リズム怪盗R
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Bon Anniversaire
キリカの頭上を鳩が飛び立っていった。
羽音に驚き、上を向くとその後を追いかけるように白い鳩が飛んでいるのが見えた。
辺りは夕暮れに包まれている。
彼らもねぐらに帰るのだろうと同じ方向に飛び去る鳩の群れを見送っていた。
手首を返して腕時計を見る。
長い針が英数字の2の文字を指していた。
『今日の16時半にヴァンドーム広場で』
一昨日にそう約束したのだが、彼はまだ来ていなかった。
携帯電話に連絡を入れようか。
遅れるのは仕事をしている自分の方だと思っていた。
それゆえに余計に何かあったのではないかと心配をしてしまうもの。
しかし、相手を急かす真似は極力したくないと考えていた。
今日は早上がりの日でもないのに、店主が『16時に上がっていいよ』と唐突に告げた。
何がなんても早すぎると遠慮したのだが。
「いいから、今日は特別な日なんだろ!」と、店を半ば追い出された。
おかげで待ち合わせに遅れるずにはすんだ。
しかし、肝心の待ち合わせ相手がいなくては意味がない。
一羽の鳩がキリカの足元に下りてきた。
首を上下に振りながら千鳥足になりながら近づいてくる。
しかし、キリカが餌を持っていないとわかったのか遠ざかっていった。
やはりメールを入れてみようか。
すぐに返事は来ないだろうが、連絡を入れておいて損はないだろう。
鞄から携帯を取り出そうとした時、さっきの鳩がはさばさと羽ばたいていった。
それと同時に、キリカの視界が赤い色に包まれる。
甘い花の香りが肺に飛び込んできた。
「ごめん。ちょっと遅くなっちゃったね」
赤いバラの花束から見えた顔は待ち人の彼。
ボーラーハットに紺色のスーツを身に纏ったRだ。
彼は花束を抱え直し、ため息をひとつ。
「恋人の誕生日に遅刻するなんて最低だな」
「気にしないで、そんなに待ってないんだし」
「君は本当に優しい女性だよ。普通なら真っ赤になって怒るっていうのに」
白い包装紙に包んだバラの花束は同じく赤いリボンが結ばれている。
改めてその花束をキリカに差し出した。
ひとつひとつの花が見事な花を咲かせている。
しかし、キリカはこの花に見覚えがあった。
それはいつも見ているからこそ急には思い出せなかったもの。
そういえば、昼から上がったときに店のバラが大量に売れていた。
今朝仕入れたばかりの赤いバラのバケツが空っぽになっていたのだ。
店主が「若い男の人がプレゼントに買っていったのよ。バラの花束なんて素敵ねえ」と言っていた。
買い付けたのはどうやら彼だったようだ。
それを思い出したのと同時に、やけに店主がニヤニヤしていたのを思い出してしまった。
「R、ありがとう。こんなに素敵な花束を誕生日にもらえるなんて……夢みたい」
「君の喜ぶ顔が見れて僕も嬉しいよ。何よりもその笑顔が一番好きだし」
何の躊躇いもなくRは口説き文句を使ってくる。
いくらフランスの血を半分持っているとはいえ、半分は奥ゆかしい日本の血が体に流れている。
この手の台詞にはどうも慣れないというかくすぐったい。
特に好いている相手から言われては顔の緩みが抑えられないというもの。
顔を隠すようにキリカは花束へ視線を落とした。
「プレゼントはこれだけじゃないんだ。もう一つ、とっておきの場所に連れて行ってあげるよ。さ、急いで」
キリカの手を引いたRはチュイルリー庭園の方へ彼女を導いていく。
足早に進む彼についていくキリカは小走りになっていた。
庭園を抜けた先にはセーヌ川が流れている。
そこにはディナークルーズがちょうど停泊していた。
橋から眺めるそれはいつもと変わらない、同じ風景だと思っていた。
だが、それは昼間の話。
今は夕陽に染められたオレンジ色の川がきらきらと宝石が波打つように輝いている。
水面には真っ赤な太陽が映り込む。
「きれい」
思わず漏れた一言。
キリカはうっとりとその景色を眺めていた。
「この時間にだけ見られる景色なんだ。写真や絵より実際に見る方がとても美しい。間にあって良かったよ」
「こんなに綺麗な景色見たことがないわ。夕日が沈んでいく、一刻一刻違う表情を見せてくれる……素敵」
パリの朝焼けや夜空も素晴らしいが、夕焼けに染まるパリもまた良いものだ。
この時間に訪れることはなかなか難しいが、今日、この日に見ることができて本当に良かったと思っている。
「ありがとう。今日は最高の誕生日だわ」
「どういたしまして。僕も君と一緒に見ることができて良かった」
Bon Anniversaire.
