PAPUWA
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キミに嘘をついた 05
この島は日本から遠く離れた場所ではあるが、日本馴染みの行事が多々存在している。
雛祭りに端午の節句、七夕にクリスマス、バレンタインデーまであるというのだ。
ただ、名前は同じでも中身が少しずつ違うのは各国でよく見られる現象ではある。
来月は七夕があるぞとパプワが言った。
芦で編んだ手提げの籠を片手に霧華はパプワハウスへ足取り軽く向かっている。途中エグチくんとナカムラくんに出会い、パパの日孝行すると聞いて笑みを綻ばせた。
エグチくんが小さな前足を手提げ籠にかけて覗き込む。
「霧華さん、これなーに?」
「これはね、私がお世話になってる人へのプレゼント」
「そうなんだー。喜んでくれるといいね」
「うん」
これからプレゼントを買いに行くんだとスキップをする二匹の姿が何とも微笑ましい。
籠に収まる包み。喜ぶ顔が早くみたい。自然と霧華の足は家路を急いだ。
パプワハウスの外には物干し竿。真っ白な洗濯物が風にそよそよと揺られている。
家事がひと段落したようで外にリキッドの姿は見当たらない。
ハウスに足を踏み入れた霧華は室内の異変をすぐさま感じ取った。
この陽気な島には不似合いのお経が流れ、むせ返る線香の白い煙。なにより目立つのは中央に白い祭壇があり、大輪の白菊に囲まれた遺影には笑顔のリキッドの姿が。
それを見た霧華は床の上に全身の力が抜けたように落ちた。口元を被う手は小刻みに震えている。くしゃりと顔を歪め、両手で顔を覆い、さめざめと泣きだしてしまった。。
「そんな……リキッドさん。まだ、若いのに……」
「霧華さん俺!本人ここにいますからっ!生きてますからっ!」
「最期まで敬うのが親孝行というものだぞ」
「勝手に殺さないで!つーかなんかこれから不吉な予感しかしないんですケド!?」
リキッドの突然の死に悲しみ涙を流していたはずの霧華は「なんて、ね」と手を顔から避けた。そこには泣き顔などなく、悪戯を楽しむ無邪気な笑み。
「ごめんなさい。今朝、パプワ君たちに協力してって言われてたの。日頃お世話になってるリキッドさんをびっくりさせたいからって」
「……もおー冗談キツイっすよ。霧華さんまで家政夫イジメに加わったのかと…本気で凹みそうになりました」
「そんな疲れたパパに愛情一本!」
「テヅカくん、タケウチくんの特製ドリンクだよ」
「そんな不吉な湯気がたってるモノ飲めませんッ!」
子ども二人と大人のやり取り。やんややんやと騒がしくなってくると、今日もまた一日が始まったのだと思える程、この島での生活に馴染んでいた。
パパの日の為に!と嬉々としているロタローとパプワ。様々な通販グッズが散らばる中に、さきほどの不吉な湯気が立つドリンク剤が霧華の目についた。奇妙な容器が「すすれよ…」と蚊の鳴くような声で呟いている。あれは流石に自分も勧められても飲めないなと苦虫を噛み潰しながら弄ばれているリキッドを見守っていた。
結果、パプワハウスの子ども達によるパパの日孝行はリキッドの身に火の粉となって降り注いだ。ぎゃあぎゃあと喚き、叫ぶうちに時間があっという間に過ぎていき、日没を迎える。
部屋の隅で膝を抱えてすっかり縮こまっているリキッド。暗い影を落としていじけた彼に「お疲れ様です」と霧華が優しい声をかけた。そして包装紙でラッピングした包みを差し出す。
「昼間、色々あったから中々渡せなくて。良かったらこれ、私からプレゼント」
「え……俺にっすか?」
「お世話になってるから。何がいいかなって考えたんだけど…これしか浮かばなかったの」
半ば放心状態で包みを受け取ったリキッドは目をまん丸にしていた。まさかこんな嬉しいサプライズが待っていたとは夢にも思わない。
