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内緒の恋
秩序と混沌を司る神々の争いは収まる様子がなかった。
選ばれし戦士達は道行く先々でカオスの軍勢と剣を重ねる。
間近で見る彼らの戦い方には迫力があった。容易にミーハー気分で騒いだりはしないが「あれがガンブレードか」「トランス状態のジタンだ」「バッツの頭の上に三ツ星、ということはジョブマスター?」等と懐かしい気持ちを抱きながらキリカは彼らを見ていた。
それぞれの物語の主人公が集っているこの現状を夢ではないかと疑っていた。しかし頬をぎゅっと抓ってみても痛い上に赤く腫れてしまった。
非戦闘員であるキリカはお荷物にならないよう、彼らのサポートに徹していた。
怪我の手当て、道具の整理整頓、食事の用意など出来ることを率先している。
冷たい水にさらされたタオルがぎゅっと絞られる。それをキリカから手渡された。
ジタンは「サンキュー」と礼を言うも、額にできた大きなコブの痛みに耐える表情をしている。タオルでコブを冷やしながら草の上に寝転がった。
「大丈夫?」
「このぐらいどうってことないって。俺としたことが油断しちまった」
「みんな自信過剰よ。体中傷だらけになっても『何でもない、気にするな』って言うし」
「今のスコールの真似?すげー似てる」
「笑いごとじゃないよ、もうっ」
彼らが戦闘中の時は物陰に身を潜めているキリカ。状況を見守っている間は気が気じゃないと頬を膨らませた。彼女は自分よりもだいぶ年上なのに、子どもっぽい表情が時折窺がえる。そこがカワイイんだよなとジタンはこっそり微笑んだ。
寝転がっているジタンの隣でキリカは膝を抱える。無風状態の湖は水面鏡になり周囲の景色を映しだしていた。ここから少し離れた場所にキャンプのテントが張られている。もう日が暮れかけているし、水もあるからここで野宿しようと全員一致の案だ。
炊事は交代制になっており、今日はバッツが担当している。意外なことにテキパキと調理を進める姿に感心しながらキリカはここから眺めていた。
「今日の晩飯なんだろうな」と食事の話題を適当に交わしながら、そういえばとジタンは思い出すことがあった。バッツから聞いたあの話。あれは本当なんだろうか。やはり彼の作り話ではと疑念を抱いていた。今ここでキリカと二人きりなのは実に良いタイミングだ。
ジタンは仰向けの体を横に向けてキリカに声をかけた。
「バッツてさ、何でもできるから凄いよね。武具の戦闘は勿論、魔法も使える。料理はできるし、薬の調合だってできる。それに歌って踊れてピアノも弾けるなんて」
「だよなー。人の技だって一回見ただけで真似しちまうんだぜ。って、あいつピアノ弾けんの?」
「う、うん。この間そう言ってたよ。町に着いたらまずピアノ探しに行くって」
「……ピアノ探しに行く奴ってそういないと思う」
バッツがピアノを弾けることにも驚きだが、町に着いてからまずピアノを探しに行くとは。また一つ変わった一面を見つけたとジタンは苦笑いを零した。
一方、キリカの方は怪しまれていないか心臓がバクバクと鳴っていた。彼らの存在が別世界の物語であり、素性を知っていることは内緒にしている。話をしたところでややこしくなるだろうし、信じてもらえない可能性が高い。それで彼らとの関係性に歪が生まれるぐらいならば、巻き込まれた不運な一般人として振る舞った方がよい。そう考えたのだ。
「なあキリカ。一つ聞いてもいいか」
「え、なに?」
「初恋の人がバッツ似ってマジな話?」
ジタンからの質問にあやうくキリカは変な声をあげるところであった。彼を振り向くと、ニヤニヤと笑っている。どうやら今の反応で勘付いたようだ。次第に彼女の頬が赤く染まっていく。もはやそれを誤魔化す術も無く、目を泳がせていた。
「どっ、どうしてそれを」
「あーやっぱマジなんだ。いや、この間バッツが言ってたんだよ。それでホントかなーと思って」
