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キミに嘘をついた 04
暦では六月を迎えた。日本で云う四季の初夏に差し掛かっており、それとなく島も日本の四季に近い気候となる。島に四季があるのかと疑問に思うべきであるが、もはや今更感たっぷりだ。
蒸し暑さで寝苦しい夜が多くなることが増えてきた。折角うとうとしかけても悪夢を見て飛び起きる。リキッドは安眠が中々できない日が続いていた。
風通しが良く、過ごしやすい夜。好条件が揃っているというのに中々眠りにつけずにいた。壁の方を向いて寝転がっていたリキッドは体をごろりと反転させる。
横並びで順にパプワ、チャッピー、ロタロー、霧華と寝ているはず。だが、一番自分から遠い場所で寝ているはずの霧華がいない。ずっと起きていたのに布団から抜け出したことに気が付かずにいた。薄暗い室内に人影は見当たらない。
ふと妙な胸騒ぎを覚える。半身だけ起こしていたリキッドは慌てて外へ出ていく。その際にもお子様たちを起こさないよう静かに。
ふらりと散歩に出てしまったのだろうか。こんな夜中に女性の一人歩きは危険だ。この島には危険人物が山ほどいるし、ナマモノだって蔓延っている。万が一彼女に何かあっては大変だ。
森を詮索する体でいたリキッドはハウスの傍で佇んでいる霧華を早々に見つけ、拍子抜けしてしまう。
ハウスから勢いよく飛び出してきたリキッドに「何かあったんですか?」と霧華が不安そうに尋ねる。
「あ、いや……な、なんでも。……今夜は涼しい風が吹いてるっすね!」
あはは、と笑いながら後頭部を手で掻く。
「そうですね。でも、逆になんだか寝付けなくて…星を見てたんです」
「奇遇っすね。俺もなんか寝付けなくて。……おっ。今夜はキレーな星空だなあ」
「さっき流れ星が見えましたよ」
「なんか願い事したんすか?」
さりげなく隣に立ち、空を仰ぐ。
もう一つくらい流れないだろうかと空を見渡し、霧華にそう尋ねた。
「…願い事。考えてなかった」
「いきなり目の前で流れても、心の準備とかできてないっすよね」
「小さい頃は必死になって流れ星探していたのに、ね。そんなものかしら」
風で揺れる髪を押さえ、耳にかけるその仕草にリキッドはしばらく目を奪われていた。
肩より伸びた長い黒髪。島の生活の中で垣間見る風習や癖、言葉遣いからして日本出身のようだ。彼女が小柄なせいか、この島の男達に囲まれていると身長差がありすぎて小動物のようにも見えてしまう。ウマ子と並ぶとそれが顕著に現れる。まさに月とすっぽん、いや美女と野獣といった方がしっくりくる。
同じように流れ星を探しているのだろうか。星空を見上げる霧華の横顔を見、その哀愁漂う様に息を呑む。時々、ふっと思い出したようにこんな表情をする。パプワやロタローの前では見せないのだが、一人でいる時に思いつめた表情をするのでそれがリキッドにとって心配の要素であった。
言うか言うまいかと悩んできた。口を開いてはつぐむ、それを繰り返してきた。このまま黙っていては何も解決しないじゃないか。お節介と思われても構わない。悩みを打ち明けるきっかけの糸口ができるならとリキッドはぎゅっと拳を握りしめた。
「霧華さん。あ、その……悩みがあんなら、俺でよければ聞きますよ。大した役に立たねえかもしんねーけど…でも!霧華さんが悩んでんのもう俺見てらんないんすよ!」
声を張り上げてから、しまったとリキッドはパプワハウスの方を見た。今の声で誰か目を覚ましてしまったら。しかし、何秒経っても人が来気配はない。良い子たちは熟睡しているようだ。
「なんで、私が悩んでるって思ったんですか?」
「だ、だって…時々寂しそうな顔してるじゃないっすか。それに、ロタローが遊んでるのを見てる霧華さん、なんていうか……まるで」
本当の弟を見るような目をしていた。その慈しみの中にそっと隠された哀愁。それが故人を想うものだとリキッドは気づいていた。
霧華を見るリキッドの真剣な眼差し。「話すと長くなっちゃいますよ」と遠回しに言っても食い下がらない。はぐらかしようがないと諦めた霧華は小さな溜息をもらす。この話が後々にある人物と関わってくることをこの時のリキッドは知らなかった。
「私が各地を転々と旅していることは前に話した通りです。……私、故郷を壊されてしまったんです。家も、家族や友達もみんな…居なくなって。幸か不幸かはわからないけど、偶々私は隣町に出かけていたの。行く宛がなくなった私はずっと旅を続けた。…旅先で私の町を襲った艦を見たって人もいた。一か所に留まろうって考えたことは、なかったかも。あちこち移動していた方が気が紛れるから」
「……すんません。悪いこと、聞いちまった」
「もう、四年も前の事だから。ロタローくんを見てるとね、あの子みたいに思えて。姉ちゃん姉ちゃんっていつも私に甘えてくるの。……あの頃が懐かしくなって、それでちょっと、ね」
肉親を失った事を過去と割り切っている。泣き喚いたりせずに、遠い昔のことのようにリキッドに語った。他人事にように捉えきれずにいたリキッドの感情は次第に昂ってゆく。握りしめた拳に怒りを抑え込むせいでぽたぽたと血が流れ出た。
「酷えことする奴らだ…許せねえ」
「リキッドさんは本当に優しい人ね。だって、まだ島に来て間もない私の為に同情してくれてる」
でもこれ以上は止めてとリキッドの手を包み込んだ。拳を開くようにと促す。洗い物をする時に傷口に沁みてしまうからと、その気遣いにすらリキッドは胸を打たれていた。
