封神演義(WJ)
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鉄壁の守護者
「天化よ」
「ん、どうしたんさ師叔?マジな顔しちゃって」
「……おぬしに一つ言っておきたいことがあってな」
「なんさ」
腕を組む太公望の顔は険しいもの。眉を眉間に顰め、重い溜息をついた。太公望の目前には天化とその足元で目を回している土行孫。彼は完全に気絶しているようだ。
天化の右手に握られている莫邪の宝剣が事の顛末を物語っている。シュンッと音を立てて光の刀剣が消えた。
「妹弟子の為とは言え、少々、否、かなりやりすぎではないか」
「……どこが?」
「その足元が見えておらんのか!だあほ!」
天化に追い回されている土行孫を見かけたのが事の発端。逃亡者は必死な形相であったが、追跡者の顔も恐ろしい程に真剣であった。大方の理由は察することができたのだが、太公望自身も逃亡劇に巻き込まれ、天化から放たれる宝剣の一撃を寸での所でかわせたのは太公望のみ。哀れ、土行孫は風圧に吹っ飛ばされてしまった。
普段は割かし仲の良いこの二人だが、どうも妹弟子の事となると容赦がなくなる。
「このモグラが悪いんさ。夜中に霧華の部屋に忍び込むとか言ってやがった」
「……こやつも懲りんやつだのう。自業自得ではないか」
この西岐改め周には色男が二人居る。見目麗しゅう女性をデートに誘い、或いは不意打ちで抱き着く。一人はここに居る土行孫、もう一人は周の王に就いた姫発だ。
どちらに対してかは分からぬ溜息を太公望はついた。
「天化よ。可愛い妹弟子に悪い虫が付くのが気に喰わんというおぬしの気持ちもわからんでもない。だが、ちとやりすぎだ」
「……師叔。あいつ、警戒心が薄いんさ。一度敵じゃねぇとわかったらすーぐ心許しちまう。そいつらん中には下心ある奴だっているのによ。気が気じゃねぇんさ」
妹弟子を思うあまりに大袈裟な行動だと。もう幼い子どもではないのだからとやんわり諭そうと口を開きかけた太公望。しかし、次に聞かされた事実に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「あいつ、昔誘拐されそうになったんさ」
「はっ?」
「師匠のお使いで人間界に降りて、そん時にちょっとばかし目放した隙に知らない男が霧華を連れて行こうとしたんさ」
幸いにも事無きを得たが、当の本人は事の深刻さを理解していない様子だったという。まだ純粋な子どもだったせいもあるが、それにしてもだ。片手で顔を覆った兄弟子が苦労の溜息をつく。
「アメちゃんやるからついて来いって言われたら、ホイホイついていく気がしてならねえ」
「いや、流石に今はそこまで迂闊ではないだろう……たぶん」
太公望にはしっかり者のイメージが定着している。兄弟子が言うようにフワフワとした危機感のない彼女は想像できない。それは未だ彼女の一面を知らないということでもあった。
「霧華は人がいいんさ。だからつけこまれやすい。俺っちが守ってやんねーと」
「…おぬし」
相当な妹弟子馬鹿、と言いかけた所である光景を太公望が目撃した。廊下の先、丁字路になった場所で霧華と武王が共に歩いていた。遠目でもわかる楽しそうな二人の様子。話の内容までは聞こえないが、武王がさりげなく霧華の腰に手を回して抱き寄せようとしたのを天化は見逃さなかった。
宝剣を握る手に力を込めると、光の刃が瞬時に閃光を解き放つ。それに気づいた太公望は天化を羽交い絞めにして押さえ、落ち着けと宥めた。
「早まるな天化!相手は一応武王であろう!」
「師叔、離してくれ!あんの女たらし今日こそ成敗してくれるさ!」
「ならぬ!今のおぬしでは武王を輪切りにしかねん!」
二人があーだこーだと言い争っているうちに、天化の足元で伸びていた土行孫はそそくさと退散していた。この騒ぎに気付いた武王は顔を青ざめて、一目散に逃げていったという。
