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キミに嘘をついた 10
「家政夫、これは?」
大皿に山と盛り付けられた唐揚げ。カラッと揚げたてでジューシーな肉汁。実に美味しそうではあるが育ち盛りのチミッ子達には大変不評のようだ。
生気がすっかり抜けてしまったリキッドから「本日の晩御飯です」と蚊の鳴く声で返ってくるものだから、ロタローはついに不満を爆発させた。
「いい加減にしなよ!夕飯は手抜きだし、まだ帰ってこない霧華さんを探しに行かないし!もう日が暮れて真っ暗なのに心配じゃないの?!」
「……心配に決まってんだろ」
「だったら何で行動しないんだよ!バッカじゃないの。何か後ろめたい事でもあるわけ?」
ロタローの言い分は尤もだ。行動を起こさない自分に腹を立てている。だが、常について回るのは昼間の霧華の表情。リキッドに向けられた目は怯えていた。
彼女が故郷を失った事件に少なからず関わっているんだろうと、リキッドは勘付いていた。でも、もしかしたら違うかもしれない。しかしそんな淡い希望は泡沫となって消えた。
今更どんな顔をして話せばいいのかわからない。思考が空回りする一方で、玄関の戸をノックする音にやる気のない声で応答した。
「よお」
戸を開けたリキッドがフリーズ、その後に悲鳴を上げて台所周辺を駆けまわった。鍋という鍋を総動員させて手早く料理を作り上げていき、食卓に豪華なディナーがあっという間に並んだ。
そこでようやく正気の沙汰に戻ったリキッドはエプロンを脱ぎながら「こ、こんな時間に何の御用ですかっ」と来客者に尋ねた。
「……てめぇ人の顔見て叫ぶんじゃねーっつの」
玄関にガンマ団総帥が仁王立ちしていたらそりゃ誰でも驚くのではと思った霧華は内心にそれを留めておいた。シンタローは勝手知るハウスの中へと入っていく。
霧華は中にいるリキッド達に「ただいま」と遠慮がちに声をかけた。
「霧華さん!もー帰りが遅いから心配したんだよ!」
「ごめんね。……さっきそこであの人に会ったから、送ってもらったの」
「そっか。リキッドよりも頼りになる人だね。…あれ、そっちの人は?」
ぐさりとリキッドの胸に見えない言葉の矢が刺さる。食卓についていたシンタローからの「ダシ用のニボシは頭だけじゃなく腹ワタも取れよ」と味噌汁にダメ出しでさらにダメージが倍。
霧華の隣にいたアオイを見上げ、ロタローが首を傾げた。
「ロタローくん、こちら私の弟のアオイ」
「初めまして。姉がお世話になっています」
ロタローが記憶を失っており、自分の生い立ちや兄であるシンタローのこともキレイさっぱり忘れているという事は事前にアオイにも知らされていた。
変わってロタローは霧華とアオイを交互に見比べて、素っ頓狂な声をあげた。
「ええっ!だって、霧華さんの弟僕と同じくらいの歳だって……どう見ても年上イケメンだよ!」
「……四年前、生き別れになったの。当時はロタローくんみたいにカワイイ弟だったのよ。今はこんなに背も伸びて頼もしくなっちゃって」
「へえー…じゃあ、将来は僕も超美青年になりそうだね!」
ニコニコと悪意のない笑顔でロタローはそう言い切った。成る程、自分を褒め上げているような所は似ているとアオイは合点。容姿は似ていないが、性格は兄のように俺様のようだ。
「おら、玄関に突っ立ってないでおめーらも座れよ」
何故か客人であるシンタローに促され、食卓に円を描くように腰を下ろす。豪華な夕飯を食べながらパプワとロタローが和気藹々と話を弾ませる。時折、そこにアオイも加わって和やかなムードにもなりかけていた。
パプワハウスに戻ってきてから一度も会話をしていないリキッドと霧華。互いに目が合いそうになると、どちらかともなく目をついと逸らした。一部では気まずい雰囲気を醸し出している。
「リンゴ菓子のビローグ・ス・ヤーブロカミとポム・デーヴとアプフェル・シュトルーデルだよ。さあお食べ」