キリカの頭上を鳩が飛び立っていった。
羽音に驚き、上を向くとその後を追いかけるように白い鳩が飛んでいるのが見えた。
辺りは夕暮れに包まれている。
彼らもねぐらに帰るのだろうと同じ方向に飛び去る鳩の群れを見送っていた。
手首を返して腕時計を見る。
長い針が英数字の2の文字を指していた。
『今日の16時半にヴァンドーム広場で』
一昨日にそう約束したのだが、彼はまだ来ていなかった。
携帯電話に連絡を入れようか。
遅れるのは仕事をしている自分の方だと思っていた。
それゆえに余計に何かあったのではないかと心配をしてしまうもの。
しかし、相手を急かす真似は極力したくないと考えていた。
今日は早上がりの日でもないのに、店主が『16時に上がっていいよ』と唐突に告げた。
何がなんても早すぎると遠慮したのだが。
「いいから、今日は特別な日なんだろ!」と、店を半ば追い出された。
おかげで待ち合わせに遅れるずにはすんだ。
しかし、肝心の待ち合わせ相手がいなくては意味がない。
一羽の鳩がキリカの足元に下りてきた。
首を上下に振りながら千鳥足になりながら近づいてくる。
しかし、キリカが餌を持っていないとわかったのか遠ざかっていった。
やはりメールを入れてみようか。
すぐに返事は来ないだろうが、連絡を入れておいて損はないだろう。
鞄から携帯を取り出そうとした時、さっきの鳩がはさばさと羽ばたいていった。
それと同時に、キリカの視界が赤い色に包まれる。
甘い花の香りが肺に飛び込んできた。
「ごめん。ちょっと遅くなっちゃったね」
赤いバラの花束から見えた顔は待ち人の彼。
ボーラーハットに紺色のスーツを身に纏ったRだ。
彼は花束を抱え直し、ため息をひとつ。
「恋人の誕生日に遅刻するなんて最低だな」
「気にしないで、そんなに待ってないんだし」
「君は本当に優しい女性だよ。普通なら真っ赤になって怒るっていうのに」
白い包装紙に包んだバラの花束は同じく赤いリボンが結ばれている。
改めてその花束をキリカに差し出した。
ひとつひとつの花が見事な花を咲かせている。
しかし、キリカはこの花に見覚えがあった。
それはいつも見ているからこそ急には思い出せなかったもの。
そういえば、昼から上がったときに店のバラが大量に売れていた。
今朝仕入れたばかりの赤いバラのバケツが空っぽになっていたのだ。
店主が「若い男の人がプレゼントに買っていったのよ。バラの花束なんて素敵ねえ」と言っていた。
買い付けたのはどうやら彼だったようだ。
それを思い出したのと同時に、やけに店主がニヤニヤしていたのを思い出してしまった。
「R、ありがとう。こんなに素敵な花束を誕生日にもらえるなんて……夢みたい」
「君の喜ぶ顔が見れて僕も嬉しいよ。何よりもその笑顔が一番好きだし」
何の躊躇いもなくRは口説き文句を使ってくる。
いくらフランスの血を半分持っているとはいえ、半分は奥ゆかしい日本の血が体に流れている。
この手の台詞にはどうも慣れないというかくすぐったい。
特に好いている相手から言われては顔の緩みが抑えられないというもの。
顔を隠すようにキリカは花束へ視線を落とした。
「プレゼントはこれだけじゃないんだ。もう一つ、とっておきの場所に連れて行ってあげるよ。さ、急いで」
キリカの手を引いたRはチュイルリー庭園の方へ彼女を導いていく。
足早に進む彼についていくキリカは小走りになっていた。
庭園を抜けた先にはセーヌ川が流れている。
そこにはディナークルーズがちょうど停泊していた。
橋から眺めるそれはいつもと変わらない、同じ風景だと思っていた。
だが、それは昼間の話。
今は夕陽に染められたオレンジ色の川がきらきらと宝石が波打つように輝いている。
水面には真っ赤な太陽が映り込む。
「きれい」
思わず漏れた一言。
キリカはうっとりとその景色を眺めていた。
「この時間にだけ見られる景色なんだ。写真や絵より実際に見る方がとても美しい。間にあって良かったよ」
「こんなに綺麗な景色見たことがないわ。夕日が沈んでいく、一刻一刻違う表情を見せてくれる……素敵」
パリの朝焼けや夜空も素晴らしいが、夕焼けに染まるパリもまた良いものだ。
この時間に訪れることはなかなか難しいが、今日、この日に見ることができて本当に良かったと思っている。
「ありがとう。今日は最高の誕生日だわ」
「どういたしまして。僕も君と一緒に見ることができて良かった」
Bon Anniversaire.