鬼灯の冷徹
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非日常?いいえ、日常です。
予知夢。
夢で見た内容が後に現実となる。
私の場合は「ああなんかこの場面見たことある」ぐらいのデジャヴだ。
これが私の『予知夢』の定義。でも、正直これが現実になったらいやだなと思う。
不思議な夢を見てから一週間が経った。
地獄という場所で書類の整理や、書記をした夢だ。
周囲に居たのは角が生えた鬼ばかりで、人間は私だけだったような気がする。
長い間見ていたようで、色々と話もしていた場面もあったのだけど、殆どが頭に残っていない。
ただ、至極印象に残っているのが「貴女は死にかけている」と言った一本角の背の高い鬼。
その鬼がというよりも、あまりにも衝撃的なことを言われたせいかも。
その長い夢から覚めた時、心拍数が上がっていた。
どっどっどっ、と脈打つ心臓。嫌な汗も流れていた。
呼吸を整えてから自分の身体をよく確かめてもどこも異常はない。
薄暗い部屋は間違いなく自分の部屋。
時刻は朝の三時だった。今日は土曜日、仕事は休み。
それならまだもう一眠りできる。私は体をベッドに滑り込ませ、寝返りを二度打った。
正直眠れる気はしなかったけど、こんな時間に起きても仕方がない。
夢の内容を思い出しながら、寝付くまで何度も寝返りを打っていた。
そんなわけで、あの日の二度寝から目覚めた頃には夢のことなんてきれいさっぱり忘れていた。
「なんか夢見が悪かったなあ」ぐらいしか記憶になかったんだ。
時刻は午前八時半。
休みの日にしては充分すぎる早起きだった。
朝ごはんにトーストを焼いて、牛乳をレンジで温める。
冷蔵庫に残っていたポテトサラダを適当に盛り付けて、軽い朝ごはんを食べ始めた。
テレビでは世界の朝を紹介する番組が流れている。
今日はドイツの紹介だった。
ジャーマンポテト食べたいなあと思いながらポテトサラダを頬張る。
簡単なレシピはないかと、机の端を見る。そこには何もない。
いつも食事中はテーブルの端にスマホを置いておく。
今もつい癖でスマホを触ろうとしたけど、そこにはなかった。
そういえば今朝はベッドの中にもなかったし、カーディガンのポケットに入れたままかもしれない。
目覚まし代わりに使っているから、ベッドに持ち込まないなんて珍しいこともあるもんだ。
目覚ましアラームの設定を忘れていたせいもあって、存在自体忘れかけていた。
それだけ疲れていたのかな。昨日は仕事が忙しかったからなあ。
朝ごはんを食べ終えた後、すぐに洗い物を済ませた。
もしかしたらスマホを鞄の中に入れっぱなしかもと、鞄の中を探ると友人への手紙を見つけた。
またやってしまった。これを書いた日はいつだったか。もう三日は経っている気がする。
こうして持ち歩いてはポストに投函できない事が多々ある。
今日こそはポストに投函しよう。そうじゃなきゃいい加減怒られてしまうし、手紙の内容だって古くなってしまう。
手紙を出すついでにその辺を散歩でもしてこよう。
そう思い立った私は財布を入れた鞄を椅子に引っ掛け、ハンガーにかけてあるカーディガンの右ポケットを探った。
予想通り、愛用のスマホが入っている。
電池は半分以上減っている。一日過ごすには充分だろう。
ふと反対側のポケットの膨らみに気がついた。
手を突っ込んでみると、ふかふかとした感触。取り出してみると、随分ふてぶてしい顔をした金魚のマスコットが顔を現した。
「なんだこれ」
思わず独り言を呟いてしまう。
こんなの買ったかな。どこに惹かれて買ったのか思いつかない。
もしかしたら、先日の飲み会の帰りに勢いで買ってしまったのかもしれない。
私は酔うと気が大きくなる。
ネット通販で買うかどうか迷っていた物を酔っ払っていると実にあっさりと購入ボタンを押してしまうのだから。
気をつけようと何度も言い聞かせているのだけど、今回もまたやってしまったようだ。
