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キミに嘘をついた 06
おねーちゃんテディの耳があ…。
どうしたの?……アオイがこの子の耳ばっかり触るから。
だって…ふわふわなんだもん。
そうね。でも、ぎゅって抱っこした方がもっとふわふわだよ?
うん。今度からそうする。
ほら、貸して。お姉ちゃんがテディを直してあげるから。
うん!
昔の夢を見た。
夢さながらに場面の転換が唐突に起こる。
懐かしい部屋から一歩踏み出せばそこはもう違う風景。
船着場の待合室で私は船を待っていた。
「ちょいとあんた、知ってるかい?二つ先の町が襲われたって話」
「ああ。ありゃあガンマ団の仕業に違いねえ。あんときにでっけー艦が空を飛んでいったのを見た人がいるしよ」
「ガンマ団といやあ……最近トップが変わったて聞くね」
「いくらトップが交代したって変わりゃしねえさ。奴らは殺し屋軍団さ」
どんなに耳を塞いでもはっきりと聞こえてくる話。
これ以上聞いていられなくなった私は待合室を飛び出した。
「姉ちゃん。もう出かけるの?早くない」
玄関先でヒールの低い靴を履いた女性がショルダーバッグを背負い直す。
「うん。早く行かないと母さん達が食べたがってるタルト売り切れちゃうし。それに手芸屋も見てきたいから」
「ん、そうだった。早くテディの新しい服作ってよ」
物心付いた時から手にしていたテディベア。誕生日プレゼントに買ってもらったのを朧気に覚えている。
お腹の辺りで抱えていたテディの頭が優しく撫でられた。
「良い生地見つかったらすぐに作ってあげるからね」
「まってるよー」
テディの片手を振る。我ながら棒読みすぎて、一緒に噴き出してしまう。
「それじゃ、母さん達の看病よろしくね」
「はーい。二人して風邪で寝込むなんて仲良すぎだよ。看病する方も大変だっての」
「文句言わないの。私達だって姉弟で熱出したことあるじゃない」
「まーそうだけどさ。……あ、姉ちゃん。あのさ」
「ん?」
玄関のドアを半分開けた状態で振り向く。
あの時の気持ちが上手く纏まらなくて、結果一言で済ませた。
「気をつけていってらっしゃい」
「うん。テディもアオイとお留守番よろしくね」
もう一度テディの頭をポンポンと撫でて、玄関を出て行く。
姉の姿を見たのはこれが最後だった。
「シンタロー総帥!前方に敵艦発見たい!」
「よーし。全速前進!…ったく逃げ足の速い奴らだぜ。ぜってーとっ捕まえて懲らしめてやる」
ガンマ団総帥の座は親世代から子世代へバトンを渡された。ただの殺し屋軍団ではなく、悪い奴ら限定と謳い新生ガンマ団を立ち上げた。
だが、当然快く思っていない輩はいる。今までの行いから恨みを買うことも少なくなく、それ故に嫌がらせを仕掛けてくる者達もいた。
現在追跡中の集団も新総帥を挑発するように煽ってきた。それを寸での所で取り逃がし、こうして追いかけている。
相手は低能な賊ながら逃げ足だけは速い。それにイライラしていたシンタローはさっさと片づけて本部へ戻りたい気持ちでいっぱいであった。
「……総帥、」
「どーした?」
部下の消え入りそうな呼びかけに振り向く。彼の視線はガラス張りの向こう側に釘付けられた。
町が炎に包まれていた。前方に黒煙が舞い上がり、多数の火柱が勢いよく燃え上がっていた。黒い瞳に橙色の炎がちらちらと揺れる。
一体誰の仕業かと考える間もなく、艦内に外部通信が入った。この艦が追跡していた賊の声明によりそれが明らかになる。ぎりと奥歯を噛みしめたシンタローはすかさず部下に命令を出した。
「どん太!着陸できる場所を探せ!おい、キンタロー聞こえっか、降りて生存者探すぞ!うっせーいいからおめーも降りろ!」
インカムの応答スイッチを切ると間もなく艦は着陸体勢に入り、町から程遠く離れた所に降り立ったシンタローは数人の部下を連れていく。生存者を見つけ、艦へ運び込むよう言い町へ向かわせた。
「陽炎の町。人口は百数人程度、温厚な気候に恵まれた土地。それもあってか暮らす人々も温和な性格で」
「能書きはいいから、おめーも生存者探してこい。おーーい!誰か生きてっかー!」
声を張り上げながら走っていく総帥の背を見送る。「陽炎の町、か」とキンタローが呟いた。
皮肉なものだ、よもや本当になってしまうとは。町のあちこちに現れている陽炎を見やり、自身も駆けだした。
生存者が見つかったという報告は一切入ってこない。無言のインカムを腹立たしく思いながら、辛うじて崩れ落ちる前の民家を見つけた。叫びながら辺りに目を走らせる。一点の場所へシンタローは目を留めた。柱が何本も折り重なって出来た空間に少年がいた。
「おい!大丈夫か!」
少年の元へ駆け寄ったシンタローは彼を救い出そうと状況を瞬時に見極める。体が完全に下敷きにはなっていない。引っ張り出せば難なく上手くいきそうだった。少年の手はテディベアの腕をしっかりと握りしめていた。余程大事なものなんだろう。ぼやぼやしている暇はない、苦しそうに呻き声を上げた少年を柱の下から引っ張り出した。テディベアを忘れずに少年の胸元へ落ちないように乗せる。
シンタローの弟と同い年くらいの少年はぐったりとしていた。辛うじて息はあるものの、このままでは危険だ。
その時、民家が支えきれなくなった総てを放棄したように崩れ落ちていく。瓦礫の下に埋もれる前に急いでシンタローはその場を離れた。
おねーちゃんテディの耳があ…。
どうしたの?……アオイがこの子の耳ばっかり触るから。
だって…ふわふわなんだもん。
そうね。でも、ぎゅって抱っこした方がもっとふわふわだよ?
