SBX
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
習性
段々と秋も深まり、震えるような冷たい風が吹いていた。
しっかりと身支度をしたキリカは玄関のドアを開けて、吹いてきた風に身を強張らせる。
風に雑じって赤や黄色の木の葉がくるくると飛んでいった。
彼女は新しい手袋を買う為にすま村へ出かけるところだ。
目的地のすま村はこの森からそう遠くはない。隣と言っても過言ではないだろう。
だが、その距離ですら足を向けるのに躊躇してしまう。それ程今日の風は冷たかった。
コートの首元から風が入り込んでくる。
キリカは亀のように首を縮めながら歩いていた。
森の出入り口までやってきた彼女の視線がベンチに止まった。
そこは普段シャドウが読書に使っているベンチであり、木漏れ日が差し込む場所だ。
だが、流石に彼の姿は見えない。その代わりに青いボールのようなものが置かれていた。
子どもが遊ぶには少し大きすぎるそのボール。何だろうとキリカは近付いて、そのボールを観察した。
誰かの忘れ物だろうか。ボールに触ろうと手を伸ばした時に、そのボールがもぞもぞと動いた。
驚いたキリカは慌てて手を引っ込めた。そしてしばらくすると青いボールがうんと伸びをした。
いや、ボールと思っていた物が実はソニックだったようだ。
「ソニック?」
「ん…ああ、キリカか。どうしたんだい、そんなに目丸くして」
「え、いや…だって今、ソニックがボールみたいに丸く」
「寝てたからな。それにちょっと寒かったし」
ソニックはごく当たり前のことだと話しているのだが、キリカは首を傾げたままだ。
その顔にはたくさんの疑問が浮かんでいるように見える。
そこで、ハリネズミには丸くなる習性があることを彼女に教えてあげた。
「へえ…すごいね。本物のボールかと思った。でも、こんな所で寝てたら風邪引くよ」
「さっきまでは日当たりが良かったんだけどな」
今ではすっかり空が雲に覆われていた。雨は降りそうにはないが、一段階暗くなった白い雲が広がっている。
吹いてきた北風にソニックは身を震わせた。
「キリカはどこに行く途中だったんだ?」
「すま村のエイブルシスターズに行く途中。手袋を買いに行こうと思って」
「じゃあオレがエスコートしてやるよ」
「ありがとう」
ベンチからひょいと飛び降りたソニックは英国紳士のように一礼をしてから手を差し出した。
その動作にくすくすと笑いながらもその手を取った。
彼女の手の体温は思った以上に低かった。既に関節の動きも鈍く、ソニックの手を握るのもぎこちない。
密かに眉をひそめたソニックは彼女の手を包み込むように繋いでいた。
十分も歩いたところですま村に到着した。
散歩している住人達に挨拶をすれば笑顔で返してくれた。
今週は「どんぐりまつり」らしく、広葉樹の側でどんぐりを拾っているそうだ。
ここの住人とは顔見知りのキリカ。普段ここでは見かけない、彼らに交ざっている知り合いを見つけた。
その人物にソニックが先に声をかけた。
「Hey!ファルコ、こんな所で会うなんて奇遇だな」
「ソニックか。まあ、ちょいと野暮用でな」
「こんにちはファルコ。お買い物?」
両翼で紙袋を抱えていた。紙袋にはたぬきスーパーのマークが印字されている。
ファルコは一度紙袋に視線を落とし、キリカの問い掛けに頷いた。
「まあそんなとこだ」
少し気だるそうにファルコが答える。
ふと、彼の羽毛がいつもより毛羽立っているように見えた。
細かい羽がまばらに生えており、気のせいか抜け落ちている羽もある。
「おいおい、大丈夫かファルコ?随分ボロボロじゃないか」
「ああ…ちょうど換羽の時期だからな。今時期は仕方ないんだよ」
「換羽?そっか、そろそろ生え変わらないと寒いものね」
それであちこち羽が抜け落ちたり、まだ生え揃っていない羽毛が目立つのだ。
頷いたファルコは不意にくしゃみをした。どうやら自分の周りに抜けた羽毛が漂っているようだった。
「辛そうだな」
「…俺はまだいい方だ。フォックスの方が」
ファルコはそう言い掛けて、はっと口をつぐんだ。
その続きを催促するソニックに対し、断じて話そうとはしない。
彼もフォックスがストレスによる円形脱毛症で悩んでいるとは言えないのだろう。
話を曖昧にしたまま彼は去って行った。
ちょうど冷たい風が吹いたので、早く店に入ろうと二人は同意し、それ以上追及することはなかった。
ドアベルがカランと店内に鳴り響いた。
ハリネズミの店員がにこりと笑いかけてくる。
「エイブル・シスターズへようこそ。あら、キリカさんやないの」
「こんにちは」
「あら、ステキなハリネズミの彼氏やね」
「ち、違いますよ!」
顔を真っ赤にして首を振っているキリカ。
