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お邪魔します! 2
私はバッツの背を後ろから押して軌道を修正した。
最初は商店街の小さなスーパーに行こうと思っていたんだけど、やっぱりだめだ。これは見ていて辛いものがある。
「やっぱり先に服を調達しよう。こっちの方に古着屋があるから、そこに行くよ」
「わかったから押すなって。さっきまで何作ろうか散々悩んでたくせに」
「……食材買ってから服見に行ったら、重たいでしょ?」
「そうか?俺が持つから関係ないと思うけど」
これでは埒が明かないので、貴方達の服を選ぶんだし両手が塞がってたら服も選びにくいと言って強引に話を纏めた。
アーケード街の中腹に古着屋があるのは知っていたけど、利用頻度は数える程度。こういう時に活用できると閃いたものの、"こういう時"が頻繁にあっても困る。そもそもそんなにあるワケがないか。
お店の中に入ってメンズ服コーナーを探し、きょろきょろしているバッツを引っ張っていく。興味が沸くのは大いにわかるけど、迷子になるからやめてほしい。特にこういった店は所狭しと商品を並べているから、通路も必然と狭まる。
主に上に着れる衣服を探そうと思ったものの、服のサイズがわからない。そう言えばバッツが二人のサイズが大体わかるらしく、そこは任せることにした。好みもあるだろうし。
「着る服決まったら、ここで着替えていってね。店員さんに頼めば会計後に着替えられるから」
「了解。あ、これスコール好きそうじゃないか?」
「うん。なんていうか…ヴィジュアル系の人が着てそうな。それだと今と変わらないからもっとシンプルなやつを」
季節は初夏を迎えている。半袖でも過ごしやすいから、Tシャツメインでいいかな。下は各自ので我慢してもらうとして、下着は流石に別の店で調達しないとならない。
今日はとりあえず場凌ぎで。外に出られる服が揃えば、みんなで買い物に来ることができる。その時に選んでもらえばいい。それよりも今夜の献立どうしよう。和食にするか、洋食、中華、和洋折衷でもいいかな。
心ここにあらず状態で話しかけられたものだから、何度か名前を呼ばれた。
「あ、ごめん。なに?」
「これとこれどっちが似合う。因みに俺が着るやつ」
「んー……こっちかな。バッツは暖色系でも似合うと思う」
「そっか。じゃあこっちで」
意見が一致した服をもう一度鏡に合わせた。これだけある衣服の中から選ぶのが楽しいみたいだった。なんだかこうしていると、普通の恋人っぽく思える。立場が逆な気もするけど。
三人分の服を選び終え、レジでこの場で着替える服を店員に伝えた。会計の金額はそれなりに計算していたんだけど、女性店員が口にした金額を思わず聞き返した。明らかに値引きがされているんだもの。
お姉さんのばっちりメイクされた目がウインクを飛ばした。
「お兄さん素敵だからサービス」
実はセール品。という訳ではなく、バッツが原因だった。彼は爽やかにニコニコと笑顔を浮かべ、お礼を言った。色目ってこういう場所でも効くんだ。買った服を持って試着室へ急ぐ。
「……世渡り上手だよね。流石というか」
「だってキリカに負担かけるわけにいかないだろ。ここで着替えればいいのか?」
「うん。着てきたシャツは…捨ててもらうね」
持って帰ってもどうしようもないし。早く処分してしまいたかった。
試着室のカーテンを引いて、バッツが着替え終わるのを待つ。存外安く済んだから食費に回せるかも。思考がまた献立モードになりかけた時、カーテンが開いた。上だけだから着替えるのが早い。さっきまで着ていた白いシャツを彼から受け取って適当に畳む。
「これ、お店の人に頼んでくるからここで待ってて」
「ん…わかった」
会計済の袋を腕にぶら下げてレジカウンターへ。さっきの女性店員に長袖シャツを処分してもらうように頼み、足早に試着室の前に戻ってきた。けど、何故かバッツの姿がない。物の数分離れただけなんだけど。
