がんばれゴエモン
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
赤い髪紐
どうしよう。困ったなあ。あの時ちゃんと返しておけば良かった。
私の手元には赤い髪紐で花を模った一本の飾り簪がある。
真新しいそれを見つめて、溜息を漏らす。
相手に突き返す訳にもいかなかった。だけど、私はこれを受け取る訳にはいかない。
「キリカ殿でござる」
「キリカ、どうしたんでい。そんな深刻そうな顔しちまって」
「…あ。サスケさんにゴエモンさん。実は」
私は町へ買い物に出た際の出来事を二人に話した。
万屋で髪紐を買おうとしたら、店に居た若い男の人に突然想いを告げられた事。
受け取って欲しいと私にこの簪を押し付け、慌しく去って行った事。
返そうにも辺りにその人は見当たらず、仕方なく帰ろうとした事。
おまけに目的の髪紐は買い忘れてしまった事。
そしてその帰り道の途中でこの二人に会ったという事。
「それは一目惚れでござるな」
「ええっ。本当にそんなことってあるんですか?」
「現に今起きているでござろう」
「貰っておくわけにはいかねえのかい?」
「私、受け取れません。私を好いてくれる気持ちは嬉しいけど、私は此処の人間じゃないし」
いずれは元の場所へ帰る身なのだから。親しい間柄になるわけにもいかない。
どうしたらいいのかと私は俯いてしまった。私一人ではその人を探し出せない。
ふと、頭に手の平の温かい熱を感じた。
顔を上げると、ゴエモンさんが笑っていた。
「だったらそいつを探し出して、返しに行こうぜ」
「拙者も助太刀致すでござる」
「ゴエモンさん、サスケさん…いいんですか?」
「困ってる人は助けねえとな」
「キリカ殿、その男はどんな出で立ちでござるか」
二人の優しさに思わず涙が溢れそうになった。
それをぐっと堪えて、さっきの男の人の格好を思い浮かべる。
確か、大きな風呂敷包みを背負っていた。
「鼠色の大きい風呂敷包みを背負っていて」
「それから?」
「髷は短くて」
「背格好はどのくらいでござろうか」
「うーんと…。あ、丁度あのくらいの」
私が示した方向を二人が振り返った。
そこに居たのは、大きな風呂敷包みを背負った髷の短い男の人。
「あの人だ」
「よし、呼んでくるぜ。おーい!そこのあんた!」
大した確認もせずにゴエモンさんはその人を呼びに行ってしまった。
もし違う人だったらどうしよう。でも、こちらを向いた顔を見たらその心配は必要なかったみたい。
嬉々とした、それでも恥ずかしそうな表情をした男の人が私の方へ駆けてきた。
「あのっ、さっきは急にすみません。お名前を聞くのも忘れちゃって」
風呂敷包みを背負ったまま、早口にその人は喋り出す。さっきもこんな感じに一方的に喋っていた。
会話の頃合を見計らって、私はさっきの簪を目の前に差し出した。
訝しげな表情で簪と私の顔を見比べる。
「ごめんなさい。お気持ちは嬉しいのですが、私にはこれを受け取る事は出来ません」
みるみるうちに男の人の表情が沈んでいった。
胸が痛くなるけれど、本当にこればかりはこうするしかないもの。
しばらくの間簪は私の手にあったけれど、やがて元の持ち主の手へ渡った。
「そうですか…いえ、わざわざすみません」
「あの、本当に御免なさい」
「貴女は悪くありません。ぼくが勝手に一目惚れして、困らせてしまったのだから。うやむやにされるよりも、本音を聞かせてもらえて良かった。それじゃあ、旅の途中なので。お元気で」
最後に笑顔を見せてくれたけれど、それもどこか切ないものだった。
本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。でも、仕方が無いもの。
「あれは行商人でござるな」
「行商人?各地を歩いて、品物を売る人のこと?」
「さようでござる。…ところで、ゴエモン殿はどこに?」
姿が見当たらない、と思ったらいつの間にか私の隣に立っていた。
ゴエモンさんは時々神出鬼没だからこうしてびっくりさせられることがある。
「ゴエモン殿、どこへ行っていたでござるか」
「ちょいと野暮用でな。ああ、キリカ。これお前にやるよ」
「なんですか?」
ゴエモンさんが私の手の平に乗せたのは金糸が織り込まれている一本の赤い髪紐だった。
どうしてかと顔を見上げるとゴエモンさんは目を細めて笑う。
「さっき買い忘れたって言ってたじゃねえか。ちょうど見っけたからよ」
「有難うございます。もうそろそろ髪紐が切れそうで…。今度お礼しますね」
「まあ気にすんなって。なんだかんだで世話になってるしな」