ロタローがリンゴのお菓子が大好きと言った直後にシンタローは高級なリンゴのデザートを二人の前へ並べた。語尾にハートマークが見えるほどの溺愛ぶり。ことごとくダメ出しをしてくるこの姑に「わ、私に何かご不満でも…」と控えめに尋ねてくるリキッドに「あーあ、たっぷりとな」と容赦なく返してきた。
子どもたちがデザートに夢中になっている傍ら、またも玄関をノックする音。「今日は客が多すぎんだろ」とうんざりしながらリキッドは玄関を開けた。
目つきの鋭い、シンタローに似た顔立ちをした金髪碧眼の男が外に立っている。スーツのジャケットを脱いだクールビズ姿だが、少々暑そうに見える。
「夜分に失礼…。シンタローがこちらに伺っているはずだが。これはつまらないものだが、皆さんで」
彼が差し出した包みには人形焼きと書かれている。それを見たロタローは「人形焼きだー!」と喜んでいた。
お前が忘れたお土産だ、人様のお宅に伺う時はなど軽く言い合いをした後にキンタローは霧華の方を見た。威圧的な視線に体が竦みそうになる。一歩、また一歩と距離を詰めたキンタローは彼女の前で頭を軽く下げた。
「昼間は失礼した。突然の事で驚かせてしまったようだ……シンタローもロクに説明しようとしなかったようだし」
「俺が悪いのかよ」
「と、とんでもない……こちらこそ、うちのアオイがお世話になったと聞いています」
「実に優秀な弟さんですよ。その足の速さと身のこなしを活かして活躍されています」
ぺこり、ぺこりと互いに頭を下げ合う様を見ていたパプワが両手に扇子を広げる。
「まるで保護者面談だナ」
「わう」
今夜は本当に来客の多い日であった。野獣のような乙女が乱入し、青の一族によるダブル眼魔砲が放たれたり、狂気の獅子舞がリキッドを連れ去ったりと慌ただしい夜。パプワはシンタローと共に散歩へ出かけてしまい、残されたキンタローと特戦部隊の四人で雀卓を囲む。
キンタローが「ロン、国士無双」と順調に一人勝ちする中、何故か脱衣麻雀への流れになっていたので危険が及ばないようにとアオイは姉を「姉ちゃん、ちょっと外で話が」と外へ背中を押して追いやる。
*
「うわーすっげえ……星がキレイに見える。あっ、あの星見たことある!えーとなんだっけ…確か」
くっきりと見える星を見えない線で繋ぎ、見覚えのある星座を作り出す。名前が思い出せそうで出てこない。星空を見上げる機会自体久しぶりだった。この四年間、慌ただしく過ごしてきた。遠征に行くことも多々、その先々で行方不明の姉を探していたのだから。
「んー……思い出せない。なんだっけ、なんとかクロス…」
「南十字星のこと?」
「あ、それそれ!一番目立つやつ。姉ちゃん、今見える星座全部わかる?」
「さすがに覚えてないわ。でも、これだけ見えると流れ星も見つけやすいのよ」
「ホント?あー……でももう願い事叶っちゃったしなあ。…次の願い事が見つかるまで、流れ星みませんよーに!」
「なにそれ。変なの」
アオイの不可思議な発言に笑みを零す霧華。姉の笑った顔を見たアオイの胸に温かい灯がともった。それがこそばゆいのか、くすぐったそうに口元を緩ませる。
「どうしたの?」
「ん、……姉ちゃんが元気そうでよかったな、って」
「ここの人達がみんなよくしてくれたから。私もすぐ馴染めたの。アオイもいい人に助けられて、よかった」
「うん。総帥、シンタローさんいい人だよ。ちょっと過保護な所あるけど…あと見た目怖いけど、実はいい人だから。ブラコン総帥とか呼ばれてるけど、すっごく優しい人だから!」
「アオイ。それ、ご本人の前で口にしないでね」
ガンマ団総帥は部下のアオイを気に入っているようなので、手痛い仕打ちをすることはないと思うが。それでもリスクは回避させたいと姉は弟の身を案じた。
「だから姉ちゃん、総帥を…ガンマ団の俺達を怖がらないで」
過去の惨劇はガンマ団とは関係ない。事実が明らかとなった今、何も怯えたり恨んだりする必要はない。ただ、後に残ったわだかまりを解くまでどれだけ時間を費やせばいいのか。
問題はいずれ時が解決する。しかし今回は躊躇していては間に合わない。自ら動かなければ。
