がんばれゴエモン
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
伝心
目を瞑ったまま、寝返りを打つ。寝心地の悪さにまた寝返りを打つ。
何度かそれを繰り返すが、寝心地の良い場所は見つからない。
目をぱちりと開くと隣に寝ているサスケが見えた。仰向けの状態で数時間前と全く変わらない姿勢。
以前、サスケ自身が緊急事態を察しなければ睡眠中に起きる事はないと言っていた。寝付けないので話し相手になってくれなどと言っても、起きる事はないだろう。
今夜は蒸し暑い。その上、気がかりな事が昼間から纏わりついている。目を閉じても頭の中がもやもやとしているせいか、何時間も寝付けずにいた。
気がかりな事とは昼間の出来事であった。サスケが物知りじいさんの所から持ち帰ってきた、時代転送装置が修理完了したという情報。その報せを受けたキリカは複雑な面持ちをしていた。その表情から真意は読み取れない。
本来、此処に居るべき筈ではない未来の人間だ。聞けばその時代は不自由無く、便利に暮らしていける。元居た時代へ帰った方が良いに決まっている。
そう割り切っているつもりだが、どこかでそれに納得をしない自分が居た。良い思い出を作って持ち帰れと言ったのは紛れも無く自分だ。それを引き止めたいなど、なんて身勝手なものだろうか。
重い溜息を吐き出すが、隣のサスケはぴくりとも動かない。内部から歯車の回る音が聞こえる。実に心地良さそうに眠るサスケの顔に悪戯でもしてやろうかと思った。
隣の家から微かな物音が聞こえた。音は以外にも広範囲に響き渡るもので、壁に穴が空いているせいかよく伝わってくる。箒が倒れたとか桶が転がったような音ではなく、戸を開ける音がした。
それを聞いたゴエモンは布団を跳ね除けて、家を飛び出した。
八尺ほど離れた先をキリカが歩いていた。少しずつ、少しずつその姿は遠ざかっていく。
このまま遠ざかっていき、やがて消えてしまうのではないか。そんな考えが頭をよぎった瞬間、ゴエモンはその後姿を追い掛けた。このまま二度と会えなくなるのは御免だ、と。
追いつく間際にキリカが振り返った。血相を変えてどうしたのかと尋ねる暇も無く、ぐいと体を引き寄せられる。肩に掛けた羽織がぱさりと地面に落ちた。
腕に込められた力は強く、それでいて優しいもの。突然の出来事に思考がぐるぐると回っていた。それがようやく落ち着いた頃にゴエモンの方からぽつりと話を切り出した。
「このまま何も言わずに帰っちまうのかと思ったぜ」
「そんな。…ゴエモンさん達に挨拶もしないで帰りませんよ」
暑さで寝付けない為、散歩をしようと出てきた所を勘違いされたようだった。
誤解が解けたのにも関わらず、一向にキリカを離そうとはしない。
間近に映るゴエモンの表情はどこか思いつめていた。昼間とはまた違う表情に困惑してしまう。
「なあ、キリカ。このまま此処に居てくれねえか。…ずっと」
「…ゴエモンさん」
「好きなんだ、キリカのことが。おめえが帰っちまったら二度と会えねえ…そんなの御免だ」
真っ直ぐな視線と気持ちに目を合わせていられなくなる。やがて目を伏せて俯き、頭をとんとゴエモンの胸に預けた。広い背に腕を回し、しがみつく様に抱きしめる。早鐘を打つ心臓の音が聞こえてきた。
温かい手の平がキリカの頭を撫でる。甘えてくる猫の頭を撫でるように優しく。
「悪いな。勝手に気持ち押し付けちまってよ」
キリカは頭を小さく左右に振った。ゆっくりと顔を上げて、涙ぐんだ目を向ける。
「私も好きです、ゴエモンさんのこと。…だから、此処に居させてください」
聞こえた言葉は夢か幻か。まるで狐に摘まれた様に両目を見開いたゴエモン。
言葉にならない声を発していたが、ようやくまともな言葉が口から出てきた。
こうも事が上手く進展するはずがない。自分は夢を見ていて都合の良い展開になっているのではないか。
「…夢、じゃないよな?」
「ほっぺ抓ってみますか?」
腕を伸ばしたキリカはゴエモンの頬を軽くつまんで横へ引っ張った。ぴりと走った痛みに目を瞑る。
この痛みが現実である証拠。嬉々とした笑みを浮かべ、ぎゅうとキリカを抱きしめた。
「これからもよろしく頼むぜ」