きぬよはその反応を見て面白そうに笑っていた。
「今日はどうしたん?」
「手袋を買いに来たんです」
「それならこっちにかわええのがありますよ」
キリカが手袋を見繕っている間、ソニックは店内を見て回っていた。
様々な服が展示されており、今は秋と冬服がメインのようだ。
店の奥では洋服をミシンで縫っているハリネズミがいた。
ソニックの視線を感じると手を止めて顔を上げた。その表情は若干警戒しているように思える。
「見かけない顔やね」
「おねーちゃん、その人はキリカさんの知り合いやて」
「オレはソニック。よろしくな」
洋服を縫っていたあさみはソニックに頭をぺこりと下げた。
そしてじっとソニックを見つめてから、首をかしげる。
「ソニックさん、その格好で寒うないん?」
「うちも思うたんよ。この寒空の中でよく出歩けるなあって」
そういえばこの姉妹は服を着ているのに、ソニックは手袋と靴だけの格好だ。
普段は気にならなかったが、今は見ている方が寒くなってくる。
「そや!お兄さんに一品サービスしたるわ」
「いいのか?」
「ウチらいつもキリカさんに世話になってるし、キリカさんの知り合いならそれくらいサービスせな」
「ありがとうあさみさん、きぬよさん」
姉妹は揃って笑顔を見せた。
好きな物を選ぶといいと言われ、店内をぐるりと見渡すソニック。
キリカはまだ手袋を選びかねているようだった。
本当は服など必要ないのだが、彼女達の好意を無駄にする訳にもいかない。
ソニックは真剣に悩み始めた。店内を一周したところで壁際に展示されている衣料に目が留まった。
それをしばらく眺めてから指をパチンと鳴らした。
「OK.I choose this!」
それぞれ好みの品物を選び終え、エイブルシスターズを後にした。
店を出たところでキリカは買ったばかりのミトン手袋を着けた。
彼女は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「ソニックは何を選んだの?」
「オレはこれさ」
手提げの紙袋から取り出したのは青いマフラーだった。
青を基調として、端の方に白いラインが入っている。
ソニックはそのマフラーをキリカの首にかけた。それから自分の首にも引っ掛ける。
自分達の首にマフラーを巻きつけて、ソニックは笑顔を見せた。
「これなら二人とも温かいだろ?」
二人で寄り添いながら歩いた帰り道。
キリカの顔は真っ赤に紅葉していた。
段々と秋も深まり、震えるような冷たい風が吹いていた。
しっかりと身支度をしたキリカは玄関のドアを開けて、吹いてきた風に身を強張らせる。
風に雑じって赤や黄色の木の葉がくるくると飛んでいった。
彼女は新しい手袋を買う為にすま村へ出かけるところだ。
目的地のすま村はこの森からそう遠くはない。隣と言っても過言ではないだろう。
だが、その距離ですら足を向けるのに躊躇してしまう。それ程今日の風は冷たかった。
コートの首元から風が入り込んでくる。
キリカは亀のように首を縮めながら歩いていた。
森の出入り口までやってきた彼女の視線がベンチに止まった。
そこは普段シャドウが読書に使っているベンチであり、木漏れ日が差し込む場所だ。
だが、流石に彼の姿は見えない。その代わりに青いボールのようなものが置かれていた。
子どもが遊ぶには少し大きすぎるそのボール。何だろうとキリカは近付いて、そのボールを観察した。
誰かの忘れ物だろうか。ボールに触ろうと手を伸ばした時に、そのボールがもぞもぞと動いた。
驚いたキリカは慌てて手を引っ込めた。そしてしばらくすると青いボールがうんと伸びをした。
いや、ボールと思っていた物が実はソニックだったようだ。
「ソニック?」
「ん…ああ、キリカか。どうしたんだい、そんなに目丸くして」
「え、いや…だって今、ソニックがボールみたいに丸く」
「寝てたからな。それにちょっと寒かったし」
ソニックはごく当たり前のことだと話しているのだが、キリカは首を傾げたままだ。
その顔にはたくさんの疑問が浮かんでいるように見える。
そこで、ハリネズミには丸くなる習性があることを彼女に教えてあげた。
「へえ…すごいね。本物のボールかと思った。でも、こんな所で寝てたら風邪引くよ」
「さっきまでは日当たりが良かったんだけどな」
今ではすっかり空が雲に覆われていた。雨は降りそうにはないが、一段階暗くなった白い雲が広がっている。
吹いてきた北風にソニックは身を震わせた。
「キリカはどこに行く途中だったんだ?」
「すま村のエイブルシスターズに行く途中。手袋を買いに行こうと思って」
「じゃあオレがエスコートしてやるよ」
「ありがとう」
ベンチからひょいと飛び降りたソニックは英国紳士のように一礼をしてから手を差し出した。
