかり暗闇に慣れてしまった。窓を覆うカーテンの隙間から白や橙色の明かりが見える。
ふと、人の動く気配を感じた。二人を見ても起きた様子はない。背後を振り向くと寝室に続くドアが少しだけ開いていた。それがまた僅かに開いて、キリカが顔を覗かせた。目が合うと手をヒラヒラ縦に振る。こっちへ来いという合図だ。
薄い布団から抜け出した俺はドアに近づいて、小声で「どうしたんだ」と尋ねた。すると、顔の目の前にグラスが二つ。彼女は笑っていた。
「晩酌、付き合ってくれる?」
キリカの部屋に入るのはこれで二回目だ。昼間俺達が来た時、あらかたの話が終わったら部屋を追い出された。それ以来入れてくれなかったからラッキーかもな。
部屋の明かりは着いていなくて、小さなベランダに続く窓から差し込む月明かりが代わりをしていた。
窓の側に置かれたグラスに飲み物が注がれていく。
「お昼に荷物持って貰ったお礼。安物だけどね。どうぞ、座って」
まだお酒を飲めない二人の前で飲むのは気が引けると言い、だからこうしてこっそり誘ったと。振る舞われたのは香りの良い赤ワイン。窓ガラスに背中を預けてお互いのグラスを軽くぶつけて乾杯した。
甘い葡萄の味。その割にアルコール度数が強くて喉が焼けるようだった。
「…甘いな、これ。美味いけど」
「辛口の方が良かった?私はどれでもいけるんだけど。今度は辛口買ってくるわね」
「ん、…そうだな」
今度、なんて日は無いかもしれないのに。期待した分だけ切ない気持ちが覆いかぶさってくる。ワインボトルの中身はまだ半分以上。今日はゆっくり、時間をかけて飲みたい。少しでも一緒に居られる時間が欲しいから。
きっと今の俺は上手く笑えていなかったんだと思う。キリカの表情が曇っていた。
「バッツ。さっきの話、なんだけどね」
「ああ」
一瞬、見透かされたのかと焦った。一度キリカから目を反らして、心の準備をしてから向き直る。あいつらに「自分の都合を押し付けるなよ」と言われた手前、一方的に俺の感情で縛り付けるわけにはいかないんだ。
あくまで平常心を装って、彼女の答えを待つ。一秒、二秒がひどく長く感じる。
「私、一緒に行ってもいいかな」
俺が望んでいた答えを口にした。でも、あまりに意外すぎてすぐに反応できなかった。此処に残りたいんだろうとばかり思っていたから。だって、自分が育った世界なんだ。都合がわからない世界で過ごすよりも安心できるだろ。
「いいのか」
「足手まといだとか、邪魔だっていうなら残るわ」
「邪魔なもんか。約束しただろ、守るって」
「ありがと。嬉しい」
控えめに微笑うキリカが本当に愛おしくて。俺達、別れなくて済むんだ。離れ離れになる必要はないんだ。
そう思うと、肩の力が急に抜けた気がした。
「あいつらがさ、お前が引き留めたら絶対に付いてくるから言うなって釘刺されてたんだ。あくまでもキリカの意思を尊重しようって」
「だから口数少なかったの?何だか様子がおかしいとは思ってたけど」
そんなに変、だったかな。平静を装ってたつもりなんだけどな。俺、役者には向いてないかも。だって口を開いたら本音が出てしまいそうで、迂闊に喋ることだって出来なかった。
「だから、キリカがそう言ってくれて嬉しい。……残るって言われても俺は迎えに来るけどな」
グラスを大事そうに抱えているその手にそっと触れる。低い体温がじんわり伝わってきた。どうしてもこの手を離したくないんだ。どんなに距離があっても俺は迎えに行く。
黒い睫毛に縁取られた目がふっと伏せられた。ぽつりと悲しそうに呟かれる声。
「私は待つの嫌。だって待っている間ずっと貴方が無事なのかどうか心配しなきゃいけない。そんな毎日耐えられない。もしかしたら……そう考えるだけでどうにかなってしまいそう」
心配症だな。だけど素直に嬉しい。俺のこと、こんなに想ってくれてる。
彼女の前髪を掻き上げて額に唇を寄せた。
「そんなにヤワじゃないって。絶対に負けない。俺のこと信じて」
いつの間にかキリカの目が潤んでいた。僅かな光さえガラス玉のようにキラキラとしていた。それが空に浮かぶ星みたいに綺麗だと思った。
腕を伸ばして細い体をそっと抱きしめる。普段もこの位甘えてきたら嬉しいんだけどな。
「そういえば、昼間会った奴、元カレ?」
「うん」
「俺の方が何倍もイイ男だったなー」
腕の中でくすくす笑う声が聞こえた。そこ笑うとこじゃないだろ。自慢の彼氏って胸張ってもいいんだぜ。
すり寄って甘えてくる仕草が可愛すぎる。きっと酔いが回ってるんだろう。耳元で甘く囁くとくすぐったそうに身動ぐ。
ほんの少し悪戯心が沸いたんだ。酒じゃなくて俺に酔って欲しいって。だから、甘い甘い口づけを君に。
見張りの要らない夜だからゆっくり眠れる。二人はそう話していた。確かにここの所野宿ばかりだったから、久しぶりだ。俺の横にジタン、スコールが肩を並べて眠っている。二人はすっかり夢の中にいるようで、規則正しい寝息が聞こえてくる。
眠れなかった。色々あったせいだろう。まさかまたこの世界に来ることになるなんて考えもしなかった。でもキリカと一緒に少しだけど街を見れたし、これはこれで楽しかったな。
俺は天井に手を伸ばした。ぼんやりと薄暗い天井を見つめ、その手を顔の上に落とした。
