リズム怪盗R
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花屋の娘と探偵
さわさわと背の高い街路樹の葉を揺らしていく風。
今日の日差しは特別強くなくて、過ごしやすい昼下がり。
休日に部屋の窓から眺めているだけでは勿体無い。
こんな日はカフェテラスでのんびりしたいな。
『思い立ったが吉日』
これは日本の諺。
何かを始めようと思ったら、すぐに取り掛かるのが良いと母に教えられた。
普段は中々行動できないのだけれど、たまにはいいわね。
無地のワンピースにお気に入りのベージュ色のストローハット。
外出用の小さなバッグを肩にかけて私は散歩に出かけることにした。
アスファルトに木漏れ日がゆらゆらと揺れている。
気持ちのいい風が吹いてきた。
やっぱり外に出かけて正解。部屋に閉じこもっていたら感じられなかった。
さて、どこのカフェに行こうか。
いつもの馴染みの店にするか。それとも新しく開拓しようか。
歩きながら考えていた私は普段とは違うルートを散策することにした。
一本横道に逸れるだけで見慣れない風景に変わる。
表通りより店は少ないけれど、案外こういう所に穴場の店があるもの。
早速小さな雑貨屋を見つけた。
店先に花柄の小物がたくさん置いてある。
鉛筆やハサミを始めとした文房具一式。押し葉なの栞や小物入れもある。
私はこういう雑貨を眺めているのが好きだった。
このノート、サイズも丁度いいし仕事用に使えそうだわ。
「キリカ姉さん」
ノートと丸型の小物入れをレジに持っていく途中で誰かに呼びかけられた。
振り向いたところに居たのはクロードだった。
偶然にもクロードと合流した私はオススメのカフェへ連れて行ってもらうことになった。
そこはこの通りを少し歩いた先にあるオープンカフェ。
大きなパラソルのついた席で私達は向かい合って座る。
お互いにケーキセットを注文した。
客が少ないせいか注文したセットがすぐに運ばれてくる。
「お待たせしました。ハーブティとダージリンのケーキセットで御座います。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう。クロード、砂糖使う?」
「ああ。もらう」
ダージリンティーに一杯の砂糖を入れて、スプーンでかき混ぜる。
肘をついているクロードは眉間にシワを寄せていた。
機嫌が悪いのかしら。でも、それだったら私をお茶に誘わないはず。
「久しぶりね。元気だった?」
「元気だよ。キリカ姉さんこそ暑さで体調崩してないのか」
「大丈夫。今年は涼しい日が多いもの」
「それならいいけど」
ここのブレンドしたハーブティーはちょっと甘みが強い。
でも疲れてるときにはこの甘みがいいかも。
ハーブティーを飲むフリをして、私はクロードをちらりと伺い見る。
やっぱりまだ眉間にシワがよっていた。特に怒っている様子でもなさそうだけど。
「ねえ、今日は何か相談事でもあった?」
「……なんでわかったんだ」
まさかバレるとは。なんていうまん丸な目を私に向けた。
笑いながら眉間を指差して見せる。
クロードが気まずそうに額を手で隠す仕草が可愛いものだからついつい笑っちゃう。
すると「笑うな」っていう目つきで睨まれてしまった。
「ごめんなさい。私で力になれるなら相談に乗るわよ」
「相談とか、そんなんじゃない。キリカ姉さんに聞きたい事があって」
「なにかしら?」
いつになく真剣な視線を送ってくるクロード。
一体どうしたっていうのかしら。
ティーカップをソーサラーの上に戻し、言葉を待つ。
クロードから発せられた言葉は予想もしていなかったものだった。
「キリカ姉さん、怪盗Rと知り合いって本当なのか」
「知り合い、だったら?」
「あいつは怪盗だ、犯罪者だ。そんな奴と関わりあいがあるなんてやめとけ」
