DFF
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
song for you.
じわじわと痛む足首をさするように押さえる。少し触れただけで鋭い痛みが走った。
地べたに転がっている適当な岩に腰掛けているキリカが「そういえば」と足元から顔を上げる。その動きに合わせて耳元のイヤリングが揺れた。
「バッツが好きそうな物って知ってる?」
まさかこんな時にそんな質問をされるとは思ってもいない。水で濡らしたタオルを持ってきたジタンはタオルを広げた状態で静止した。
だが、そこで茶化したりふざけないのが彼の良いところ。真剣に考えてくれているようで、眉間に皺を寄せていた。そして考えた末に出た答えがこれだ。
「チョコボとか」
「ですよね。…でも此処らへんでチョコボ見かけないし」
「正直な話、キリカが用意した物なら何でも喜ぶと思うけど」
キリカの足首に冷たいタオルが当てられる。途端に彼女の顔が歪む。軽く足首にタオルを巻きつけ、あとは自分で押さえた方がいいと手を離した。真っ赤に腫れた患部を見たジタンまで痛そうに顔をしかめる。
「こんな時に急になんでそんな事聞いてくるんだ?」
「あ、ほら。この前の宝探しでバッツからこれ、貰ったからそのお礼にと思ってね」
空いている手の方で自身の耳元を示す。小さな青いクリスタルがゆらゆらと揺れていた。このイヤリングを見つけたのは確かアクセサリが多く見つかった日。 真っ赤なカラーストーンがあしらわれたネックレスを見つけ、これ彼女に似合いそうだなと思っていた時だ。バッツも同じように何か良いものを見つけたのか 「これ貰ってもいいか」と聞いてきた。彼の手の平に乗せられた一対のイヤリング。野暮なことは聞かなかったが、翌日彼女の耳元に揺れる同じ物を発見。
それ以後に二人の仲が急接近した、というわけではない。至って普段通り。何も進展しないのが不思議でならなかった。
「物以外なら…そうだな、手料理とか」
「料理は私が当番の時に作ってるもの。でもそっか…手作り、……肩たたき券とか?」
「あいつ肩凝りとか無縁だと思う」
「やっぱり?スコールの方が凝ってそうよね」
「うわ、じじくさー。あいつがバッツより年下とか思えないんだよなあ」
「うんうん」
話に夢中になっていたせいで、足を無意識に地面を蹴飛ばすように動かした。少し冷やしただけでは治る訳も無く、先程転んで捻った足首は痛々しく腫れている。痛みに悶えるキリカは彼ら二人が走り去った方向を涙目ながらに見つめた。
足元をよく見ていなかった、不注意は自分にあるというのにだ。躓いて挫いた足首を見たバッツはポーションを探してくると言っていち早く駆け出した。それを追うようにスコールもついていく。運悪く回復薬が切れていたので、散策しに行くしかなかったのだ。
こうして仲間に迷惑をかけてしまったことにキリカは申し訳ない気持ちで胸が一杯だった。
だいぶ先まで探しに行ったのか二人は中々戻ってこない。
「二人とも、大丈夫かな。どこまで行ったのかしら」
「あいつらなら心配いらないって」
「ジタンもありがとう。みんな何処かに行っちゃったら心細かったわ」
「俺はレディを一人置き去りになんかしないぜ?」
「レディを守るのも男の役目だからな」と誇らしげに胸を張ってそう主張する盗賊の少年。レディファーストの精神が本当に強い。それだけではなく、面倒見が良いこともキリカは知っていた。あの個性的な二人ともバランスが取れて相性が良いのかもしれない。
それに比べて自分は身を守る術も知らない。こうして彼らの足止めをしていることに気落ちしてしまっていた。その様子を察したジタンがキリカの肩を軽く叩いて慰めの言葉をかける。
「そんなに落ち込むなって。その程度って言ったらあれだけど、大怪我じゃなかったんだし良かったじゃないか」
「うん」
キリカの表情が緩む。それから小さく頷いてみせた。
二人が戻ってくるまで幸いなことに敵襲も無く、雑談で時間が過ぎていった。お喋りとまではいかない、話し上手なジタンのおかげで退屈もしなかった。
ようやく二人が戻ってきた頃には濡れていたタオルもすっかり温くなっていた。「ポーション見つかったのか?」とジタンが尋ねると短い返事がスコールから返ってくる。かなり遠くまで行ってきたが、一向に見つからないので戻ってきたと言う。
「ポーション以外に回復できる方法があるらしい」
「白魔法か?でもこん中で使えるやついないんじゃ」
「まあ、俺に任せとけって!」
自信満々に答えたバッツは喉を整え、息を細く吸い込んだ。薄い唇から発せられたのは言葉ではなく、豊かな旋律。美しいその歌声はプロと称しても過言ではない。思わず聞き惚れてしまう。
一節を歌い終えた頃には不思議なことにキリカの足首の痛みが軽くなっていた。赤みも引いている。自然治癒力を促進させる歌。吟遊詩人特有のスキルをようやく思い出した。
