sub story
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
特別な日も、何気ない日常も
細かい雪がしんしんと降り続いていた。
街並みが美しい雪景色に包まれる季節の到来。クリスマスムードに染まるグリーンイーストヴィレッジも華やかな賑わいをみせる。広場のクリスマスツリーや軒並みもキラキラと輝いていた。
南から東まで、急いでやってきたガストはリトルトーキョーの市街地にある彼女の家を目指していた。
今日はクリスマス当日。先程まで彼は弟分たちや妹に用意したクリスマスプレゼントを渡し歩いてきた。彼らはガストの顔を見るなり顔を綻ばせる。特に妹は久方ぶりに会えた兄に喜びを隠せずにいた。そんな彼らの笑顔に寒空の下でも胸が温かく満たされるというもの。
グリーンイーストの駅に着いた所で「もうすぐ着く」と穂香にメッセージを送る。直ぐに返事がきた。「滑って転ばないようにね」とスタンプ付きで返ってきた。
そうは言うが、愛しい彼女が待っているのだ。自然と急ぎ足になってしまう。しかしそれで本当にすっ転んでしまってはとんだ笑い種。注意を払いながらガストは目的地へ向かっていた。
途中、雪に足を取られてバランスを崩しそうになるが、なんとか体勢を立て直す。彼女に渡すクリスマスプレゼントをぺしゃんこにする訳にはいかない。
冷たい氷雪に身体を打ち付けることなく、彼女の住むアパートに無事到着。玄関前で衣服や髪に降り積もった雪を手で払う。ハラハラと細かい雪が落ちていった。
湿った髪の毛先を手で整えていると、インターホンを鳴らすより先に玄関のドアが静かに開いた。笑顔で出迎えてくれたのは今日一番見たかった顔。
「お疲れさま、サンタさん」
「サンキュー。結構降ってきた」
「うわ…本当。また雪かきしないと。ガストも早く入って。雪だるまになっちゃうわ」
ガストの頭に積もっている雪を優しく手で払い落とす。玄関先で雪を落とした後、チェスターコートをコートハンガーに預ける。
濡れた髪の水分を受け取ったタオルで拭き取り、洗面台を借りてうがいと手洗いを済ませた。
リビングはクリスマスのモチーフたちで飾られていた。壁にアドベントカレンダー、星を模ったガーランド。自慢のガストくんコーナーもクリスマス仕様となっていた。
ガストくんとは【HELIOS】から公式で発売されたヒーローのぬいぐるみ。ヒーロースーツを纏ったガストのぬいぐるみに手製の服を着せている。今日は真っ赤なサンタ服と帽子を頭にちょこんと乗せていた。
彼が座るロッキングチェア。それを始めとしてミニチュアのテーブルやダーツ盤などの家具も充実のラインナップ。それらは訪れる度に増えており、密かな楽しみになっていた。
ロッキングチェアの傍らには小さなプレゼントの箱が積み重なっている。ミニテーブルにはワンホールケーキとフォークがそえられていた。
自身と同じくプレゼントを配るのに奔走していたのかと思うと「お疲れさん」と声を掛けてやりたくもなる。
こちらのダイニングテーブルにはクリスマスディナーが用意されていた。大きなチキンとブッシュ・ド・ノエル、カプレーゼ、前菜のサラダ。テーブル中央に赤と白のバラをあしらったクリスマスアレンジメントが飾られている。
「美味そうなチキンだな。こんだけ用意するの大変だったんじゃないか?」
「年に一度のクリスマスだもの。シャンパンもあるわよ」
シャルドネのシャンパン瓶。その栓を開ける為の布巾を借りる際にお互いの指先が触れる。あまりにもガストの指先が冷たくなっていたので、穂香はその指先を包み込んだ。
「ちょっと…手冷えきってる」
「外寒かったからなぁ。穂香の方が手温かいってなんか新鮮だな」
「いつもは逆だものね」
自分よりも華奢で繊細な手。複数の指に絆創膏が巻かれている。切り傷とまではいかない小さな傷が職業柄絶えずにいた。それに加えて冬の乾燥で手荒れも酷くなっている。ガストはその手を慈しむ様に包み返した。
「どうしたの?手温めてからディナーにする?」
「ん…それだと逆に穂香の手が冷えちまう」
「そうなったらガストに手握っててもらうから平気よ」
「お互いに温めあってたらいつまで経ってもメシ食えないな。…よし、シャンパンの蓋開けるからちょっと離れててくれ。飛ばさないようにするけど、万が一ってこともあるし」
