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君と遇えて良かった
空中スタジアムでの乱闘を見届けた後だった。
スタジアムの外でたぬきの商人が僕に声をかけてきた。
「あ!シャドウさん、ちょっと」
「…僕か?」
「そうなんだなも。ちょうどよかった、これをキリカさんに届けて欲しいんだなも」
このたぬきの商人は確かすま村の住人だっただろうか。
名前までは覚えていないが、彼女の話によく出てきていたのは覚えている。
彼は茶色の紙袋を抱えていた。それを僕に押しつけてきた。
「僕はお店の方に戻らないといけないんだなも!だからシャドウさんが届けてくれると助かるんだなも」
「別に構わないが。…何故、僕のことを知っているんだ」
紙袋を受け取った僕は疑問を投げかけた。
僕はこのたぬきの商人とは一度も話をしたことがない。
彼は首を傾げていたが、やがて顔の周りに花を飛ばし始めた。
「いつもキリカさんがシャドウさんのこと、話してるんだなも」
「彼女が?」
「それじゃあ、お願いするんだなも!」
一体どんな話題に上っているのか、それを聞き出す前に彼は去っていってしまった。
紙袋を持ったまま僕は立ちすくんでいた。このままここに居ても仕方が無い。
彼女はスタジアムの観客席に居たはずだ。次の試合が始まるまで二十分近くあるが、まだそこにいるだろう。
観客席に人の姿はまばらだった。この方が都合がいい。彼女を探すのも造作ない。
彼女の側にはいつも黄色いポケモンがいる。それを目印にしても探しやすいだろう。
彼女の姿形を頭に思い浮かべて観客席の通路を歩く。
すぐに見つけることが出来た。一番前の席に座っていた。けれど、彼女だけではなかった。
隣に人間の男が居る。あれはファイターの一人、ソリッド・スネークか。
その男が視界に入った途端、僕は目に角を立てた。何故あの男が一緒に居る。
「オタコンの話は長い。間違った諺まで教えてくるからたまったもんじゃない」
この男の話を聞いて彼女は楽しそうに笑っていた。
気に入らない。
「…あ、シャドウ?さっきのアシストお疲れ様」
「有難う」
彼女の隣に居る男と目が合った。
睨み付けると相手も睨み返してくる。
「何か用か」
「貴様に用はない。僕はキリカに用があるんだ」
一瞬にして空気が張り詰めた。ああ、わかっている。
貴様もソニックと同様の気持ちを彼女に抱いているんだろう。
それが、気に入らない。
「お前はソニックと違って随分愛想がないようだな」
「当然だ。僕はソニックとは違う」
「あまりクールでいると嫌われるぞ」
「余計なお世話だ。早く此処から消え失せろ、邪魔だ」
男が肩をすくめた。その口元に薄い笑みを浮かべ、睨み付けてくる。
「何か不都合でもあるのか?」
「言っただろう、用があるのは貴様ではないと」
この男は隣に居る彼女を窺い、何かに気づいたように鼻で笑った。
「まるで好意を寄せているみたいな様子だな。針鼠が人間に…笑わせてくれるな」
どうやら口で言ってもわからないようだな。実力行使するしかないようだ。
この世界でカオスブラストを使ったことはないが、力の加減は出来る。
この男だけを葬り去ることぐらい、造作も無い。
僕がカオスエメラルドに触れる前に、男が観客席から下のフィールドへ飛び降りた。
感づかれたか。いや、違うようだ。
彼女の隣にいつの間にか黄色いポケモンが居た。赤い頬袋から静電気を発している。
「ビカ」
「あっ、ピカチュウ!」
吊り上げた目をしたまま、彼もフィールドへ飛び降りていった。
刹那、眩い閃光が走る。下を見れば彼の電撃を避けている男の姿。
ふん。いい気味だ。手間が省けた。
彼女は溜息をついていた。それから僕の方を見てくる。
「あの、シャドウ」
「なんだ」
「怒って、る?」
先程のやり取りを見れば誰だってわかるだろう。
いや、僕の表情が悪いのかもしれない。
一度目を閉じて、首をゆっくり左右に振った。
「用事って?」
「ああ、たぬきの商人から預かってきた」
「たぬきちさんから。あ、頼んでおいたパンとジャム」
受け取った紙袋を覗き込んで、顔を綻ばせていた。
「ありがとう」その笑顔が向けられるだけで心が温かくなる。
僕だけに見せて欲しい。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
「そう。浮かない顔、してたからどうしたのかと思って」
僕は彼女の隣に座った。
金色のリミッターがついた自分の黒く細い腕を見つめた。
彼女とは似ても似つかない、この容姿。
「君もおかしいと思うか」
「え?」
「針鼠が人間を慕うということが」
生まれた時から決められた運命。
これだけはどうすることも出来ない。僕は針鼠だ。人間に作り出された、生命体。
僕は自分の手を握り締めた。
「おかしくなんかないよ。…ありきたりな言葉かもしれないけど」
キリカの声が僕の耳に静かに入ってきた。
「偶然好きになったのが人間だったり針鼠だったり、ポケモンだったり。大事なのは気持ちじゃないかな」
