S・H人形劇
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夢から覚めたあとで
私は黄色と黒の縞々模様から逃れるように跳ね起きた。
辺りは薄暗い。時計の秒針の音だけが聞こえる静かな部屋。
ベッドのシーツは汗が染み込んでしっとりしている。同じように寝巻きも背中が湿っていて少し気持ちが悪い。
頭の中で見ていた映像とは全く違う風景の寝室。ここにはあの恐ろしい黄色と黒の縞々はいない。
ほっと息をつく私の心臓はどきどきと脈を打っていた。あんなにコワイ夢を見たのは久しぶり。
まだ夜中の三時。寝直すためにもう一度ベッドに横になった。
横になってから秒針が何周しただろうか。
目を閉じるとさっきの映像がまだちらついてくる。これじゃあ眠れるはずない。
不快な気分を振り払う為に私は二階の寝室から薄暗い階段を下りた。
今夜は月明かりのおかげで幾分か明るい。
私の目が暗闇に慣れてきたのもあるけど、灯りをつけなくてもよさそうだった。
それでも周りの家具に足先をぶつけないように慎重にキッチンに近づく。
シンクの食器カゴから手探りでグラスを探し、蛇口を軽くひねる。
さすがに水位までは見えないから、適当に蛇口を閉めた。
喉を潤そうとグラスを傾けた時、床板の軋む音が私の耳に届いた。
一種の緊張感が電気のように私の身体の中を走り抜ける。
でも、その足音がシャーロックの物だとわかると妙に安心した。
彼は寝巻きの上にガウンを羽織っている。
キッチンの窓からレースカーテン越しのやわらかい月明かりが差し込んで、それが彼の輪郭を照らしていた。
私の顔を見るなり「よかった」と呟いた。まるで私を探し回っていたみたいな言い方。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないんだ。君こそこんな時間に起きて、嫌な夢でも?」
「ええ。かなり嫌な夢。シャーロックも水を飲みに来たのね。今用意するわ」
「ありがとう」
私は自分のグラスを置いて新しいグラスに水を注ぐ。それを彼に手渡した。
さっきの夢の内容、彼に話してしまった方が気が晴れるかしら。
グラスの水を一口飲んで、私はさっきの夢の内容を彼に話し始めた。
「私、さっきコワイ夢を見たって言ったでしょ。……聞いてもらってもいいかしら」
「話してしまった方がきっとよく眠れるよ」
「ありがとう。……夢の中で私は狭い路地を歩いていたの。しばらく歩いてたら前方に大きな蜘蛛の巣が道を塞いでいたわ。その上に足の長い黄色と黒の縞模様の蜘蛛がいた。私の頭くらい大きかった。私、怖くて引き返したの。でも、元来た道にも蜘蛛の巣が張ってあって。その道の真ん中でしばらく立ち往生してたわ。でも、前方の道にくぐり抜けられそうな隙間があったからそこを通ろうとした。でも、そうしたら蜘蛛の巣を伝って蜘蛛がやってきて……」
自分でも早口で喋っていたことに気づいていた。
さっき見た夢の内容、思い出しながらだとどうしても先へ、先へと口走ってしまう。
怖い思いをした夢は良い夢よりも内容を覚えていることが多い。
頭の中に描かれた鮮明な映像に私はまた身体を奮わせた。
「君にとっては身の毛もよだつ映像だっただろうね」
「ええ、ほんとうに。目が覚めてから横になっても眠れなくて。だから水を飲みにきたの」
「……ぼくも夢見が悪かったんだ」
彼はグラスを持ったままぽつりと呟いた。隣で見る横顔は普段よりも浮かない表情。
私たちは二人して夢見が悪かったみたいね。
「至って日常的な夢だった。でも、一つだけ違う所に気づいたんだ。ワトソンやレストレード、グレグスン。シャーマンやスタンフォードたちはいるのに、キリカだけがどこにも居なかった。誰に聞いても答えてくれなくてね。街中探し回っても見つからなかったんだ」
「私、どこに隠れてたのかしら」
「夢から覚めても不安でね。こうしてキッチンで君を偶然見つけてなければ、部屋まで起こしに行っていたかもしれない」
だから私を見た時あんなに心配そうにしていたのね。
もう少し私が起きるのが遅ければ、悪夢から目を覚まさせてくれたのは貴方だったかも。
大丈夫。私がどこに居ても、例えどこかに隠れていてもシャーロックなら見つけ出してくれる。
いつだってそうだった。日本でも私を見つけてくれた。だから、そう信じてるわ。
「夢の中でも私がいないことに気がついて、探してくれたのね」
「……君のいない生活は考えられない」
「私も。貴方ならどこにいても私を見つけてくれるって信じてるわ」
「勿論だ」
私はいつもその迷いがない力強い言葉に助けられている。
