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もうそばにいるから
猫が丸めた背中を伸ばすように体を大きく反らした。そのまま重力に流されるまま後ろに倒れる。キリカの体が柔らかい青草のベッドに寝転んだ。
見渡す限りの花畑。色とりどりの花が咲き乱れていた。風がそよぐ度に甘い香りが運ばれてきた。
旅路の途中は荒れ果てた場所ばかり。緑溢れる大地を目にするのは珍しいことであった。
「こんなキレイな場所があるなんて思わなかった」
「この世界にもまだ緑が豊かな場所があるみたいだな。そういえばキリカの住んでる場所は背の高い建物ばかりだったな」
「うん。街の中心部はね。少し離れると自然があるけど」
済んだ青空、風が運ぶ緑の香りに心が洗われるようだった。緑の多い公園に足を運ぶことは今までにもあるが、ここまで広大な自然を目にすることは滅多にない。
反動をつけて上半身を起こす。草原を駆け抜ける風の音にキリカは耳を澄ました。その横でバッツが柔らかな表情を浮かべた。
「気に入ったみたいだな」
「ええ、とっても。連れてきてくれてありがとう」
「どう致しまして」
この前のデートの約束、明日行こう。そう告げられたのは昨日の晩。確かにデート一回の約束はしたが、心の準備が出来ないまま昨夜は良く眠れなかった。デート自体キリカにとって久しいもので、ものすごく緊張をしていたのだ。服はどうすることもできないので、せめて髪型だけでもと長い髪をラフな形に結わいた。
そう気合を入れてみたものの、甘い雰囲気になる訳でもなく普段と変わらない。だからと言って期待しているわけでもないが。
目を瞑ると柔らかい風の声が聞こえてくるようだ。戦いの最中だということをつい忘れてしまう。終わりを告げる日はいつ来るのか。平和の鐘を慣らすべく光の戦士達が奮闘しているのだ。彼らを信じよう。
キリカはふとした視線を感じて振り向いた。バッツが優しげな目でじっとキリカの方を見つめている。
自分がどこかおかしいのだろうか。手持ちの少ない化粧品で誂えたメイクが変なのか。それともアレンジした髪形か。恐る恐る尋ねてみた。
「……髪形、変?」
「え?いや、変じゃない。似合ってるじゃん。俺こっちの方が好きだな。いつものやつもいいけどさ」
「あ、ありがと」
女性の心を揺るがすような台詞をよくさらっと吐くものだ。一体この男は今までに何人の女性を勘違いさせてきたのか。
彼と共に旅をした彼女たちも大概可哀想に思えてくるというもの。
「……バッツてモテそうだよね」
「そうか?スコールやティーダの方が人気ありそうだけど」
「まあ、そうだと思うけど…バッツだってトークスキルがあるじゃない。バーのカウンターでいつも女の子達と楽しそうに話してたし。人気あったと思うわよ?」
あの店にいた女性は少なくともバッツに好意を持っていた。そうでなければあんなに嬉しそうな表情はしない。彼もにこやかに接客をしていたが、当の本人は全く気付いていなかったようだ。ここまでくるともはや無自覚を超して無頓着なのか。
「それ、妬いてんの?」
「えっ?!ち、違う違う」
そうかと思えば予想斜め上を行く質問が返ってくる。きょとんとした表情からは何を考えているのか計り知れない。
バッツの前髪をさらさらと風が梳かす。その横顔がドラマを演じる俳優のように思えた。整った顔立ちだと呆然と見ていると、不意にこちらを向いたのでびくりと肩を震わせた。
「なあ、キリカさ。片思いしてる男のことまだ好きなのか」
「……そう、ね」
「ふーん」
「バッツだって自分の居た世界に好きな子、いるんじゃないの?」
「いない」
あまりにきっぱりと言うので、思わず拍子抜けしてしまいそうになる。美女三人を囲っておき、さらに故郷にはフラグを立てている女性がいるというのに。それらを踏まえて言い切るのだから、フラグクラッシャーの名は伊達じゃない。
「だって俺の好きな人、目の前にいるし」
何を言われたのか理解できず、バッツの目を見たまましばらく硬直していた。手を重ね、顔を覗き込まれた時点でようやく言葉の意味を理解する。