「……あなたが言うほど彼は悪い人じゃないわ」
「キリカ姉さんは騙されてるんだ!」
ばんっとテーブルを叩いてクロードが立ち上がった。
その振動でカップの中の水面が激しく揺れている。
いくら客が少ないとは言え、思い切り視線がここに注がれていた。
私がそれを気にしたことに気づいたのか、クロードは咳払いをして座り直す。
クロードとは血が繋がっていないし、親戚でもない。
昔、迷子になっていたクロードを助けてあげたのが初めての出会いだった。
遊園地で迷子になって泣いていたのを宥め、親御さんを探してあげた。
それきりの出会いだと思っていたのだけど、縁が会ったのか引っ越してきた時に再び会うことが出来た。
よく覚えていたねと聞けば「顔を覚えるのは得意なんだ」と得意気に言っていた。
「キリカおねえちゃん」と最初に会った頃は呼んでくれた。
人見知りしないいい子だという印象が強かった。
短時間だけの付き合いだったのに、まだその呼び方で呼んでくれている。
私はキリカさんでもいいのだけど、クロードはそう呼びたいみたい。
最初は敬語で話してくれていた。
でも、堅苦しいのが嫌いだから普通に話してと頼んだのは私の方。
その方が私も嬉しいもの。
「キリカ姉さんは流されやすいから、あいつに言い包められてるんだ」
「そんなこと」
ないわ。でも、確かに少し口説き台詞は多いかもしれない。
だけど悪人という雰囲気を感じられなかった。
「クロードはどうして彼を目の敵にしているの?」
「あいつはパリを騒がせている愉快犯だ。パリの治安を悪化させる原因だ」
ああ、またクロードの眉間にしわが寄っている。
そんなに彼のことが嫌いなのかしら。
いえ、それは違うかも。確か親御さんが警察に勤めてると聞いた気がする。
それで正義感が強いのかもしれないわね。
「それで、彼と知り合いだったら?」
「あんまり近づくな。あと、奴について知ってることがあったら教えて欲しいんだ」
「うーん……彼のことについては私からは話せないわ。あまり彼のこと知らないの。いつもふらりとやってくるから」
「やってくる?!あいつがキリカ姉さんの部屋に上がり込んでるのか!」
Rのことになると随分ムキになっているみたい。
彼も大変ね。警察だけじゃなくて小さな探偵にまで追いかけられているなんて。
「くっそ……怪盗Rめ」
「大丈夫よ、何も盗られてないから」
「そういう問題じゃない。……絶対に捕まえてやる」
モテモテね。それがおかしくてクロードにばれないように笑った。
次に彼と会えるのは三日後。
来てくれるかしら。
「キリカ姉さん。あいつにたぶらかされないように気を付けろよ」
「わかったわ。気をつけるわね」
オレが忠告したにも関わらず、キリカ姉さんは楽しそうだった。
再会したのはつい一ヶ月前ぐらいだけど、ここ最近はやけに楽しそうだ。
「ここのお茶美味しいわね。いつも来るの?」
「時々。それでもキリカ姉さんの淹れたお茶の方が美味しい」
「ありがと。みんなそう言ってくれるわ。いっそ喫茶店でも開こうかしら」
「店開くなら手伝う」
「クロードが手伝ってくれるなら心強いわね」
みんな、という単語が引っかかる。
キリカ姉さんがお茶をご馳走するのは親しい間柄だけだと予想していた。
フランスに来てからはそこそこ長いそうだが、この土地にはまだ慣れていない。
故に、彼女が近所の人にむやみやたらお茶をご馳走したりはしないだろう。
引っ込み思案のキリカ姉さんの性格だから、そう考えられる。
ということはだ。少なくとも親しい間柄にオレも含めて二、三人はいることになる。
その中に怪盗Rも含まれているのか。
そう思うと腸が煮えくり返りそうだ。
しかも、どうやらキリカ姉さんも満更じゃなさそうだった。
キリカ姉さんを怪盗ごときに盗られたくない。
絶対に捕まえてやる、首を洗って待ってろ怪盗R!
