鋼の錬金術師
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『最近好きな人でもできた?』
「あつっ!」
鍋の蓋をつままもうとして、予想外の熱さに私は手を引っ込めた。
ぐらぐらと音を立てて揺れる鍋。
吹き零れている鍋を鎮めるためには火を消すのがてっとり早い。
私はコンロのつまみを回して火を止めた。
煮立っていたお湯が何事もなかったように水面が鎮まる。
透明な硝子蓋が真っ白に曇っていった。
鍋が吹き零れるまで火をかけていたなんて、ぼーっとしていた。
別に体調が悪いわけじゃない。
ただ、考え事で頭がいっぱいになっていた。
そのせいでお湯が沸騰して、もう少しで大惨事になるところだった。
指先がひりひりと痛む。
触ったのが一瞬とは言え、やっぱり火傷してしまったみたい。
火傷した指を冷やすために水道の緩やかな水に右手の指先を差し出す。
真冬の水道水は氷にも負けないぐらい冷たい。
すぐに指先の感覚が無くなった。
でも今はそれが気持ち良い。
しばらく指を冷やしてから水を止めた。
ぽたぽたと大きな水滴が指先から落ちる。
それを手拭できれいに拭った。
右手と左手の体温が極端に違う。
ふと、エドはいつもこんな感じなのだろうかと彼を思い浮かべた。
彼は今、近場のコンビニに牛乳を買いに行っている。
仕事帰りに買ってくるつもりがうっかり忘れてしまった。
彼がお使いに行くと申し出てくれたから、お言葉に甘えて牛乳を頼んだのだ。
最初はすごく複雑な顔をしていたのだけど、シチューに使うと言ったら態度をころりと変えた。
それが面白くて笑っていたら彼はふてくされて家を出た。
私が帰ってくる頃は雪が止んでいた。
今も雪が降っていなければいいんだけど。
彼は寒がりだから。
そんな彼のためにも今日はあったかいスープを作るつもりだ。
吹き零れたお鍋の周りを厚手の布巾で拭いてから鍋に水を足す。
まだ指先がじんじんするけど包丁を握るのに支障はなさそう。
スープの材料に使うキャベツを一口サイズに切り分けていく。
次にニンジン、たまねぎ、ダイコン。二人分の野菜を手早く準備した。
思えば料理も一昔前に比べたら上達している気もした。
一人の時は手の込んだ物はあまり作らなかったものだ。
どうしても一人だと手抜きになっていたから。
お弁当の幅も広がって、色合いとかも気にするようになった。
ふと、昼間の出来事がよみがえった。
それを思い出した途端に体がかあっと燃えるように熱くなる。
私の体の周囲の温度が少し上がったんじゃないかと思うぐらい。
ぶんぶんと頭を降って思考を振りほどいた。
がちゃり。
玄関を開ける音が聞こえた。
がさがさとビニールの擦れ合う音もする。
エドが帰ってきた。
ビニール袋を手にぶらさげて、寒い寒いと肩をすくめながら部屋に入ってくる。
「おかえり。牛乳ありがとう」
「このくらいどうってことねーよ」
「雪、降ってなかった?」
「ああ。積もってはいたけどな。結構道も悪かったし」
「そっか。明日はちょっと早めに出なきゃダメかな」
大雪になると電車が遅れたり、最悪の場合運休することが多い。
電車通勤の人たちにとっては辛いものだ。
明日の朝は何時に家を出ようか。
頭の中で時間を逆算していると、エドが不思議そうに首を傾げていた。
「明日は休みじゃないのか」
「あ。……お休みだった」
今日は金曜日。明日は土曜日だから仕事も休みだ。
頭の中が別のことでいっぱいで、そのせいで他のことがまともに考えられない。
自分では普通を装ってるはずなんだけど。
どうやらそんな風には見えないようだった。
「なあキリカ、顔赤いけど。熱あるんじゃないのか」
しまいには熱があるんじゃないかと言われてしまった。
きっとさっき考えてた余韻がまだ残ってるに違いない。
額にエドの左手が触れた。冷たくて気持ちがいい。
でもこれは一時的な熱だから。
「熱はないよ。ちょっと考え事、してただけだから」
「考え事?」
「ん……エド、私ね、好きな人ができたみたい」
そうだ。誰かに相談した方がすっきりするかもしれない。
一人で悶々と悩むよりは数倍もいいはずだ。
エドの口が四角に開いて「は?」という音が漏れた。
表情が疑問に満ちていたものから不機嫌に一気に染まる。
声の調子もどこか怒っているようだった。
「どこのどいつだよ、その野郎は」
「わからない」
「なんだそれ。……わけわかんねえ」
私にだってわからない。
職場で突然言われたのだから。
「葉月さん最近きらきらしてるわね。好きな人でもできたの?」と。
たった一言、ただからかわれただけなのかもしれないのに。
私にとっては纏わりつく衣のようにしつこかった。
一日中ずっとそのことを考えていて、ミスもいっぱいしてしまった。
でも、考えても考えても誰のことが好きなのかわからない。
こんなこと言ったら呆れられるのは当然。
彼は眉間に皺を寄せて口を尖らせていた。
呆れられているというよりは、なぜか怒られているような気分がしてきた。
私はまた空気を読まない発言でもしてしまったのかな。
ビニール袋が乱雑に台所に手放された。
エドは脱いだコードをハンガーに適当にかけて、「先にシャワー浴びてくる」とお風呂場に向かう。