「分かった。じゃあその間にスープ温めてくる」
彼女が作る野菜たっぷりのコンソメスープをガストは気に入っていた。和風出汁を併せたもので、玉ねぎやキャベツの甘みがぐっと引き出されて美味しいのだ。今日の様に冷えた夜は殊更に。
ガストは布巾を被せたシャンパンの蓋を慎重に押し上げていく。炭酸ガスで上方向へ飛びそうになる手応えを感じた直後、ポンっとコルク栓が抜けた。
広い部屋であれば豪快に蓋を飛ばすのだが、天井や電灯に当たっては困る。あらぬ方向へ飛んで物を壊してしまうかもしれない。
煙が噴き出るシャンパンの瓶を傾け、フルートグラスに静かに注いでいく。シュワシュワと細かい泡を立て、綺羅びやかな透き通るゴールドに。
シャンパンを注ぎ終える頃、スープのいい匂いが漂ってきた。
テーブルについた二人は少しだけ畏まった仕草でグラスを掲げ、クリスマスを祝う言葉と共にカチリとグラスをあわせた。
スプーンで掬った温かいスープを一口。冷えきった身体の芯をじわじわと温めてくる。
「…はぁー温かいスープが沁みる。俺、穂香が作るスープが好きなんだ」
「ありがと。数少ない得意料理だからそう言ってくれると嬉しいわ。チキンもケーキも作れないからこれだけはって頑張った甲斐があるかも。…今度アップルパイにもリベンジするわ」
以前、冷凍のパイ生地からアップルパイを作ろうと奮闘した末、焼き加減が上手くいかず表面が黒焦げになってしまった。焦げを削ぎ落して何とか食べられる状態にはなったのだが。その時のガストのフォローが必死過ぎて、逆に気にしてしまう。「よく焼けてて香ばしい」「焼きリンゴってあるだろ?」などと気遣いのオンパレードであった。料理はそれほど得意ではない穂香だが、あまりに気を遣われたので必ずリベンジをすると密かに燃えている。
「…何だかんだで今年も色々あったわね。ガストと会ってからもうだいぶ経つのに、一番色んな事があった年な気がする」
「その半分以上は【サブスタンス】関連で巻き込んじまったヤツだよな…悪ぃ」
「気にしないで。楽しい一年だったし」
ガストは昨年から【HELIOS】に所属することになり、環境が大きく変わった。正月の【ニューイヤーヒーローズ】に出演することになったり、射撃大会では輝かしい記録を残し、夏場には水の都と化したノースシティの案内役を務めるなど。
プライベートでは穂香の里帰りに付き合いもした。変わった出来事としては助けたメジロにささやかな恩返しをされたことも。
振り返れば確かに様々なことがあった一年だ。その思い出を彼女と共有できた幸せを噛みしめている。
「それにこうしてガストとまたクリスマスを迎えられた。一年の振り返りついでにだけど、ニューイヤーのカウントダウンは一緒に過ごせそう?」
「あぁ。仕事も何とかなりそうだぜ。そのカウントダウンなんだけどさ、今年は除夜の鐘ってのを聞きたいんだ」
「除夜の鐘?」
ニューミリオンのグリーンイーストヴィレッジは様々な街並みを連ねている。その為、年末年始や各イベントの過ごし方も多種多様。大輪の花火で新年の幕開けを祝う国もあれば、寺院の鐘を鳴らして年を越す国もある。
ガストの話ではリトルトーキョーにある寺院でも毎年除夜の鐘をついているらしい。
「日本の年末年始のこと色々調べてたら、年を越す深夜に除夜の鐘をつくっていう習慣があるって知ったんだ。確か百八回…だったか?」
「ええ、煩悩の数って言われてる百八回。お寺があるのは知ってたけど、除夜の鐘ついてたのね。毎年この時期は日本に里帰りしてたから知らなかったわ。それなら除夜の鐘つきに行く?」
「除夜の鐘って一般人もついていいのか?お寺の関係者だけだと思ってた」
「私も子どもの頃はそう思ってた。百七人のうちに入れるよう並べば鐘つけるわよ」
それが特別なことに思えたのだろう。ガストは嬉しそうに微笑んでみせた。
「よし。じゃあ今年最後の思い出作りに除夜の鐘つきに行こうぜ」
「オーケー。詳しいこと調べたらまた連絡するわね」
「あぁ、楽しみだな。…楽しい時間はあっという間に過ぎちまうけど、穂香と一緒なら楽しさが倍になってる気がする。なんつーか、得した気分っていうか」
来年も、その次の年もずっと。二人で思い出を作っていけたらいい。
