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12.推測
まん丸に焼けた大粒のタコ焼き。たっぷりと塗られたソースとマヨネーズ、その上に青のり、鰹節が存分にふりかけられていた。その大きなタコ焼きがファットの大口に吸い込まれる。もうこれで二舟目だ。
俺もさっき一つ食べたけど、外側がカリッとしていて美味しかった。この店は紅ショウガ多めだ。
あの後、葉月さんが近所のスーパーで色々買ってきてくれた。リンゴやバナナとかの果物を始め、タコ焼き、たい焼き、オムそば、からあげといった総菜を満遍なくといった感じで。ビニール袋二つ提げて戻ってきた時は流石に額に汗をかいていた。
「だいぶ動揺させてしまったみたいだ。…申し訳なさすぎる」
たい焼きを頭の方から齧りながら、ベッド脇にある小さな机の上を見てそう呟いた。透明なパックに詰められた牛乳寒天。缶詰のみかんが点々と入っていて、美味しそうだ。
フードコートと総菜コーナーを回ってきたんだろうけど。通常のお見舞いにしては不釣り合いな物が多い。人間、あまりに動揺すると行動がおかしくなるから仕方ない。
買い物から戻ってきた葉月さんは切島くんの所へお見舞いを置きに行っている。
俺も後でミリオの様子を見に行きたい。基礎体力はミリオの方が俺よりも上だから、大丈夫だとは思う。でも、透過の個性を持つミリオがあそこまで傷を負うなんて。妙な胸騒ぎがする。
大丈夫だろうか。そう呟いたはずの俺の声はどこにも届いていなかったようだ。
「この店のタコ焼き、美味いなァ。明日また買ってこかな。なんや環、俺の顔になんかついとる?」
「…ソースがついてます。…美味しそうに食べてると思った」
「美味いでー。霧華ちゃん、ちゃーんと分かってくれてん。タコ焼き三舟も買うてきてくれたんやで」
「その分、持ち帰ってくるの大変そうでしたからね。噛み締めて味わってください」
「…分かっとるがな」
渋い顔をしながらファットは口の端についたソースを指で拭った。それからまたタコ焼きを一つ、また一つと頬張っていく。
「……インターン、暫くは中止になるやろな」
「でしょうね。…葉月さんの作ったご飯、もう食べられないのか」
「環めっちゃ気に入っとたもんな。海鮮の炊き込みご飯とアサリの味噌汁」
「俺の個性のこと考えた献立を組んでくれたし、アサリもちゃんと砂抜きされていたし…」
タコ、イカ、エビ、ホタテの稚貝が入っている炊き込みご飯。海鮮の旨味がご飯に染み込んでいて、すごく美味しかったんだ。醤油の塩加減も丁度良い。
「今のうちにレシピ聞いておこうかな…でもやっぱり葉月さんが作る方が美味しいに決まってる」
「…環はほんまに霧華ちゃんの作るご飯大好きやな」
「ファットこそ」
「ん…」
たい焼きを平らげてからそう返した。ファットからは短い返事しか聞こえず、否定も肯定もない。
俺がたい焼き一つを食べている間、向こうはタコ焼き三舟目に手をつけていた。
「ファット」
「んー。なんやー」
「葉月さんの件、進展は少しでもあったんですか」
「なーんもあらへん。あれからエリちゃんの件で動いとったし、張り込みや通常のパトロールで手一杯やったん。あ、事務所では上手くやっとるで。事務員達も可愛い後輩できたわーって喜んどったし」
「いや、そうじゃない」
何か手がかりはあったのか、そういう意味で聞いたんじゃない。当人は「なにが?」ととぼけているし。素知らぬふりをするその態度に少しばかりイラッとした。
「わざとですか、それ。…あんなベタな口説き方するよりちゃんと言ったほうがいい」
「……せやから、口説いてへんわ」
「じゃあどうして。何故そんなに気にかけているんです。保護しているから、なんていうのは理由に入らない。それなら俺たちも同じだ」
楊枝に刺したタコ焼きを持ち上げていた手がゆっくりと下りる。大きな溜息がファットの口から漏れた。
「あんな、昔ガキの頃にイジメられとった女の子助けたことあるんや。小さい女の子でな、気に入りの靴を隠された言うて、膝抱えて小さくなって泣いてたん。…その子と会ったんがあの場所。神社の敷地内やった」
