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迷子常習犯
道中、廃屋となった小さな小屋を発見した。
この辺りには何かあると盗賊の勘が働いた為、そこを拠点にして行動することにした。
珍しくバッツは彼のパートナーの役目をスコールに譲り、小屋で待機する方を選んだ。
留守番相手が彼女なら申し分もないからだ。
一方、ラグナ・レウァールは仲間とはぐれてしまい、合流地点に向かうも道に迷っていた。
自身の勘を頼りに進むが、どうも先ほどから同じ所を歩いている気がした。近道のはずがだいぶ遠回りにもなっている。
見覚えのある廃屋もこれで三度目。ラグナは頭をがしがしと掻いてその場に立ち止まった。他の仲間と早く合流しなければ怒られるのが目に見える。道を聞きたくとも、味方はおろか敵の姿すらない。
どうしたものか。とりあえず進むしかないかと考えたラグナは人の話し声をキャッチした。
同時に素早く廃屋の壁に身を隠し、そろそろと覗き込む。どうやら自分の居る反対側に人がいるようだ。だが、ここからでは姿を確認できない。廃屋の周囲にあったであろう外壁の残骸にさっと移動した。
この場所ならば様子を窺うことができる。ラグナはゆっくりと顔だけを覗かせた。
丸石二つと長方形の岩で簡素に作られたベンチ。そこに人間が二人。一人は同軍のバッツ・クラウザー、もう一人の女性は顔に見覚えがない。そもそも女性の人数が少ないので、一度会っていれば覚えているはず。ラグナは頭を捻りながら二人の観察を続けていた。
女性がバッツの人差し指に細い包帯を巻きつけている。巻き終わりに小さな結び目を作り、「はい、おしまい」と手を離した。指の折り曲げを繰り返すバッツに「きつくない?」と尋ねていた。
「ああ。サンキュー。なんか悪いな手当てしてもらって」
「ううん。元はと言えば私が頼んだのが原因だし…カボチャって硬いからいつも自分で切れなくて」
「キリカの腕、細いもんな。ほら俺の半分ぐらいしかない」
バッツが女性の細い手首を測るように掴んだ。彼が思った以上に細かったのか驚きの声を上げていた。次いで「守り甲斐があるけどな」と宣うものだから、これにはラグナも驚きを隠せずにいた。
まず、あの程度の傷ならば自分で処置できるはず。それをあえて手当てしてもらったということは、二人はそれなりに仲が良いのだろう。次にカボチャってなんだ。カボチャを代わりに切った時に怪我をしたのか。それとバッツの先ほどの台詞。まるで愛する人に対する態度。
これらから推測するに、あの二人は恋人関係ではないだろうか。
しかし、それがわかっても結局そのバッツのお相手がわからない。二人の空気が良い雰囲気になってきたので、ここで出ていけば無粋だろう。
ラグナが退散しようと踵を返した時、ブーツが足元の小枝を踏んだ。ぱきっと乾いた音が響く。まずい、と思ったのも束の間。ちらりと向こうを見るとバッツの視線とかち合った。
見つかってしまっては仕方がない。こっそり忍んでいたと思わせないよう、大げさに両手を広げて「よう!」と声をかける。実に白々しい。
「こんなとこで奇遇だなあ!実は道に迷っちまって…あれ、そういやスコールたちはどうしたんだ?」
「なんだラグナか、驚かすなよ。ん、スコールとジタンは宝探しに行ってる」
「つまり、お前たちは留守番ってことか。……ところで、そちらの」
身振り手振りを加えて話していたラグナは話を本題へと移した。女性のことが気になって仕方がない。その殆どが野次馬根性なのだが。
女性はラグナの顔を見て呆然としていた。ぱちぱちと瞬きを繰り返し、感極まったかのように口元を手で押さえている。
「ああ、そういえばラグナとは初めてだよな」
