S・H人形劇
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ヤキモチヤキ
ぼくはその日、ホームズの意外な一面を発見することができた。
ぼくらは三人で廊下を歩いていた。ホームズが先頭を切って歩き、その後ろをぼくとキリカがついて歩いている。
彼の言う”奇妙な事件”の捜査に付き合っていたんだ。
決定的な証拠を見つけたとホームズはご機嫌。「次に確かめたいことがある」と、また別の場所へ向かっている途中だった。
ちょうど美術室の前を通りかかった時。
美術室から見覚えのある顔が出てきた。彼が赤毛クラブの事件に関わっていたダンカン・ロスだとすぐに思い出した。
彼はぼくたちに気兼ねなく「やあ」と声をかけてくれた。
「こんにちは、ロス」
「どうも。部活中ですか?」
「今ちょうど片付けの途中なんだ」
ダンカン・ロスは制服の上からエプロンを身につけていた。あちこちが絵の具で汚れている。
片手に筆と水が入った小さなバケツ、もう片方の手には青紫の花を持っていた。
そんな彼の様子をじっと観察していたホームズが挨拶代わりに質問を投げかけた。
「珍しく室内にいるんですね」
「ああ。今日は花を描いているんだ。いい加減先生に怒られてしまってね。だから大人しく部室にいるってわけさ」
最後の方を小声で言った彼は肩をすくめて苦笑いを浮かべた。
部室をよく抜け出して白鳥を描きに行っていたのがバレたのかな。
「その花、立ち入り禁止区域に咲いている花でしょう?」
キリカがそう言ったので、彼は青い目を大きく見開き驚いていた。
ホームズではなく、彼女がその花の出所を当てたからに違いない。
黙っていたけど、ぼくだってわかっていた。その青紫の花はそこにしか咲いていないものだから。
「どうしてわかったんだ。あっ、先生には内緒にしてくれないか」
「わかってる。黙ってるわ。この間、ジョンがプレゼントしてくれたの。その時にシャーロックが咲いてる場所を言い当てたのよ」
「ああ、なるほど。驚いたよ。君まで推理の名人になったのかと」
「私じゃ全然。彼の足元にも及ばないわ」
くすりとキリカが笑った。
それにしてもこの二人に面識があるなんて知らなかった。
喋り方も畏まってないし、随分打ち解けている。結構仲が良さそうだ。
そんな和気藹々と会話をしている二人の横でホームズは苛立った様子で腕を組んでいる。人差し指をとんとんと何度も叩いていた。
捜査の足止めをされているからか、それとも二人が楽しそうに話しているからか。
きっとどっちも気に入らないんだろうな。
「そうだ。この花、良かったら持っていって。捨てようと思ってたところだし」
「いいの?ありがとう」
二厘のアイリスの茎から雫がぽたりと落ちた。
彼女はポケットからハンカチを取り出して、雫が垂れないようにぐるぐると巻きつける。
アイリスを貰い受けたキリカは嬉しそうだった。そんな彼女につられて先輩も笑みを零している。
ちょっといい雰囲気。だったけど、それをぶち壊すかのようにホームズが二人の間に割って入った。
「すみませんが、用事があるので失礼します」
そう言うと彼女の手を掴んで、足早に去っていった。
ぼくも慌てて先輩に頭を下げる。
「あっ。ちょっと!すみません、ぼくも失礼します!」
先輩はきょとんとしていた。ちょっと失礼だったんじゃないかな。
でも、何か事情を汲み取ったのか「気にしなくていいよ」と笑ってぼくたちを見送ってくれた。
二人はもうだいぶ先にいた。
走ると痛むぼくの足では追いかけるのも大変なんだ。
ようやく追いついた頃にはすっかり息が上がっていた。
「急にどうしたんだい、ホームズ」
「ぼくたちはまだ捜査中だということを忘れちゃいけない」
「それはそうだけどさ」
ぼくが息を整えている間、ふと目に映ったものがあった。
そういえばさっき、ホームズは彼女の手を掴んでいた。
つまり、手を引いてきた。それがまだ離さずに繋いでいる。
きっと無意識だったんだろう。ぼくの視線に気がつくと慌てて手をぱっと離した。
「へえ。意外と君もやるもんだね」
「なんの話かな」
「どさくさに紛れて手を繋い」
「お言葉だがワトソンくん。急がなければ証拠が処分されてしまう。行こう」
ぼくの言葉を遮ると彼は踵を返して歩き出した。
うまく誤魔化したつもりでも、耳が赤いよホームズ。
彼のメモにもう一つ付け加えることができた。
