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キミに嘘をついた 07
艦は安定した航行を続けていた。昼と夜で操縦士が交代し、日夜構わず目的地へ進めている。
休憩室にいた先ほど交代したばかりの操縦士が大きな欠伸をした。アオイと話していた彼は「もう寝る」と目尻に涙を浮かべながら休憩室を後にした。遅れて「お疲れさまでした」と声をかけるが、部屋はしんと静まり返っていた。
誰もいなくなった休憩室。明日の午前中には目的地に着く。この艦を指揮する総帥によれば何が起こるかわからない島だと話していた。アオイもそろそろ休まないといけないのはわかっている。だが、神経が張り詰めて睡魔を寄せ付けなかった。この感覚はあの時とよく似ている。
革で誂えた二つ折りのカードケース。中には団員証と数年前の自分と姉が写った写真が入っている。四年前の惨事で奇跡的に助かった際に身につけていた財布に入っていた。元は家族写真であったものをカードケースサイズに切り抜いた。そのために愛用のテディベアが顔半分しか写っていない。
姉ちゃん。呟いたアオイの声に応えは無く、部屋の静けさに吸い込まれていく。
ふと休憩室のドアがすっと開いたので、そちらを向くと深紅の軍服を纏った総帥が「まだ休んでないのか」と声をかけてきた。
アオイは慌てて起立し敬礼をするも、シンタローは気にするなと砕けた表情で隣の椅子に腰掛けた。
「眠れないのか」
「……はい」
シンタローは彼の手元にある写真に目を留めた。以前にも見せてもらったことがある。四年前に生き別れたアオイの姉。髪や目の色、顔立ちもよく似ていた。陽炎の町の惨劇からガンマ団に所属し、任務の合間を縫って姉を探していることをシンタローは知っている。
月日は流れ、消息がわからぬまま四年が経った。
「今朝、懐かしい夢見たんです。……そのせいか、なんだか眠れなくて」
「…アオイの姉さん、か」
アオイは眉尻を下げて頷いた。小さな写真を見る悲し気な目。それにシンタローは居た堪れない気持ちになる。
初めて会った時はまだ幼い顔立ちが残る少年だったが、四年の月日で凛々しい青年に成長を遂げた。運動神経はいい方だと最初に聞いていたが元来の才能が開花し、飛躍的に活躍を見せてきた。総帥直々に稽古を付ける事も多く、武術はお手の物。
根は心優しく、まさに弱きを助け強きを挫く代名詞として今に至る。
「オレ、姉さんが何処かで生きてるって信じてます。…昔から家族に何かある時、妙にざわつくんです。胸騒ぎというか……あの日もそうでした」
あの日、アオイは姉が出かける朝に胸騒ぎを感じていた。だが、これを何と言って良いかわからず。伝えたとしても気のせいで済まされるだろう。だから、出かける間際に「気をつけて」としか言えなかった。
俯き、目を伏せる姿がひどく悲しげにシンタローに映る。
「……俺があの時、あいつらに逃がす隙さえ与えなきゃ……あの町は、お前の姉ちゃんは」
「シンタローさんのせいじゃありません!」
「アオイ、」
「シンタローさんはオレの命の恩人なんです。それに、信じていなきゃ何も叶わないって教えてくれたのは貴方ですから。だから、オレは姉ちゃんが生きてるって信じ続けます」
真っ直ぐにシンタローを捉える。その目に躊躇いや迷いはみられない。
強く逞しく成長した彼の姿を一日も早く見せてやりたいものだ。シンタローはアオイの頭をくしゃりと撫でて、ニッと笑ってみせた。
「そーだな。…俺もお前の姉ちゃんが生きてて、また会えるのを信じる」
「ありがとうございます、シンタロー総帥!…総帥の弟さんも元気にしているといいですね」
「ん、そーだな…まあ、あの島には色々居るが……あいつが居りゃ、大丈夫だろ」
憧憬を描くシンタローは目を柔らかく細めた。古い友人を思うような、そんな眼差しをしていた。