周囲を見渡してもそれらしい人はいない。ああもう、どこに行ったのよ。
まだメンズコーナーにいると思って、商品列を順に覗いていく。真ん中の列を覗いた時、他の客とぶつかりそうになる。すみませんと謝ろうとした時だった。見上げた顔が今一番会いたくない人で、何年も連絡していない前の彼氏。向こうも私の顔を覚えていたようで、お互いに驚いたまま止まっている。
どうしてこんな場所で鉢合わせるの。遭遇率が低いと思うのに。
何もなかったフリをしてその場から逃げようとした。でも、手首を掴まれてしまう。貴方にそんな権利はないはずよ。私だって貴方に何も言うつもりはない。
「待って」
「なに」
「あ、いや……元気そうだな、って」
「それだけ?…私、急いでるから、じゃあ」
手を振り払おうとしても、それでも向こうが引き留めようとする。やめてよ。察して、私の苛立った声が聞こえないの。早くその視界から私を消して。気まずそうな顔しないで。
「なあ、お願いだから」
「お願いだから?なによ、もう会いたくないって言ったのそっちよ、離して!」
最後の方は殆ど悲鳴に近くて、声が震えていた。涙が滲んでくる。こんな所で泣きたくない。こんな人の為にもう泣かないって決めたのに。
その時だった。すっと私と相手との間に割って入ったバッツが彼の腕を掴み上げた。ようやく解放された私は逃げるように身を引く。気のせいか、背筋が凍るような威圧感がバッツから出ていたような。
「嫌がってるだろ」
「だ、誰だよあんた」
「名乗るほどの者じゃないさ。…敢えて言うなら、彼女の恋人」
私の肩を抱き寄せたバッツは一転、笑顔でそう言い切った。
呆気に取られた彼を置き去りにして私達は店を出た。バッツに手を引かれたままアーケード街を歩いていく。
「ありがと」
「いいって。ほら、あいつら待たせたら腹空かして倒れちまう」
「うん」
いつもと変わらない笑みを見せたバッツの手をぎゅっと握り返した。
私はバッツの背を後ろから押して軌道を修正した。
最初は商店街の小さなスーパーに行こうと思っていたんだけど、やっぱりだめだ。これは見ていて辛いものがある。
「やっぱり先に服を調達しよう。こっちの方に古着屋があるから、そこに行くよ」
「わかったから押すなって。さっきまで何作ろうか散々悩んでたくせに」
「……食材買ってから服見に行ったら、重たいでしょ?」
「そうか?俺が持つから関係ないと思うけど」
これでは埒が明かないので、貴方達の服を選ぶんだし両手が塞がってたら服も選びにくいと言って強引に話を纏めた。
アーケード街の中腹に古着屋があるのは知っていたけど、利用頻度は数える程度。こういう時に活用できると閃いたものの、"こういう時"が頻繁にあっても困る。そもそもそんなにあるワケがないか。
お店の中に入ってメンズ服コーナーを探し、きょろきょろしているバッツを引っ張っていく。興味が沸くのは大いにわかるけど、迷子になるからやめてほしい。特にこういった店は所狭しと商品を並べているから、通路も必然と狭まる。
主に上に着れる衣服を探そうと思ったものの、服のサイズがわからない。そう言えばバッツが二人のサイズが大体わかるらしく、そこは任せることにした。好みもあるだろうし。
「着る服決まったら、ここで着替えていってね。店員さんに頼めば会計後に着替えられるから」
「了解。あ、これスコール好きそうじゃないか?」
「うん。なんていうか…ヴィジュアル系の人が着てそうな。それだと今と変わらないからもっとシンプルなやつを」
季節は初夏を迎えている。半袖でも過ごしやすいから、Tシャツメインでいいかな。下は各自ので我慢してもらうとして、下着は流石に別の店で調達しないとならない。
今日はとりあえず場凌ぎで。外に出られる服が揃えば、みんなで買い物に来ることができる。その時に選んでもらえばいい。それよりも今夜の献立どうしよう。和食にするか、洋食、中華、和洋折衷でもいいかな。