そう言葉にしかけたガストはふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「これからも二人で楽しい思い出たくさん作っていこうぜ。来年もよろしくな穂香」
細かい雪がしんしんと降り続いていた。
街並みが美しい雪景色に包まれる季節の到来。クリスマスムードに染まるグリーンイーストヴィレッジも華やかな賑わいをみせる。広場のクリスマスツリーや軒並みもキラキラと輝いていた。
南から東まで、急いでやってきたガストはリトルトーキョーの市街地にある彼女の家を目指していた。
今日はクリスマス当日。先程まで彼は弟分たちや妹に用意したクリスマスプレゼントを渡し歩いてきた。彼らはガストの顔を見るなり顔を綻ばせる。特に妹は久方ぶりに会えた兄に喜びを隠せずにいた。そんな彼らの笑顔に寒空の下でも胸が温かく満たされるというもの。
グリーンイーストの駅に着いた所で「もうすぐ着く」と穂香にメッセージを送る。直ぐに返事がきた。「滑って転ばないようにね」とスタンプ付きで返ってきた。
そうは言うが、愛しい彼女が待っているのだ。自然と急ぎ足になってしまう。しかしそれで本当にすっ転んでしまってはとんだ笑い種。注意を払いながらガストは目的地へ向かっていた。
途中、雪に足を取られてバランスを崩しそうになるが、なんとか体勢を立て直す。彼女に渡すクリスマスプレゼントをぺしゃんこにする訳にはいかない。
冷たい氷雪に身体を打ち付けることなく、彼女の住むアパートに無事到着。玄関前で衣服や髪に降り積もった雪を手で払う。ハラハラと細かい雪が落ちていった。
湿った髪の毛先を手で整えていると、インターホンを鳴らすより先に玄関のドアが静かに開いた。笑顔で出迎えてくれたのは今日一番見たかった顔。
「お疲れさま、サンタさん」
「サンキュー。結構降ってきた」
「うわ…本当。また雪かきしないと。ガストも早く入って。雪だるまになっちゃうわ」
ガストの頭に積もっている雪を優しく手で払い落とす。玄関先で雪を落とした後、チェスターコートをコートハンガーに預ける。
濡れた髪の水分を受け取ったタオルで拭き取り、洗面台を借りてうがいと手洗いを済ませた。
リビングはクリスマスのモチーフたちで飾られていた。壁にアドベントカレンダー、星を模ったガーランド。自慢のガストくんコーナーもクリスマス仕様となっていた。
ガストくんとは【HELIOS】から公式で発売されたヒーローのぬいぐるみ。ヒーロースーツを纏ったガストのぬいぐるみに手製の服を着せている。今日は真っ赤なサンタ服と帽子を頭にちょこんと乗せていた。
彼が座るロッキングチェア。それを始めとしてミニチュアのテーブルやダーツ盤などの家具も充実のラインナップ。それらは訪れる度に増えており、密かな楽しみになっていた。
ロッキングチェアの傍らには小さなプレゼントの箱が積み重なっている。ミニテーブルにはワンホールケーキとフォークがそえられていた。
自身と同じくプレゼントを配るのに奔走していたのかと思うと「お疲れさん」と声を掛けてやりたくもなる。
こちらのダイニングテーブルにはクリスマスディナーが用意されていた。大きなチキンとブッシュ・ド・ノエル、カプレーゼ、前菜のサラダ。テーブル中央に赤と白のバラをあしらったクリスマスアレンジメントが飾られている。
「美味そうなチキンだな。こんだけ用意するの大変だったんじゃないか?」
「年に一度のクリスマスだもの。シャンパンもあるわよ」
シャルドネのシャンパン瓶。その栓を開ける為の布巾を借りる際にお互いの指先が触れる。あまりにもガストの指先が冷たくなっていたので、穂香はその指先を包み込んだ。
「ちょっと…手冷えきってる」
「外寒かったからなぁ。穂香の方が手温かいってなんか新鮮だな」
「いつもは逆だものね」
自分よりも華奢で繊細な手。複数の指に絆創膏が巻かれている。切り傷とまではいかない小さな傷が職業柄絶えずにいた。それに加えて冬の乾燥で手荒れも酷くなっている。ガストはその手を慈しむ様に包み返した。
「どうしたの?手温めてからディナーにする?」
「ん…それだと逆に穂香の手が冷えちまう」
「そうなったらガストに手握っててもらうから平気よ」
「お互いに温めあってたらいつまで経ってもメシ食えないな。…よし、シャンパンの蓋開けるからちょっと離れててくれ。飛ばさないようにするけど、万が一ってこともあるし」
「分かった。じゃあその間にスープ温めてくる」