金魚のストラップを飾り棚のピンにぶら下げる。
まあ、よく見れば愛嬌がある。らんちゅう、だっけこの種類。
私は和金、いわゆるフナ型の一般的な方が好きだから、益々この金魚ストラップを手にした理由がわからない。
スマホにつけるにはちょっと大きい。他にもぶら下げる場所を考えてみたけど、良いものがない。
しばらくここにぶら下がっていてもらおう。
私はカーディガンを羽織って、テレビを消した。
玄関の戸締まりをして、二階のこの部屋から階段をカンカンカンと踏み鳴らして下りていく。
良い天気だ。
空は霞んでいるけど、薄っすら青空が広がっている。
故郷に比べたら水も空気も良いとは言えない。だけど、この環境にも慣れたもんだ。
早起きした日は休日を長く過ごせるからちょっと得した気分になる。
帰ってきたら何をしようかな、少しわくわくした気持ちを膨らませていた。が、それはすぐに萎んでいく。
アパートの階段から共同エントランスに出た所で、不審な人を見つけてしまった。
不審と言っては失礼かもしれない。ただ道に迷っているだけかも。
顔は後ろを向いていて見えない。長袖の黒いシャツにキャスケットを被っている。
肩掛けのメッセンジャーバッグが服装にマッチしていた。
手には紙切れを持っていて、きょろきょろと辺りを見渡している。
住宅街で家探しはありふれた光景。
でも、今どきの若い人がアナログで探すなんてちょっと珍しいと思う。
端末で住所を検索すれば大体の場所はわかるのに。
住所もわからない状態で来たのかな、と色々考えていたら不意にその人が振り向いた。
「あっ」とお互いに声をあげる。
三白眼の鋭い目、無に近い表情、そして開いた口から僅かに見える鋭い犬歯。
デジャヴだ。いや、むしろデジャヴというよりも。
「どうも、お久しぶりです。葉月さん」
この人の顔を見た途端、まるで走馬灯のように映像が頭に流れ込んできた。
鮮明なあの夢の内容が早送りで駆け抜けていく。
「……お、お久しぶりです」
これはデジャヴ?
いいや、私は確かにこの人と会ったことがある。
予知夢。
夢で見た内容が後に現実となる。
私の場合は「ああなんかこの場面見たことある」ぐらいのデジャヴだ。
これが私の『予知夢』の定義。でも、正直これが現実になったらいやだなと思う。
不思議な夢を見てから一週間が経った。
地獄という場所で書類の整理や、書記をした夢だ。
周囲に居たのは角が生えた鬼ばかりで、人間は私だけだったような気がする。
長い間見ていたようで、色々と話もしていた場面もあったのだけど、殆どが頭に残っていない。
ただ、至極印象に残っているのが「貴女は死にかけている」と言った一本角の背の高い鬼。
その鬼がというよりも、あまりにも衝撃的なことを言われたせいかも。
その長い夢から覚めた時、心拍数が上がっていた。
どっどっどっ、と脈打つ心臓。嫌な汗も流れていた。
呼吸を整えてから自分の身体をよく確かめてもどこも異常はない。
薄暗い部屋は間違いなく自分の部屋。
時刻は朝の三時だった。今日は土曜日、仕事は休み。
それならまだもう一眠りできる。私は体をベッドに滑り込ませ、寝返りを二度打った。
正直眠れる気はしなかったけど、こんな時間に起きても仕方がない。
夢の内容を思い出しながら、寝付くまで何度も寝返りを打っていた。
そんなわけで、あの日の二度寝から目覚めた頃には夢のことなんてきれいさっぱり忘れていた。
「なんか夢見が悪かったなあ」ぐらいしか記憶になかったんだ。
時刻は午前八時半。
休みの日にしては充分すぎる早起きだった。
朝ごはんにトーストを焼いて、牛乳をレンジで温める。
冷蔵庫に残っていたポテトサラダを適当に盛り付けて、軽い朝ごはんを食べ始めた。
テレビでは世界の朝を紹介する番組が流れている。
今日はドイツの紹介だった。
ジャーマンポテト食べたいなあと思いながらポテトサラダを頬張る。
簡単なレシピはないかと、机の端を見る。そこには何もない。