にわかには信じ難い話だったと言う。
だが、あの時は酒に酔っていた発言だ。まさかそれを真に受けて、しかも覚えているとは思いもよらない。
キリカは火照った顔を隠すように膝にうずめ、溜息をつく。それから顔を少しだけ上げてぽつりと話始めた。
「初恋って言っても、すごく前の話よ。…ほんとに小っちゃい頃。物心ついたぐらいかな」
「女の子の初恋ってやっぱ早いんだな。きっかけとかは?」
「覚えてないわ。ただ、カッコイイなあって」
「へえ~」
含み笑い、からかわれるのかと思いきやそれ以上詮索はしてこなかった。そうだ、女性に優しいジタンならばむやみやたらに笑い飛ばしたりもしないだろう。これはこれでキリカにとって救いだった。
しかし、今思い返してみれば無謀な恋だった。
小さな女の子に芽生えた"好き"という感情。その想いはブラウン管の向こうに届くはずもなく、ただ見つめているだけの日々。女の子は年月を重ねていき、やがて初恋の相手の歳を越えた。その時ばかりはなんとも言い難い感情を覚えたものだ。だが、相手がどの次元の人物だとしても初恋は初恋。キリカにとっては大事な思い出だ。
二十数年間、生きてきた間に対等に付き合える恋も経験はしてきたが、どれも実らずに終わりを迎えた。
回想を踏まえながら掻い摘んでジタンに説明をした。勿論、次元が違うなどとは話していない。
キリカの話を真剣な面持ちで聞いていたジタンはふと疑問を口にした。
「なんかさ、話聞いてる限りだと……バッツが初恋の人って感じなんだけど」
「へ!?い、いやいやいや!あくまで、あくまで似てるってだけ!」
「そんなに否定すると疑いは益々濃くなる一方だぜ?」
「怪しくない。怪しくないってば」
これは鎌をかければ本音が聞き出せそうだ。道中、しばらくは退屈しなくて済みそうだとジタンの口元が緩む。今日はこれ以上詮索しても白状しないだろう。また別の日に仕掛けることにして、彼は「そろそろ飯が出来てる頃だな」と自ら話を切り上げたのであった。
秩序と混沌を司る神々の争いは収まる様子がなかった。
選ばれし戦士達は道行く先々でカオスの軍勢と剣を重ねる。
間近で見る彼らの戦い方には迫力があった。容易にミーハー気分で騒いだりはしないが「あれがガンブレードか」「トランス状態のジタンだ」「バッツの頭の上に三ツ星、ということはジョブマスター?」等と懐かしい気持ちを抱きながらキリカは彼らを見ていた。
それぞれの物語の主人公が集っているこの現状を夢ではないかと疑っていた。しかし頬をぎゅっと抓ってみても痛い上に赤く腫れてしまった。
非戦闘員であるキリカはお荷物にならないよう、彼らのサポートに徹していた。
怪我の手当て、道具の整理整頓、食事の用意など出来ることを率先している。
冷たい水にさらされたタオルがぎゅっと絞られる。それをキリカから手渡された。
ジタンは「サンキュー」と礼を言うも、額にできた大きなコブの痛みに耐える表情をしている。タオルでコブを冷やしながら草の上に寝転がった。
「大丈夫?」
「このぐらいどうってことないって。俺としたことが油断しちまった」
「みんな自信過剰よ。体中傷だらけになっても『何でもない、気にするな』って言うし」
「今のスコールの真似?すげー似てる」
「笑いごとじゃないよ、もうっ」
彼らが戦闘中の時は物陰に身を潜めているキリカ。状況を見守っている間は気が気じゃないと頬を膨らませた。彼女は自分よりもだいぶ年上なのに、子どもっぽい表情が時折窺がえる。そこがカワイイんだよなとジタンはこっそり微笑んだ。
寝転がっているジタンの隣でキリカは膝を抱える。無風状態の湖は水面鏡になり周囲の景色を映しだしていた。ここから少し離れた場所にキャンプのテントが張られている。もう日が暮れかけているし、水もあるからここで野宿しようと全員一致の案だ。
炊事は交代制になっており、今日はバッツが担当している。意外なことにテキパキと調理を進める姿に感心しながらキリカはここから眺めていた。