暦では六月を迎えた。日本で云う四季の初夏に差し掛かっており、それとなく島も日本の四季に近い気候となる。島に四季があるのかと疑問に思うべきであるが、もはや今更感たっぷりだ。
蒸し暑さで寝苦しい夜が多くなることが増えてきた。折角うとうとしかけても悪夢を見て飛び起きる。リキッドは安眠が中々できない日が続いていた。
風通しが良く、過ごしやすい夜。好条件が揃っているというのに中々眠りにつけずにいた。壁の方を向いて寝転がっていたリキッドは体をごろりと反転させる。
横並びで順にパプワ、チャッピー、ロタロー、霧華と寝ているはず。だが、一番自分から遠い場所で寝ているはずの霧華がいない。ずっと起きていたのに布団から抜け出したことに気が付かずにいた。薄暗い室内に人影は見当たらない。
ふと妙な胸騒ぎを覚える。半身だけ起こしていたリキッドは慌てて外へ出ていく。その際にもお子様たちを起こさないよう静かに。
ふらりと散歩に出てしまったのだろうか。こんな夜中に女性の一人歩きは危険だ。この島には危険人物が山ほどいるし、ナマモノだって蔓延っている。万が一彼女に何かあっては大変だ。
森を詮索する体でいたリキッドはハウスの傍で佇んでいる霧華を早々に見つけ、拍子抜けしてしまう。
ハウスから勢いよく飛び出してきたリキッドに「何かあったんですか?」と霧華が不安そうに尋ねる。
「あ、いや……な、なんでも。……今夜は涼しい風が吹いてるっすね!」
あはは、と笑いながら後頭部を手で掻く。
「そうですね。でも、逆になんだか寝付けなくて…星を見てたんです」
「奇遇っすね。俺もなんか寝付けなくて。……おっ。今夜はキレーな星空だなあ」
「さっき流れ星が見えましたよ」
「なんか願い事したんすか?」
さりげなく隣に立ち、空を仰ぐ。
もう一つくらい流れないだろうかと空を見渡し、霧華にそう尋ねた。
「…願い事。考えてなかった」
「いきなり目の前で流れても、心の準備とかできてないっすよね」
「小さい頃は必死になって流れ星探していたのに、ね。そんなものかしら」
風で揺れる髪を押さえ、耳にかけるその仕草にリキッドはしばらく目を奪われていた。
肩より伸びた長い黒髪。島の生活の中で垣間見る風習や癖、言葉遣いからして日本出身のようだ。彼女が小柄なせいか、この島の男達に囲まれていると身長差がありすぎて小動物のようにも見えてしまう。ウマ子と並ぶとそれが顕著に現れる。まさに月とすっぽん、いや美女と野獣といった方がしっくりくる。
同じように流れ星を探しているのだろうか。星空を見上げる霧華の横顔を見、その哀愁漂う様に息を呑む。時々、ふっと思い出したようにこんな表情をする。パプワやロタローの前では見せないのだが、一人でいる時に思いつめた表情をするのでそれがリキッドにとって心配の要素であった。
言うか言うまいかと悩んできた。口を開いてはつぐむ、それを繰り返してきた。このまま黙っていては何も解決しないじゃないか。お節介と思われても構わない。悩みを打ち明けるきっかけの糸口ができるならとリキッドはぎゅっと拳を握りしめた。
「霧華さん。あ、その……悩みがあんなら、俺でよければ聞きますよ。大した役に立たねえかもしんねーけど…でも!霧華さんが悩んでんのもう俺見てらんないんすよ!」
声を張り上げてから、しまったとリキッドはパプワハウスの方を見た。今の声で誰か目を覚ましてしまったら。しかし、何秒経っても人が来気配はない。良い子たちは熟睡しているようだ。
「なんで、私が悩んでるって思ったんですか?」
「だ、だって…時々寂しそうな顔してるじゃないっすか。それに、ロタローが遊んでるのを見てる霧華さん、なんていうか……まるで」
本当の弟を見るような目をしていた。その慈しみの中にそっと隠された哀愁。それが故人を想うものだとリキッドは気づいていた。
霧華を見るリキッドの真剣な眼差し。「話すと長くなっちゃいますよ」と遠回しに言っても食い下がらない。はぐらかしようがないと諦めた霧華は小さな溜息をもらす。この話が後々にある人物と関わってくることをこの時のリキッドは知らなかった。
「私が各地を転々と旅していることは前に話した通りです。……私、故郷を壊されてしまったんです。家も、家族や友達もみんな…居なくなって。幸か不幸かはわからないけど、偶々私は隣町に出かけていたの。行く宛がなくなった私はずっと旅を続けた。…旅先で私の町を襲った艦を見たって人もいた。一か所に留まろうって考えたことは、なかったかも。あちこち移動していた方が気が紛れるから」
「……すんません。悪いこと、聞いちまった」
「もう、四年も前の事だから。ロタローくんを見てるとね、あの子みたいに思えて。姉ちゃん姉ちゃんっていつも私に甘えてくるの。……あの頃が懐かしくなって、それでちょっと、ね」
肉親を失った事を過去と割り切っている。泣き喚いたりせずに、遠い昔のことのようにリキッドに語った。他人事にように捉えきれずにいたリキッドの感情は次第に昂ってゆく。握りしめた拳に怒りを抑え込むせいでぽたぽたと血が流れ出た。
「酷えことする奴らだ…許せねえ」
「リキッドさんは本当に優しい人ね。だって、まだ島に来て間もない私の為に同情してくれてる」
でもこれ以上は止めてとリキッドの手を包み込んだ。拳を開くようにと促す。洗い物をする時に傷口に沁みてしまうからと、その気遣いにすらリキッドは胸を打たれていた。