さわさわと背の高い街路樹の葉を揺らしていく風。
今日の日差しは特別強くなくて、過ごしやすい昼下がり。
休日に部屋の窓から眺めているだけでは勿体無い。
こんな日はカフェテラスでのんびりしたいな。
『思い立ったが吉日』
これは日本の諺。
何かを始めようと思ったら、すぐに取り掛かるのが良いと母に教えられた。
普段は中々行動できないのだけれど、たまにはいいわね。
無地のワンピースにお気に入りのベージュ色のストローハット。
外出用の小さなバッグを肩にかけて私は散歩に出かけることにした。
アスファルトに木漏れ日がゆらゆらと揺れている。
気持ちのいい風が吹いてきた。
やっぱり外に出かけて正解。部屋に閉じこもっていたら感じられなかった。
さて、どこのカフェに行こうか。
いつもの馴染みの店にするか。それとも新しく開拓しようか。
歩きながら考えていた私は普段とは違うルートを散策することにした。
一本横道に逸れるだけで見慣れない風景に変わる。
表通りより店は少ないけれど、案外こういう所に穴場の店があるもの。
早速小さな雑貨屋を見つけた。
店先に花柄の小物がたくさん置いてある。
鉛筆やハサミを始めとした文房具一式。押し葉なの栞や小物入れもある。
私はこういう雑貨を眺めているのが好きだった。
このノート、サイズも丁度いいし仕事用に使えそうだわ。
「キリカ姉さん」
ノートと丸型の小物入れをレジに持っていく途中で誰かに呼びかけられた。
振り向いたところに居たのはクロードだった。
偶然にもクロードと合流した私はオススメのカフェへ連れて行ってもらうことになった。
そこはこの通りを少し歩いた先にあるオープンカフェ。
大きなパラソルのついた席で私達は向かい合って座る。
お互いにケーキセットを注文した。
客が少ないせいか注文したセットがすぐに運ばれてくる。
「お待たせしました。ハーブティとダージリンのケーキセットで御座います。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとう。クロード、砂糖使う?」
「ああ。もらう」
ダージリンティーに一杯の砂糖を入れて、スプーンでかき混ぜる。
肘をついているクロードは眉間にシワを寄せていた。
機嫌が悪いのかしら。でも、それだったら私をお茶に誘わないはず。
「久しぶりね。元気だった?」
「元気だよ。キリカ姉さんこそ暑さで体調崩してないのか」
「大丈夫。今年は涼しい日が多いもの」
「それならいいけど」
ここのブレンドしたハーブティーはちょっと甘みが強い。
でも疲れてるときにはこの甘みがいいかも。
ハーブティーを飲むフリをして、私はクロードをちらりと伺い見る。
やっぱりまだ眉間にシワがよっていた。特に怒っている様子でもなさそうだけど。
「ねえ、今日は何か相談事でもあった?」
「……なんでわかったんだ」
まさかバレるとは。なんていうまん丸な目を私に向けた。
笑いながら眉間を指差して見せる。
クロードが気まずそうに額を手で隠す仕草が可愛いものだからついつい笑っちゃう。
すると「笑うな」っていう目つきで睨まれてしまった。
「ごめんなさい。私で力になれるなら相談に乗るわよ」
「相談とか、そんなんじゃない。キリカ姉さんに聞きたい事があって」
「なにかしら?」
いつになく真剣な視線を送ってくるクロード。
一体どうしたっていうのかしら。
ティーカップをソーサラーの上に戻し、言葉を待つ。
クロードから発せられた言葉は予想もしていなかったものだった。
「キリカ姉さん、怪盗Rと知り合いって本当なのか」
「知り合い、だったら?」
「あいつは怪盗だ、犯罪者だ。そんな奴と関わりあいがあるなんてやめとけ」
「……あなたが言うほど彼は悪い人じゃないわ」