お風呂場のドアがばたんと音を立てて閉められた。
「あつっ!」
鍋の蓋をつままもうとして、予想外の熱さに私は手を引っ込めた。
ぐらぐらと音を立てて揺れる鍋。
吹き零れている鍋を鎮めるためには火を消すのがてっとり早い。
私はコンロのつまみを回して火を止めた。
煮立っていたお湯が何事もなかったように水面が鎮まる。
透明な硝子蓋が真っ白に曇っていった。
鍋が吹き零れるまで火をかけていたなんて、ぼーっとしていた。
別に体調が悪いわけじゃない。
ただ、考え事で頭がいっぱいになっていた。
そのせいでお湯が沸騰して、もう少しで大惨事になるところだった。
指先がひりひりと痛む。
触ったのが一瞬とは言え、やっぱり火傷してしまったみたい。
火傷した指を冷やすために水道の緩やかな水に右手の指先を差し出す。
真冬の水道水は氷にも負けないぐらい冷たい。
すぐに指先の感覚が無くなった。
でも今はそれが気持ち良い。
しばらく指を冷やしてから水を止めた。
ぽたぽたと大きな水滴が指先から落ちる。
それを手拭できれいに拭った。
右手と左手の体温が極端に違う。
ふと、エドはいつもこんな感じなのだろうかと彼を思い浮かべた。
彼は今、近場のコンビニに牛乳を買いに行っている。
仕事帰りに買ってくるつもりがうっかり忘れてしまった。
彼がお使いに行くと申し出てくれたから、お言葉に甘えて牛乳を頼んだのだ。
最初はすごく複雑な顔をしていたのだけど、シチューに使うと言ったら態度をころりと変えた。
それが面白くて笑っていたら彼はふてくされて家を出た。
私が帰ってくる頃は雪が止んでいた。
今も雪が降っていなければいいんだけど。
彼は寒がりだから。
そんな彼のためにも今日はあったかいスープを作るつもりだ。
吹き零れたお鍋の周りを厚手の布巾で拭いてから鍋に水を足す。
まだ指先がじんじんするけど包丁を握るのに支障はなさそう。
スープの材料に使うキャベツを一口サイズに切り分けていく。
次にニンジン、たまねぎ、ダイコン。二人分の野菜を手早く準備した。
思えば料理も一昔前に比べたら上達している気もした。
一人の時は手の込んだ物はあまり作らなかったものだ。
どうしても一人だと手抜きになっていたから。
お弁当の幅も広がって、色合いとかも気にするようになった。
ふと、昼間の出来事がよみがえった。
それを思い出した途端に体がかあっと燃えるように熱くなる。
私の体の周囲の温度が少し上がったんじゃないかと思うぐらい。
ぶんぶんと頭を降って思考を振りほどいた。
がちゃり。
玄関を開ける音が聞こえた。
がさがさとビニールの擦れ合う音もする。
エドが帰ってきた。
ビニール袋を手にぶらさげて、寒い寒いと肩をすくめながら部屋に入ってくる。
「おかえり。牛乳ありがとう」
「このくらいどうってことねーよ」
「雪、降ってなかった?」
「ああ。積もってはいたけどな。結構道も悪かったし」
「そっか。明日はちょっと早めに出なきゃダメかな」
大雪になると電車が遅れたり、最悪の場合運休することが多い。
電車通勤の人たちにとっては辛いものだ。
明日の朝は何時に家を出ようか。
頭の中で時間を逆算していると、エドが不思議そうに首を傾げていた。
「明日は休みじゃないのか」
「あ。……お休みだった」
今日は金曜日。明日は土曜日だから仕事も休みだ。
頭の中が別のことでいっぱいで、そのせいで他のことがまともに考えられない。
自分では普通を装ってるはずなんだけど。
どうやらそんな風には見えないようだった。
「なあキリカ、顔赤いけど。熱あるんじゃないのか」
しまいには熱があるんじゃないかと言われてしまった。
きっとさっき考えてた余韻がまだ残ってるに違いない。
額にエドの左手が触れた。冷たくて気持ちがいい。
でもこれは一時的な熱だから。
「熱はないよ。ちょっと考え事、してただけだから」
「考え事?」
「ん……エド、私ね、好きな人ができたみたい」
そうだ。誰かに相談した方がすっきりするかもしれない。
一人で悶々と悩むよりは数倍もいいはずだ。
エドの口が四角に開いて「は?」という音が漏れた。
表情が疑問に満ちていたものから不機嫌に一気に染まる。
声の調子もどこか怒っているようだった。
「どこのどいつだよ、その野郎は」
「わからない」
「なんだそれ。……わけわかんねえ」
私にだってわからない。
職場で突然言われたのだから。
「葉月さん最近きらきらしてるわね。好きな人でもできたの?」と。
たった一言、ただからかわれただけなのかもしれないのに。
私にとっては纏わりつく衣のようにしつこかった。
一日中ずっとそのことを考えていて、ミスもいっぱいしてしまった。
でも、考えても考えても誰のことが好きなのかわからない。
こんなこと言ったら呆れられるのは当然。
彼は眉間に皺を寄せて口を尖らせていた。
呆れられているというよりは、なぜか怒られているような気分がしてきた。
私はまた空気を読まない発言でもしてしまったのかな。
ビニール袋が乱雑に台所に手放された。
エドは脱いだコードをハンガーに適当にかけて、「先にシャワー浴びてくる」とお風呂場に向かう。
お風呂場のドアがばたんと音を立てて閉められた。