S・H人形劇
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敗北感からの脱出
夕食の後もホームズは浮かない表情をしていた気がした。
例の一件から、ずっとだ。落ち込んでいるようにも思えた。
ぼくたちはシャーマンの依頼である生徒の企みを調査していた。
結論から言うと、理科室から盗んだネアンデルタール人の骨を売りさばこうとしていた生徒の仕業だった。
犯人を追い詰めたまではいいんだけど、事件そのものが揉み消されてしまうことで幕を閉じた。
ホームズのお兄さんであるマイクロフトに全てを持っていかれたんだ。
その後きっぱり割り切ったような発言もしていたけど、やっぱり腑に落ちないようだった。
部屋に戻ってきてからもソファに座り込んで、物思いに耽っている。
ベインズの時とは明らかに違う。底にある感情を顕にしないのはやっぱり相手がお兄さんだからなのかもしれなかった。
今度の事件の詳細は日記帳に綴ってある。
でもそれはこの頁の中だけに納まりそうだ。
日記帳の表紙を閉じたぼくは彼の方を振り向いた。そこで偶然にもホームズと目が合う。
何か言いたそうだった。でも彼からは何も言って来ない。
「どうしたんだい」
「いや、別に」
「歯切れが悪いなんて君らしくない。ぼくと君の仲じゃないか、何でも言ってくれよ」
そう言うと、彼は切れ長の目を一度閉じた。
よほど重大なことなんだろうか。もしかして今日の事件と関係があるのかも。
彼の返事をぼくはどきどきしながら待つ。やがて目を開いてぼくにこう尋ねた。
「彼女が来ないから、どうしたのかと思ったんだ」
「ああ、なんだ。キリカなら探し物があるからと部屋にいるよ」
「じゃあ行こう。一緒に探した方が早く見つかるかもしれない」
全く拍子抜けだった。いや、でもいつも来ている彼女の姿が見えなかったから気になったんだろう。
何を探しているかはぼくも知らない。ただ夕食の後に「ちょっと探す物があるから今夜は遊びに行けないわ」とぼくに告げた。
部屋を出て行くホームズを追いかける。
階段を降りる時に彼の後ろ姿にこう声をかけた。
「君ってさ、知り合いの女の子には優しいよね」
「女性に優しくは英国紳士の礼儀だよワトソンくん」
*
キリカの部屋に入るのは初めてだった。
いつもぼくらの部屋で遊んでいるから、彼女の部屋に行くってことがなかったんだ。
そもそも女子の部屋には気軽に行けないものだし。
彼女と同室の女子は席を外しているようで、キリカが出迎えてくれた。
ぼくらが訪ねて来た事に驚いていて、入り口で部屋の中を振り向いた。
「ごめんなさい。今部屋が散らかってて……」
「探し物をしてるってワトソンから聞いたんだ。一緒に探した方が早く見つかると思ってね」
「そうね、うん。シャーロックに見てもらった方が早いかも。どうぞ、入って」
部屋に招き入れられたぼくはつい部屋の中を見渡してしまった。
ぼくらの部屋とは全然違う。室内の造りもそうだけど、彼女が言うほど散らかってないしきれいだ。
それに石けんの香りがふわりと漂っている。
机が二つあって、一方にトランクケースがあった。
フタを開けたケースからたくさんの本が見える。そこから出したものが側に積んであった。
本を探していたんだろうか。でも、普通探すなら本棚からじゃないかな。
「日本から持ってきた本の中から何を探しているんだい」
「どうして日本から持ってきた本限定なんだ」
「本棚に収まりきらない本をトランクに入れてあるということは、彼女が故郷から持ってきた本だからだよ」
「なるほど。ほんとだ、全部日本語で書かれてる」
小説、図鑑、英和辞書。様々な系統の本がある。とりわけ多いのが小説のようだ。
気になる表紙の本があった。でも日本語で書かれてるから読むのが大変そうだ。
キリカが机の上に本の山を移動させる。その時、一番上にあった本を教科書の下に隠すように置いていた。
少しだけ見えたんだけど、その本の表紙に毛糸玉のような絵が描いてあった。
彼女は辺りの本を見渡しながらこう言った。
「シャーロックが好きそうな本、探してたの。でも、中々見つからなくて」
「それでぼくが探した方が早い、というわけか」
「ええ。良かったら探してみて。気に入る本があればいいんだけれど」
ホームズは近くの本の山から一冊手に取った。
表紙には黒と白の尾羽を持つ鳥が描かれている。鳥の図鑑のようだった。
彼はそれを興味深そうに中身を眺めている。どうやら気に入ったみたいだ。
図鑑や辞典は好きだって本人も言っていたし。
「その図鑑、私もお気に入りなの。少し色褪せてるけど……良かったら持っていって」
「お言葉に甘えて借りていくよ。ありがとう、キリカ」
鳥の図鑑を見るホームズの声は優しげで、表情も和らいでいた。
あの落ち込んでいた様子も見られない。これでいつも通りの彼に戻るだろう。
