軽率なコラボシリーズ
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近くない?
「なんか、近くない?」
私は番茶を運んできた折にそう言った。
お昼を過ぎた食堂の一角。
いつもの様にお馴染みの顔ぶれがそこに集まる。
何気なく会話を楽しむこの場所。最早ありきたりとも言える風景。そんな日常を過ごせるのが私はちょっと嬉しい。
その食堂で霧華さんと池田くんは並んで座るのが常。うん、それは良いんだけどね。
今日は距離がなんか近い気がした。
二人の間が拳一つ分どころか、指一本も入らないぐらい近い。肩を寄せてる。
それを指摘したんだけど、二人はけろっとしていた。少なくとも霧華さんは「そうですよね」って距離を取りそうな気がしたのに。
「そうですか? 気の所為だと思いますが」
「えっ。……ええっ?」
それどころか、霧華さんにこう言われてしまって私は動揺を隠せずにいる。
一体どんな心境の変化があったんだろう。あの文騒動のせいかな。
「いつもよりだいぶ近いよ」
「いつもこんな感じですけど」
池田くんは池田くんで「何か?」って言いたそうに、至って「これが普通ですけど」みたいな顔をしている。
「私の思い違い……なのかな。そうなのかなぁ。でもちょっとくっつきすぎじゃない?」
首を傾げながら私がそう言えば「久々知夫婦に言われたくないんですけど」ぴしゃりと返された。
何やら様子がおかしいなぁと訝しみながらも私は二人の前に腰掛ける。
うん。前から見てもやっぱり近いよ。
「池田先生は居られますか!」
食堂に駆け込んできた三年生の忍たまが顔を出した。
呼ばれた該当者が二人、同時にそっちを向く。それはそう。
二人揃ってることに気づいた彼は慌てて言い直した。
「あ、えっと……池田三郎次先生!」
「どうしたんだ」
「ご歓談中申し訳ございません。小松田さんが探しておられます」
「小松田さんが?」
「まさか、入門表にサインし忘れたとか」
「二人揃って入ってきたんですよ。そんなこと」
池田くんは最後まで言い切らずに、そこで「まさか」と顔を顰めた。
湯飲みを持ち上げた霧華さんが「ああ」と何か思い出したように口を開いた。
「入門表にサインをした直後に襟巻きが風に拐われて、一度門の外へ出ただろう。そういえば」
「つまりこういうこと? 一度門の外に出た分の出門表と再入門した分の入門表が池田くんの分だけない」
「でしょうね」
「細かすぎるっ!」
そこはまあ、小松田さんだから。
私と霧華さんは顔を見合わせて、うんうんと頷いた。
「……と、言うわけなんです。出門表と入門表にサインをしてきて頂けますか」
「わかった。サインしないと小松田さん煩いからな。地の果てまで追いかけてくるだろうし。じゃあ、ちょっと行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ぶつくさと文句を言いつつも池田くんは三年生の忍たまを連れて食堂を去っていった。
流石というか、すごいなぁ。すっと何の躊躇いも未練もなく立ち上がったよね。ここが兵助くんと違うところだ。
私が池田くんたちを長く見送っていたせいか、熱い湯飲みで暖を取る霧華さんが不思議そうにしていた。
「どうされました」
「兵助くんだと百回声かけても退かなさそうだと思って」
「……ああ。一時も貴女の傍を離れようとしませんからね、兵助は」
一人ポツンと残された霧華さんはどことなく寒そうに肩を竦めていた。
湯飲みで相変わらず暖を取っているし、もしかすると寒がりなのかな。
「そうだ、不二子さん。良い話がありまして」
「え、何々? 美味しいうどん屋さんでも見つけた?」
「いえ。……時に不二子さんは私を食いしん坊だと思っている節がありませんか」
「えっ。そんなことないよぉ。珍しい物好きだなぁとは思ってるけど」
豆腐の唐揚げを手始めに、おからドーナツやカレーパン、麻婆カレー。池田くんが前に話してた通り、霧華さんは私が考案した料理を気に入っていた。それこそ「美味しくなかったです」みたいな反応は見たことがない。
こほんと咳払いが一つ。
うどん屋さんじゃなければ、吉報はなんだろう。
「実は、以前話した三毛猫が戻ってきまして」
「えっ、ほんと! 怪我したのを助けてあげたっていう仔猫だよね」
「はい。自分から家に上げてくれと言わんばかりに裏口に居りました。すっかり成長して大きくなっていましたよ」