ガンマ団総帥と団員を乗せた戦闘艦が第二のパプワ島に到着するまで三時間を切った。
艦は安定した航行を続けていた。昼と夜で操縦士が交代し、日夜構わず目的地へ進めている。
休憩室にいた先ほど交代したばかりの操縦士が大きな欠伸をした。アオイと話していた彼は「もう寝る」と目尻に涙を浮かべながら休憩室を後にした。遅れて「お疲れさまでした」と声をかけるが、部屋はしんと静まり返っていた。
誰もいなくなった休憩室。明日の午前中には目的地に着く。この艦を指揮する総帥によれば何が起こるかわからない島だと話していた。アオイもそろそろ休まないといけないのはわかっている。だが、神経が張り詰めて睡魔を寄せ付けなかった。この感覚はあの時とよく似ている。
革で誂えた二つ折りのカードケース。中には団員証と数年前の自分と姉が写った写真が入っている。四年前の惨事で奇跡的に助かった際に身につけていた財布に入っていた。元は家族写真であったものをカードケースサイズに切り抜いた。そのために愛用のテディベアが顔半分しか写っていない。
姉ちゃん。呟いたアオイの声に応えは無く、部屋の静けさに吸い込まれていく。
ふと休憩室のドアがすっと開いたので、そちらを向くと深紅の軍服を纏った総帥が「まだ休んでないのか」と声をかけてきた。
アオイは慌てて起立し敬礼をするも、シンタローは気にするなと砕けた表情で隣の椅子に腰掛けた。
「眠れないのか」
「……はい」
シンタローは彼の手元にある写真に目を留めた。以前にも見せてもらったことがある。四年前に生き別れたアオイの姉。髪や目の色、顔立ちもよく似ていた。陽炎の町の惨劇からガンマ団に所属し、任務の合間を縫って姉を探していることをシンタローは知っている。
月日は流れ、消息がわからぬまま四年が経った。
「今朝、懐かしい夢見たんです。……そのせいか、なんだか眠れなくて」
「…アオイの姉さん、か」
アオイは眉尻を下げて頷いた。小さな写真を見る悲し気な目。それにシンタローは居た堪れない気持ちになる。
初めて会った時はまだ幼い顔立ちが残る少年だったが、四年の月日で凛々しい青年に成長を遂げた。運動神経はいい方だと最初に聞いていたが元来の才能が開花し、飛躍的に活躍を見せてきた。総帥直々に稽古を付ける事も多く、武術はお手の物。
根は心優しく、まさに弱きを助け強きを挫く代名詞として今に至る。
「オレ、姉さんが何処かで生きてるって信じてます。…昔から家族に何かある時、妙にざわつくんです。胸騒ぎというか……あの日もそうでした」
あの日、アオイは姉が出かける朝に胸騒ぎを感じていた。だが、これを何と言って良いかわからず。伝えたとしても気のせいで済まされるだろう。だから、出かける間際に「気をつけて」としか言えなかった。
俯き、目を伏せる姿がひどく悲しげにシンタローに映る。
「……俺があの時、あいつらに逃がす隙さえ与えなきゃ……あの町は、お前の姉ちゃんは」
「シンタローさんのせいじゃありません!」
「アオイ、」
「シンタローさんはオレの命の恩人なんです。それに、信じていなきゃ何も叶わないって教えてくれたのは貴方ですから。だから、オレは姉ちゃんが生きてるって信じ続けます」
真っ直ぐにシンタローを捉える。その目に躊躇いや迷いはみられない。
強く逞しく成長した彼の姿を一日も早く見せてやりたいものだ。シンタローはアオイの頭をくしゃりと撫でて、ニッと笑ってみせた。
「そーだな。…俺もお前の姉ちゃんが生きてて、また会えるのを信じる」
「ありがとうございます、シンタロー総帥!…総帥の弟さんも元気にしているといいですね」
「ん、そーだな…まあ、あの島には色々居るが……あいつが居りゃ、大丈夫だろ」
憧憬を描くシンタローは目を柔らかく細めた。古い友人を思うような、そんな眼差しをしていた。
ガンマ団総帥と団員を乗せた戦闘艦が第二のパプワ島に到着するまで三時間を切った。