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キミに嘘をついた 11
「なっ、何があったんだぁぁあ!?」
空が白んで明るくなった頃、パプワハウスへ戻る途中にリキッドはパプワとシンタローと合流。シンタローの横を歩くのは気まずいと感じながらも帰って来た。その矢先、現在進行形で起きている大惨事に悲鳴を上げずにはいられなかった。
右を見ても左を見ても筋肉質な裸の男たち。自分は元上司と腹を割って話し合いをしていたというのに、我が家では一体何が起きていたのかさっぱりだ。気だるそうに体を起こした気遣いの紳士は事の顛末をリキッドに話し始める。
どうやら夜通し麻雀をしていたそうで、キンタローの一人勝ちが続いた為に彼以外全員脱ぐハメになったと。ここは新宿二丁目のサウナかと意識を飛ばしかけたが、この地獄絵図の中に紅一点の霧華が居たとなればそうもしていられない。
慌てて彼女の姿を探し、むさ苦しい男たちの周りにはいないとわかる。ふと台所から良い匂いが漂ってきた。台所でフリルエプロンを着けた霧華が卵を焼いている。出来上がった卵焼きを皿に寄せて、リキッドの方を向いて微笑んだ。
「お帰りなさい、リキッドさん」
その恰好が、動作があまりに自然すぎたのでリキッドは呆気に取られていた。昨日の出来事など微塵も感じさせない。妻の待つ家に仕事から帰って来た夫のような気分に浸っていたリキッドの背中がゲシッとシンタローに蹴られた。
「おらっ、何ボサっとしてんだよ!さっさと朝めし作っちまわねえとオッサン達が騒ぎ出すぞ」
「リッちゃんメシー!肉食わせろー!」
「今すぐ作らせて頂きまっす!」
今さっき一緒に帰って来た元上司のハーレムが食卓について、酔っぱらいの如く騒いでいた。リキッドは駆け足で台所に立ち、朝食の食材をリズミカルに刻んでいく。隣では卵焼きを焼いている霧華。こうして二人で台所に立つことは珍しくないのだが、今日は特別感が増していた。
「ねーちゃーん。洗濯板ってどこにあんの?」
大きな竹のタライを抱えたアオイが入口から顔を出した。タライの中には洗濯物。毎日交代で洗濯をしているので洗濯物が溜まることが最近ない。
アオイの質問にシンタローが食卓で茶を啜りながら「外の物干し竿んトコにあるぞ」と答えた。
「石鹸は網に入って竿に引っ掛けてある」
「……なんで我が家の物がどこにあるか把握してんすか」
外でアオイが洗濯に手間取っている声が聞こえ、シンタローは重い腰を上げて外へ出る。
案外面倒見が良いんだなとキャベツの千切りをこしらえていく。それを終えると肉じゃがの肉を油を敷いた鍋で炒める。良い香りが男達の空腹を刺激した。
鍋に野菜を投入し、焦げ付かないように木べらを動かす。ちら、ちらと隣を盗み見しながら。
先ほど「炒飯が食べたい」というマーカーの突然のリクエストを承諾した霧華はご飯をフライパンで炒めていた。手首を上手く使い、均等に混ざり合う食材。彩りのある炒飯、傍から見ただけでも美味しそうだ。
炒飯を皿に盛り付けた霧華がリキッドの方を向く。
「リキッドさん」
「えっ?は、はいっ!」
「お鍋、焦げてます」
彼女に見惚れていたのがバレたのかと一瞬焦ったリキッドは手元に視線を戻して、叫んだ。焦げないようにと気を配っていたにも関わらず、手がすっかり止まっていた為に鍋の底に肉が張り付いてしまっている。被害を最小限にと慌てて木べらでこそぎ、もういいかと水と調味料をぶち込んだ。
「はは……こうゆーのってホント焦げやすくて困るんすよねー」
「うん。でも少しくらいなら大丈夫よ。洗うのはちょっと大変だけど」
「焦げた鍋とか洗うの慣れてっからヘーキっすよ」
昨日とは違った空気。和やかな雰囲気がいつもの日常を思わせた。後ろではオッサン達がガヤガヤ騒いではいるが、内容はともあれ霧華と言葉を交わしたことが妙に嬉しく感じたリキッドはふにゃりと笑った。
「へへ……なんか、話すの久しぶりみたいな感じだ。……たった半日だけだってのに」
「私も。あの、リキッドさんに謝らなきゃいけないこと、あるの。私、リキッドさん達がガンマ団の関係者だって……気付いてた。でも、ずっと黙ってた。ここには少しの間しか居なかったけど、とても居心地が良くて安心できる場所。まるで自分の家みたいに思えた。……本当のことを話したら、この関係が崩れてしまうんじゃないか。居場所が無くなってしまうんじゃないか…怖くて、言えなかった」