「嬉しいっす…マジで。ほんとに、すっげー嬉しいです!」
「そんなに大したものじゃないわ。良かったら使ってね」
「ありがとうございますっ!霧華さんから貰えるモンなら何だって嬉しいっすよ!」
期待を存分に膨らませたリキッドは子どものように無邪気に笑う。丁寧に包みを開き、中から姿を現したオリーブ色の畳まれた衣服。広げてみるとそれは男物のエプロンだった。
「こ、これは……丈の長さが長すぎず短すぎない、肩ひもを背中で交差させることによってどんなに動き回っても落ちてくることがなく、深めのポケットが二つ、さらにはペンとメモ帳を収納できる胸ポケット付き!汚れも目立ちにくい色と素材のエプロンだ!」
「説明が長いぞ」
パプワの黄金の右足が小ぶりのサッカーボールを蹴り上げる。それはリキッドの頬に見事命中した。
「すみませんでした。……でも、いいんすかこんなステキなもん貰っちゃって」
「うん。気に入ってくれたなら私も作った甲斐があるし」
「えっ、これ霧華さんが作ったんですか?!すげえ!」
「さっすが霧華さん。手先が器用なんだねー。パパ、感謝しなよー?」
ロタローが霧華の背中に抱き着き、羨ましそうにリキッドのエプロンを見つめる。
「あーあ。今日は一日パパの日奉仕したから疲れちゃった。パパ、その新しいエプロン着て今日の晩御飯美味しいもの作ってねー」
「デザートもだぞ」
「へいへい」
日中のショックから幾らか立ち直ったリキッドはすくっと立ち上がって新しいエプロンに袖を通した。落ち着いたオリーブ色を纏う姿は新鮮にも思える。白のフリルエプロンより男らしくも見えた。
それからリキッドは照れくさそうに頬を?きながら尋ねた。
「どうっすか。……似合いますかね?」
「うん。似合ってる」
とても嬉しそうに霧華が微笑む。
胸がきゅんっと締め付けられたような気がしたのはきっと気のせいじゃないと、くるりと背を向けたリキッドは緩む口元を手で隠した。
*
その日の夜。
良い子はもう寝る時間だと駄々を捏ねる二人を宥め、布団を敷いていく。チャッピーが大きな欠伸をした。
「あーっ。……どうしよう」
ロタローが困ったように声を上げたので、どうしたのかと霧華は側へ寄る。ロタローの手には丸っとしたアライグマのような縫いぐるみ。よく見ると小さな右腕の縫い目が解れて、中綿が少しだけ飛び出ていた。
「あ…縫いぐるみの腕、取れてきちゃってる」
「どうしよう…僕の大事な友達なのに」
両腕で縫いぐるみを抱きしめるロタローは眉尻をすっかり下げ、泣きそうな顔をしていた。その姿がデジャヴの様に霧華の脳裏を掠めていった。
屈んでロタローと目線を合わせた霧華は頭を優しく撫でる。
「大丈夫。私が直してあげる」
「ほんと?」
「リキッドさん。針と糸借りますね」
「あ、はい。そこの引き出しに…って、俺がやりますよ?」
「えー。リキッドが直したら僕の友達がヤンキーになりかねないからいいよ」
「へいへい」
チャッピーはいつもの場所までテコテコ歩いていき、その場でくるんと身を丸めて目を閉じた。その背をよしよしと優しく撫でるパプワ。
霧華は糸を針に通し、片方に結び目を手早く作る。ロタローの友達を優しく抱えて、右腕を丁寧に縫い付けていった。みるみる元通りになっていく様子をキラキラした目でロタローは見ていた。
縫い止めをした後に糸を切り、全体をチェック。他に直す箇所がないと判ったところで、ロタローに手渡した。
「はい。ロタロー君の友達」
「ありがとう霧華さん!……僕、この子とはずっと一緒なんだ」
「そっか。じゃあ、これからも大事にしてあげなきゃね」
「うん!」
微笑ましいやり取りを傍目で見ていたリキッドは「霧華さんには素直なんだから全く」と苦労混じりの溜息をついた。それでも、子どもらしく笑う姿が見られるからいいかと人知れず笑みを作る。
