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何でもない日だけど
赤や黄に色づいた葉がさわさわと風に揺れた。
季節は蒸し暑い夏から紅葉の時期へと移り変わった。
この世界のすま村も例に漏れず、木々が鮮やかに彩られている。
すま村から少し離れた場所――小さな森の近くに木造のベンチが一つ置かれている。
木漏れ日が差し込むその場所でシャドウは読書を嗜んでいた。
頭上から葉の掠れる音が聞こえてきた。ポッポが三羽、秋空に向かって飛んでいった。
読み終わった頁をめくろうとするが、突然姿を現したキリカに驚いてその手を止めた。
突然とは言うが、彼が本に夢中になっていたせいで、単に彼女が来た事に気づいていなかっただけかもしれない。
キリカは「お願いかくまって!」とそれだけを言うとシャドウの後ろに身を潜めてしまった。
何をそんなに慌てているのか。状況が全く読み込めずにいた。ベンチの裏にいるであろう彼女を振り返ろうとする。
だが、彼女が隠れた要因はすぐに明らかになった。前方から小さな子ども達、ネスとリュカにリンクが走ってきた。
このリンクはネス達と同じくらいの背丈だ。背が高く、凛々しい顔つきをした同じ服装の青年とは違う人物である。
まるで猫のような目をしたリンクがシャドウを見上げて聞いてきた。
「あの、キリカさん見かけなかった?」
「こっちに走っていったのを見たんだけど」
「シャドウさん何か知りませんか?」
群がってくる子ども達にたじろいでいるシャドウ。
彼らが尋ねている人物は自分のすぐ後ろにいる。だが、その本人がかくまって欲しいと言っていた。
シャドウは気づかれないように視線をちらりと後ろへ向けた。
一つ溜息をついて、彼らには首を横に振った。
「いや、見かけていない。別の場所にいるんじゃないか」
「そっかあ」
小さなリンクはしゅんとうな垂れてしまった。
彼を慰めるようにリュカとネスが顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。まだ今日は終わってないんだし」
「さ、早く次の場所を探しに行こうよ」
「うん」
彼らはシャドウにぺこりと頭を下げ、走り去って行った。
先の落ち込みはどこへやら。子どもというのは本当に気分がころころと変わるものだ。
完全に彼らの姿が見えなくなった頃にシャドウの背後からキリカが顔を出した。
「ありがとうシャドウ」
「何故彼らから逃げ回っているんだ?」
「実は、ね」
ベンチの前に回り込んだキリカはシャドウの隣に腰掛けた。
彼女は少々疲れているようでぐったりしているように見える。
「今日はハロウィンでしょ」
「ああ、そういえばそんな日だったな」
「私もお菓子を用意して、子ども達やポケモン達に配っていたんだけど」
菓子をちょうど切らした所へ運悪くさっきの彼らがやってきたと言う。
当然彼らは「トリックオアトリート!」と菓子をねだってきた。
だが、菓子を持ち合わせていないキリカが詫びるとイタズラをしようとしてきた。
些細なかわいいイタズラならまだいいが、能力を使ってのイタズラは御免蒙りたい。
それで逃げてきたというわけだ。
「人数分用意しておいたんだけど、カービィに全部食べられちゃったの」
「…それは災難だな。だが、一日中逃げ回るつもりなのか?」
キリカは冷たくなった手を擦り合わせ、首を左右に振った。
まだ雪が降っていないとはいえ、気温はぐっと冷え込んでいる。
「それだとあの子達が可哀相だから、お菓子を家に取りに行ってから渡そうと思って」
「それがいい」
その案にシャドウも同意した。菓子を貰えずに駄々をこねて、周りに当り散らされては迷惑だ。
読んでいた本に栞を挟めて静かに閉じた。もう少しで読み終わる。
シャドウの手元にある本を見てキリカが尋ねた。
「シャドウはハロウィンに参加してないんだね」
「興味がないからな。僕にとっては特別な日でも何でもない」
「ハロウィンは子どもたちの行事になってるものね」
くだらないとでも言いたげのシャドウに思わず笑みを零す。
それに少しだけ彼は眉をひそめた。小さなくしゃみが聞こえた。
キリカは両手で腕をさすり、体を震わせた。
「冷えてきたね。そろそろ家に戻ろうかな」
「それがいい」
「今朝、パンプキンスープを作ったの。良かったら飲みに来ない?」
かぼちゃのランタンを子ども達に作った際にくり抜いた中身で作ったスープだ。
ハロウィンに興味がないから来てくれないだろうか。そう思っていたが、要らぬ心配だったようだ。
「いいな。頂くとしよう」
快い返事にキリカは微笑んだ。
大きな白い手が彼女の手を包み込んだ。
その手に目を落としてからシャドウを見上げると、彼の口元が綻んでいた。
「これなら少しは温かいだろう」
「うん。ありがとうシャドウ」
二人はそのまま手を繋いで歩き出した。