歌い終えた吟遊詩人に自然と拍手が鳴り響く。
「…多才だよな、ほんとに」
「体力を回復させる歌、か」
「他にも色々あるんだぜ?相手を足止めさせたり、混乱させたり」
キリカは痛みが引いた足を地面にそっと下ろした。両足で体を支えても全く問題がなさそうだ。
歌の種類を指折り数えていたバッツは彼女に具合はどうかと尋ねた。
「大丈夫そうか?」
「ええ。痛みも引いたからこれで歩けそうよ」
「良かったな。でも、あんまり無理するなよ。一度捻挫すると癖になりやすいっていうし」
「気を付けるわ。ありがとう、バッツ」
「どう致しまして」
二人が話している間、ジタンはさりげなくスコールの脇腹を肘でつついた。それを不快だと言わんばかりに睨み付ける。だが彼の目配せで何となく察することができたので、こくりと頷いた。
そろり、そろりと二人から距離を十分に取ったところでジタンが叫ぶ。
「俺たちちょっと向こうの方見てくるから!」
「わかった。気を付けろよ」
「そうそう、キリカが聞きたい事あるって言ってたぞー!」
思いもよらない気配りに焦りの色が浮かぶ。気配りというよりはお節介に近い。さきほどジタンに相談した内容をそのまま本人にぶつけてみろということだ。
ジタンはスコールを引っ張るようにして、やがて見えなくなった。これはしばらく戻ってこなさそうだ。頭を抱えたくなるキリカとは裏腹に「聞きたいことって?」と普通に尋ねてくるバッツ。
「え、ええと……バッツは人から貰って嬉しいものってある?」
問われた質問を真剣に考える。両腕を組んで、次々と思い浮かべていく。アイテム、武器、カード、アクセサリ。最終的に残ったのは黄色い相棒の姿だった。
「……チョコボ系?」
「デスヨネ」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「…この前、イヤリング貰ったから。そのお礼にと思って考えてたの」
「なんだ。別に気にしなくてもいいのに。俺があげたかっただけだし」
貰いっぱなしではこちらの気がすまない。どうやら一歩も譲る様子はなさそうだ。とは言え、大した物が浮かばない。それならばと妙案が閃いた。
「じゃあ、デート一回で」
「……え?」
キリカは思わず聞き返した。自分の聞き間違いではないのか、しかし当人はにこにこと笑っている。冗談ではなさそうだ。
しかもその台詞が違う人のものだと気付いたのは少ししてからだった。
じわじわと痛む足首をさするように押さえる。少し触れただけで鋭い痛みが走った。
地べたに転がっている適当な岩に腰掛けているキリカが「そういえば」と足元から顔を上げる。その動きに合わせて耳元のイヤリングが揺れた。
「バッツが好きそうな物って知ってる?」
まさかこんな時にそんな質問をされるとは思ってもいない。水で濡らしたタオルを持ってきたジタンはタオルを広げた状態で静止した。
だが、そこで茶化したりふざけないのが彼の良いところ。真剣に考えてくれているようで、眉間に皺を寄せていた。そして考えた末に出た答えがこれだ。
「チョコボとか」
「ですよね。…でも此処らへんでチョコボ見かけないし」
「正直な話、キリカが用意した物なら何でも喜ぶと思うけど」
キリカの足首に冷たいタオルが当てられる。途端に彼女の顔が歪む。軽く足首にタオルを巻きつけ、あとは自分で押さえた方がいいと手を離した。真っ赤に腫れた患部を見たジタンまで痛そうに顔をしかめる。
「こんな時に急になんでそんな事聞いてくるんだ?」
「あ、ほら。この前の宝探しでバッツからこれ、貰ったからそのお礼にと思ってね」
空いている手の方で自身の耳元を示す。小さな青いクリスタルがゆらゆらと揺れていた。このイヤリングを見つけたのは確かアクセサリが多く見つかった日。 真っ赤なカラーストーンがあしらわれたネックレスを見つけ、これ彼女に似合いそうだなと思っていた時だ。バッツも同じように何か良いものを見つけたのか 「これ貰ってもいいか」と聞いてきた。彼の手の平に乗せられた一対のイヤリング。野暮なことは聞かなかったが、翌日彼女の耳元に揺れる同じ物を発見。
それ以後に二人の仲が急接近した、というわけではない。至って普段通り。何も進展しないのが不思議でならなかった。
「物以外なら…そうだな、手料理とか」
「料理は私が当番の時に作ってるもの。でもそっか…手作り、……肩たたき券とか?」
「あいつ肩凝りとか無縁だと思う」
「やっぱり?スコールの方が凝ってそうよね」
「うわ、じじくさー。あいつがバッツより年下とか思えないんだよなあ」
「うんうん」
話に夢中になっていたせいで、足を無意識に地面を蹴飛ばすように動かした。少し冷やしただけでは治る訳も無く、先程転んで捻った足首は痛々しく腫れている。痛みに悶えるキリカは彼ら二人が走り去った方向を涙目ながらに見つめた。
