封神演義(WJ)
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番犬注意
西岐改め周の初代王となった姫発は国を治める為の何たるかを必死に叩き込んでいた。いや、彼の場合は優秀な人間達によって叩き込まれていた。執務室には昼夜問わず誰かが付き添っている。今日は朝から太公望が戦において王はどう振る舞うべきかと教鞭を振るっていた。
姫発は頭を抱え、うんうんと唸りながらも筆を取る。少しでもサボろうものならば喝が飛んできた。
こんな毎日が続けばいい加減うんざりとしてくるものだ。一息入れようと不満をぶつけようとした所へドアをノックする音が聞こえた。
「失礼致します。資料をお持ち致しました」
「おお、すまぬな霧華」
両腕に資料を抱えた霧華は恭しく一礼、太公望へそれらを渡した。姫発は霧華の登場にパッと顔を明るくする。今まで白黒だった世界に突如鮮やかな色が着いたような、そんな心地だったと言う。
「霧華ちゃーん!聞いてくれよー。この軍師厳しすぎて俺もう疲れちまった」
「おぬしが真面目にやっとればわしも周公旦もそんなに厳しくせんわい」
執務机から今にも霧華の方へ腕が伸びそうな程、身を乗り出して共感を得ようとする。この好色男が霧華に抱き着きでもしたら後々面倒になる事が分かっていた太公望はそれを阻止。行く手を阻まれた姫発はあからさまな敵意を向けてきた。
「姫発様。姫昌様がお亡くなりになったばかりで大変だとは存じますが、どうか民の為、国の為にもお励みくださいませ」
その言葉に一つも嫌味は含まれていない。真っすぐな目と言葉に姫発は身の引き締まる思いになる。いつになく真面目な顔で頷いてみせた。
「……霧華ちゃんにそう言われたらやるっきゃないな」
「恐縮にございます。それでは、私はこれで失礼致します」
またも恭しく一礼をして霧華は去っていった。姫発が執務室のドアを頬杖をつきながらぼんやりと眺めていたので、どうかしたのかと声をかける。
「なー太公望。霧華ちゃんって彼氏いんの」
「おらん」
姫発の質問を一刀両断するかの如く言い切った。あまりに力強く否定したので、些か驚いた風をして太公望を見やる。くだらない事を聞くなと言いたそうだ。
「随分きっぱり言うじゃねーか」
「考えてもみよ。霧華に男でもいようものなら、まず彼奴が黙っておらぬ」
「ナルホド。んじゃ、逆にあの二人ってデキてたりしねーの?」
それに関しては太公望自身も言い淀んだ。姫発が言うように誰が見てもあの二人は仲睦まじい。兄妹弟子としての絆なのか、それとも別の感情か。本人達を前に直接聞くのも気が引けているのだ。
「今のところはそういった話は聞かんな」
「ふーん。じゃあ、俺にもまだ勝敗はあるってことだな!霧華ちゃんって可愛いしなんかこう、守ってあげたくなるよなあ。近くに寄るといい匂いがするし、長くて艶のある髪、肌もキレイで滑らか……将来有望なプリンちゃんになると俺は思う!」
「わしに力説するな、だあほめ。全くおぬしの頭は万年春のようだのう」
女性に対するこの情熱を少しでも机上に注いでくれないかと哀愁の溜息を漏らす。そんな太公望の杞憂も知らず、姫発は話を続けた。
「でもあの番犬が邪魔だよなあ」
「…おぬし今に八つ裂きにされるぞ」
「あのおっかねえ番犬さえいなけりゃなあ…手出せるってのによ」
机の天板に頬杖をつき、さも残念だと嘆きの声を上げる姫発。
直後、太公望は妙な気配にぞくりと身を震わせた。姫発はまだ気づいていない。ほぼほぼ殺気に近いそちらへ目を向けると、いつの間に入ってきたのか煙草を銜えた天化が立っていた。彼は素知らぬふりでポケットに手を入れて火の着いた煙草をふかしている。
「二人してサボりかい」
「ぎゃあああ?!」