慈悲の道士には鉄壁の守護者がついている。
周ではそんな噂が立っていたそうだ。
「天化よ」
「ん、どうしたんさ師叔?マジな顔しちゃって」
「……おぬしに一つ言っておきたいことがあってな」
「なんさ」
腕を組む太公望の顔は険しいもの。眉を眉間に顰め、重い溜息をついた。太公望の目前には天化とその足元で目を回している土行孫。彼は完全に気絶しているようだ。
天化の右手に握られている莫邪の宝剣が事の顛末を物語っている。シュンッと音を立てて光の刀剣が消えた。
「妹弟子の為とは言え、少々、否、かなりやりすぎではないか」
「……どこが?」
「その足元が見えておらんのか!だあほ!」
天化に追い回されている土行孫を見かけたのが事の発端。逃亡者は必死な形相であったが、追跡者の顔も恐ろしい程に真剣であった。大方の理由は察することができたのだが、太公望自身も逃亡劇に巻き込まれ、天化から放たれる宝剣の一撃を寸での所でかわせたのは太公望のみ。哀れ、土行孫は風圧に吹っ飛ばされてしまった。
普段は割かし仲の良いこの二人だが、どうも妹弟子の事となると容赦がなくなる。
「このモグラが悪いんさ。夜中に霧華の部屋に忍び込むとか言ってやがった」
「……こやつも懲りんやつだのう。自業自得ではないか」
この西岐改め周には色男が二人居る。見目麗しゅう女性をデートに誘い、或いは不意打ちで抱き着く。一人はここに居る土行孫、もう一人は周の王に就いた姫発だ。
どちらに対してかは分からぬ溜息を太公望はついた。
「天化よ。可愛い妹弟子に悪い虫が付くのが気に喰わんというおぬしの気持ちもわからんでもない。だが、ちとやりすぎだ」
「……師叔。あいつ、警戒心が薄いんさ。一度敵じゃねぇとわかったらすーぐ心許しちまう。そいつらん中には下心ある奴だっているのによ。気が気じゃねぇんさ」
妹弟子を思うあまりに大袈裟な行動だと。もう幼い子どもではないのだからとやんわり諭そうと口を開きかけた太公望。しかし、次に聞かされた事実に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「あいつ、昔誘拐されそうになったんさ」
「はっ?」
「師匠のお使いで人間界に降りて、そん時にちょっとばかし目放した隙に知らない男が霧華を連れて行こうとしたんさ」
幸いにも事無きを得たが、当の本人は事の深刻さを理解していない様子だったという。まだ純粋な子どもだったせいもあるが、それにしてもだ。片手で顔を覆った兄弟子が苦労の溜息をつく。
「アメちゃんやるからついて来いって言われたら、ホイホイついていく気がしてならねえ」
「いや、流石に今はそこまで迂闊ではないだろう……たぶん」
太公望にはしっかり者のイメージが定着している。兄弟子が言うようにフワフワとした危機感のない彼女は想像できない。それは未だ彼女の一面を知らないということでもあった。
「霧華は人がいいんさ。だからつけこまれやすい。俺っちが守ってやんねーと」
「…おぬし」
相当な妹弟子馬鹿、と言いかけた所である光景を太公望が目撃した。廊下の先、丁字路になった場所で霧華と武王が共に歩いていた。遠目でもわかる楽しそうな二人の様子。話の内容までは聞こえないが、武王がさりげなく霧華の腰に手を回して抱き寄せようとしたのを天化は見逃さなかった。
宝剣を握る手に力を込めると、光の刃が瞬時に閃光を解き放つ。それに気づいた太公望は天化を羽交い絞めにして押さえ、落ち着けと宥めた。
「早まるな天化!相手は一応武王であろう!」
「師叔、離してくれ!あんの女たらし今日こそ成敗してくれるさ!」
「ならぬ!今のおぬしでは武王を輪切りにしかねん!」
二人があーだこーだと言い争っているうちに、天化の足元で伸びていた土行孫はそそくさと退散していた。この騒ぎに気付いた武王は顔を青ざめて、一目散に逃げていったという。
慈悲の道士には鉄壁の守護者がついている。
周ではそんな噂が立っていたそうだ。