「……あっ!は、初めまして。キリカです。よろしくお願いします」
「ラグナ・レウァール、よろしくな」
愛想のよい笑顔を浮かべ、ラグナが握手を求める。その手を軽く握り、恍惚とした様子でラグナを見つめるキリカ。尊敬の眼差しにも似たそれに少し戸惑っていたが、バッツが彼女の肩をこれ見よがしに抱き寄せた。
「俺のだから、手出すなよ?」
「わかってるっての。恋人、か……いいねえ、青春だねえ」
若い二人を前に懐かしむような眼差しを送るラグナ。顎に手を当ててうんうんと頷いている。思い出すのは兵士時代。微かに残る記憶が胸の奥をじんわりと温めていった。
「俺も好きな娘がいたっけなあ…。歌が上手くてさ、みんなの人気者で」
「その人が奥さんなのか?」
「いーや、違う。俺を甲斐甲斐しく看病してくれた一人の女性が居たんだ。その女性を愛した」
ラグナの左手には銀色の指輪。婚約指輪を交わした後にこの世界に呼び出されてしまったんだろう。キリカの記憶によればエスタの大統領にやむを得ず就任し、殆ど会えていないはずだ。それを思うと胸に込み上げてくるものがある。
ラグナの手が二人の頭を交互にわしゃわしゃと撫でた。まるで犬猫や子どもを撫でるような手つき。そのあとにニッと歯を見せて笑うものだから。
「お前らは離れるんじゃねーぞ?愛する者同士、側にいた方が絶対いいに決まってる」
「…うっ…うう、ラグナさあああん!」
突然ぶわっと泣き出したキリカ。抑えていた感情が爆発してしまったようで、まるで滝のように涙を流している。
レウァール一家の事情を知っているとは流石に言えない。ただただ泣き続けるキリカにラグナは慌てるばかり。なんとか泣き止ませる為に、ある考えが閃いた。
「高い高いすれば泣き止むかな!」
「……子どもじゃないんだぞ」
真顔でそう尋ねたラグナに鋭い突っ込み。戻ってきたスコールのじと目が彼に突き刺さる。次いで深い溜息。
結局、バッツが彼女を宥めたことにより事態は収拾したのであった。
道中、廃屋となった小さな小屋を発見した。
この辺りには何かあると盗賊の勘が働いた為、そこを拠点にして行動することにした。
珍しくバッツは彼のパートナーの役目をスコールに譲り、小屋で待機する方を選んだ。
留守番相手が彼女なら申し分もないからだ。
一方、ラグナ・レウァールは仲間とはぐれてしまい、合流地点に向かうも道に迷っていた。
自身の勘を頼りに進むが、どうも先ほどから同じ所を歩いている気がした。近道のはずがだいぶ遠回りにもなっている。
見覚えのある廃屋もこれで三度目。ラグナは頭をがしがしと掻いてその場に立ち止まった。他の仲間と早く合流しなければ怒られるのが目に見える。道を聞きたくとも、味方はおろか敵の姿すらない。
どうしたものか。とりあえず進むしかないかと考えたラグナは人の話し声をキャッチした。
同時に素早く廃屋の壁に身を隠し、そろそろと覗き込む。どうやら自分の居る反対側に人がいるようだ。だが、ここからでは姿を確認できない。廃屋の周囲にあったであろう外壁の残骸にさっと移動した。
この場所ならば様子を窺うことができる。ラグナはゆっくりと顔だけを覗かせた。
丸石二つと長方形の岩で簡素に作られたベンチ。そこに人間が二人。一人は同軍のバッツ・クラウザー、もう一人の女性は顔に見覚えがない。そもそも女性の人数が少ないので、一度会っていれば覚えているはず。ラグナは頭を捻りながら二人の観察を続けていた。
女性がバッツの人差し指に細い包帯を巻きつけている。巻き終わりに小さな結び目を作り、「はい、おしまい」と手を離した。指の折り曲げを繰り返すバッツに「きつくない?」と尋ねていた。
「ああ。サンキュー。なんか悪いな手当てしてもらって」
「ううん。元はと言えば私が頼んだのが原因だし…カボチャって硬いからいつも自分で切れなくて」
