封神演義(WJ)
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回想録 小さな煌めき
昼を過ぎた頃から西岐城内が騒がしくなった。武王がまたこっそり抜け出して何処かへ行ってしまったらしい。額の血管が今にもブチ切れそうな周公旦から殺気が漂っていたのは言うまでもない。
この日は珍しく師叔が真面目に仕事に取り組んでたもんだから、余計に怒りを買っているようだった。
「あのだあほめ!わしがこうして働いているというに、武王がサボっていては示しがつかんであろう!」
自分の事は棚に上げるんだなとは言わずにおいた。んで、運悪くそこに居合わせた俺っちに王サマの捜索命令が下る。
二つ返事で城を出た後、新しい煙草に火を点けた。吐き出した白い煙が空に溶けていく。気持ちのいい青空が頭上に広がっていた。
さて、行き先は大体見当がつく。前にもあの店にいたし、今日も多分そこだろう。
町の人々は活気づいていた。賑わいを見せるその様が故郷に似た雰囲気を醸し出す。ただ、自分の一族が住んでいた町はもうこんな風ではないんだろう。
とりあえず町をぐるりと回ってから例の店に行く道筋を立てた。通りを歩いて、角を曲がる。そこは露店が並んでいて人の往来も多い。野菜や篭といった類の日用品が売られていた。
見慣れない面白そうな品もあって、少しだけ立ち止まるとすかさず店主が声をかけてくるもんだから。冷やかしかと嫌な顔をされないうちに退散する。そんなやり取りを二、三回繰り返した後、前方の露店にしゃがみ込んで商品を見ている妹弟子の姿を見つけた。
何を熱心に見ているのかと思えば。成る程、女の子が好きそうなもの。キラキラとした飾り物が所狭しと陳列されている。簪に耳飾り、首飾りや腕輪に指輪。こういうモンに興味を持つってことは、霧華も年頃の女の子ってことかね。
店のおっちゃんはただニコニコして霧華を見守っていた。この様子だと結構な時間見てたんじゃないだろうか。買うかどうかもわからない客への態度にしてはマシな方だ。
同じように隣にしゃがんで「へー色々あるんだな」と飾り物をざっと見渡した。俺っちの存在に今気づいたのか、振り向いた霧華は驚いていた。気配消していたつもりはないけど。
「てっ天兄!…いつから居たの?」
「ついさっき。ちょっとばかし用事があって。そんでここ歩いてたら霧華見つけたんさ」
「そ、そうなんだ。……えと、私別に」
もごもごとバツが悪そうに言い淀む。まるで飾り物を興味津々に見ていたことを悪いことだと思っているみたいに。確かに師父のトコに居たからオシャレに縁もなかっただろうしな。だからって、何も悪いことじゃない。
霧華の前髪をくしゃりと撫でる。猫みたいに柔らかい髪の毛で、一度クセが付くと直りにくいと言ってた。
「なに慌ててるんさ。女の子だったらこーゆうのに興味持つっしょ」
「う、ん。……でも、私はお洒落している暇はないって思ったの。これから戦う機会も多くなるだろうし、こういうのは邪魔になるかもしれないから。だから、キレイだなーって見てただけ」
別に我慢をする必要ない。そういう感情を抑えつけてまで戦いに身を投じてほしくなんてない。
この小さな飾り一つで喜ぶなら。そう思って手近な耳飾りをひょいと摘み上げ、店主に声をかけた。
「おっちゃん、これちょーだい」
「まいど」
代金と引き換えに得た耳飾りを霧華の手に乗せてやる。青緑のガラス玉が二つ連なったシンプルなもの。
両手で受け取ったそれを見て何度も瞬きを繰り返す。少し経ってから疑問を投げかけてきた。
「これ」
「それならごちゃごちゃしてないし、そう邪魔にはなんねえさ。女ってのは身だしなみが必要な時もあるだろ?」
「ありがとう……天兄。あの、今つけてもいい?」
「おう」
慣れない手つきで耳たぶにつけた飾りがキラキラと揺れていた。不思議なことに、それ一つ身に着けただけで女らしさがグッと増したような気がする。
「ん、似合ってるさ」
そう言ってやれば頬を薄紅色に染めて喜ぶ。こんなに喜んでもらえるとこっちまで嬉しくなる。
「ずっと大事にするから」
その小さな煌めきが耳元でずっと揺れていますように。
