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1.真昼の出来事


 関西の江洲羽市に構えるファットガム事務所。そこに雄英高校からインターン生として迎えられている天喰環と切島鋭児郎はサンイーター、レッドライオットとして真昼のパトロールを行っていた。
 天喰はインターン活動も二年目。市内パトロールも慣れたものだが、切島にとってはまだ片手で数える程度の回数。今日は案内がてらにと市内の外れまで足を運んでいた。

 ファットガムの斜め後ろについて歩いていた天喰は歩みをふと止めた。何かに気付いたのか顔を上げ、辺りを注意深く見渡す。

「先輩、どうしたんスか」
「…鈴」
「鈴?」
「今、……鈴の音が聞こえた様な気がした」

 立ち止まる天喰の隣で切島は耳をそばだてる。だが、鈴の音など聞こえない。聞こえてくるのは偶に通る車のエンジン音のみ。二人よりも身長があるファットガムも耳を澄ませるが何も聞こえていないようだった。
 しゃん、しゃんと鈴の束を揺らす音が天喰の耳にだけ届いていた。空耳と片付けるにはハッキリとした音だ。

 それが何度か聞こえた後、空に変化が訪れた。ぽっかりと黒い穴が空き、磁気嵐の様な揺らぎが現れる。それは信号機よりも高い場所で直径一メートル程の大きさをしていた。
 そればかりは天喰だけではなく、二人の目にもしっかりと捉えられた。

「なんやあの穴は!」
「っ…なんか空間が…歪んでる気がっ!」
「……ファット!あれを!」

 青に空いた箇所を指した天喰がそう口にした次の瞬間、何かが突如そこから現れた。同時に歪みと穴はすっと消え去り、そこから現れた人の形をしたものは留まる事なく、落下運動を始めた。

「人や!あかんっ、このままだと真っ逆さまやで!」
「俺が行きますっ!」

 真っ先にアスファルトを蹴り出した切島にファット、天喰と続く。目標地点までは約五十メートル。下は空き地になっている。切島が風を切るように走り、全速力で駆けつけるが、救助対象は重力によって下降速度を増していた。
 間に合わない。歯をぎりと喰い縛る切島の横を緑の蔦が物凄い速さで追い越していった。それは真っ直ぐと目標地点に伸びていき、何本もの蔦が絡み合いながら成長していく。
 目標地点に到達したその蔦の先に蕾が一つ再現し、みるみるうちに膨れ上がった蕾が一瞬で開花した。橙色の花弁をつけた大きな向日葵は空と並行に横たわる。落下してきた人間は向日葵のクッションに受け止められ、地面との衝突を回避した。
 個性を発動させた天喰は片腕を伸ばした態勢のまま息をついた。

「…ま、間に合った…」
「ようやったサンイーター!」

 間もなくして目標地点の空き地に到着した三人は向日葵をそっと覗き込んだ。そこには横向きに倒れている女性が一人。気を失っているようで、両目を瞑ったまま身動ぎしない。日本人特有の焦げ茶混じりの黒髪に黄みがかった肌色。シャツワンピースを着ている。肩から下げていたであろうショルダーバッグも彼女と同じ様に横たわっていた。
 頬に赤みは差しているが、微動だにしない女性を見た天喰は顔を青ざめた。

「…もしかして、間に合わなかったんじゃ…それか打ち所が…」
「大丈夫や。息はしとる。ただ気ぃ失っとるだけや」

 ファットガムにそう言われ、恐々と視線を女性に改めて向けると、肩が呼吸に合わせ上下しているのを確認することができた。それを見てほっと胸を撫で下ろす。

「一先ずこっから移動させなあかん。…見たとこ、外傷は無さそうやな。一旦事務所に戻るで。環、抱えてやり」
「えっ……無理」

 すかさず拒否の意思表示をした天喰は首を左右にふるふると振った。無我夢中で女性を助けたのはいいが、それを抱き抱えて歩くなどできないと。人を抱えて歩くものなら周囲からの視線が集まるのだ。
 弱気な発言を吐いた天喰にファットガムが豪快に一つ笑い飛ばした。

「別嬪な姫さんやからて遠慮したらあかんで。抱えて運ぶのも人命救助や」
「違う…ファットの方が振動を抑えて運べると思う、から」
「ああ、確かにそーっスね!お願いしやっス!」

 豊かな脂肪が歩く振動をカットするだろうと天喰が言えばそれに同意する切島が笑顔で頷いた。
 ファットガムは女性を軽々と抱き上げ、その肩から落ちた鞄を代わりに頼むと天喰に命じた。
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