これも彼女のおかげかな。ぼくはほっと胸を撫で下ろした。
夕食の後もホームズは浮かない表情をしていた気がした。
例の一件から、ずっとだ。落ち込んでいるようにも思えた。
ぼくたちはシャーマンの依頼である生徒の企みを調査していた。
結論から言うと、理科室から盗んだネアンデルタール人の骨を売りさばこうとしていた生徒の仕業だった。
犯人を追い詰めたまではいいんだけど、事件そのものが揉み消されてしまうことで幕を閉じた。
ホームズのお兄さんであるマイクロフトに全てを持っていかれたんだ。
その後きっぱり割り切ったような発言もしていたけど、やっぱり腑に落ちないようだった。
部屋に戻ってきてからもソファに座り込んで、物思いに耽っている。
ベインズの時とは明らかに違う。底にある感情を顕にしないのはやっぱり相手がお兄さんだからなのかもしれなかった。
今度の事件の詳細は日記帳に綴ってある。
でもそれはこの頁の中だけに納まりそうだ。
日記帳の表紙を閉じたぼくは彼の方を振り向いた。そこで偶然にもホームズと目が合う。
何か言いたそうだった。でも彼からは何も言って来ない。
「どうしたんだい」
「いや、別に」
「歯切れが悪いなんて君らしくない。ぼくと君の仲じゃないか、何でも言ってくれよ」
そう言うと、彼は切れ長の目を一度閉じた。
よほど重大なことなんだろうか。もしかして今日の事件と関係があるのかも。
彼の返事をぼくはどきどきしながら待つ。やがて目を開いてぼくにこう尋ねた。
「彼女が来ないから、どうしたのかと思ったんだ」
「ああ、なんだ。キリカなら探し物があるからと部屋にいるよ」
「じゃあ行こう。一緒に探した方が早く見つかるかもしれない」
全く拍子抜けだった。いや、でもいつも来ている彼女の姿が見えなかったから気になったんだろう。
何を探しているかはぼくも知らない。ただ夕食の後に「ちょっと探す物があるから今夜は遊びに行けないわ」とぼくに告げた。
部屋を出て行くホームズを追いかける。
階段を降りる時に彼の後ろ姿にこう声をかけた。
「君ってさ、知り合いの女の子には優しいよね」
「女性に優しくは英国紳士の礼儀だよワトソンくん」
*
キリカの部屋に入るのは初めてだった。
いつもぼくらの部屋で遊んでいるから、彼女の部屋に行くってことがなかったんだ。
そもそも女子の部屋には気軽に行けないものだし。
彼女と同室の女子は席を外しているようで、キリカが出迎えてくれた。
ぼくらが訪ねて来た事に驚いていて、入り口で部屋の中を振り向いた。
「ごめんなさい。今部屋が散らかってて……」
「探し物をしてるってワトソンから聞いたんだ。一緒に探した方が早く見つかると思ってね」
「そうね、うん。シャーロックに見てもらった方が早いかも。どうぞ、入って」
部屋に招き入れられたぼくはつい部屋の中を見渡してしまった。
ぼくらの部屋とは全然違う。室内の造りもそうだけど、彼女が言うほど散らかってないしきれいだ。
それに石けんの香りがふわりと漂っている。
机が二つあって、一方にトランクケースがあった。
フタを開けたケースからたくさんの本が見える。そこから出したものが側に積んであった。
本を探していたんだろうか。でも、普通探すなら本棚からじゃないかな。
「日本から持ってきた本の中から何を探しているんだい」
「どうして日本から持ってきた本限定なんだ」
「本棚に収まりきらない本をトランクに入れてあるということは、彼女が故郷から持ってきた本だからだよ」
「なるほど。ほんとだ、全部日本語で書かれてる」
小説、図鑑、英和辞書。様々な系統の本がある。とりわけ多いのが小説のようだ。
気になる表紙の本があった。でも日本語で書かれてるから読むのが大変そうだ。
キリカが机の上に本の山を移動させる。その時、一番上にあった本を教科書の下に隠すように置いていた。
少しだけ見えたんだけど、その本の表紙に毛糸玉のような絵が描いてあった。
彼女は辺りの本を見渡しながらこう言った。
「シャーロックが好きそうな本、探してたの。でも、中々見つからなくて」
「それでぼくが探した方が早い、というわけか」
「ええ。良かったら探してみて。気に入る本があればいいんだけれど」
ホームズは近くの本の山から一冊手に取った。
表紙には黒と白の尾羽を持つ鳥が描かれている。鳥の図鑑のようだった。
彼はそれを興味深そうに中身を眺めている。どうやら気に入ったみたいだ。
図鑑や辞典は好きだって本人も言っていたし。
「その図鑑、私もお気に入りなの。少し色褪せてるけど……良かったら持っていって」
「お言葉に甘えて借りていくよ。ありがとう、キリカ」
鳥の図鑑を見るホームズの声は優しげで、表情も和らいでいた。
あの落ち込んでいた様子も見られない。これでいつも通りの彼に戻るだろう。
これも彼女のおかげかな。ぼくはほっと胸を撫で下ろした。