「…葉月さんが落ちてきた場所」
「そうや。俺はその子が霧華ちゃんやと確信しとる。笑い方そのまんまやねん。それに、その靴に白い猫のキャラクターついとってな。けど見たことなかったし、クラスの女子やオカンに聞いても分からん言うてた。誰に聞いてもそんなキャラ知らんと。…ただ、似たようなのはあった。せやけど微妙に違ってたのを覚えとる」
それが何を意味するのか。みなまで説明をされなくても、一つの仮説に結び付いていく。
この世界の物は自分の居た世界と微妙に違うと葉月さんは言っていた。地名を始めとして企業名、菓子の名前、歌手やアイドル。それは世間に普及されているキャラクターも同様なんだろう。その白い猫のキャラクターも。
「……葉月さんは前にも此処に来たことがあるってことですか。そんなこと…あるのか」
「でも会うたのそれっきりや。あの後何回か神社に行ったけど、その女の子おらんくて。遊び場にしとる言うてたから、近所の子か学校同じかと思って…でもその子もおらんし、いじめっ子達にも合わんかった」
「記憶違い、とかじゃ。葉月さん、大阪には来たことないって言ってた。もしかしたら、この世界の葉月さん…でも、それだとその猫のキャラクターが」
「俺もさっきはそう思うた。もしかしてこっちの世界の霧華ちゃんかなーと。……でも、それやと辻褄合わんねん」
刺していたタコ焼きを頬張り、空になった器をテーブルへ戻す。
ファットの口から溜息がまた一つ漏れた。
「……謎が残ったままだ。でも、ファットが気にする理由それだけじゃないでしょ」
「なんやねん環。この間の仕返しか。セクハラやで」
そう言われて何も言い返せなくなった。あくまで自分が得別な感情は抱いてないと通すつもりだ。
「…この際どっちでもいい。でも、これだけは約束してほしい。葉月さんが此処から帰ることになった時は、必ず、俺と切島くんに連絡をください。……別れの挨拶もせずに永遠に会えなくなるのは、嫌だから」
相手から返ってきた声はいつになく小さいものだった。
まん丸に焼けた大粒のタコ焼き。たっぷりと塗られたソースとマヨネーズ、その上に青のり、鰹節が存分にふりかけられていた。その大きなタコ焼きがファットの大口に吸い込まれる。もうこれで二舟目だ。
俺もさっき一つ食べたけど、外側がカリッとしていて美味しかった。この店は紅ショウガ多めだ。
あの後、葉月さんが近所のスーパーで色々買ってきてくれた。リンゴやバナナとかの果物を始め、タコ焼き、たい焼き、オムそば、からあげといった総菜を満遍なくといった感じで。ビニール袋二つ提げて戻ってきた時は流石に額に汗をかいていた。
「だいぶ動揺させてしまったみたいだ。…申し訳なさすぎる」
たい焼きを頭の方から齧りながら、ベッド脇にある小さな机の上を見てそう呟いた。透明なパックに詰められた牛乳寒天。缶詰のみかんが点々と入っていて、美味しそうだ。
フードコートと総菜コーナーを回ってきたんだろうけど。通常のお見舞いにしては不釣り合いな物が多い。人間、あまりに動揺すると行動がおかしくなるから仕方ない。
買い物から戻ってきた葉月さんは切島くんの所へお見舞いを置きに行っている。
俺も後でミリオの様子を見に行きたい。基礎体力はミリオの方が俺よりも上だから、大丈夫だとは思う。でも、透過の個性を持つミリオがあそこまで傷を負うなんて。妙な胸騒ぎがする。
大丈夫だろうか。そう呟いたはずの俺の声はどこにも届いていなかったようだ。
「この店のタコ焼き、美味いなァ。明日また買ってこかな。なんや環、俺の顔になんかついとる?」
「…ソースがついてます。…美味しそうに食べてると思った」
「美味いでー。霧華ちゃん、ちゃーんと分かってくれてん。タコ焼き三舟も買うてきてくれたんやで」
「その分、持ち帰ってくるの大変そうでしたからね。噛み締めて味わってください」
「…分かっとるがな」
渋い顔をしながらファットは口の端についたソースを指で拭った。それからまたタコ焼きを一つ、また一つと頬張っていく。