「俺、キリカのことが好きだ」
その告白が追い打ちをかけたように体温を上昇させた。触れられた指先が燃えているように熱い。顔が紅潮するも、どうにも目を反らすことができずにいた。
「俺じゃダメ?そいつじゃなくてさ」
静かに訴えかけてくる瞳が憂いに満ちて、それに対してキリカは上手く言葉を発することができずにいた。はっきりと向けられた好意に戸惑いすら覚える。お互いに想いが通じているとわかっているのに、こういう時に限って思考が鈍る。
黙り込んでしまったキリカを見る目が不安そうに揺れた。触れていた手を掴むように握り、顔を近づけた。僅か数秒、唇を奪う。体を押し倒し、両手の指を絡めて地面に縫い付けた。
組み敷いた体勢のまましばらく二人は見つめ合っていた。逃げようともせず、抵抗すら試みない。普通、好いてもいない男にこんなことをされれば罵声の一つでも飛ぶというもの。
「いいのか、逃げなくて」
「人を押し倒しておいて言う台詞?」
つい衝動に駆られたとは言え、尤もな意見だ。かと言ってこの手を退ける気はない。手を離せば二度と触れることができないような気さえしていた。
真っすぐに見上げられていた目が宙に泳いだ。キリカの口から出たのはか細く震えた声。
「私も、ね。……バッツのことが好きなの」
それが逃げない理由だと言えばわかるか。そう聞いてきた。言葉の意味を素直に飲み込めなかったバッツが疑問を投げ返してきた。
「……え、いや、だって…他に好きな奴いるんじゃ」
「だから、私の片思いの相手、貴方なのよ」
「ほんとに」
「この状態でウソつけるほど私器用じゃない」
まだ信じてもらえないのかと言った直後、キリカの上に文字通りバッツが降ってきた。重さに悶えたのも一瞬で、横にごろりと二人で転がった。ぎゅっと抱きしめられ、これはこれで息が苦しくなる。
「……なんだ、そうだったのか。てっきりフラれるかと思ってた」
「夢、じゃないよね」
「これが夢だったら俺本気で凹むんだけど」
お互いの体温を感じ取ることができる状態を泡沫の夢にはしたくない。溶けて消えてしまわないよう、寄り添っていた。
猫が丸めた背中を伸ばすように体を大きく反らした。そのまま重力に流されるまま後ろに倒れる。キリカの体が柔らかい青草のベッドに寝転んだ。
見渡す限りの花畑。色とりどりの花が咲き乱れていた。風がそよぐ度に甘い香りが運ばれてきた。
旅路の途中は荒れ果てた場所ばかり。緑溢れる大地を目にするのは珍しいことであった。
「こんなキレイな場所があるなんて思わなかった」
「この世界にもまだ緑が豊かな場所があるみたいだな。そういえばキリカの住んでる場所は背の高い建物ばかりだったな」
「うん。街の中心部はね。少し離れると自然があるけど」
済んだ青空、風が運ぶ緑の香りに心が洗われるようだった。緑の多い公園に足を運ぶことは今までにもあるが、ここまで広大な自然を目にすることは滅多にない。
反動をつけて上半身を起こす。草原を駆け抜ける風の音にキリカは耳を澄ました。その横でバッツが柔らかな表情を浮かべた。
「気に入ったみたいだな」
「ええ、とっても。連れてきてくれてありがとう」
「どう致しまして」
この前のデートの約束、明日行こう。そう告げられたのは昨日の晩。確かにデート一回の約束はしたが、心の準備が出来ないまま昨夜は良く眠れなかった。デート自体キリカにとって久しいもので、ものすごく緊張をしていたのだ。服はどうすることもできないので、せめて髪型だけでもと長い髪をラフな形に結わいた。
そう気合を入れてみたものの、甘い雰囲気になる訳でもなく普段と変わらない。だからと言って期待しているわけでもないが。
目を瞑ると柔らかい風の声が聞こえてくるようだ。戦いの最中だということをつい忘れてしまう。終わりを告げる日はいつ来るのか。平和の鐘を慣らすべく光の戦士達が奮闘しているのだ。彼らを信じよう。
キリカはふとした視線を感じて振り向いた。バッツが優しげな目でじっとキリカの方を見つめている。
自分がどこかおかしいのだろうか。手持ちの少ない化粧品で誂えたメイクが変なのか。それともアレンジした髪形か。恐る恐る尋ねてみた。