この島は日本から遠く離れた場所ではあるが、日本馴染みの行事が多々存在している。
雛祭りに端午の節句、七夕にクリスマス、バレンタインデーまであるというのだ。
ただ、名前は同じでも中身が少しずつ違うのは各国でよく見られる現象ではある。
来月は七夕があるぞとパプワが言った。
芦で編んだ手提げの籠を片手に霧華はパプワハウスへ足取り軽く向かっている。途中エグチくんとナカムラくんに出会い、パパの日孝行すると聞いて笑みを綻ばせた。
エグチくんが小さな前足を手提げ籠にかけて覗き込む。
「霧華さん、これなーに?」
「これはね、私がお世話になってる人へのプレゼント」
「そうなんだー。喜んでくれるといいね」
「うん」
これからプレゼントを買いに行くんだとスキップをする二匹の姿が何とも微笑ましい。
籠に収まる包み。喜ぶ顔が早くみたい。自然と霧華の足は家路を急いだ。
パプワハウスの外には物干し竿。真っ白な洗濯物が風にそよそよと揺られている。
家事がひと段落したようで外にリキッドの姿は見当たらない。
ハウスに足を踏み入れた霧華は室内の異変をすぐさま感じ取った。
この陽気な島には不似合いのお経が流れ、むせ返る線香の白い煙。なにより目立つのは中央に白い祭壇があり、大輪の白菊に囲まれた遺影には笑顔のリキッドの姿が。
それを見た霧華は床の上に全身の力が抜けたように落ちた。口元を被う手は小刻みに震えている。くしゃりと顔を歪め、両手で顔を覆い、さめざめと泣きだしてしまった。。
「そんな……リキッドさん。まだ、若いのに……」
「霧華さん俺!本人ここにいますからっ!生きてますからっ!」
「最期まで敬うのが親孝行というものだぞ」
「勝手に殺さないで!つーかなんかこれから不吉な予感しかしないんですケド!?」
リキッドの突然の死に悲しみ涙を流していたはずの霧華は「なんて、ね」と手を顔から避けた。そこには泣き顔などなく、悪戯を楽しむ無邪気な笑み。
「ごめんなさい。今朝、パプワ君たちに協力してって言われてたの。日頃お世話になってるリキッドさんをびっくりさせたいからって」
「……もおー冗談キツイっすよ。霧華さんまで家政夫イジメに加わったのかと…本気で凹みそうになりました」
「そんな疲れたパパに愛情一本!」
「テヅカくん、タケウチくんの特製ドリンクだよ」
「そんな不吉な湯気がたってるモノ飲めませんッ!」
子ども二人と大人のやり取り。やんややんやと騒がしくなってくると、今日もまた一日が始まったのだと思える程、この島での生活に馴染んでいた。
パパの日の為に!と嬉々としているロタローとパプワ。様々な通販グッズが散らばる中に、さきほどの不吉な湯気が立つドリンク剤が霧華の目についた。奇妙な容器が「すすれよ…」と蚊の鳴くような声で呟いている。あれは流石に自分も勧められても飲めないなと苦虫を噛み潰しながら弄ばれているリキッドを見守っていた。
結果、パプワハウスの子ども達によるパパの日孝行はリキッドの身に火の粉となって降り注いだ。ぎゃあぎゃあと喚き、叫ぶうちに時間があっという間に過ぎていき、日没を迎える。
部屋の隅で膝を抱えてすっかり縮こまっているリキッド。暗い影を落としていじけた彼に「お疲れ様です」と霧華が優しい声をかけた。そして包装紙でラッピングした包みを差し出す。
「昼間、色々あったから中々渡せなくて。良かったらこれ、私からプレゼント」
「え……俺にっすか?」
「お世話になってるから。何がいいかなって考えたんだけど…これしか浮かばなかったの」
半ば放心状態で包みを受け取ったリキッドは目をまん丸にしていた。まさかこんな嬉しいサプライズが待っていたとは夢にも思わない。
「嬉しいっす…マジで。ほんとに、すっげー嬉しいです!」