その動作にくすくすと笑いながらもその手を取った。
彼女の手の体温は思った以上に低かった。既に関節の動きも鈍く、ソニックの手を握るのもぎこちない。
密かに眉をひそめたソニックは彼女の手を包み込むように繋いでいた。
十分も歩いたところですま村に到着した。
散歩している住人達に挨拶をすれば笑顔で返してくれた。
今週は「どんぐりまつり」らしく、広葉樹の側でどんぐりを拾っているそうだ。
ここの住人とは顔見知りのキリカ。普段ここでは見かけない、彼らに交ざっている知り合いを見つけた。
その人物にソニックが先に声をかけた。
「Hey!ファルコ、こんな所で会うなんて奇遇だな」
「ソニックか。まあ、ちょいと野暮用でな」
「こんにちはファルコ。お買い物?」
両翼で紙袋を抱えていた。紙袋にはたぬきスーパーのマークが印字されている。
ファルコは一度紙袋に視線を落とし、キリカの問い掛けに頷いた。
「まあそんなとこだ」
少し気だるそうにファルコが答える。
ふと、彼の羽毛がいつもより毛羽立っているように見えた。
細かい羽がまばらに生えており、気のせいか抜け落ちている羽もある。
「おいおい、大丈夫かファルコ?随分ボロボロじゃないか」
「ああ…ちょうど換羽の時期だからな。今時期は仕方ないんだよ」
「換羽?そっか、そろそろ生え変わらないと寒いものね」
それであちこち羽が抜け落ちたり、まだ生え揃っていない羽毛が目立つのだ。
頷いたファルコは不意にくしゃみをした。どうやら自分の周りに抜けた羽毛が漂っているようだった。
「辛そうだな」
「…俺はまだいい方だ。フォックスの方が」
ファルコはそう言い掛けて、はっと口をつぐんだ。
その続きを催促するソニックに対し、断じて話そうとはしない。
彼もフォックスがストレスによる円形脱毛症で悩んでいるとは言えないのだろう。
話を曖昧にしたまま彼は去って行った。
ちょうど冷たい風が吹いたので、早く店に入ろうと二人は同意し、それ以上追及することはなかった。
ドアベルがカランと店内に鳴り響いた。
ハリネズミの店員がにこりと笑いかけてくる。
「エイブル・シスターズへようこそ。あら、キリカさんやないの」
「こんにちは」
「あら、ステキなハリネズミの彼氏やね」
「ち、違いますよ!」
顔を真っ赤にして首を振っているキリカ。
きぬよはその反応を見て面白そうに笑っていた。
「今日はどうしたん?」
「手袋を買いに来たんです」
「それならこっちにかわええのがありますよ」
キリカが手袋を見繕っている間、ソニックは店内を見て回っていた。
様々な服が展示されており、今は秋と冬服がメインのようだ。
店の奥では洋服をミシンで縫っているハリネズミがいた。
ソニックの視線を感じると手を止めて顔を上げた。その表情は若干警戒しているように思える。
「見かけない顔やね」
「おねーちゃん、その人はキリカさんの知り合いやて」
「オレはソニック。よろしくな」
洋服を縫っていたあさみはソニックに頭をぺこりと下げた。
そしてじっとソニックを見つめてから、首をかしげる。
「ソニックさん、その格好で寒うないん?」
「うちも思うたんよ。この寒空の中でよく出歩けるなあって」
そういえばこの姉妹は服を着ているのに、ソニックは手袋と靴だけの格好だ。
普段は気にならなかったが、今は見ている方が寒くなってくる。
「そや!お兄さんに一品サービスしたるわ」
「いいのか?」
「ウチらいつもキリカさんに世話になってるし、キリカさんの知り合いならそれくらいサービスせな」
「ありがとうあさみさん、きぬよさん」
姉妹は揃って笑顔を見せた。
好きな物を選ぶといいと言われ、店内をぐるりと見渡すソニック。
キリカはまだ手袋を選びかねているようだった。
本当は服など必要ないのだが、彼女達の好意を無駄にする訳にもいかない。
ソニックは真剣に悩み始めた。店内を一周したところで壁際に展示されている衣料に目が留まった。
それをしばらく眺めてから指をパチンと鳴らした。
「OK.I choose this!」
それぞれ好みの品物を選び終え、エイブルシスターズを後にした。
店を出たところでキリカは買ったばかりのミトン手袋を着けた。
彼女は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「ソニックは何を選んだの?」
「オレはこれさ」
手提げの紙袋から取り出したのは青いマフラーだった。
青を基調として、端の方に白いラインが入っている。
ソニックはそのマフラーをキリカの首にかけた。それから自分の首にも引っ掛ける。
自分達の首にマフラーを巻きつけて、ソニックは笑顔を見せた。
「これなら二人とも温かいだろ?」
二人で寄り添いながら歩いた帰り道。
キリカの顔は真っ赤に紅葉していた。