足元をよく見ていなかった、不注意は自分にあるというのにだ。躓いて挫いた足首を見たバッツはポーションを探してくると言っていち早く駆け出した。それを追うようにスコールもついていく。運悪く回復薬が切れていたので、散策しに行くしかなかったのだ。
こうして仲間に迷惑をかけてしまったことにキリカは申し訳ない気持ちで胸が一杯だった。
だいぶ先まで探しに行ったのか二人は中々戻ってこない。
「二人とも、大丈夫かな。どこまで行ったのかしら」
「あいつらなら心配いらないって」
「ジタンもありがとう。みんな何処かに行っちゃったら心細かったわ」
「俺はレディを一人置き去りになんかしないぜ?」
「レディを守るのも男の役目だからな」と誇らしげに胸を張ってそう主張する盗賊の少年。レディファーストの精神が本当に強い。それだけではなく、面倒見が良いこともキリカは知っていた。あの個性的な二人ともバランスが取れて相性が良いのかもしれない。
それに比べて自分は身を守る術も知らない。こうして彼らの足止めをしていることに気落ちしてしまっていた。その様子を察したジタンがキリカの肩を軽く叩いて慰めの言葉をかける。
「そんなに落ち込むなって。その程度って言ったらあれだけど、大怪我じゃなかったんだし良かったじゃないか」
「うん」
キリカの表情が緩む。それから小さく頷いてみせた。
二人が戻ってくるまで幸いなことに敵襲も無く、雑談で時間が過ぎていった。お喋りとまではいかない、話し上手なジタンのおかげで退屈もしなかった。
ようやく二人が戻ってきた頃には濡れていたタオルもすっかり温くなっていた。「ポーション見つかったのか?」とジタンが尋ねると短い返事がスコールから返ってくる。かなり遠くまで行ってきたが、一向に見つからないので戻ってきたと言う。
「ポーション以外に回復できる方法があるらしい」
「白魔法か?でもこん中で使えるやついないんじゃ」
「まあ、俺に任せとけって!」
自信満々に答えたバッツは喉を整え、息を細く吸い込んだ。薄い唇から発せられたのは言葉ではなく、豊かな旋律。美しいその歌声はプロと称しても過言ではない。思わず聞き惚れてしまう。
一節を歌い終えた頃には不思議なことにキリカの足首の痛みが軽くなっていた。赤みも引いている。自然治癒力を促進させる歌。吟遊詩人特有のスキルをようやく思い出した。
歌い終えた吟遊詩人に自然と拍手が鳴り響く。
「…多才だよな、ほんとに」
「体力を回復させる歌、か」
「他にも色々あるんだぜ?相手を足止めさせたり、混乱させたり」
キリカは痛みが引いた足を地面にそっと下ろした。両足で体を支えても全く問題がなさそうだ。
歌の種類を指折り数えていたバッツは彼女に具合はどうかと尋ねた。
「大丈夫そうか?」
「ええ。痛みも引いたからこれで歩けそうよ」
「良かったな。でも、あんまり無理するなよ。一度捻挫すると癖になりやすいっていうし」
「気を付けるわ。ありがとう、バッツ」
「どう致しまして」
二人が話している間、ジタンはさりげなくスコールの脇腹を肘でつついた。それを不快だと言わんばかりに睨み付ける。だが彼の目配せで何となく察することができたので、こくりと頷いた。
そろり、そろりと二人から距離を十分に取ったところでジタンが叫ぶ。
「俺たちちょっと向こうの方見てくるから!」
「わかった。気を付けろよ」
「そうそう、キリカが聞きたい事あるって言ってたぞー!」
思いもよらない気配りに焦りの色が浮かぶ。気配りというよりはお節介に近い。さきほどジタンに相談した内容をそのまま本人にぶつけてみろということだ。
ジタンはスコールを引っ張るようにして、やがて見えなくなった。これはしばらく戻ってこなさそうだ。頭を抱えたくなるキリカとは裏腹に「聞きたいことって?」と普通に尋ねてくるバッツ。
「え、ええと……バッツは人から貰って嬉しいものってある?」
問われた質問を真剣に考える。両腕を組んで、次々と思い浮かべていく。アイテム、武器、カード、アクセサリ。最終的に残ったのは黄色い相棒の姿だった。
「……チョコボ系?」
「デスヨネ」
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「…この前、イヤリング貰ったから。そのお礼にと思って考えてたの」
「なんだ。別に気にしなくてもいいのに。俺があげたかっただけだし」
貰いっぱなしではこちらの気がすまない。どうやら一歩も譲る様子はなさそうだ。とは言え、大した物が浮かばない。それならばと妙案が閃いた。
「じゃあ、デート一回で」
「……え?」
キリカは思わず聞き返した。自分の聞き間違いではないのか、しかし当人はにこにこと笑っている。冗談ではなさそうだ。
しかもその台詞が違う人のものだと気付いたのは少ししてからだった。