「……俺も同じっすよ。霧華さんの故郷が無くなった原因、もしかしたらって……俺がガンマ団の元特戦部隊だって知ったら」
居心地の良い空間が一瞬にして壊れてしまう。そう恐れるあまりに気付かないフリをしていた。恐怖に慄いた表情を、視線を向けられることに耐えられないと思ったから。
霧華は静かに首を横へ振る。
「きっと、お互い様よ。……それに、私リキッドさんが優しい人だってわかってるつもり。私の事大切に考えてくれて、守ってくれようとした。昨日、エグチくんから聞いたの。『霧華さんを悲しませる奴は許さない』って。……本当に心の底から優しい人なんだって」
「あ、あれは……その、」
昨日の昼、ガンマ団総帥を足蹴にして感情のままに相手の胸倉を掴み上げた。その後、いいように殴られボコボコにされてしまったが。
貴女を守りたかった。そう言えば聞こえはいいだろう。
今までずっと後ろめたさが消えずにいた。今からでもそれを拭い去ることはできるだろうか。リキッドは赤らんだ顔を上げて「霧華さん」と口を開くが、絶妙なタイミングでリキッドの頭に泡立った石鹸がクリーンヒットする。たかが石鹸、されど石鹸。ぶつかると痛いことには変わりない。
後頭部を押さえながら涙目で後ろを振り返った。洗濯板を脇に抱えたシンタローが入口の前で仁王立ちしている。
「いってぇーな!何するんすか!?」
「なんかいい雰囲気だったからムカついた。文句あるか」
「あるに決まってんでしょーが!」
真顔でさらりと言うシンタローに怒りが抑えられそうにない。何よりも大事な場面を邪魔されたのだ。相手に睨みを効かせてみるも全く効果がない。むしろ睨み返されて怯みそうになる。
「あの、リキッドさん。……シンタローさん。私の話、聞いてもらえますか」
二人が取っ組み合いを始める前にと霧華は話を切り出した。改まった物言いにリキッドとシンタローは少し緊張した面持ちで彼女と向き合う。
どちらの道を選ぼうと彼女を想う気持ちは変わらない。
彼女の答えを笑顔で受け入れようとリキッドは決意した。
「なっ、何があったんだぁぁあ!?」
空が白んで明るくなった頃、パプワハウスへ戻る途中にリキッドはパプワとシンタローと合流。シンタローの横を歩くのは気まずいと感じながらも帰って来た。その矢先、現在進行形で起きている大惨事に悲鳴を上げずにはいられなかった。
右を見ても左を見ても筋肉質な裸の男たち。自分は元上司と腹を割って話し合いをしていたというのに、我が家では一体何が起きていたのかさっぱりだ。気だるそうに体を起こした気遣いの紳士は事の顛末をリキッドに話し始める。
どうやら夜通し麻雀をしていたそうで、キンタローの一人勝ちが続いた為に彼以外全員脱ぐハメになったと。ここは新宿二丁目のサウナかと意識を飛ばしかけたが、この地獄絵図の中に紅一点の霧華が居たとなればそうもしていられない。
慌てて彼女の姿を探し、むさ苦しい男たちの周りにはいないとわかる。ふと台所から良い匂いが漂ってきた。台所でフリルエプロンを着けた霧華が卵を焼いている。出来上がった卵焼きを皿に寄せて、リキッドの方を向いて微笑んだ。
「お帰りなさい、リキッドさん」
その恰好が、動作があまりに自然すぎたのでリキッドは呆気に取られていた。昨日の出来事など微塵も感じさせない。妻の待つ家に仕事から帰って来た夫のような気分に浸っていたリキッドの背中がゲシッとシンタローに蹴られた。
「おらっ、何ボサっとしてんだよ!さっさと朝めし作っちまわねえとオッサン達が騒ぎ出すぞ」
「リッちゃんメシー!肉食わせろー!」
「今すぐ作らせて頂きまっす!」
今さっき一緒に帰って来た元上司のハーレムが食卓について、酔っぱらいの如く騒いでいた。リキッドは駆け足で台所に立ち、朝食の食材をリズミカルに刻んでいく。隣では卵焼きを焼いている霧華。こうして二人で台所に立つことは珍しくないのだが、今日は特別感が増していた。
「ねーちゃーん。洗濯板ってどこにあんの?」
大きな竹のタライを抱えたアオイが入口から顔を出した。タライの中には洗濯物。毎日交代で洗濯をしているので洗濯物が溜まることが最近ない。