「……インターン、暫くは中止になるやろな」
「でしょうね。…葉月さんの作ったご飯、もう食べられないのか」
「環めっちゃ気に入っとたもんな。海鮮の炊き込みご飯とアサリの味噌汁」
「俺の個性のこと考えた献立を組んでくれたし、アサリもちゃんと砂抜きされていたし…」
タコ、イカ、エビ、ホタテの稚貝が入っている炊き込みご飯。海鮮の旨味がご飯に染み込んでいて、すごく美味しかったんだ。醤油の塩加減も丁度良い。
「今のうちにレシピ聞いておこうかな…でもやっぱり葉月さんが作る方が美味しいに決まってる」
「…環はほんまに霧華ちゃんの作るご飯大好きやな」
「ファットこそ」
「ん…」
たい焼きを平らげてからそう返した。ファットからは短い返事しか聞こえず、否定も肯定もない。
俺がたい焼き一つを食べている間、向こうはタコ焼き三舟目に手をつけていた。
「ファット」
「んー。なんやー」
「葉月さんの件、進展は少しでもあったんですか」
「なーんもあらへん。あれからエリちゃんの件で動いとったし、張り込みや通常のパトロールで手一杯やったん。あ、事務所では上手くやっとるで。事務員達も可愛い後輩できたわーって喜んどったし」
「いや、そうじゃない」
何か手がかりはあったのか、そういう意味で聞いたんじゃない。当人は「なにが?」ととぼけているし。素知らぬふりをするその態度に少しばかりイラッとした。
「わざとですか、それ。…あんなベタな口説き方するよりちゃんと言ったほうがいい」
「……せやから、口説いてへんわ」
「じゃあどうして。何故そんなに気にかけているんです。保護しているから、なんていうのは理由に入らない。それなら俺たちも同じだ」
楊枝に刺したタコ焼きを持ち上げていた手がゆっくりと下りる。大きな溜息がファットの口から漏れた。
「あんな、昔ガキの頃にイジメられとった女の子助けたことあるんや。小さい女の子でな、気に入りの靴を隠された言うて、膝抱えて小さくなって泣いてたん。…その子と会ったんがあの場所。神社の敷地内やった」
「…葉月さんが落ちてきた場所」
「そうや。俺はその子が霧華ちゃんやと確信しとる。笑い方そのまんまやねん。それに、その靴に白い猫のキャラクターついとってな。けど見たことなかったし、クラスの女子やオカンに聞いても分からん言うてた。誰に聞いてもそんなキャラ知らんと。…ただ、似たようなのはあった。せやけど微妙に違ってたのを覚えとる」
それが何を意味するのか。みなまで説明をされなくても、一つの仮説に結び付いていく。
この世界の物は自分の居た世界と微妙に違うと葉月さんは言っていた。地名を始めとして企業名、菓子の名前、歌手やアイドル。それは世間に普及されているキャラクターも同様なんだろう。その白い猫のキャラクターも。
「……葉月さんは前にも此処に来たことがあるってことですか。そんなこと…あるのか」
「でも会うたのそれっきりや。あの後何回か神社に行ったけど、その女の子おらんくて。遊び場にしとる言うてたから、近所の子か学校同じかと思って…でもその子もおらんし、いじめっ子達にも合わんかった」
「記憶違い、とかじゃ。葉月さん、大阪には来たことないって言ってた。もしかしたら、この世界の葉月さん…でも、それだとその猫のキャラクターが」
「俺もさっきはそう思うた。もしかしてこっちの世界の霧華ちゃんかなーと。……でも、それやと辻褄合わんねん」
刺していたタコ焼きを頬張り、空になった器をテーブルへ戻す。
ファットの口から溜息がまた一つ漏れた。
「……謎が残ったままだ。でも、ファットが気にする理由それだけじゃないでしょ」
「なんやねん環。この間の仕返しか。セクハラやで」
そう言われて何も言い返せなくなった。あくまで自分が得別な感情は抱いてないと通すつもりだ。
「…この際どっちでもいい。でも、これだけは約束してほしい。葉月さんが此処から帰ることになった時は、必ず、俺と切島くんに連絡をください。……別れの挨拶もせずに永遠に会えなくなるのは、嫌だから」
相手から返ってきた声はいつになく小さいものだった。