「キリカの腕、細いもんな。ほら俺の半分ぐらいしかない」
バッツが女性の細い手首を測るように掴んだ。彼が思った以上に細かったのか驚きの声を上げていた。次いで「守り甲斐があるけどな」と宣うものだから、これにはラグナも驚きを隠せずにいた。
まず、あの程度の傷ならば自分で処置できるはず。それをあえて手当てしてもらったということは、二人はそれなりに仲が良いのだろう。次にカボチャってなんだ。カボチャを代わりに切った時に怪我をしたのか。それとバッツの先ほどの台詞。まるで愛する人に対する態度。
これらから推測するに、あの二人は恋人関係ではないだろうか。
しかし、それがわかっても結局そのバッツのお相手がわからない。二人の空気が良い雰囲気になってきたので、ここで出ていけば無粋だろう。
ラグナが退散しようと踵を返した時、ブーツが足元の小枝を踏んだ。ぱきっと乾いた音が響く。まずい、と思ったのも束の間。ちらりと向こうを見るとバッツの視線とかち合った。
見つかってしまっては仕方がない。こっそり忍んでいたと思わせないよう、大げさに両手を広げて「よう!」と声をかける。実に白々しい。
「こんなとこで奇遇だなあ!実は道に迷っちまって…あれ、そういやスコールたちはどうしたんだ?」
「なんだラグナか、驚かすなよ。ん、スコールとジタンは宝探しに行ってる」
「つまり、お前たちは留守番ってことか。……ところで、そちらの」
身振り手振りを加えて話していたラグナは話を本題へと移した。女性のことが気になって仕方がない。その殆どが野次馬根性なのだが。
女性はラグナの顔を見て呆然としていた。ぱちぱちと瞬きを繰り返し、感極まったかのように口元を手で押さえている。
「ああ、そういえばラグナとは初めてだよな」
「……あっ!は、初めまして。キリカです。よろしくお願いします」
「ラグナ・レウァール、よろしくな」
愛想のよい笑顔を浮かべ、ラグナが握手を求める。その手を軽く握り、恍惚とした様子でラグナを見つめるキリカ。尊敬の眼差しにも似たそれに少し戸惑っていたが、バッツが彼女の肩をこれ見よがしに抱き寄せた。
「俺のだから、手出すなよ?」
「わかってるっての。恋人、か……いいねえ、青春だねえ」
若い二人を前に懐かしむような眼差しを送るラグナ。顎に手を当ててうんうんと頷いている。思い出すのは兵士時代。微かに残る記憶が胸の奥をじんわりと温めていった。
「俺も好きな娘がいたっけなあ…。歌が上手くてさ、みんなの人気者で」
「その人が奥さんなのか?」
「いーや、違う。俺を甲斐甲斐しく看病してくれた一人の女性が居たんだ。その女性を愛した」
ラグナの左手には銀色の指輪。婚約指輪を交わした後にこの世界に呼び出されてしまったんだろう。キリカの記憶によればエスタの大統領にやむを得ず就任し、殆ど会えていないはずだ。それを思うと胸に込み上げてくるものがある。
ラグナの手が二人の頭を交互にわしゃわしゃと撫でた。まるで犬猫や子どもを撫でるような手つき。そのあとにニッと歯を見せて笑うものだから。
「お前らは離れるんじゃねーぞ?愛する者同士、側にいた方が絶対いいに決まってる」
「…うっ…うう、ラグナさあああん!」
突然ぶわっと泣き出したキリカ。抑えていた感情が爆発してしまったようで、まるで滝のように涙を流している。
レウァール一家の事情を知っているとは流石に言えない。ただただ泣き続けるキリカにラグナは慌てるばかり。なんとか泣き止ませる為に、ある考えが閃いた。
「高い高いすれば泣き止むかな!」
「……子どもじゃないんだぞ」
真顔でそう尋ねたラグナに鋭い突っ込み。戻ってきたスコールのじと目が彼に突き刺さる。次いで深い溜息。
結局、バッツが彼女を宥めたことにより事態は収拾したのであった。