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親愛なる貴方へ
長い夢を見ていた。
夢の内容はよく思い出せなかった。
楽しい夢なのか、苦しい夢だったのかさえもわからない。
眠っていた間に見た夢は頭から全て吸い取られたような気さえする。この、無の空間に。
宿敵との戦いを終え、仲間と一緒に帰ろうとした。けど、身体が言うことを利かなくて、直後に物凄い睡魔に襲われた。
皆が手を伸ばしてくれたのに、それさえ掴む事ができなかった。
無理もなかった。満身創痍で無から抜け出す気力は残ってなかったんだ。
どこまでも同じ景色が続いている。真っ暗な闇の中に星のような明かりが無数に浮いていて、俺の身体も同じように無の中を漂っていた。
どれだけ眠っていたのか見当もつかない。ただ、これだけはわかるんだ。
世界はクリスタルを取り戻し、平和が再び訪れたということ。
それで良かった。世界が救われて、皆が安心して暮らせるならそれで。いいんだ。
俺は目を閉じた。
声が、聞こえた。懐かしい、あの声だ。
それは次第にはっきり聞こえて、目を開けた時、光に包まれた親父の姿が見えた。
「バッツ、バッツ……一体何をしているんだ」
「親父」
「此処へ来るのはまだお前には早すぎる」
「でも、俺は」
親父の手が俺の肩に触れた。触れた箇所だけ、温かく感じる。まるで生身の人間のように。
微笑みながら親父は力強く、言葉を紡ぐ。
「お前の帰りを待つ人達がいるだろ」
「そうじゃ!お主の居場所は此処ではない」
「ガラフ!」
親父の隣にいつの間にか姿を現したガラフのじいさん。
光を纏っている以外、豪快に笑い飛ばすところは生前と変わりないな。
「それに、お主の帰りを首を長くして待っている大事な人もな。ふぉふぉ」
「大事な人…?」
「行けばわかる。さあ、光の戦士、我が息子よクリスタルを頼んだぞ!」
*
光が見えた、眩しい。
風が暖かい。土の匂いと花の香りがする。
この感じ、懐かしいな。
眩しさに目を細めていると、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
次第に光に慣れていく目を開ける。辺りには色とりどりの花が咲き乱れていた。
色が世界に溢れていた。ああ、帰ってきたんだ。
仲間の顔を見るのも、久しぶりだ。
「お帰りなさい」
地面に膝をついたレナは涙ぐんでいる。
溢れた雫を指で拭いながら、笑顔を見せてくれた。
"おかえり"という言葉がくすぐったい。
「ただいま」
「お兄ちゃん!」
いきなり俺に飛びついてきたクルルが首にしがみついた。
いくら子どもだからって不意打ちのそれを支えきれなくて、花畑の上に二人で倒れこんだ。
泣きながらすがり付く様は本当、子どもだよ。
「よかった…お兄ちゃん…お帰り!」
「ああ、ただいまクルル」
ふわふわの髪を撫でてやると、俺から離れたクルルは満面の笑みを見せる。
ああ、みんな俺の帰りを待っていたんだ。
ただ、海賊のお頭だけは仁王立ちで俺を見下ろしていた。
「このバカッ。一体今までどこほっつき歩いてたんだ。……心配、かけやがって」
「ファリス。……悪い、無の世界から抜け出す気力が残ってなかったんだ」
エクスデスとの戦いが終わった後、無の空間を漂っていた。
そのはずがどこか別の場所にいたような気もする。別の、世界に。
ふと頭を小突かれたので上を向くとファリスが呆れた表情をしていた。
「おい、まだ寝ぼけてんのか。ほら、お前にだ」
「手紙……俺に?誰から」
「さあな。名乗らなかったよ。ただ、手紙を読めばわかるからって言ってた」
皺の寄った一通の封筒。蝋でしっかりと封がされている。
ファリスはそれだけ言うと長い紫暗の髪をなびかせて後ろを向いてしまった。
僅かに震えている肩。まったく素直じゃないよな。
俺は手紙の封を開け、一枚の便箋に書かれた文字を目で追い始めた。
親愛なる バッツ・クラウザー様
この手紙を読んでいるということは、長い長い戦いが終わって帰ってきたのね。
お帰りなさい。本当にお疲れ様。
貴方たちのおかげで世界が平和になったと村の人たちは言っています。
それを聞いている私まで嬉しくて、誇らしい気持ちになります。
バッツはどこの世界に行っても英雄ね。
この世界に帰ってきて、全て思い出せたと思います。