心ここにあらず状態で話しかけられたものだから、何度か名前を呼ばれた。
「あ、ごめん。なに?」
「これとこれどっちが似合う。因みに俺が着るやつ」
「んー……こっちかな。バッツは暖色系でも似合うと思う」
「そっか。じゃあこっちで」
意見が一致した服をもう一度鏡に合わせた。これだけある衣服の中から選ぶのが楽しいみたいだった。なんだかこうしていると、普通の恋人っぽく思える。立場が逆な気もするけど。
三人分の服を選び終え、レジでこの場で着替える服を店員に伝えた。会計の金額はそれなりに計算していたんだけど、女性店員が口にした金額を思わず聞き返した。明らかに値引きがされているんだもの。
お姉さんのばっちりメイクされた目がウインクを飛ばした。
「お兄さん素敵だからサービス」
実はセール品。という訳ではなく、バッツが原因だった。彼は爽やかにニコニコと笑顔を浮かべ、お礼を言った。色目ってこういう場所でも効くんだ。買った服を持って試着室へ急ぐ。
「……世渡り上手だよね。流石というか」
「だってキリカに負担かけるわけにいかないだろ。ここで着替えればいいのか?」
「うん。着てきたシャツは…捨ててもらうね」
持って帰ってもどうしようもないし。早く処分してしまいたかった。
試着室のカーテンを引いて、バッツが着替え終わるのを待つ。存外安く済んだから食費に回せるかも。思考がまた献立モードになりかけた時、カーテンが開いた。上だけだから着替えるのが早い。さっきまで着ていた白いシャツを彼から受け取って適当に畳む。
「これ、お店の人に頼んでくるからここで待ってて」
「ん…わかった」
会計済の袋を腕にぶら下げてレジカウンターへ。さっきの女性店員に長袖シャツを処分してもらうように頼み、足早に試着室の前に戻ってきた。けど、何故かバッツの姿がない。物の数分離れただけなんだけど。
周囲を見渡してもそれらしい人はいない。ああもう、どこに行ったのよ。
まだメンズコーナーにいると思って、商品列を順に覗いていく。真ん中の列を覗いた時、他の客とぶつかりそうになる。すみませんと謝ろうとした時だった。見上げた顔が今一番会いたくない人で、何年も連絡していない前の彼氏。向こうも私の顔を覚えていたようで、お互いに驚いたまま止まっている。
どうしてこんな場所で鉢合わせるの。遭遇率が低いと思うのに。
何もなかったフリをしてその場から逃げようとした。でも、手首を掴まれてしまう。貴方にそんな権利はないはずよ。私だって貴方に何も言うつもりはない。
「待って」
「なに」
「あ、いや……元気そうだな、って」
「それだけ?…私、急いでるから、じゃあ」
手を振り払おうとしても、それでも向こうが引き留めようとする。やめてよ。察して、私の苛立った声が聞こえないの。早くその視界から私を消して。気まずそうな顔しないで。
「なあ、お願いだから」
「お願いだから?なによ、もう会いたくないって言ったのそっちよ、離して!」
最後の方は殆ど悲鳴に近くて、声が震えていた。涙が滲んでくる。こんな所で泣きたくない。こんな人の為にもう泣かないって決めたのに。
その時だった。すっと私と相手との間に割って入ったバッツが彼の腕を掴み上げた。ようやく解放された私は逃げるように身を引く。気のせいか、背筋が凍るような威圧感がバッツから出ていたような。
「嫌がってるだろ」
「だ、誰だよあんた」
「名乗るほどの者じゃないさ。…敢えて言うなら、彼女の恋人」
私の肩を抱き寄せたバッツは一転、笑顔でそう言い切った。
呆気に取られた彼を置き去りにして私達は店を出た。バッツに手を引かれたままアーケード街を歩いていく。
「ありがと」
「いいって。ほら、あいつら待たせたら腹空かして倒れちまう」
「うん」
いつもと変わらない笑みを見せたバッツの手をぎゅっと握り返した。