ふと浮かんだ願い事は口にせずに秘めておくことにした。
昼を過ぎた頃から西岐城内が騒がしくなった。武王がまたこっそり抜け出して何処かへ行ってしまったらしい。額の血管が今にもブチ切れそうな周公旦から殺気が漂っていたのは言うまでもない。
この日は珍しく師叔が真面目に仕事に取り組んでたもんだから、余計に怒りを買っているようだった。
「あのだあほめ!わしがこうして働いているというに、武王がサボっていては示しがつかんであろう!」
自分の事は棚に上げるんだなとは言わずにおいた。んで、運悪くそこに居合わせた俺っちに王サマの捜索命令が下る。
二つ返事で城を出た後、新しい煙草に火を点けた。吐き出した白い煙が空に溶けていく。気持ちのいい青空が頭上に広がっていた。
さて、行き先は大体見当がつく。前にもあの店にいたし、今日も多分そこだろう。
町の人々は活気づいていた。賑わいを見せるその様が故郷に似た雰囲気を醸し出す。ただ、自分の一族が住んでいた町はもうこんな風ではないんだろう。
とりあえず町をぐるりと回ってから例の店に行く道筋を立てた。通りを歩いて、角を曲がる。そこは露店が並んでいて人の往来も多い。野菜や篭といった類の日用品が売られていた。
見慣れない面白そうな品もあって、少しだけ立ち止まるとすかさず店主が声をかけてくるもんだから。冷やかしかと嫌な顔をされないうちに退散する。そんなやり取りを二、三回繰り返した後、前方の露店にしゃがみ込んで商品を見ている妹弟子の姿を見つけた。
何を熱心に見ているのかと思えば。成る程、女の子が好きそうなもの。キラキラとした飾り物が所狭しと陳列されている。簪に耳飾り、首飾りや腕輪に指輪。こういうモンに興味を持つってことは、霧華も年頃の女の子ってことかね。
店のおっちゃんはただニコニコして霧華を見守っていた。この様子だと結構な時間見てたんじゃないだろうか。買うかどうかもわからない客への態度にしてはマシな方だ。
同じように隣にしゃがんで「へー色々あるんだな」と飾り物をざっと見渡した。俺っちの存在に今気づいたのか、振り向いた霧華は驚いていた。気配消していたつもりはないけど。
「てっ天兄!…いつから居たの?」
「ついさっき。ちょっとばかし用事があって。そんでここ歩いてたら霧華見つけたんさ」
「そ、そうなんだ。……えと、私別に」
もごもごとバツが悪そうに言い淀む。まるで飾り物を興味津々に見ていたことを悪いことだと思っているみたいに。確かに師父のトコに居たからオシャレに縁もなかっただろうしな。だからって、何も悪いことじゃない。
霧華の前髪をくしゃりと撫でる。猫みたいに柔らかい髪の毛で、一度クセが付くと直りにくいと言ってた。
「なに慌ててるんさ。女の子だったらこーゆうのに興味持つっしょ」
「う、ん。……でも、私はお洒落している暇はないって思ったの。これから戦う機会も多くなるだろうし、こういうのは邪魔になるかもしれないから。だから、キレイだなーって見てただけ」
別に我慢をする必要ない。そういう感情を抑えつけてまで戦いに身を投じてほしくなんてない。
この小さな飾り一つで喜ぶなら。そう思って手近な耳飾りをひょいと摘み上げ、店主に声をかけた。
「おっちゃん、これちょーだい」
「まいど」
代金と引き換えに得た耳飾りを霧華の手に乗せてやる。青緑のガラス玉が二つ連なったシンプルなもの。
両手で受け取ったそれを見て何度も瞬きを繰り返す。少し経ってから疑問を投げかけてきた。
「これ」
「それならごちゃごちゃしてないし、そう邪魔にはなんねえさ。女ってのは身だしなみが必要な時もあるだろ?」
「ありがとう……天兄。あの、今つけてもいい?」
「おう」
慣れない手つきで耳たぶにつけた飾りがキラキラと揺れていた。不思議なことに、それ一つ身に着けただけで女らしさがグッと増したような気がする。
「ん、似合ってるさ」
そう言ってやれば頬を薄紅色に染めて喜ぶ。こんなに喜んでもらえるとこっちまで嬉しくなる。
「ずっと大事にするから」
その小さな煌めきが耳元でずっと揺れていますように。
ふと浮かんだ願い事は口にせずに秘めておくことにした。