共に戦った仲間や相棒のこと。
多分、貴方は私のことを忘れてしまっていると思います。
でもそれは、仕方のないことだから。私は怒らないわ。
貴方から貰った沢山の思い出。今でも胸の中で輝いています。
本当に楽しい日々だった。ありがとう。
私は貴方よりも先にこの世界に居ると思います。
だから、手紙を書いて貴方の仲間に託しました。
慣れない土地で不安だったけど「今さらだろ」という貴方の言葉を思い出して、勇気を貰いました。
しばらくはムーアの村で暮らそうと思っています。バッツの帰りを待ってみようかな、と気まぐれに浮かんだから。
もし、また会える事が出来たら…その時は自己紹介からさせてもらうわね。
それでは、お元気で。
キリカ
あの世界での記憶が走馬灯のように流れ込んでくるようだった。
ああ、そういえば。どうして俺、忘れていたんだ。絶対に忘れちゃいけない人なのに。
「…バッツ、泣いてるの?悲しいお知らせだったの」
手紙を読み終わるうちに涙が頬を伝っていた。
クルルの声にはっとなって手の甲で涙を拭う。
「いや、嬉しい報せさ。ファリス、この手紙いつ頃預かったんだ」
「……半年前、かな」
「そっか。サンキュー」
その場に立ち上がり、奥の方を見ると最愛の相棒の姿が見えた。
俺は黄金色の翼を羽ばたかせているチョコボの元へ駆け寄る。
「ボコ!元気だったか?久しぶりだなー。ははっ、やめろってくすぐったい」
「くえっ、くええっ!」
甘えてじゃれついてくるボコをひとしきり撫でた後、額を合わせて目を瞑る。
迎えに行かないとな。ずっと待ってくれてるんだ。これ以上待たせちゃ悪いだろ。
「ボコ、行くぞ」
「くえっ」
ボコの背に颯爽と跨り、手綱を握る。この感じも久々だ。
出発の合図を掛けるより先にレナが俺を呼び止めた。
「バッツ!どこに行くの?」
「ちょっと西の方にな」
「なんだ、それラブレターだったのか?」
にやにやと笑いながらからかってくるファリスは誰かさんを彷彿とさせる。
俺は負けずに笑みを返した。
「まあ、そんなとこだ。今度紹介してやるよ、俺の最愛の人」
俺は戻ってきて早々に西の方角を目指す。相棒のボコと一緒に。
再会したらまず何を話そうか。抱きしめるだけで精一杯かもしれないな。
長い夢を見ていた。
夢の内容はよく思い出せなかった。
楽しい夢なのか、苦しい夢だったのかさえもわからない。
眠っていた間に見た夢は頭から全て吸い取られたような気さえする。この、無の空間に。
宿敵との戦いを終え、仲間と一緒に帰ろうとした。けど、身体が言うことを利かなくて、直後に物凄い睡魔に襲われた。
皆が手を伸ばしてくれたのに、それさえ掴む事ができなかった。
無理もなかった。満身創痍で無から抜け出す気力は残ってなかったんだ。
どこまでも同じ景色が続いている。真っ暗な闇の中に星のような明かりが無数に浮いていて、俺の身体も同じように無の中を漂っていた。
どれだけ眠っていたのか見当もつかない。ただ、これだけはわかるんだ。
世界はクリスタルを取り戻し、平和が再び訪れたということ。
それで良かった。世界が救われて、皆が安心して暮らせるならそれで。いいんだ。
俺は目を閉じた。
声が、聞こえた。懐かしい、あの声だ。
それは次第にはっきり聞こえて、目を開けた時、光に包まれた親父の姿が見えた。
「バッツ、バッツ……一体何をしているんだ」
「親父」
「此処へ来るのはまだお前には早すぎる」
「でも、俺は」
親父の手が俺の肩に触れた。触れた箇所だけ、温かく感じる。まるで生身の人間のように。
微笑みながら親父は力強く、言葉を紡ぐ。
「お前の帰りを待つ人達がいるだろ」
「そうじゃ!お主の居場所は此処ではない」
「ガラフ!」
親父の隣にいつの間にか姿を現したガラフのじいさん。
光を纏っている以外、豪快に笑い飛ばすところは生前と変わりないな。
「それに、お主の帰りを首を長くして待っている大事な人もな。ふぉふぉ」
「大事な人…?」
「行けばわかる。さあ、光の戦士、我が息子よクリスタルを頼んだぞ!」
*
光が見えた、眩しい。
風が暖かい。土の匂いと花の香りがする。
この感じ、懐かしいな。
眩しさに目を細めていると、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
次第に光に慣れていく目を開ける。辺りには色とりどりの花が咲き乱れていた。