相手を好きだという、気持ち。
僕は君を好きになって良かったと思う。
空中スタジアムでの乱闘を見届けた後だった。
スタジアムの外でたぬきの商人が僕に声をかけてきた。
「あ!シャドウさん、ちょっと」
「…僕か?」
「そうなんだなも。ちょうどよかった、これをキリカさんに届けて欲しいんだなも」
このたぬきの商人は確かすま村の住人だっただろうか。
名前までは覚えていないが、彼女の話によく出てきていたのは覚えている。
彼は茶色の紙袋を抱えていた。それを僕に押しつけてきた。
「僕はお店の方に戻らないといけないんだなも!だからシャドウさんが届けてくれると助かるんだなも」
「別に構わないが。…何故、僕のことを知っているんだ」
紙袋を受け取った僕は疑問を投げかけた。
僕はこのたぬきの商人とは一度も話をしたことがない。
彼は首を傾げていたが、やがて顔の周りに花を飛ばし始めた。
「いつもキリカさんがシャドウさんのこと、話してるんだなも」
「彼女が?」
「それじゃあ、お願いするんだなも!」
一体どんな話題に上っているのか、それを聞き出す前に彼は去っていってしまった。
紙袋を持ったまま僕は立ちすくんでいた。このままここに居ても仕方が無い。
彼女はスタジアムの観客席に居たはずだ。次の試合が始まるまで二十分近くあるが、まだそこにいるだろう。
観客席に人の姿はまばらだった。この方が都合がいい。彼女を探すのも造作ない。
彼女の側にはいつも黄色いポケモンがいる。それを目印にしても探しやすいだろう。
彼女の姿形を頭に思い浮かべて観客席の通路を歩く。
すぐに見つけることが出来た。一番前の席に座っていた。けれど、彼女だけではなかった。
隣に人間の男が居る。あれはファイターの一人、ソリッド・スネークか。
その男が視界に入った途端、僕は目に角を立てた。何故あの男が一緒に居る。
「オタコンの話は長い。間違った諺まで教えてくるからたまったもんじゃない」
この男の話を聞いて彼女は楽しそうに笑っていた。
気に入らない。
「…あ、シャドウ?さっきのアシストお疲れ様」
「有難う」
彼女の隣に居る男と目が合った。
睨み付けると相手も睨み返してくる。
「何か用か」
「貴様に用はない。僕はキリカに用があるんだ」
一瞬にして空気が張り詰めた。ああ、わかっている。
貴様もソニックと同様の気持ちを彼女に抱いているんだろう。
それが、気に入らない。
「お前はソニックと違って随分愛想がないようだな」
「当然だ。僕はソニックとは違う」
「あまりクールでいると嫌われるぞ」
「余計なお世話だ。早く此処から消え失せろ、邪魔だ」
男が肩をすくめた。その口元に薄い笑みを浮かべ、睨み付けてくる。
「何か不都合でもあるのか?」
「言っただろう、用があるのは貴様ではないと」
この男は隣に居る彼女を窺い、何かに気づいたように鼻で笑った。
「まるで好意を寄せているみたいな様子だな。針鼠が人間に…笑わせてくれるな」
どうやら口で言ってもわからないようだな。実力行使するしかないようだ。
この世界でカオスブラストを使ったことはないが、力の加減は出来る。
この男だけを葬り去ることぐらい、造作も無い。
僕がカオスエメラルドに触れる前に、男が観客席から下のフィールドへ飛び降りた。
感づかれたか。いや、違うようだ。
彼女の隣にいつの間にか黄色いポケモンが居た。赤い頬袋から静電気を発している。
「ビカ」
「あっ、ピカチュウ!」
吊り上げた目をしたまま、彼もフィールドへ飛び降りていった。
刹那、眩い閃光が走る。下を見れば彼の電撃を避けている男の姿。
ふん。いい気味だ。手間が省けた。
彼女は溜息をついていた。それから僕の方を見てくる。
「あの、シャドウ」
「なんだ」
「怒って、る?」
先程のやり取りを見れば誰だってわかるだろう。
いや、僕の表情が悪いのかもしれない。
一度目を閉じて、首をゆっくり左右に振った。
「用事って?」
「ああ、たぬきの商人から預かってきた」
「たぬきちさんから。あ、頼んでおいたパンとジャム」
受け取った紙袋を覗き込んで、顔を綻ばせていた。
「ありがとう」その笑顔が向けられるだけで心が温かくなる。
僕だけに見せて欲しい。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
「そう。浮かない顔、してたからどうしたのかと思って」
僕は彼女の隣に座った。
金色のリミッターがついた自分の黒く細い腕を見つめた。
彼女とは似ても似つかない、この容姿。
「君もおかしいと思うか」
「え?」
「針鼠が人間を慕うということが」
生まれた時から決められた運命。
これだけはどうすることも出来ない。僕は針鼠だ。人間に作り出された、生命体。
僕は自分の手を握り締めた。
「おかしくなんかないよ。…ありきたりな言葉かもしれないけど」
キリカの声が僕の耳に静かに入ってきた。
「偶然好きになったのが人間だったり針鼠だったり、ポケモンだったり。大事なのは気持ちじゃないかな」
相手を好きだという、気持ち。
僕は君を好きになって良かったと思う。