彼女は此処に残るんだろうか。聞くだけ無駄な質問を自分に投げかける。 答えは決まっているようなものなのに。此処で別れたら、もう二度と会えない。それが俺にとっては一番辛い。彼女が居ない生活なんて考えられない。
眠れない。幾度となく寝返りを打って、布団を被りなおす。チョコボを心の中で数えてみるが、すぐに百匹を超えた。
起きて見張りでもするか。キリカは「そこまで物騒な場所じゃないから、大丈夫だから」って言ってたけど、万が一ってことがある。
目もすっかり暗闇に慣れてしまった。窓を覆うカーテンの隙間から白や橙色の明かりが見える。
ふと、人の動く気配を感じた。二人を見ても起きた様子はない。背後を振り向くと寝室に続くドアが少しだけ開いていた。それがまた僅かに開いて、キリカが顔を覗かせた。目が合うと手をヒラヒラ縦に振る。こっちへ来いという合図だ。
薄い布団から抜け出した俺はドアに近づいて、小声で「どうしたんだ」と尋ねた。すると、顔の目の前にグラスが二つ。彼女は笑っていた。
「晩酌、付き合ってくれる?」
キリカの部屋に入るのはこれで二回目だ。昼間俺達が来た時、あらかたの話が終わったら部屋を追い出された。それ以来入れてくれなかったからラッキーかもな。
部屋の明かりは着いていなくて、小さなベランダに続く窓から差し込む月明かりが代わりをしていた。
窓の側に置かれたグラスに飲み物が注がれていく。
「お昼に荷物持って貰ったお礼。安物だけどね。どうぞ、座って」
まだお酒を飲めない二人の前で飲むのは気が引けると言い、だからこうしてこっそり誘ったと。振る舞われたのは香りの良い赤ワイン。窓ガラスに背中を預けてお互いのグラスを軽くぶつけて乾杯した。
甘い葡萄の味。その割にアルコール度数が強くて喉が焼けるようだった。
「…甘いな、これ。美味いけど」
「辛口の方が良かった?私はどれでもいけるんだけど。今度は辛口買ってくるわね」
「ん、…そうだな」
今度、なんて日は無いかもしれないのに。期待した分だけ切ない気持ちが覆いかぶさってくる。ワインボトルの中身はまだ半分以上。今日はゆっくり、時間をかけて飲みたい。少しでも一緒に居られる時間が欲しいから。
きっと今の俺は上手く笑えていなかったんだと思う。キリカの表情が曇っていた。
「バッツ。さっきの話、なんだけどね」
「ああ」
一瞬、見透かされたのかと焦った。一度キリカから目を反らして、心の準備をしてから向き直る。あいつらに「自分の都合を押し付けるなよ」と言われた手前、一方的に俺の感情で縛り付けるわけにはいかないんだ。
あくまで平常心を装って、彼女の答えを待つ。一秒、二秒がひどく長く感じる。
「私、一緒に行ってもいいかな」
俺が望んでいた答えを口にした。でも、あまりに意外すぎてすぐに反応できなかった。此処に残りたいんだろうとばかり思っていたから。だって、自分が育った世界なんだ。都合がわからない世界で過ごすよりも安心できるだろ。
「いいのか」
「足手まといだとか、邪魔だっていうなら残るわ」
「邪魔なもんか。約束しただろ、守るって」
「ありがと。嬉しい」
控えめに微笑うキリカが本当に愛おしくて。俺達、別れなくて済むんだ。離れ離れになる必要はないんだ。
そう思うと、肩の力が急に抜けた気がした。
「あいつらがさ、お前が引き留めたら絶対に付いてくるから言うなって釘刺されてたんだ。あくまでもキリカの意思を尊重しようって」
「だから口数少なかったの?何だか様子がおかしいとは思ってたけど」
そんなに変、だったかな。平静を装ってたつもりなんだけどな。俺、役者には向いてないかも。だって口を開いたら本音が出てしまいそうで、迂闊に喋ることだって出来なかった。
「だから、キリカがそう言ってくれて嬉しい。……残るって言われても俺は迎えに来るけどな」
グラスを大事そうに抱えているその手にそっと触れる。低い体温がじんわり伝わってきた。どうしてもこの手を離したくないんだ。どんなに距離があっても俺は迎えに行く。
黒い睫毛に縁取られた目がふっと伏せられた。ぽつりと悲しそうに呟かれる声。
「私は待つの嫌。だって待っている間ずっと貴方が無事なのかどうか心配しなきゃいけない。そんな毎日耐えられない。もしかしたら……そう考えるだけでどうにかなってしまいそう」
心配症だな。だけど素直に嬉しい。俺のこと、こんなに想ってくれてる。
彼女の前髪を掻き上げて額に唇を寄せた。
「そんなにヤワじゃないって。絶対に負けない。俺のこと信じて」
いつの間にかキリカの目が潤んでいた。僅かな光さえガラス玉のようにキラキラとしていた。それが空に浮かぶ星みたいに綺麗だと思った。
腕を伸ばして細い体をそっと抱きしめる。普段もこの位甘えてきたら嬉しいんだけどな。
「そういえば、昼間会った奴、元カレ?」
「うん」
「俺の方が何倍もイイ男だったなー」
腕の中でくすくす笑う声が聞こえた。そこ笑うとこじゃないだろ。自慢の彼氏って胸張ってもいいんだぜ。
すり寄って甘えてくる仕草が可愛すぎる。きっと酔いが回ってるんだろう。耳元で甘く囁くとくすぐったそうに身動ぐ。
ほんの少し悪戯心が沸いたんだ。酒じゃなくて俺に酔って欲しいって。だから、甘い甘い口づけを君に。