落とされた歯車 封神演義(WJ)
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3.一人歩きする噂の始まり
三千メートル以上の高さから人が自由落下をして無傷である事はまず無い。外傷は免れたとしても、上空はマイナス二十度にもなる。皮膚が凍傷している恐れもあり、現に痛みはないかと道徳が尋ねれば体の節が痛いと霧華は答えていた。怪我や病気の類は専門家に任せた方がいいと道徳は判断し、その日のうちに霧華の体調を診に雲中子が洞府に訪れた。
「天空から人が舞い降りてきたなんて言うから驚いたよ」と雲中子は白衣に袖を通しながら部屋に入ってきた。人伝で渡り歩く話は微妙に形を変えていく。回数が多ければ多いほど妙なものへと。この言い方ではまるで霧華がふわりと降り立ったようなニュアンスだ。頼むから変な噂にだけはならないで欲しいものだと診察を受けていた。
雲中子の診断では「部分的に凍傷、あとは体力が消耗している」と軽度の症状だと下した。念の為にと試験官に血液を三本採取して自分の研究室へ持ち帰っていった。
今日はもう横になって休んだ方がいいと道徳に促され、起き上がる気力と体力が空に近い霧華は大人しくベッドに潜り込んだ。まだ日が高いうちから横になるのも久しぶりだった。
元々低血圧と貧血持ちのせいもあり、三本分の血を抜かれたので頭はグラグラしていた。しかし、ここまで具合が悪いと逆に寝付きにくくなるものだ。
とりあえず目を瞑り、睡魔が訪れるのを待つことにした。
体温が下がりきっているせいか霧華の顔は死人に近い色をしている。外気に触れている頬が氷の様に冷たい。あまりに熱が低いので手を当てていた天化は顔を顰めた。心配そうに顔を覗き込む。声をかけるか迷っているうちに、ゆっくりと開いた濃褐色の目が天化の方を向いた。
「気分、悪そうさ」
「……だいじょうぶ」
「そんな青白い顔で言われたって、これっぽっちも説得力ねえさ」
霧華は僅かに身じろいだ。意思疎通の一つの手段でもある言葉を発するのも億劫な様子だった。頬に当てていた手の平を額へ。自分の方が発熱しているのではと錯覚を起こしそうだ。
「気持ち悪すぎっと逆に寝付けねえもんな。……俺っちに何か出来ることはあるかい?」
今度は単音を発する。それきり黙ってしまった。いきなり見ず知らずの男にそう言われても困るだけかと天化は眉尻を下げる。自分は医学に詳しい方では無い。怪我の応急処置ぐらいは教わっているが、それ以外の事で彼女にしてやれることはないかと考えていた。
「……いて、ここに」
「ん?」
「ここにいてくれるだけで、気がまぎれるから。……だめ?」
見上げる視線も呟いた声も弱々しい。咄嗟に抱きしめて温めてやりたいと浮かんだが、流石にそれを実行すれば敬遠されること間違いない。最悪、変態とレッテルを貼られて初対面で嫌われてしまうだろう。
一時の衝動を抑えた天化は柔らかい髪を優しく撫でつけた。
「じゃあここにいるさ」
「ありがとう」
「お安い御用さね。あーたが元気になったら色々話したいさ。俺っちも自分のこと話すから、霧華のことも教えて欲しいさ。……いーかい?」
僅かに頷いた霧華は再度目を閉じた。
何かあればすぐに対応できるよう、天化は椅子をまた側に引っ張ってきた。じっとしているのは苦手だが、この可愛い寝顔を眺めているのも悪くは無さそうだ。
三千メートル以上の高さから人が自由落下をして無傷である事はまず無い。外傷は免れたとしても、上空はマイナス二十度にもなる。皮膚が凍傷している恐れもあり、現に痛みはないかと道徳が尋ねれば体の節が痛いと霧華は答えていた。怪我や病気の類は専門家に任せた方がいいと道徳は判断し、その日のうちに霧華の体調を診に雲中子が洞府に訪れた。
「天空から人が舞い降りてきたなんて言うから驚いたよ」と雲中子は白衣に袖を通しながら部屋に入ってきた。人伝で渡り歩く話は微妙に形を変えていく。回数が多ければ多いほど妙なものへと。この言い方ではまるで霧華がふわりと降り立ったようなニュアンスだ。頼むから変な噂にだけはならないで欲しいものだと診察を受けていた。
雲中子の診断では「部分的に凍傷、あとは体力が消耗している」と軽度の症状だと下した。念の為にと試験官に血液を三本採取して自分の研究室へ持ち帰っていった。
今日はもう横になって休んだ方がいいと道徳に促され、起き上がる気力と体力が空に近い霧華は大人しくベッドに潜り込んだ。まだ日が高いうちから横になるのも久しぶりだった。
元々低血圧と貧血持ちのせいもあり、三本分の血を抜かれたので頭はグラグラしていた。しかし、ここまで具合が悪いと逆に寝付きにくくなるものだ。
とりあえず目を瞑り、睡魔が訪れるのを待つことにした。
体温が下がりきっているせいか霧華の顔は死人に近い色をしている。外気に触れている頬が氷の様に冷たい。あまりに熱が低いので手を当てていた天化は顔を顰めた。心配そうに顔を覗き込む。声をかけるか迷っているうちに、ゆっくりと開いた濃褐色の目が天化の方を向いた。
「気分、悪そうさ」
「……だいじょうぶ」
「そんな青白い顔で言われたって、これっぽっちも説得力ねえさ」
霧華は僅かに身じろいだ。意思疎通の一つの手段でもある言葉を発するのも億劫な様子だった。頬に当てていた手の平を額へ。自分の方が発熱しているのではと錯覚を起こしそうだ。
「気持ち悪すぎっと逆に寝付けねえもんな。……俺っちに何か出来ることはあるかい?」
今度は単音を発する。それきり黙ってしまった。いきなり見ず知らずの男にそう言われても困るだけかと天化は眉尻を下げる。自分は医学に詳しい方では無い。怪我の応急処置ぐらいは教わっているが、それ以外の事で彼女にしてやれることはないかと考えていた。
「……いて、ここに」
「ん?」
「ここにいてくれるだけで、気がまぎれるから。……だめ?」
見上げる視線も呟いた声も弱々しい。咄嗟に抱きしめて温めてやりたいと浮かんだが、流石にそれを実行すれば敬遠されること間違いない。最悪、変態とレッテルを貼られて初対面で嫌われてしまうだろう。
一時の衝動を抑えた天化は柔らかい髪を優しく撫でつけた。
「じゃあここにいるさ」
「ありがとう」
「お安い御用さね。あーたが元気になったら色々話したいさ。俺っちも自分のこと話すから、霧華のことも教えて欲しいさ。……いーかい?」
僅かに頷いた霧華は再度目を閉じた。
何かあればすぐに対応できるよう、天化は椅子をまた側に引っ張ってきた。じっとしているのは苦手だが、この可愛い寝顔を眺めているのも悪くは無さそうだ。