この島に滞在可能な時間は残り十数時間。タイムリミットは刻一刻と迫っていた。
「家政夫、これは?」
大皿に山と盛り付けられた唐揚げ。カラッと揚げたてでジューシーな肉汁。実に美味しそうではあるが育ち盛りのチミッ子達には大変不評のようだ。
生気がすっかり抜けてしまったリキッドから「本日の晩御飯です」と蚊の鳴く声で返ってくるものだから、ロタローはついに不満を爆発させた。
「いい加減にしなよ!夕飯は手抜きだし、まだ帰ってこない霧華さんを探しに行かないし!もう日が暮れて真っ暗なのに心配じゃないの?!」
「……心配に決まってんだろ」
「だったら何で行動しないんだよ!バッカじゃないの。何か後ろめたい事でもあるわけ?」
ロタローの言い分は尤もだ。行動を起こさない自分に腹を立てている。だが、常について回るのは昼間の霧華の表情。リキッドに向けられた目は怯えていた。
彼女が故郷を失った事件に少なからず関わっているんだろうと、リキッドは勘付いていた。でも、もしかしたら違うかもしれない。しかしそんな淡い希望は泡沫となって消えた。
今更どんな顔をして話せばいいのかわからない。思考が空回りする一方で、玄関の戸をノックする音にやる気のない声で応答した。
「よお」
戸を開けたリキッドがフリーズ、その後に悲鳴を上げて台所周辺を駆けまわった。鍋という鍋を総動員させて手早く料理を作り上げていき、食卓に豪華なディナーがあっという間に並んだ。
そこでようやく正気の沙汰に戻ったリキッドはエプロンを脱ぎながら「こ、こんな時間に何の御用ですかっ」と来客者に尋ねた。
「……てめぇ人の顔見て叫ぶんじゃねーっつの」
玄関にガンマ団総帥が仁王立ちしていたらそりゃ誰でも驚くのではと思った霧華は内心にそれを留めておいた。シンタローは勝手知るハウスの中へと入っていく。
霧華は中にいるリキッド達に「ただいま」と遠慮がちに声をかけた。
「霧華さん!もー帰りが遅いから心配したんだよ!」
「ごめんね。……さっきそこであの人に会ったから、送ってもらったの」
「そっか。リキッドよりも頼りになる人だね。…あれ、そっちの人は?」
ぐさりとリキッドの胸に見えない言葉の矢が刺さる。食卓についていたシンタローからの「ダシ用のニボシは頭だけじゃなく腹ワタも取れよ」と味噌汁にダメ出しでさらにダメージが倍。
霧華の隣にいたアオイを見上げ、ロタローが首を傾げた。
「ロタローくん、こちら私の弟のアオイ」
「初めまして。姉がお世話になっています」
ロタローが記憶を失っており、自分の生い立ちや兄であるシンタローのこともキレイさっぱり忘れているという事は事前にアオイにも知らされていた。
変わってロタローは霧華とアオイを交互に見比べて、素っ頓狂な声をあげた。
「ええっ!だって、霧華さんの弟僕と同じくらいの歳だって……どう見ても年上イケメンだよ!」
「……四年前、生き別れになったの。当時はロタローくんみたいにカワイイ弟だったのよ。今はこんなに背も伸びて頼もしくなっちゃって」
「へえー…じゃあ、将来は僕も超美青年になりそうだね!」
ニコニコと悪意のない笑顔でロタローはそう言い切った。成る程、自分を褒め上げているような所は似ているとアオイは合点。容姿は似ていないが、性格は兄のように俺様のようだ。
「おら、玄関に突っ立ってないでおめーらも座れよ」
何故か客人であるシンタローに促され、食卓に円を描くように腰を下ろす。豪華な夕飯を食べながらパプワとロタローが和気藹々と話を弾ませる。時折、そこにアオイも加わって和やかなムードにもなりかけていた。
パプワハウスに戻ってきてから一度も会話をしていないリキッドと霧華。互いに目が合いそうになると、どちらかともなく目をついと逸らした。一部では気まずい雰囲気を醸し出している。
「リンゴ菓子のビローグ・ス・ヤーブロカミとポム・デーヴとアプフェル・シュトルーデルだよ。さあお食べ」