色が世界に溢れていた。ああ、帰ってきたんだ。
仲間の顔を見るのも、久しぶりだ。
「お帰りなさい」
地面に膝をついたレナは涙ぐんでいる。
溢れた雫を指で拭いながら、笑顔を見せてくれた。
"おかえり"という言葉がくすぐったい。
「ただいま」
「お兄ちゃん!」
いきなり俺に飛びついてきたクルルが首にしがみついた。
いくら子どもだからって不意打ちのそれを支えきれなくて、花畑の上に二人で倒れこんだ。
泣きながらすがり付く様は本当、子どもだよ。
「よかった…お兄ちゃん…お帰り!」
「ああ、ただいまクルル」
ふわふわの髪を撫でてやると、俺から離れたクルルは満面の笑みを見せる。
ああ、みんな俺の帰りを待っていたんだ。
ただ、海賊のお頭だけは仁王立ちで俺を見下ろしていた。
「このバカッ。一体今までどこほっつき歩いてたんだ。……心配、かけやがって」
「ファリス。……悪い、無の世界から抜け出す気力が残ってなかったんだ」
エクスデスとの戦いが終わった後、無の空間を漂っていた。
そのはずがどこか別の場所にいたような気もする。別の、世界に。
ふと頭を小突かれたので上を向くとファリスが呆れた表情をしていた。
「おい、まだ寝ぼけてんのか。ほら、お前にだ」
「手紙……俺に?誰から」
「さあな。名乗らなかったよ。ただ、手紙を読めばわかるからって言ってた」
皺の寄った一通の封筒。蝋でしっかりと封がされている。
ファリスはそれだけ言うと長い紫暗の髪をなびかせて後ろを向いてしまった。
僅かに震えている肩。まったく素直じゃないよな。
俺は手紙の封を開け、一枚の便箋に書かれた文字を目で追い始めた。
親愛なる バッツ・クラウザー様
この手紙を読んでいるということは、長い長い戦いが終わって帰ってきたのね。
お帰りなさい。本当にお疲れ様。
貴方たちのおかげで世界が平和になったと村の人たちは言っています。
それを聞いている私まで嬉しくて、誇らしい気持ちになります。
バッツはどこの世界に行っても英雄ね。
この世界に帰ってきて、全て思い出せたと思います。
共に戦った仲間や相棒のこと。
多分、貴方は私のことを忘れてしまっていると思います。
でもそれは、仕方のないことだから。私は怒らないわ。
貴方から貰った沢山の思い出。今でも胸の中で輝いています。
本当に楽しい日々だった。ありがとう。
私は貴方よりも先にこの世界に居ると思います。
だから、手紙を書いて貴方の仲間に託しました。
慣れない土地で不安だったけど「今さらだろ」という貴方の言葉を思い出して、勇気を貰いました。
しばらくはムーアの村で暮らそうと思っています。バッツの帰りを待ってみようかな、と気まぐれに浮かんだから。
もし、また会える事が出来たら…その時は自己紹介からさせてもらうわね。
それでは、お元気で。
キリカ
あの世界での記憶が走馬灯のように流れ込んでくるようだった。
ああ、そういえば。どうして俺、忘れていたんだ。絶対に忘れちゃいけない人なのに。
「…バッツ、泣いてるの?悲しいお知らせだったの」
手紙を読み終わるうちに涙が頬を伝っていた。
クルルの声にはっとなって手の甲で涙を拭う。
「いや、嬉しい報せさ。ファリス、この手紙いつ頃預かったんだ」
「……半年前、かな」
「そっか。サンキュー」
その場に立ち上がり、奥の方を見ると最愛の相棒の姿が見えた。
俺は黄金色の翼を羽ばたかせているチョコボの元へ駆け寄る。
「ボコ!元気だったか?久しぶりだなー。ははっ、やめろってくすぐったい」
「くえっ、くええっ!」
甘えてじゃれついてくるボコをひとしきり撫でた後、額を合わせて目を瞑る。
迎えに行かないとな。ずっと待ってくれてるんだ。これ以上待たせちゃ悪いだろ。
「ボコ、行くぞ」
「くえっ」
ボコの背に颯爽と跨り、手綱を握る。この感じも久々だ。
出発の合図を掛けるより先にレナが俺を呼び止めた。
「バッツ!どこに行くの?」
「ちょっと西の方にな」
「なんだ、それラブレターだったのか?」
にやにやと笑いながらからかってくるファリスは誰かさんを彷彿とさせる。
俺は負けずに笑みを返した。
「まあ、そんなとこだ。今度紹介してやるよ、俺の最愛の人」
俺は戻ってきて早々に西の方角を目指す。相棒のボコと一緒に。
再会したらまず何を話そうか。抱きしめるだけで精一杯かもしれないな。