アオイの質問にシンタローが食卓で茶を啜りながら「外の物干し竿んトコにあるぞ」と答えた。
「石鹸は網に入って竿に引っ掛けてある」
「……なんで我が家の物がどこにあるか把握してんすか」
外でアオイが洗濯に手間取っている声が聞こえ、シンタローは重い腰を上げて外へ出る。
案外面倒見が良いんだなとキャベツの千切りをこしらえていく。それを終えると肉じゃがの肉を油を敷いた鍋で炒める。良い香りが男達の空腹を刺激した。
鍋に野菜を投入し、焦げ付かないように木べらを動かす。ちら、ちらと隣を盗み見しながら。
先ほど「炒飯が食べたい」というマーカーの突然のリクエストを承諾した霧華はご飯をフライパンで炒めていた。手首を上手く使い、均等に混ざり合う食材。彩りのある炒飯、傍から見ただけでも美味しそうだ。
炒飯を皿に盛り付けた霧華がリキッドの方を向く。
「リキッドさん」
「えっ?は、はいっ!」
「お鍋、焦げてます」
彼女に見惚れていたのがバレたのかと一瞬焦ったリキッドは手元に視線を戻して、叫んだ。焦げないようにと気を配っていたにも関わらず、手がすっかり止まっていた為に鍋の底に肉が張り付いてしまっている。被害を最小限にと慌てて木べらでこそぎ、もういいかと水と調味料をぶち込んだ。
「はは……こうゆーのってホント焦げやすくて困るんすよねー」
「うん。でも少しくらいなら大丈夫よ。洗うのはちょっと大変だけど」
「焦げた鍋とか洗うの慣れてっからヘーキっすよ」
昨日とは違った空気。和やかな雰囲気がいつもの日常を思わせた。後ろではオッサン達がガヤガヤ騒いではいるが、内容はともあれ霧華と言葉を交わしたことが妙に嬉しく感じたリキッドはふにゃりと笑った。
「へへ……なんか、話すの久しぶりみたいな感じだ。……たった半日だけだってのに」
「私も。あの、リキッドさんに謝らなきゃいけないこと、あるの。私、リキッドさん達がガンマ団の関係者だって……気付いてた。でも、ずっと黙ってた。ここには少しの間しか居なかったけど、とても居心地が良くて安心できる場所。まるで自分の家みたいに思えた。……本当のことを話したら、この関係が崩れてしまうんじゃないか。居場所が無くなってしまうんじゃないか…怖くて、言えなかった」
「……俺も同じっすよ。霧華さんの故郷が無くなった原因、もしかしたらって……俺がガンマ団の元特戦部隊だって知ったら」
居心地の良い空間が一瞬にして壊れてしまう。そう恐れるあまりに気付かないフリをしていた。恐怖に慄いた表情を、視線を向けられることに耐えられないと思ったから。
霧華は静かに首を横へ振る。
「きっと、お互い様よ。……それに、私リキッドさんが優しい人だってわかってるつもり。私の事大切に考えてくれて、守ってくれようとした。昨日、エグチくんから聞いたの。『霧華さんを悲しませる奴は許さない』って。……本当に心の底から優しい人なんだって」
「あ、あれは……その、」
昨日の昼、ガンマ団総帥を足蹴にして感情のままに相手の胸倉を掴み上げた。その後、いいように殴られボコボコにされてしまったが。
貴女を守りたかった。そう言えば聞こえはいいだろう。
今までずっと後ろめたさが消えずにいた。今からでもそれを拭い去ることはできるだろうか。リキッドは赤らんだ顔を上げて「霧華さん」と口を開くが、絶妙なタイミングでリキッドの頭に泡立った石鹸がクリーンヒットする。たかが石鹸、されど石鹸。ぶつかると痛いことには変わりない。
後頭部を押さえながら涙目で後ろを振り返った。洗濯板を脇に抱えたシンタローが入口の前で仁王立ちしている。
「いってぇーな!何するんすか!?」
「なんかいい雰囲気だったからムカついた。文句あるか」
「あるに決まってんでしょーが!」
真顔でさらりと言うシンタローに怒りが抑えられそうにない。何よりも大事な場面を邪魔されたのだ。相手に睨みを効かせてみるも全く効果がない。むしろ睨み返されて怯みそうになる。
「あの、リキッドさん。……シンタローさん。私の話、聞いてもらえますか」
二人が取っ組み合いを始める前にと霧華は話を切り出した。改まった物言いにリキッドとシンタローは少し緊張した面持ちで彼女と向き合う。
どちらの道を選ぼうと彼女を想う気持ちは変わらない。
彼女の答えを笑顔で受け入れようとリキッドは決意した。