うん。今度からそうする。
ほら、貸して。お姉ちゃんがテディを直してあげるから。
うん!
昔の夢を見た。
夢さながらに場面の転換が唐突に起こる。
懐かしい部屋から一歩踏み出せばそこはもう違う風景。
船着場の待合室で私は船を待っていた。
「ちょいとあんた、知ってるかい?二つ先の町が襲われたって話」
「ああ。ありゃあガンマ団の仕業に違いねえ。あんときにでっけー艦が空を飛んでいったのを見た人がいるしよ」
「ガンマ団といやあ……最近トップが変わったて聞くね」
「いくらトップが交代したって変わりゃしねえさ。奴らは殺し屋軍団さ」
どんなに耳を塞いでもはっきりと聞こえてくる話。
これ以上聞いていられなくなった私は待合室を飛び出した。
「姉ちゃん。もう出かけるの?早くない」
玄関先でヒールの低い靴を履いた女性がショルダーバッグを背負い直す。
「うん。早く行かないと母さん達が食べたがってるタルト売り切れちゃうし。それに手芸屋も見てきたいから」
「ん、そうだった。早くテディの新しい服作ってよ」
物心付いた時から手にしていたテディベア。誕生日プレゼントに買ってもらったのを朧気に覚えている。
お腹の辺りで抱えていたテディの頭が優しく撫でられた。
「良い生地見つかったらすぐに作ってあげるからね」
「まってるよー」
テディの片手を振る。我ながら棒読みすぎて、一緒に噴き出してしまう。
「それじゃ、母さん達の看病よろしくね」
「はーい。二人して風邪で寝込むなんて仲良すぎだよ。看病する方も大変だっての」
「文句言わないの。私達だって姉弟で熱出したことあるじゃない」
「まーそうだけどさ。……あ、姉ちゃん。あのさ」
「ん?」
玄関のドアを半分開けた状態で振り向く。
あの時の気持ちが上手く纏まらなくて、結果一言で済ませた。
「気をつけていってらっしゃい」
「うん。テディもアオイとお留守番よろしくね」
もう一度テディの頭をポンポンと撫でて、玄関を出て行く。
姉の姿を見たのはこれが最後だった。
「シンタロー総帥!前方に敵艦発見たい!」
「よーし。全速前進!…ったく逃げ足の速い奴らだぜ。ぜってーとっ捕まえて懲らしめてやる」
ガンマ団総帥の座は親世代から子世代へバトンを渡された。ただの殺し屋軍団ではなく、悪い奴ら限定と謳い新生ガンマ団を立ち上げた。
だが、当然快く思っていない輩はいる。今までの行いから恨みを買うことも少なくなく、それ故に嫌がらせを仕掛けてくる者達もいた。
現在追跡中の集団も新総帥を挑発するように煽ってきた。それを寸での所で取り逃がし、こうして追いかけている。
相手は低能な賊ながら逃げ足だけは速い。それにイライラしていたシンタローはさっさと片づけて本部へ戻りたい気持ちでいっぱいであった。
「……総帥、」
「どーした?」
部下の消え入りそうな呼びかけに振り向く。彼の視線はガラス張りの向こう側に釘付けられた。
町が炎に包まれていた。前方に黒煙が舞い上がり、多数の火柱が勢いよく燃え上がっていた。黒い瞳に橙色の炎がちらちらと揺れる。
一体誰の仕業かと考える間もなく、艦内に外部通信が入った。この艦が追跡していた賊の声明によりそれが明らかになる。ぎりと奥歯を噛みしめたシンタローはすかさず部下に命令を出した。
「どん太!着陸できる場所を探せ!おい、キンタロー聞こえっか、降りて生存者探すぞ!うっせーいいからおめーも降りろ!」
インカムの応答スイッチを切ると間もなく艦は着陸体勢に入り、町から程遠く離れた所に降り立ったシンタローは数人の部下を連れていく。生存者を見つけ、艦へ運び込むよう言い町へ向かわせた。
「陽炎の町。人口は百数人程度、温厚な気候に恵まれた土地。それもあってか暮らす人々も温和な性格で」
「能書きはいいから、おめーも生存者探してこい。おーーい!誰か生きてっかー!」
声を張り上げながら走っていく総帥の背を見送る。「陽炎の町、か」とキンタローが呟いた。
皮肉なものだ、よもや本当になってしまうとは。町のあちこちに現れている陽炎を見やり、自身も駆けだした。
生存者が見つかったという報告は一切入ってこない。無言のインカムを腹立たしく思いながら、辛うじて崩れ落ちる前の民家を見つけた。叫びながら辺りに目を走らせる。一点の場所へシンタローは目を留めた。柱が何本も折り重なって出来た空間に少年がいた。
「おい!大丈夫か!」
少年の元へ駆け寄ったシンタローは彼を救い出そうと状況を瞬時に見極める。体が完全に下敷きにはなっていない。引っ張り出せば難なく上手くいきそうだった。少年の手はテディベアの腕をしっかりと握りしめていた。余程大事なものなんだろう。ぼやぼやしている暇はない、苦しそうに呻き声を上げた少年を柱の下から引っ張り出した。テディベアを忘れずに少年の胸元へ落ちないように乗せる。
シンタローの弟と同い年くらいの少年はぐったりとしていた。辛うじて息はあるものの、このままでは危険だ。
その時、民家が支えきれなくなった総てを放棄したように崩れ落ちていく。瓦礫の下に埋もれる前に急いでシンタローはその場を離れた。