S・H人形劇
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いろどり
今日の天気は薄曇りで細かい雨が降っていた。
ぱらぱらと勢いのない雨が朝から続いている。いっそ強く降ってくれればまだ気が晴れるのに。
依頼人の足取りも重くて、おかげで名探偵は暇を持て余していた。
暖炉の前で彼はぼんやり煙草をふかしながら書物をぱらぱらと適当にめくっている。
気が向けばヴァイオリンを奏でるのだけど、今日はそんな気分でもないみたい。
「今日はまだ二人しか来てないわね」
「人間は天気が悪いとどうでもいい用事の時は出掛けたくなくなるものだ」
「おかげで私たち暇人ね」
「こういう日もたまには悪くない。たまには」
「そうね」
暇なんかじゃない。むしろこの暇を歓迎しているんだと言わんばかりの彼。
そんな強がりもなんだかおかしくて。隣のソファで私は一人笑みを零していた。
途切れ途切れに、時折思い出したかのように私達は暖炉の前で会話を紡ぐ。
傍から見たら仲が悪いとか、ぎくしゃくしてるって思われても不思議じゃない。
居心地が悪くないのかって聞かれたこともある。
でも、これが私たち。
私も彼が思うぐらい同じように、この空間が居心地がいいの。
「君は」ぽつりと彼が呟いたので、「うん」と私が相槌を打つと話を始めた。
「日本に帰りたいと思ったことがあるんじゃないか」
「急にどうしたの?」
「……故郷が恋しいんじゃないかと思ってね。遠く離れた異国の地で過ごすのは耐え兼ねるんじゃないかって」
貴方は時々こんな風にしんみりとした表情をする。
時々、何の前触れもなく哀愁を漂わせる。
「君をこの地に縛り付けてるのは紛れもなくぼくだ」
「私、自分の意思でここにいるのよ。縛られてなんかいないわ」
「それならいいけど。……キリカがいつか目の前から居なくなってしまうんじゃないか、そう思うと気が気じゃない」
「安心して。勝手に貴方の前から消えたりしないから。私の帰る場所、ここだもの」
彼の目がちらりと私を見る。少し安心しているような目をしていて、一度瞼を閉じた。
今日はいつも以上に憂いに満ちている。ああ、きっとこの天気のせいだわ。
「雨だから少し気分が落ち込むのね」
「君は元気そうだ」
「そう?きっとシャーロックがいるからよ」
「ぼくは、君がいなければもっと気分が落ち込んでいたよ。最悪な気分にさえなっていたと思う」
「貴方のそばに居られて良かったわ。じゃなきゃ、いつまでも落ち込んでいただろうから」
「……ぼくはそんなにナイーブじゃない」
「うん。そうね。早く雨が止むといいわね」
あの頃の私は毎日が灰色の世界だった。
貴方は気づいていないのかもしれないけど。
雨ばかり降らせていた私に傘を差し出してくれたのは、貴方だった。
雨が止んだ世界に明るい日差しが差し込んで、彩りに溢れて、美しさが満ちた。
今の私なら貴方の世界にも彩りを分けてあげられるかしら。
かつて、私に鮮やかな彩りをくれた貴方のように。
今日の天気は薄曇りで細かい雨が降っていた。
ぱらぱらと勢いのない雨が朝から続いている。いっそ強く降ってくれればまだ気が晴れるのに。
依頼人の足取りも重くて、おかげで名探偵は暇を持て余していた。
暖炉の前で彼はぼんやり煙草をふかしながら書物をぱらぱらと適当にめくっている。
気が向けばヴァイオリンを奏でるのだけど、今日はそんな気分でもないみたい。
「今日はまだ二人しか来てないわね」
「人間は天気が悪いとどうでもいい用事の時は出掛けたくなくなるものだ」
「おかげで私たち暇人ね」
「こういう日もたまには悪くない。たまには」
「そうね」
暇なんかじゃない。むしろこの暇を歓迎しているんだと言わんばかりの彼。
そんな強がりもなんだかおかしくて。隣のソファで私は一人笑みを零していた。
途切れ途切れに、時折思い出したかのように私達は暖炉の前で会話を紡ぐ。
傍から見たら仲が悪いとか、ぎくしゃくしてるって思われても不思議じゃない。
居心地が悪くないのかって聞かれたこともある。
でも、これが私たち。
私も彼が思うぐらい同じように、この空間が居心地がいいの。
「君は」ぽつりと彼が呟いたので、「うん」と私が相槌を打つと話を始めた。
「日本に帰りたいと思ったことがあるんじゃないか」
「急にどうしたの?」
「……故郷が恋しいんじゃないかと思ってね。遠く離れた異国の地で過ごすのは耐え兼ねるんじゃないかって」
貴方は時々こんな風にしんみりとした表情をする。
時々、何の前触れもなく哀愁を漂わせる。
「君をこの地に縛り付けてるのは紛れもなくぼくだ」
「私、自分の意思でここにいるのよ。縛られてなんかいないわ」
「それならいいけど。……キリカがいつか目の前から居なくなってしまうんじゃないか、そう思うと気が気じゃない」
「安心して。勝手に貴方の前から消えたりしないから。私の帰る場所、ここだもの」
彼の目がちらりと私を見る。少し安心しているような目をしていて、一度瞼を閉じた。
今日はいつも以上に憂いに満ちている。ああ、きっとこの天気のせいだわ。
「雨だから少し気分が落ち込むのね」
「君は元気そうだ」
「そう?きっとシャーロックがいるからよ」
「ぼくは、君がいなければもっと気分が落ち込んでいたよ。最悪な気分にさえなっていたと思う」
「貴方のそばに居られて良かったわ。じゃなきゃ、いつまでも落ち込んでいただろうから」
「……ぼくはそんなにナイーブじゃない」
「うん。そうね。早く雨が止むといいわね」
あの頃の私は毎日が灰色の世界だった。
貴方は気づいていないのかもしれないけど。
雨ばかり降らせていた私に傘を差し出してくれたのは、貴方だった。
雨が止んだ世界に明るい日差しが差し込んで、彩りに溢れて、美しさが満ちた。
今の私なら貴方の世界にも彩りを分けてあげられるかしら。
かつて、私に鮮やかな彩りをくれた貴方のように。