「はい」
夜空に浮かぶ三日月が二人を静かに照らしていた。
目を瞑ったまま、寝返りを打つ。寝心地の悪さにまた寝返りを打つ。
何度かそれを繰り返すが、寝心地の良い場所は見つからない。
目をぱちりと開くと隣に寝ているサスケが見えた。仰向けの状態で数時間前と全く変わらない姿勢。
以前、サスケ自身が緊急事態を察しなければ睡眠中に起きる事はないと言っていた。寝付けないので話し相手になってくれなどと言っても、起きる事はないだろう。
今夜は蒸し暑い。その上、気がかりな事が昼間から纏わりついている。目を閉じても頭の中がもやもやとしているせいか、何時間も寝付けずにいた。
気がかりな事とは昼間の出来事であった。サスケが物知りじいさんの所から持ち帰ってきた、時代転送装置が修理完了したという情報。その報せを受けたキリカは複雑な面持ちをしていた。その表情から真意は読み取れない。
本来、此処に居るべき筈ではない未来の人間だ。聞けばその時代は不自由無く、便利に暮らしていける。元居た時代へ帰った方が良いに決まっている。
そう割り切っているつもりだが、どこかでそれに納得をしない自分が居た。良い思い出を作って持ち帰れと言ったのは紛れも無く自分だ。それを引き止めたいなど、なんて身勝手なものだろうか。
重い溜息を吐き出すが、隣のサスケはぴくりとも動かない。内部から歯車の回る音が聞こえる。実に心地良さそうに眠るサスケの顔に悪戯でもしてやろうかと思った。
隣の家から微かな物音が聞こえた。音は以外にも広範囲に響き渡るもので、壁に穴が空いているせいかよく伝わってくる。箒が倒れたとか桶が転がったような音ではなく、戸を開ける音がした。
それを聞いたゴエモンは布団を跳ね除けて、家を飛び出した。
八尺ほど離れた先をキリカが歩いていた。少しずつ、少しずつその姿は遠ざかっていく。
このまま遠ざかっていき、やがて消えてしまうのではないか。そんな考えが頭をよぎった瞬間、ゴエモンはその後姿を追い掛けた。このまま二度と会えなくなるのは御免だ、と。
追いつく間際にキリカが振り返った。血相を変えてどうしたのかと尋ねる暇も無く、ぐいと体を引き寄せられる。肩に掛けた羽織がぱさりと地面に落ちた。
腕に込められた力は強く、それでいて優しいもの。突然の出来事に思考がぐるぐると回っていた。それがようやく落ち着いた頃にゴエモンの方からぽつりと話を切り出した。
「このまま何も言わずに帰っちまうのかと思ったぜ」
「そんな。…ゴエモンさん達に挨拶もしないで帰りませんよ」
暑さで寝付けない為、散歩をしようと出てきた所を勘違いされたようだった。
誤解が解けたのにも関わらず、一向にキリカを離そうとはしない。
間近に映るゴエモンの表情はどこか思いつめていた。昼間とはまた違う表情に困惑してしまう。
「なあ、キリカ。このまま此処に居てくれねえか。…ずっと」
「…ゴエモンさん」
「好きなんだ、キリカのことが。おめえが帰っちまったら二度と会えねえ…そんなの御免だ」
真っ直ぐな視線と気持ちに目を合わせていられなくなる。やがて目を伏せて俯き、頭をとんとゴエモンの胸に預けた。広い背に腕を回し、しがみつく様に抱きしめる。早鐘を打つ心臓の音が聞こえてきた。
温かい手の平がキリカの頭を撫でる。甘えてくる猫の頭を撫でるように優しく。
「悪いな。勝手に気持ち押し付けちまってよ」
キリカは頭を小さく左右に振った。ゆっくりと顔を上げて、涙ぐんだ目を向ける。
「私も好きです、ゴエモンさんのこと。…だから、此処に居させてください」
聞こえた言葉は夢か幻か。まるで狐に摘まれた様に両目を見開いたゴエモン。
言葉にならない声を発していたが、ようやくまともな言葉が口から出てきた。
こうも事が上手く進展するはずがない。自分は夢を見ていて都合の良い展開になっているのではないか。
「…夢、じゃないよな?」
「ほっぺ抓ってみますか?」
腕を伸ばしたキリカはゴエモンの頬を軽くつまんで横へ引っ張った。ぴりと走った痛みに目を瞑る。
この痛みが現実である証拠。嬉々とした笑みを浮かべ、ぎゅうとキリカを抱きしめた。
「これからもよろしく頼むぜ」
「はい」
夜空に浮かぶ三日月が二人を静かに照らしていた。