「……髪形、変?」
「え?いや、変じゃない。似合ってるじゃん。俺こっちの方が好きだな。いつものやつもいいけどさ」
「あ、ありがと」
女性の心を揺るがすような台詞をよくさらっと吐くものだ。一体この男は今までに何人の女性を勘違いさせてきたのか。
彼と共に旅をした彼女たちも大概可哀想に思えてくるというもの。
「……バッツてモテそうだよね」
「そうか?スコールやティーダの方が人気ありそうだけど」
「まあ、そうだと思うけど…バッツだってトークスキルがあるじゃない。バーのカウンターでいつも女の子達と楽しそうに話してたし。人気あったと思うわよ?」
あの店にいた女性は少なくともバッツに好意を持っていた。そうでなければあんなに嬉しそうな表情はしない。彼もにこやかに接客をしていたが、当の本人は全く気付いていなかったようだ。ここまでくるともはや無自覚を超して無頓着なのか。
「それ、妬いてんの?」
「えっ?!ち、違う違う」
そうかと思えば予想斜め上を行く質問が返ってくる。きょとんとした表情からは何を考えているのか計り知れない。
バッツの前髪をさらさらと風が梳かす。その横顔がドラマを演じる俳優のように思えた。整った顔立ちだと呆然と見ていると、不意にこちらを向いたのでびくりと肩を震わせた。
「なあ、キリカさ。片思いしてる男のことまだ好きなのか」
「……そう、ね」
「ふーん」
「バッツだって自分の居た世界に好きな子、いるんじゃないの?」
「いない」
あまりにきっぱりと言うので、思わず拍子抜けしてしまいそうになる。美女三人を囲っておき、さらに故郷にはフラグを立てている女性がいるというのに。それらを踏まえて言い切るのだから、フラグクラッシャーの名は伊達じゃない。
「だって俺の好きな人、目の前にいるし」
何を言われたのか理解できず、バッツの目を見たまましばらく硬直していた。手を重ね、顔を覗き込まれた時点でようやく言葉の意味を理解する。
「俺、キリカのことが好きだ」
その告白が追い打ちをかけたように体温を上昇させた。触れられた指先が燃えているように熱い。顔が紅潮するも、どうにも目を反らすことができずにいた。
「俺じゃダメ?そいつじゃなくてさ」
静かに訴えかけてくる瞳が憂いに満ちて、それに対してキリカは上手く言葉を発することができずにいた。はっきりと向けられた好意に戸惑いすら覚える。お互いに想いが通じているとわかっているのに、こういう時に限って思考が鈍る。
黙り込んでしまったキリカを見る目が不安そうに揺れた。触れていた手を掴むように握り、顔を近づけた。僅か数秒、唇を奪う。体を押し倒し、両手の指を絡めて地面に縫い付けた。
組み敷いた体勢のまましばらく二人は見つめ合っていた。逃げようともせず、抵抗すら試みない。普通、好いてもいない男にこんなことをされれば罵声の一つでも飛ぶというもの。
「いいのか、逃げなくて」
「人を押し倒しておいて言う台詞?」
つい衝動に駆られたとは言え、尤もな意見だ。かと言ってこの手を退ける気はない。手を離せば二度と触れることができないような気さえしていた。
真っすぐに見上げられていた目が宙に泳いだ。キリカの口から出たのはか細く震えた声。
「私も、ね。……バッツのことが好きなの」
それが逃げない理由だと言えばわかるか。そう聞いてきた。言葉の意味を素直に飲み込めなかったバッツが疑問を投げ返してきた。
「……え、いや、だって…他に好きな奴いるんじゃ」
「だから、私の片思いの相手、貴方なのよ」
「ほんとに」
「この状態でウソつけるほど私器用じゃない」
まだ信じてもらえないのかと言った直後、キリカの上に文字通りバッツが降ってきた。重さに悶えたのも一瞬で、横にごろりと二人で転がった。ぎゅっと抱きしめられ、これはこれで息が苦しくなる。
「……なんだ、そうだったのか。てっきりフラれるかと思ってた」
「夢、じゃないよね」
「これが夢だったら俺本気で凹むんだけど」
お互いの体温を感じ取ることができる状態を泡沫の夢にはしたくない。溶けて消えてしまわないよう、寄り添っていた。