声をかけられてようやっと天化の存在に気が付いた姫発が大きな叫び声をあげる。これを聞きつけた者が居ればどやどやと執務室に駆け込んできてしまう。だが、幸いにもそれはこの室内のみで納まったようだ。この叫び声に天化と太公望が逆に驚く。まるで鬼を見たかのような反応に天化は気を悪くして眉を顰めた。
「人の顔見て叫ぶなんて心外さ。そんなに俺っちの顔が怖いんか」
「い、いやいやっ!びっくりしただけだ!オマエがいるなんて思ってなくてだな」
「へえ…そうかい。つーことは、俺っちに聞かれたらマズイ話でもしてたんさ?」
双眼をすっと細めた天化が笑う。が、その目はどう見ても笑っていない。反射的に太公望が後ずさった。慌てふためく姫発の態度は明らかに怪しすぎる。少しは冷静にならぬかと心の叫びを上げた。
「べっべべべべべつにしてないよな!なっ、太公望!」
「わしに話を振るな!」
「そこまで慌てるっつーことはヤマシイ話でもしてたんさね」
首が取れそうな程ぶんぶんと振り回しこれを否定。もはや自分で認めているようなものだ。本当に武王がこれで大丈夫かと思いたくもなる軍師。
「ないない!勘違いだ!」
「……まあ、いーさ」
疑いの目をじろりと向けられ、冷や汗まで流し始めた。これは問い詰められたら、あること無いこと喋り始めてしまいそうだ。何よりも八つ裂きにされかねない。そうなる前にと軍師は助けを出した。
「天化、霧華が先程おぬしを探しておったぞ」
「ん、そーいや稽古の約束してたさ」
「うむ。早くせぬと待ちくたびれておるかもしれぬ」
此処へは稽古場に向かう途中立ち寄ったのだと言い、天化が踵を返した。その背を見て二人がほっとしたのも束の間。ドアの前で立ち止まった天化が「王サマ」と振り向きざまに声をかける。一段と低い声に二人の心臓が跳ね上がった。
煙草を親指と人差し指でつまみ、煙を吐き出した天化の顔は笑っている。
「霧華に手ぇ出したら噛みつく犬がいるから気ぃつけるさ」
これは只の脅しじゃない。瞬時にそう感じ取った二人は暫くの間固まっていたという。
西岐改め周の初代王となった姫発は国を治める為の何たるかを必死に叩き込んでいた。いや、彼の場合は優秀な人間達によって叩き込まれていた。執務室には昼夜問わず誰かが付き添っている。今日は朝から太公望が戦において王はどう振る舞うべきかと教鞭を振るっていた。
姫発は頭を抱え、うんうんと唸りながらも筆を取る。少しでもサボろうものならば喝が飛んできた。
こんな毎日が続けばいい加減うんざりとしてくるものだ。一息入れようと不満をぶつけようとした所へドアをノックする音が聞こえた。
「失礼致します。資料をお持ち致しました」
「おお、すまぬな霧華」
両腕に資料を抱えた霧華は恭しく一礼、太公望へそれらを渡した。姫発は霧華の登場にパッと顔を明るくする。今まで白黒だった世界に突如鮮やかな色が着いたような、そんな心地だったと言う。
「霧華ちゃーん!聞いてくれよー。この軍師厳しすぎて俺もう疲れちまった」
「おぬしが真面目にやっとればわしも周公旦もそんなに厳しくせんわい」
執務机から今にも霧華の方へ腕が伸びそうな程、身を乗り出して共感を得ようとする。この好色男が霧華に抱き着きでもしたら後々面倒になる事が分かっていた太公望はそれを阻止。行く手を阻まれた姫発はあからさまな敵意を向けてきた。
「姫発様。姫昌様がお亡くなりになったばかりで大変だとは存じますが、どうか民の為、国の為にもお励みくださいませ」
その言葉に一つも嫌味は含まれていない。真っすぐな目と言葉に姫発は身の引き締まる思いになる。いつになく真面目な顔で頷いてみせた。
「……霧華ちゃんにそう言われたらやるっきゃないな」
「恐縮にございます。それでは、私はこれで失礼致します」
またも恭しく一礼をして霧華は去っていった。姫発が執務室のドアを頬杖をつきながらぼんやりと眺めていたので、どうかしたのかと声をかける。