「今日の晩飯なんだろうな」と食事の話題を適当に交わしながら、そういえばとジタンは思い出すことがあった。バッツから聞いたあの話。あれは本当なんだろうか。やはり彼の作り話ではと疑念を抱いていた。今ここでキリカと二人きりなのは実に良いタイミングだ。
ジタンは仰向けの体を横に向けてキリカに声をかけた。
「バッツてさ、何でもできるから凄いよね。武具の戦闘は勿論、魔法も使える。料理はできるし、薬の調合だってできる。それに歌って踊れてピアノも弾けるなんて」
「だよなー。人の技だって一回見ただけで真似しちまうんだぜ。って、あいつピアノ弾けんの?」
「う、うん。この間そう言ってたよ。町に着いたらまずピアノ探しに行くって」
「……ピアノ探しに行く奴ってそういないと思う」
バッツがピアノを弾けることにも驚きだが、町に着いてからまずピアノを探しに行くとは。また一つ変わった一面を見つけたとジタンは苦笑いを零した。
一方、キリカの方は怪しまれていないか心臓がバクバクと鳴っていた。彼らの存在が別世界の物語であり、素性を知っていることは内緒にしている。話をしたところでややこしくなるだろうし、信じてもらえない可能性が高い。それで彼らとの関係性に歪が生まれるぐらいならば、巻き込まれた不運な一般人として振る舞った方がよい。そう考えたのだ。
「なあキリカ。一つ聞いてもいいか」
「え、なに?」
「初恋の人がバッツ似ってマジな話?」
ジタンからの質問にあやうくキリカは変な声をあげるところであった。彼を振り向くと、ニヤニヤと笑っている。どうやら今の反応で勘付いたようだ。次第に彼女の頬が赤く染まっていく。もはやそれを誤魔化す術も無く、目を泳がせていた。
「どっ、どうしてそれを」
「あーやっぱマジなんだ。いや、この間バッツが言ってたんだよ。それでホントかなーと思って」
にわかには信じ難い話だったと言う。
だが、あの時は酒に酔っていた発言だ。まさかそれを真に受けて、しかも覚えているとは思いもよらない。
キリカは火照った顔を隠すように膝にうずめ、溜息をつく。それから顔を少しだけ上げてぽつりと話始めた。
「初恋って言っても、すごく前の話よ。…ほんとに小っちゃい頃。物心ついたぐらいかな」
「女の子の初恋ってやっぱ早いんだな。きっかけとかは?」
「覚えてないわ。ただ、カッコイイなあって」
「へえ~」
含み笑い、からかわれるのかと思いきやそれ以上詮索はしてこなかった。そうだ、女性に優しいジタンならばむやみやたらに笑い飛ばしたりもしないだろう。これはこれでキリカにとって救いだった。
しかし、今思い返してみれば無謀な恋だった。
小さな女の子に芽生えた"好き"という感情。その想いはブラウン管の向こうに届くはずもなく、ただ見つめているだけの日々。女の子は年月を重ねていき、やがて初恋の相手の歳を越えた。その時ばかりはなんとも言い難い感情を覚えたものだ。だが、相手がどの次元の人物だとしても初恋は初恋。キリカにとっては大事な思い出だ。
二十数年間、生きてきた間に対等に付き合える恋も経験はしてきたが、どれも実らずに終わりを迎えた。
回想を踏まえながら掻い摘んでジタンに説明をした。勿論、次元が違うなどとは話していない。
キリカの話を真剣な面持ちで聞いていたジタンはふと疑問を口にした。
「なんかさ、話聞いてる限りだと……バッツが初恋の人って感じなんだけど」
「へ!?い、いやいやいや!あくまで、あくまで似てるってだけ!」
「そんなに否定すると疑いは益々濃くなる一方だぜ?」
「怪しくない。怪しくないってば」
これは鎌をかければ本音が聞き出せそうだ。道中、しばらくは退屈しなくて済みそうだとジタンの口元が緩む。今日はこれ以上詮索しても白状しないだろう。また別の日に仕掛けることにして、彼は「そろそろ飯が出来てる頃だな」と自ら話を切り上げたのであった。