「キリカ姉さんは騙されてるんだ!」
ばんっとテーブルを叩いてクロードが立ち上がった。
その振動でカップの中の水面が激しく揺れている。
いくら客が少ないとは言え、思い切り視線がここに注がれていた。
私がそれを気にしたことに気づいたのか、クロードは咳払いをして座り直す。
クロードとは血が繋がっていないし、親戚でもない。
昔、迷子になっていたクロードを助けてあげたのが初めての出会いだった。
遊園地で迷子になって泣いていたのを宥め、親御さんを探してあげた。
それきりの出会いだと思っていたのだけど、縁が会ったのか引っ越してきた時に再び会うことが出来た。
よく覚えていたねと聞けば「顔を覚えるのは得意なんだ」と得意気に言っていた。
「キリカおねえちゃん」と最初に会った頃は呼んでくれた。
人見知りしないいい子だという印象が強かった。
短時間だけの付き合いだったのに、まだその呼び方で呼んでくれている。
私はキリカさんでもいいのだけど、クロードはそう呼びたいみたい。
最初は敬語で話してくれていた。
でも、堅苦しいのが嫌いだから普通に話してと頼んだのは私の方。
その方が私も嬉しいもの。
「キリカ姉さんは流されやすいから、あいつに言い包められてるんだ」
「そんなこと」
ないわ。でも、確かに少し口説き台詞は多いかもしれない。
だけど悪人という雰囲気を感じられなかった。
「クロードはどうして彼を目の敵にしているの?」
「あいつはパリを騒がせている愉快犯だ。パリの治安を悪化させる原因だ」
ああ、またクロードの眉間にしわが寄っている。
そんなに彼のことが嫌いなのかしら。
いえ、それは違うかも。確か親御さんが警察に勤めてると聞いた気がする。
それで正義感が強いのかもしれないわね。
「それで、彼と知り合いだったら?」
「あんまり近づくな。あと、奴について知ってることがあったら教えて欲しいんだ」
「うーん……彼のことについては私からは話せないわ。あまり彼のこと知らないの。いつもふらりとやってくるから」
「やってくる?!あいつがキリカ姉さんの部屋に上がり込んでるのか!」
Rのことになると随分ムキになっているみたい。
彼も大変ね。警察だけじゃなくて小さな探偵にまで追いかけられているなんて。
「くっそ……怪盗Rめ」
「大丈夫よ、何も盗られてないから」
「そういう問題じゃない。……絶対に捕まえてやる」
モテモテね。それがおかしくてクロードにばれないように笑った。
次に彼と会えるのは三日後。
来てくれるかしら。
「キリカ姉さん。あいつにたぶらかされないように気を付けろよ」
「わかったわ。気をつけるわね」
オレが忠告したにも関わらず、キリカ姉さんは楽しそうだった。
再会したのはつい一ヶ月前ぐらいだけど、ここ最近はやけに楽しそうだ。
「ここのお茶美味しいわね。いつも来るの?」
「時々。それでもキリカ姉さんの淹れたお茶の方が美味しい」
「ありがと。みんなそう言ってくれるわ。いっそ喫茶店でも開こうかしら」
「店開くなら手伝う」
「クロードが手伝ってくれるなら心強いわね」
みんな、という単語が引っかかる。
キリカ姉さんがお茶をご馳走するのは親しい間柄だけだと予想していた。
フランスに来てからはそこそこ長いそうだが、この土地にはまだ慣れていない。
故に、彼女が近所の人にむやみやたらお茶をご馳走したりはしないだろう。
引っ込み思案のキリカ姉さんの性格だから、そう考えられる。
ということはだ。少なくとも親しい間柄にオレも含めて二、三人はいることになる。
その中に怪盗Rも含まれているのか。
そう思うと腸が煮えくり返りそうだ。
しかも、どうやらキリカ姉さんも満更じゃなさそうだった。
キリカ姉さんを怪盗ごときに盗られたくない。
絶対に捕まえてやる、首を洗って待ってろ怪盗R!