「なー太公望。霧華ちゃんって彼氏いんの」
「おらん」
姫発の質問を一刀両断するかの如く言い切った。あまりに力強く否定したので、些か驚いた風をして太公望を見やる。くだらない事を聞くなと言いたそうだ。
「随分きっぱり言うじゃねーか」
「考えてもみよ。霧華に男でもいようものなら、まず彼奴が黙っておらぬ」
「ナルホド。んじゃ、逆にあの二人ってデキてたりしねーの?」
それに関しては太公望自身も言い淀んだ。姫発が言うように誰が見てもあの二人は仲睦まじい。兄妹弟子としての絆なのか、それとも別の感情か。本人達を前に直接聞くのも気が引けているのだ。
「今のところはそういった話は聞かんな」
「ふーん。じゃあ、俺にもまだ勝敗はあるってことだな!霧華ちゃんって可愛いしなんかこう、守ってあげたくなるよなあ。近くに寄るといい匂いがするし、長くて艶のある髪、肌もキレイで滑らか……将来有望なプリンちゃんになると俺は思う!」
「わしに力説するな、だあほめ。全くおぬしの頭は万年春のようだのう」
女性に対するこの情熱を少しでも机上に注いでくれないかと哀愁の溜息を漏らす。そんな太公望の杞憂も知らず、姫発は話を続けた。
「でもあの番犬が邪魔だよなあ」
「…おぬし今に八つ裂きにされるぞ」
「あのおっかねえ番犬さえいなけりゃなあ…手出せるってのによ」
机の天板に頬杖をつき、さも残念だと嘆きの声を上げる姫発。
直後、太公望は妙な気配にぞくりと身を震わせた。姫発はまだ気づいていない。ほぼほぼ殺気に近いそちらへ目を向けると、いつの間に入ってきたのか煙草を銜えた天化が立っていた。彼は素知らぬふりでポケットに手を入れて火の着いた煙草をふかしている。
「二人してサボりかい」
「ぎゃあああ?!」
声をかけられてようやっと天化の存在に気が付いた姫発が大きな叫び声をあげる。これを聞きつけた者が居ればどやどやと執務室に駆け込んできてしまう。だが、幸いにもそれはこの室内のみで納まったようだ。この叫び声に天化と太公望が逆に驚く。まるで鬼を見たかのような反応に天化は気を悪くして眉を顰めた。
「人の顔見て叫ぶなんて心外さ。そんなに俺っちの顔が怖いんか」
「い、いやいやっ!びっくりしただけだ!オマエがいるなんて思ってなくてだな」
「へえ…そうかい。つーことは、俺っちに聞かれたらマズイ話でもしてたんさ?」
双眼をすっと細めた天化が笑う。が、その目はどう見ても笑っていない。反射的に太公望が後ずさった。慌てふためく姫発の態度は明らかに怪しすぎる。少しは冷静にならぬかと心の叫びを上げた。
「べっべべべべべつにしてないよな!なっ、太公望!」
「わしに話を振るな!」
「そこまで慌てるっつーことはヤマシイ話でもしてたんさね」
首が取れそうな程ぶんぶんと振り回しこれを否定。もはや自分で認めているようなものだ。本当に武王がこれで大丈夫かと思いたくもなる軍師。
「ないない!勘違いだ!」
「……まあ、いーさ」
疑いの目をじろりと向けられ、冷や汗まで流し始めた。これは問い詰められたら、あること無いこと喋り始めてしまいそうだ。何よりも八つ裂きにされかねない。そうなる前にと軍師は助けを出した。
「天化、霧華が先程おぬしを探しておったぞ」
「ん、そーいや稽古の約束してたさ」
「うむ。早くせぬと待ちくたびれておるかもしれぬ」
此処へは稽古場に向かう途中立ち寄ったのだと言い、天化が踵を返した。その背を見て二人がほっとしたのも束の間。ドアの前で立ち止まった天化が「王サマ」と振り向きざまに声をかける。一段と低い声に二人の心臓が跳ね上がった。
煙草を親指と人差し指でつまみ、煙を吐き出した天化の顔は笑っている。
「霧華に手ぇ出したら噛みつく犬がいるから気ぃつけるさ」
これは只の脅しじゃない。瞬時にそう感じ取った二人は暫くの間固まっていたという。