ロタローがリンゴのお菓子が大好きと言った直後にシンタローは高級なリンゴのデザートを二人の前へ並べた。語尾にハートマークが見えるほどの溺愛ぶり。ことごとくダメ出しをしてくるこの姑に「わ、私に何かご不満でも…」と控えめに尋ねてくるリキッドに「あーあ、たっぷりとな」と容赦なく返してきた。
子どもたちがデザートに夢中になっている傍ら、またも玄関をノックする音。「今日は客が多すぎんだろ」とうんざりしながらリキッドは玄関を開けた。
目つきの鋭い、シンタローに似た顔立ちをした金髪碧眼の男が外に立っている。スーツのジャケットを脱いだクールビズ姿だが、少々暑そうに見える。
「夜分に失礼…。シンタローがこちらに伺っているはずだが。これはつまらないものだが、皆さんで」
彼が差し出した包みには人形焼きと書かれている。それを見たロタローは「人形焼きだー!」と喜んでいた。
お前が忘れたお土産だ、人様のお宅に伺う時はなど軽く言い合いをした後にキンタローは霧華の方を見た。威圧的な視線に体が竦みそうになる。一歩、また一歩と距離を詰めたキンタローは彼女の前で頭を軽く下げた。
「昼間は失礼した。突然の事で驚かせてしまったようだ……シンタローもロクに説明しようとしなかったようだし」
「俺が悪いのかよ」
「と、とんでもない……こちらこそ、うちのアオイがお世話になったと聞いています」
「実に優秀な弟さんですよ。その足の速さと身のこなしを活かして活躍されています」
ぺこり、ぺこりと互いに頭を下げ合う様を見ていたパプワが両手に扇子を広げる。
「まるで保護者面談だナ」
「わう」
今夜は本当に来客の多い日であった。野獣のような乙女が乱入し、青の一族によるダブル眼魔砲が放たれたり、狂気の獅子舞がリキッドを連れ去ったりと慌ただしい夜。パプワはシンタローと共に散歩へ出かけてしまい、残されたキンタローと特戦部隊の四人で雀卓を囲む。
キンタローが「ロン、国士無双」と順調に一人勝ちする中、何故か脱衣麻雀への流れになっていたので危険が及ばないようにとアオイは姉を「姉ちゃん、ちょっと外で話が」と外へ背中を押して追いやる。
*
「うわーすっげえ……星がキレイに見える。あっ、あの星見たことある!えーとなんだっけ…確か」
くっきりと見える星を見えない線で繋ぎ、見覚えのある星座を作り出す。名前が思い出せそうで出てこない。星空を見上げる機会自体久しぶりだった。この四年間、慌ただしく過ごしてきた。遠征に行くことも多々、その先々で行方不明の姉を探していたのだから。
「んー……思い出せない。なんだっけ、なんとかクロス…」
「南十字星のこと?」
「あ、それそれ!一番目立つやつ。姉ちゃん、今見える星座全部わかる?」
「さすがに覚えてないわ。でも、これだけ見えると流れ星も見つけやすいのよ」
「ホント?あー……でももう願い事叶っちゃったしなあ。…次の願い事が見つかるまで、流れ星みませんよーに!」
「なにそれ。変なの」
アオイの不可思議な発言に笑みを零す霧華。姉の笑った顔を見たアオイの胸に温かい灯がともった。それがこそばゆいのか、くすぐったそうに口元を緩ませる。
「どうしたの?」
「ん、……姉ちゃんが元気そうでよかったな、って」
「ここの人達がみんなよくしてくれたから。私もすぐ馴染めたの。アオイもいい人に助けられて、よかった」
「うん。総帥、シンタローさんいい人だよ。ちょっと過保護な所あるけど…あと見た目怖いけど、実はいい人だから。ブラコン総帥とか呼ばれてるけど、すっごく優しい人だから!」
「アオイ。それ、ご本人の前で口にしないでね」
ガンマ団総帥は部下のアオイを気に入っているようなので、手痛い仕打ちをすることはないと思うが。それでもリスクは回避させたいと姉は弟の身を案じた。
「だから姉ちゃん、総帥を…ガンマ団の俺達を怖がらないで」
過去の惨劇はガンマ団とは関係ない。事実が明らかとなった今、何も怯えたり恨んだりする必要はない。ただ、後に残ったわだかまりを解くまでどれだけ時間を費やせばいいのか。
問題はいずれ時が解決する。しかし今回は躊躇していては間に合わない。自ら動かなければ。
この島に滞在可能な時間は残り十数時間。タイムリミットは刻一刻と迫っていた。