シャーロック・ホームズは案外照れ屋でヤキモチ焼きだ、と。
ぼくはその日、ホームズの意外な一面を発見することができた。
ぼくらは三人で廊下を歩いていた。ホームズが先頭を切って歩き、その後ろをぼくとキリカがついて歩いている。
彼の言う”奇妙な事件”の捜査に付き合っていたんだ。
決定的な証拠を見つけたとホームズはご機嫌。「次に確かめたいことがある」と、また別の場所へ向かっている途中だった。
ちょうど美術室の前を通りかかった時。
美術室から見覚えのある顔が出てきた。彼が赤毛クラブの事件に関わっていたダンカン・ロスだとすぐに思い出した。
彼はぼくたちに気兼ねなく「やあ」と声をかけてくれた。
「こんにちは、ロス」
「どうも。部活中ですか?」
「今ちょうど片付けの途中なんだ」
ダンカン・ロスは制服の上からエプロンを身につけていた。あちこちが絵の具で汚れている。
片手に筆と水が入った小さなバケツ、もう片方の手には青紫の花を持っていた。
そんな彼の様子をじっと観察していたホームズが挨拶代わりに質問を投げかけた。
「珍しく室内にいるんですね」
「ああ。今日は花を描いているんだ。いい加減先生に怒られてしまってね。だから大人しく部室にいるってわけさ」
最後の方を小声で言った彼は肩をすくめて苦笑いを浮かべた。
部室をよく抜け出して白鳥を描きに行っていたのがバレたのかな。
「その花、立ち入り禁止区域に咲いている花でしょう?」
キリカがそう言ったので、彼は青い目を大きく見開き驚いていた。
ホームズではなく、彼女がその花の出所を当てたからに違いない。
黙っていたけど、ぼくだってわかっていた。その青紫の花はそこにしか咲いていないものだから。
「どうしてわかったんだ。あっ、先生には内緒にしてくれないか」
「わかってる。黙ってるわ。この間、ジョンがプレゼントしてくれたの。その時にシャーロックが咲いてる場所を言い当てたのよ」
「ああ、なるほど。驚いたよ。君まで推理の名人になったのかと」
「私じゃ全然。彼の足元にも及ばないわ」
くすりとキリカが笑った。
それにしてもこの二人に面識があるなんて知らなかった。
喋り方も畏まってないし、随分打ち解けている。結構仲が良さそうだ。
そんな和気藹々と会話をしている二人の横でホームズは苛立った様子で腕を組んでいる。人差し指をとんとんと何度も叩いていた。
捜査の足止めをされているからか、それとも二人が楽しそうに話しているからか。
きっとどっちも気に入らないんだろうな。
「そうだ。この花、良かったら持っていって。捨てようと思ってたところだし」
「いいの?ありがとう」
二厘のアイリスの茎から雫がぽたりと落ちた。
彼女はポケットからハンカチを取り出して、雫が垂れないようにぐるぐると巻きつける。
アイリスを貰い受けたキリカは嬉しそうだった。そんな彼女につられて先輩も笑みを零している。
ちょっといい雰囲気。だったけど、それをぶち壊すかのようにホームズが二人の間に割って入った。
「すみませんが、用事があるので失礼します」
そう言うと彼女の手を掴んで、足早に去っていった。
ぼくも慌てて先輩に頭を下げる。
「あっ。ちょっと!すみません、ぼくも失礼します!」
先輩はきょとんとしていた。ちょっと失礼だったんじゃないかな。
でも、何か事情を汲み取ったのか「気にしなくていいよ」と笑ってぼくたちを見送ってくれた。
二人はもうだいぶ先にいた。
走ると痛むぼくの足では追いかけるのも大変なんだ。
ようやく追いついた頃にはすっかり息が上がっていた。
「急にどうしたんだい、ホームズ」
「ぼくたちはまだ捜査中だということを忘れちゃいけない」
「それはそうだけどさ」
ぼくが息を整えている間、ふと目に映ったものがあった。
そういえばさっき、ホームズは彼女の手を掴んでいた。
つまり、手を引いてきた。それがまだ離さずに繋いでいる。
きっと無意識だったんだろう。ぼくの視線に気がつくと慌てて手をぱっと離した。
「へえ。意外と君もやるもんだね」
「なんの話かな」
「どさくさに紛れて手を繋い」
「お言葉だがワトソンくん。急がなければ証拠が処分されてしまう。行こう」
ぼくの言葉を遮ると彼は踵を返して歩き出した。
うまく誤魔化したつもりでも、耳が赤いよホームズ。
彼のメモにもう一つ付け加えることができた。
シャーロック・ホームズは案外照れ屋でヤキモチ焼きだ、と。