今だって恐怖に怯えてたのがすっかりなくなっていた。
ありがとう、シャーロック。
私は黄色と黒の縞々模様から逃れるように跳ね起きた。
辺りは薄暗い。時計の秒針の音だけが聞こえる静かな部屋。
ベッドのシーツは汗が染み込んでしっとりしている。同じように寝巻きも背中が湿っていて少し気持ちが悪い。
頭の中で見ていた映像とは全く違う風景の寝室。ここにはあの恐ろしい黄色と黒の縞々はいない。
ほっと息をつく私の心臓はどきどきと脈を打っていた。あんなにコワイ夢を見たのは久しぶり。
まだ夜中の三時。寝直すためにもう一度ベッドに横になった。
横になってから秒針が何周しただろうか。
目を閉じるとさっきの映像がまだちらついてくる。これじゃあ眠れるはずない。
不快な気分を振り払う為に私は二階の寝室から薄暗い階段を下りた。
今夜は月明かりのおかげで幾分か明るい。
私の目が暗闇に慣れてきたのもあるけど、灯りをつけなくてもよさそうだった。
それでも周りの家具に足先をぶつけないように慎重にキッチンに近づく。
シンクの食器カゴから手探りでグラスを探し、蛇口を軽くひねる。
さすがに水位までは見えないから、適当に蛇口を閉めた。
喉を潤そうとグラスを傾けた時、床板の軋む音が私の耳に届いた。
一種の緊張感が電気のように私の身体の中を走り抜ける。
でも、その足音がシャーロックの物だとわかると妙に安心した。
彼は寝巻きの上にガウンを羽織っている。
キッチンの窓からレースカーテン越しのやわらかい月明かりが差し込んで、それが彼の輪郭を照らしていた。
私の顔を見るなり「よかった」と呟いた。まるで私を探し回っていたみたいな言い方。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないんだ。君こそこんな時間に起きて、嫌な夢でも?」
「ええ。かなり嫌な夢。シャーロックも水を飲みに来たのね。今用意するわ」
「ありがとう」
私は自分のグラスを置いて新しいグラスに水を注ぐ。それを彼に手渡した。
さっきの夢の内容、彼に話してしまった方が気が晴れるかしら。
グラスの水を一口飲んで、私はさっきの夢の内容を彼に話し始めた。
「私、さっきコワイ夢を見たって言ったでしょ。……聞いてもらってもいいかしら」
「話してしまった方がきっとよく眠れるよ」
「ありがとう。……夢の中で私は狭い路地を歩いていたの。しばらく歩いてたら前方に大きな蜘蛛の巣が道を塞いでいたわ。その上に足の長い黄色と黒の縞模様の蜘蛛がいた。私の頭くらい大きかった。私、怖くて引き返したの。でも、元来た道にも蜘蛛の巣が張ってあって。その道の真ん中でしばらく立ち往生してたわ。でも、前方の道にくぐり抜けられそうな隙間があったからそこを通ろうとした。でも、そうしたら蜘蛛の巣を伝って蜘蛛がやってきて……」
自分でも早口で喋っていたことに気づいていた。
さっき見た夢の内容、思い出しながらだとどうしても先へ、先へと口走ってしまう。
怖い思いをした夢は良い夢よりも内容を覚えていることが多い。
頭の中に描かれた鮮明な映像に私はまた身体を奮わせた。
「君にとっては身の毛もよだつ映像だっただろうね」
「ええ、ほんとうに。目が覚めてから横になっても眠れなくて。だから水を飲みにきたの」
「……ぼくも夢見が悪かったんだ」
彼はグラスを持ったままぽつりと呟いた。隣で見る横顔は普段よりも浮かない表情。
私たちは二人して夢見が悪かったみたいね。
「至って日常的な夢だった。でも、一つだけ違う所に気づいたんだ。ワトソンやレストレード、グレグスン。シャーマンやスタンフォードたちはいるのに、キリカだけがどこにも居なかった。誰に聞いても答えてくれなくてね。街中探し回っても見つからなかったんだ」
「私、どこに隠れてたのかしら」
「夢から覚めても不安でね。こうしてキッチンで君を偶然見つけてなければ、部屋まで起こしに行っていたかもしれない」
だから私を見た時あんなに心配そうにしていたのね。
もう少し私が起きるのが遅ければ、悪夢から目を覚まさせてくれたのは貴方だったかも。
大丈夫。私がどこに居ても、例えどこかに隠れていてもシャーロックなら見つけ出してくれる。
いつだってそうだった。日本でも私を見つけてくれた。だから、そう信じてるわ。
「夢の中でも私がいないことに気がついて、探してくれたのね」
「……君のいない生活は考えられない」
「私も。貴方ならどこにいても私を見つけてくれるって信じてるわ」
「勿論だ」
私はいつもその迷いがない力強い言葉に助けられている。
今だって恐怖に怯えてたのがすっかりなくなっていた。
ありがとう、シャーロック。