彼女が作る野菜たっぷりのコンソメスープをガストは気に入っていた。和風出汁を併せたもので、玉ねぎやキャベツの甘みがぐっと引き出されて美味しいのだ。今日の様に冷えた夜は殊更に。
ガストは布巾を被せたシャンパンの蓋を慎重に押し上げていく。炭酸ガスで上方向へ飛びそうになる手応えを感じた直後、ポンっとコルク栓が抜けた。
広い部屋であれば豪快に蓋を飛ばすのだが、天井や電灯に当たっては困る。あらぬ方向へ飛んで物を壊してしまうかもしれない。
煙が噴き出るシャンパンの瓶を傾け、フルートグラスに静かに注いでいく。シュワシュワと細かい泡を立て、綺羅びやかな透き通るゴールドに。
シャンパンを注ぎ終える頃、スープのいい匂いが漂ってきた。
テーブルについた二人は少しだけ畏まった仕草でグラスを掲げ、クリスマスを祝う言葉と共にカチリとグラスをあわせた。
スプーンで掬った温かいスープを一口。冷えきった身体の芯をじわじわと温めてくる。
「…はぁー温かいスープが沁みる。俺、穂香が作るスープが好きなんだ」
「ありがと。数少ない得意料理だからそう言ってくれると嬉しいわ。チキンもケーキも作れないからこれだけはって頑張った甲斐があるかも。…今度アップルパイにもリベンジするわ」
以前、冷凍のパイ生地からアップルパイを作ろうと奮闘した末、焼き加減が上手くいかず表面が黒焦げになってしまった。焦げを削ぎ落して何とか食べられる状態にはなったのだが。その時のガストのフォローが必死過ぎて、逆に気にしてしまう。「よく焼けてて香ばしい」「焼きリンゴってあるだろ?」などと気遣いのオンパレードであった。料理はそれほど得意ではない穂香だが、あまりに気を遣われたので必ずリベンジをすると密かに燃えている。
「…何だかんだで今年も色々あったわね。ガストと会ってからもうだいぶ経つのに、一番色んな事があった年な気がする」
「その半分以上は【サブスタンス】関連で巻き込んじまったヤツだよな…悪ぃ」
「気にしないで。楽しい一年だったし」
ガストは昨年から【HELIOS】に所属することになり、環境が大きく変わった。正月の【ニューイヤーヒーローズ】に出演することになったり、射撃大会では輝かしい記録を残し、夏場には水の都と化したノースシティの案内役を務めるなど。
プライベートでは穂香の里帰りに付き合いもした。変わった出来事としては助けたメジロにささやかな恩返しをされたことも。
振り返れば確かに様々なことがあった一年だ。その思い出を彼女と共有できた幸せを噛みしめている。
「それにこうしてガストとまたクリスマスを迎えられた。一年の振り返りついでにだけど、ニューイヤーのカウントダウンは一緒に過ごせそう?」
「あぁ。仕事も何とかなりそうだぜ。そのカウントダウンなんだけどさ、今年は除夜の鐘ってのを聞きたいんだ」
「除夜の鐘?」
ニューミリオンのグリーンイーストヴィレッジは様々な街並みを連ねている。その為、年末年始や各イベントの過ごし方も多種多様。大輪の花火で新年の幕開けを祝う国もあれば、寺院の鐘を鳴らして年を越す国もある。
ガストの話ではリトルトーキョーにある寺院でも毎年除夜の鐘をついているらしい。
「日本の年末年始のこと色々調べてたら、年を越す深夜に除夜の鐘をつくっていう習慣があるって知ったんだ。確か百八回…だったか?」
「ええ、煩悩の数って言われてる百八回。お寺があるのは知ってたけど、除夜の鐘ついてたのね。毎年この時期は日本に里帰りしてたから知らなかったわ。それなら除夜の鐘つきに行く?」
「除夜の鐘って一般人もついていいのか?お寺の関係者だけだと思ってた」
「私も子どもの頃はそう思ってた。百七人のうちに入れるよう並べば鐘つけるわよ」
それが特別なことに思えたのだろう。ガストは嬉しそうに微笑んでみせた。
「よし。じゃあ今年最後の思い出作りに除夜の鐘つきに行こうぜ」
「オーケー。詳しいこと調べたらまた連絡するわね」
「あぁ、楽しみだな。…楽しい時間はあっという間に過ぎちまうけど、穂香と一緒なら楽しさが倍になってる気がする。なんつーか、得した気分っていうか」
来年も、その次の年もずっと。二人で思い出を作っていけたらいい。
そう言葉にしかけたガストはふっと柔らかい笑みを浮かべた。
「これからも二人で楽しい思い出たくさん作っていこうぜ。来年もよろしくな穂香」