いつも食事中はテーブルの端にスマホを置いておく。
今もつい癖でスマホを触ろうとしたけど、そこにはなかった。
そういえば今朝はベッドの中にもなかったし、カーディガンのポケットに入れたままかもしれない。
目覚まし代わりに使っているから、ベッドに持ち込まないなんて珍しいこともあるもんだ。
目覚ましアラームの設定を忘れていたせいもあって、存在自体忘れかけていた。
それだけ疲れていたのかな。昨日は仕事が忙しかったからなあ。
朝ごはんを食べ終えた後、すぐに洗い物を済ませた。
もしかしたらスマホを鞄の中に入れっぱなしかもと、鞄の中を探ると友人への手紙を見つけた。
またやってしまった。これを書いた日はいつだったか。もう三日は経っている気がする。
こうして持ち歩いてはポストに投函できない事が多々ある。
今日こそはポストに投函しよう。そうじゃなきゃいい加減怒られてしまうし、手紙の内容だって古くなってしまう。
手紙を出すついでにその辺を散歩でもしてこよう。
そう思い立った私は財布を入れた鞄を椅子に引っ掛け、ハンガーにかけてあるカーディガンの右ポケットを探った。
予想通り、愛用のスマホが入っている。
電池は半分以上減っている。一日過ごすには充分だろう。
ふと反対側のポケットの膨らみに気がついた。
手を突っ込んでみると、ふかふかとした感触。取り出してみると、随分ふてぶてしい顔をした金魚のマスコットが顔を現した。
「なんだこれ」
思わず独り言を呟いてしまう。
こんなの買ったかな。どこに惹かれて買ったのか思いつかない。
もしかしたら、先日の飲み会の帰りに勢いで買ってしまったのかもしれない。
私は酔うと気が大きくなる。
ネット通販で買うかどうか迷っていた物を酔っ払っていると実にあっさりと購入ボタンを押してしまうのだから。
気をつけようと何度も言い聞かせているのだけど、今回もまたやってしまったようだ。
金魚のストラップを飾り棚のピンにぶら下げる。
まあ、よく見れば愛嬌がある。らんちゅう、だっけこの種類。
私は和金、いわゆるフナ型の一般的な方が好きだから、益々この金魚ストラップを手にした理由がわからない。
スマホにつけるにはちょっと大きい。他にもぶら下げる場所を考えてみたけど、良いものがない。
しばらくここにぶら下がっていてもらおう。
私はカーディガンを羽織って、テレビを消した。
玄関の戸締まりをして、二階のこの部屋から階段をカンカンカンと踏み鳴らして下りていく。
良い天気だ。
空は霞んでいるけど、薄っすら青空が広がっている。
故郷に比べたら水も空気も良いとは言えない。だけど、この環境にも慣れたもんだ。
早起きした日は休日を長く過ごせるからちょっと得した気分になる。
帰ってきたら何をしようかな、少しわくわくした気持ちを膨らませていた。が、それはすぐに萎んでいく。
アパートの階段から共同エントランスに出た所で、不審な人を見つけてしまった。
不審と言っては失礼かもしれない。ただ道に迷っているだけかも。
顔は後ろを向いていて見えない。長袖の黒いシャツにキャスケットを被っている。
肩掛けのメッセンジャーバッグが服装にマッチしていた。
手には紙切れを持っていて、きょろきょろと辺りを見渡している。
住宅街で家探しはありふれた光景。
でも、今どきの若い人がアナログで探すなんてちょっと珍しいと思う。
端末で住所を検索すれば大体の場所はわかるのに。
住所もわからない状態で来たのかな、と色々考えていたら不意にその人が振り向いた。
「あっ」とお互いに声をあげる。
三白眼の鋭い目、無に近い表情、そして開いた口から僅かに見える鋭い犬歯。
デジャヴだ。いや、むしろデジャヴというよりも。
「どうも、お久しぶりです。葉月さん」
この人の顔を見た途端、まるで走馬灯のように映像が頭に流れ込んできた。
鮮明なあの夢の内容が早送りで駆け抜けていく。
「……お、お久しぶりです」
これはデジャヴ?
いいや、私は確かにこの人と会ったことがある。