むしろ私の方がお世話になっているのに。
ゴエモンさんは優しい人なんだなと改めて思えた日だった。
どうしよう。困ったなあ。あの時ちゃんと返しておけば良かった。
私の手元には赤い髪紐で花を模った一本の飾り簪がある。
真新しいそれを見つめて、溜息を漏らす。
相手に突き返す訳にもいかなかった。だけど、私はこれを受け取る訳にはいかない。
「キリカ殿でござる」
「キリカ、どうしたんでい。そんな深刻そうな顔しちまって」
「…あ。サスケさんにゴエモンさん。実は」
私は町へ買い物に出た際の出来事を二人に話した。
万屋で髪紐を買おうとしたら、店に居た若い男の人に突然想いを告げられた事。
受け取って欲しいと私にこの簪を押し付け、慌しく去って行った事。
返そうにも辺りにその人は見当たらず、仕方なく帰ろうとした事。
おまけに目的の髪紐は買い忘れてしまった事。
そしてその帰り道の途中でこの二人に会ったという事。
「それは一目惚れでござるな」
「ええっ。本当にそんなことってあるんですか?」
「現に今起きているでござろう」
「貰っておくわけにはいかねえのかい?」
「私、受け取れません。私を好いてくれる気持ちは嬉しいけど、私は此処の人間じゃないし」
いずれは元の場所へ帰る身なのだから。親しい間柄になるわけにもいかない。
どうしたらいいのかと私は俯いてしまった。私一人ではその人を探し出せない。
ふと、頭に手の平の温かい熱を感じた。
顔を上げると、ゴエモンさんが笑っていた。
「だったらそいつを探し出して、返しに行こうぜ」
「拙者も助太刀致すでござる」
「ゴエモンさん、サスケさん…いいんですか?」
「困ってる人は助けねえとな」
「キリカ殿、その男はどんな出で立ちでござるか」
二人の優しさに思わず涙が溢れそうになった。
それをぐっと堪えて、さっきの男の人の格好を思い浮かべる。
確か、大きな風呂敷包みを背負っていた。
「鼠色の大きい風呂敷包みを背負っていて」
「それから?」
「髷は短くて」
「背格好はどのくらいでござろうか」
「うーんと…。あ、丁度あのくらいの」
私が示した方向を二人が振り返った。
そこに居たのは、大きな風呂敷包みを背負った髷の短い男の人。
「あの人だ」
「よし、呼んでくるぜ。おーい!そこのあんた!」
大した確認もせずにゴエモンさんはその人を呼びに行ってしまった。
もし違う人だったらどうしよう。でも、こちらを向いた顔を見たらその心配は必要なかったみたい。
嬉々とした、それでも恥ずかしそうな表情をした男の人が私の方へ駆けてきた。
「あのっ、さっきは急にすみません。お名前を聞くのも忘れちゃって」
風呂敷包みを背負ったまま、早口にその人は喋り出す。さっきもこんな感じに一方的に喋っていた。
会話の頃合を見計らって、私はさっきの簪を目の前に差し出した。
訝しげな表情で簪と私の顔を見比べる。
「ごめんなさい。お気持ちは嬉しいのですが、私にはこれを受け取る事は出来ません」
みるみるうちに男の人の表情が沈んでいった。
胸が痛くなるけれど、本当にこればかりはこうするしかないもの。
しばらくの間簪は私の手にあったけれど、やがて元の持ち主の手へ渡った。
「そうですか…いえ、わざわざすみません」
「あの、本当に御免なさい」
「貴女は悪くありません。ぼくが勝手に一目惚れして、困らせてしまったのだから。うやむやにされるよりも、本音を聞かせてもらえて良かった。それじゃあ、旅の途中なので。お元気で」
最後に笑顔を見せてくれたけれど、それもどこか切ないものだった。
本当に申し訳ない気持ちで一杯だ。でも、仕方が無いもの。
「あれは行商人でござるな」
「行商人?各地を歩いて、品物を売る人のこと?」
「さようでござる。…ところで、ゴエモン殿はどこに?」
姿が見当たらない、と思ったらいつの間にか私の隣に立っていた。
ゴエモンさんは時々神出鬼没だからこうしてびっくりさせられることがある。
「ゴエモン殿、どこへ行っていたでござるか」
「ちょいと野暮用でな。ああ、キリカ。これお前にやるよ」
「なんですか?」
ゴエモンさんが私の手の平に乗せたのは金糸が織り込まれている一本の赤い髪紐だった。
どうしてかと顔を見上げるとゴエモンさんは目を細めて笑う。
「さっき買い忘れたって言ってたじゃねえか。ちょうど見っけたからよ」
「有難うございます。もうそろそろ髪紐が切れそうで…。今度お礼しますね」
「まあ気にすんなって。なんだかんだで世話になってるしな」
むしろ私の方がお世話になっているのに。
ゴエモンさんは優しい人なんだなと改めて思えた日だった。