手袋越しに伝わってくる体温がくすぐったいと思いながら、キリカは彼の手を握り返す。
赤や黄に色づいた葉がさわさわと風に揺れた。
季節は蒸し暑い夏から紅葉の時期へと移り変わった。
この世界のすま村も例に漏れず、木々が鮮やかに彩られている。
すま村から少し離れた場所――小さな森の近くに木造のベンチが一つ置かれている。
木漏れ日が差し込むその場所でシャドウは読書を嗜んでいた。
頭上から葉の掠れる音が聞こえてきた。ポッポが三羽、秋空に向かって飛んでいった。
読み終わった頁をめくろうとするが、突然姿を現したキリカに驚いてその手を止めた。
突然とは言うが、彼が本に夢中になっていたせいで、単に彼女が来た事に気づいていなかっただけかもしれない。
キリカは「お願いかくまって!」とそれだけを言うとシャドウの後ろに身を潜めてしまった。
何をそんなに慌てているのか。状況が全く読み込めずにいた。ベンチの裏にいるであろう彼女を振り返ろうとする。
だが、彼女が隠れた要因はすぐに明らかになった。前方から小さな子ども達、ネスとリュカにリンクが走ってきた。
このリンクはネス達と同じくらいの背丈だ。背が高く、凛々しい顔つきをした同じ服装の青年とは違う人物である。
まるで猫のような目をしたリンクがシャドウを見上げて聞いてきた。
「あの、キリカさん見かけなかった?」
「こっちに走っていったのを見たんだけど」
「シャドウさん何か知りませんか?」
群がってくる子ども達にたじろいでいるシャドウ。
彼らが尋ねている人物は自分のすぐ後ろにいる。だが、その本人がかくまって欲しいと言っていた。
シャドウは気づかれないように視線をちらりと後ろへ向けた。
一つ溜息をついて、彼らには首を横に振った。
「いや、見かけていない。別の場所にいるんじゃないか」
「そっかあ」
小さなリンクはしゅんとうな垂れてしまった。
彼を慰めるようにリュカとネスが顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。まだ今日は終わってないんだし」
「さ、早く次の場所を探しに行こうよ」
「うん」
彼らはシャドウにぺこりと頭を下げ、走り去って行った。
先の落ち込みはどこへやら。子どもというのは本当に気分がころころと変わるものだ。
完全に彼らの姿が見えなくなった頃にシャドウの背後からキリカが顔を出した。
「ありがとうシャドウ」
「何故彼らから逃げ回っているんだ?」
「実は、ね」
ベンチの前に回り込んだキリカはシャドウの隣に腰掛けた。
彼女は少々疲れているようでぐったりしているように見える。
「今日はハロウィンでしょ」
「ああ、そういえばそんな日だったな」
「私もお菓子を用意して、子ども達やポケモン達に配っていたんだけど」
菓子をちょうど切らした所へ運悪くさっきの彼らがやってきたと言う。
当然彼らは「トリックオアトリート!」と菓子をねだってきた。
だが、菓子を持ち合わせていないキリカが詫びるとイタズラをしようとしてきた。
些細なかわいいイタズラならまだいいが、能力を使ってのイタズラは御免蒙りたい。
それで逃げてきたというわけだ。
「人数分用意しておいたんだけど、カービィに全部食べられちゃったの」
「…それは災難だな。だが、一日中逃げ回るつもりなのか?」
キリカは冷たくなった手を擦り合わせ、首を左右に振った。
まだ雪が降っていないとはいえ、気温はぐっと冷え込んでいる。
「それだとあの子達が可哀相だから、お菓子を家に取りに行ってから渡そうと思って」
「それがいい」
その案にシャドウも同意した。菓子を貰えずに駄々をこねて、周りに当り散らされては迷惑だ。
読んでいた本に栞を挟めて静かに閉じた。もう少しで読み終わる。
シャドウの手元にある本を見てキリカが尋ねた。
「シャドウはハロウィンに参加してないんだね」
「興味がないからな。僕にとっては特別な日でも何でもない」
「ハロウィンは子どもたちの行事になってるものね」
くだらないとでも言いたげのシャドウに思わず笑みを零す。
それに少しだけ彼は眉をひそめた。小さなくしゃみが聞こえた。
キリカは両手で腕をさすり、体を震わせた。
「冷えてきたね。そろそろ家に戻ろうかな」
「それがいい」
「今朝、パンプキンスープを作ったの。良かったら飲みに来ない?」
かぼちゃのランタンを子ども達に作った際にくり抜いた中身で作ったスープだ。
ハロウィンに興味がないから来てくれないだろうか。そう思っていたが、要らぬ心配だったようだ。
「いいな。頂くとしよう」
快い返事にキリカは微笑んだ。
大きな白い手が彼女の手を包み込んだ。
その手に目を落としてからシャドウを見上げると、彼の口元が綻んでいた。
「これなら少しは温かいだろう」
「うん。ありがとうシャドウ」
二人はそのまま手を繋いで歩き出した。
手袋越しに伝わってくる体温がくすぐったいと思いながら、キリカは彼の手を握り返す。