「そんなに大したものじゃないわ。良かったら使ってね」
「ありがとうございますっ!霧華さんから貰えるモンなら何だって嬉しいっすよ!」
期待を存分に膨らませたリキッドは子どものように無邪気に笑う。丁寧に包みを開き、中から姿を現したオリーブ色の畳まれた衣服。広げてみるとそれは男物のエプロンだった。
「こ、これは……丈の長さが長すぎず短すぎない、肩ひもを背中で交差させることによってどんなに動き回っても落ちてくることがなく、深めのポケットが二つ、さらにはペンとメモ帳を収納できる胸ポケット付き!汚れも目立ちにくい色と素材のエプロンだ!」
「説明が長いぞ」
パプワの黄金の右足が小ぶりのサッカーボールを蹴り上げる。それはリキッドの頬に見事命中した。
「すみませんでした。……でも、いいんすかこんなステキなもん貰っちゃって」
「うん。気に入ってくれたなら私も作った甲斐があるし」
「えっ、これ霧華さんが作ったんですか?!すげえ!」
「さっすが霧華さん。手先が器用なんだねー。パパ、感謝しなよー?」
ロタローが霧華の背中に抱き着き、羨ましそうにリキッドのエプロンを見つめる。
「あーあ。今日は一日パパの日奉仕したから疲れちゃった。パパ、その新しいエプロン着て今日の晩御飯美味しいもの作ってねー」
「デザートもだぞ」
「へいへい」
日中のショックから幾らか立ち直ったリキッドはすくっと立ち上がって新しいエプロンに袖を通した。落ち着いたオリーブ色を纏う姿は新鮮にも思える。白のフリルエプロンより男らしくも見えた。
それからリキッドは照れくさそうに頬を?きながら尋ねた。
「どうっすか。……似合いますかね?」
「うん。似合ってる」
とても嬉しそうに霧華が微笑む。
胸がきゅんっと締め付けられたような気がしたのはきっと気のせいじゃないと、くるりと背を向けたリキッドは緩む口元を手で隠した。
*
その日の夜。
良い子はもう寝る時間だと駄々を捏ねる二人を宥め、布団を敷いていく。チャッピーが大きな欠伸をした。
「あーっ。……どうしよう」
ロタローが困ったように声を上げたので、どうしたのかと霧華は側へ寄る。ロタローの手には丸っとしたアライグマのような縫いぐるみ。よく見ると小さな右腕の縫い目が解れて、中綿が少しだけ飛び出ていた。
「あ…縫いぐるみの腕、取れてきちゃってる」
「どうしよう…僕の大事な友達なのに」
両腕で縫いぐるみを抱きしめるロタローは眉尻をすっかり下げ、泣きそうな顔をしていた。その姿がデジャヴの様に霧華の脳裏を掠めていった。
屈んでロタローと目線を合わせた霧華は頭を優しく撫でる。
「大丈夫。私が直してあげる」
「ほんと?」
「リキッドさん。針と糸借りますね」
「あ、はい。そこの引き出しに…って、俺がやりますよ?」
「えー。リキッドが直したら僕の友達がヤンキーになりかねないからいいよ」
「へいへい」
チャッピーはいつもの場所までテコテコ歩いていき、その場でくるんと身を丸めて目を閉じた。その背をよしよしと優しく撫でるパプワ。
霧華は糸を針に通し、片方に結び目を手早く作る。ロタローの友達を優しく抱えて、右腕を丁寧に縫い付けていった。みるみる元通りになっていく様子をキラキラした目でロタローは見ていた。
縫い止めをした後に糸を切り、全体をチェック。他に直す箇所がないと判ったところで、ロタローに手渡した。
「はい。ロタロー君の友達」
「ありがとう霧華さん!……僕、この子とはずっと一緒なんだ」
「そっか。じゃあ、これからも大事にしてあげなきゃね」
「うん!」
微笑ましいやり取りを傍目で見ていたリキッドは「霧華さんには素直なんだから全く」と苦労混じりの溜息をついた。それでも、子どもらしく笑う姿が見られるからいいかと人知れず笑みを作る。