自分たちのことを憶えていてくれた。
名を呼べば尻尾をぴんと立ち上げて駆け寄ってくる。
寝る支度をしていると、いつの間にか布団に潜り込んでいる。
相変わらず三郎次にちょっかいを出してはいるが。
ここ数日のエピソードを話してくれた霧華さんは柔らかい微笑みを浮かべていた。
三毛猫ちゃんがまた姿を見せてくれて本当に嬉しい。そんな様子が伝わってきて、聞いてるこっちも頬が緩む。
「猫がどうしたって?」
「生物委員会がまた何か逃がしたんですか」
そこに二人が珍しく揃ってやってきた。
大体は留くんか、善法寺くんの片方だけが顔を見せる。こうして二人、いや三人揃っているのが珍しい。
「前に助けた仔猫が戻ってきてくれたんだって。三毛猫ちゃん」
「へぇ。三毛猫かぁ」
「ま、紅蓮のことだから怪我してたのを放っておけずに連れて帰ったてとこだろ」
「お前らしいよ」一つ笑いながら留くんたちが空いている席に並んで腰掛けた。拳二つ分くらいのスペースを空けて。
うん、そのくらいの距離が普通だよね座る時って。
「名前は付けたのかい」
「ああ。ミケと名付けたよ。賢い子で直ぐに覚えた」
「意外と普通の名前だな。お前のことだから後輩の名前付けそうなのに。サブロウジとか」
「……」
「付けそうになったんだ」
「却下されたよ」
「それはそう」
三人の漫才染みたやり取りを傍目に私はお茶を淹れに厨へ。
湯呑みを二つ取り出して、お茶セットをお盆に用意した。
準備が終わって戻ってみると、さっきと人の配置が微妙に変わっていた。
霧華さんがさっきまで座っていた場所にいない。どこに行ったのかとよく見れば、留くんと善法寺くんの間に挟まっていた。
仲が良いなぁ。と言うより、それ無理やり間に割って入った感じで座ってるね。
「めちゃくちゃ身体ねじ込んでるよねその体勢。満員電車で空いてる僅かなスペースに無理やり座ってる人に近いよ」
「寒い日はいつもこうなんですよ、こいつ」
「今日は一段と冷え込んでるからねぇ」
間に割り込まれた二人はやれやれと呆れながらも優しく笑っていた。
当の本人はさっきよりも身体を縮こませている。寒くて丸まってる猫みたいに。
「でも意外。霧華さん寒いってあまり言わないよね」
「俺たちの前だとしょっちゅうこれですよ。冬は引っ付き虫になる」
「……身体を動かしていればそうでもない。こうして待ちの時間が冷えてくるんだ」
霧華さんを挟んでる二人は特に嫌な顔をしていなかった。
善法寺くんが昔を懐かしむように、ふふっと笑みを零す。
「それにしても懐かしいなぁ。よくこうして団子になって固まってたよね」
「文次郎の奴には呆れた顔もされてたしな」
「してたねぇ。それはそうと、冷えに効くお茶を後で持たせるから冬はそれを飲むこと」
「わかった」
霧華さんは両手を擦り合わせ、暫くの間その手に視線を落とした。
自身の指先をきゅっと握りしめた後、手を半纏の袖にしまい込んだ。
「なんだこりゃ」
食堂に入って来て早々、その塊を目にした潮江から間の抜けた声。
うん、物凄くわかる。
「文次郎か」
「その声は紅蓮。ああ、成程な」
「それだけで全てを察した潮江。流石すぎる」
「察するも何も見りゃわかるだろこれは。にしても、久々に見たな。"は組冬の名物メジロ団子"」
「メジロ団子?」
メジロって鳥の方かな。それともブリの方。
一瞬だけ魚を思い浮かべたけど、潮江が言うのは前者の方だった。
「メジロの群れは木に止まる時に押し合いへし合いで、ぎゅうぎゅうになって止まってることがあるんだよ。今のこいつらみたいに」
「ああ、なるほどね。目白押しの語源でもある光景の」
寒風に目を細め、木の枝で耐え忍ぶメジロたちを思い浮かべる。
どうやら一年生の頃からそうだったらしく。ちょっとその光景カワイイかも。
「湯呑み潮江の分も持ってくるね。あ、お帰り池田くん。小松田さん無事に見つかった?」
「見つかりました、けど。……なんだこれ」
サイドワインダー小松田さんの追跡を無事に回避した池田くんは、戻ってくるなり潮江と同じ言葉を口にした。
霧華さんの姿を目聡く発見し、旧友二人に挟まれてる状態に眉を顰める。
「お帰り三郎次」
「ただいま戻りました。いや、そうじゃなく。なんなんですか、この状況」
「冬の名物メジロ団子らしいよ」
「言いたいことは何となくわかりますけど」
「ほら、紅蓮。旦那が来たからそっちに温めてもらえ」
「……この温もりを一度無に還せと? 鬼か」
「誰が鬼だ。大袈裟な言い方しやがって」
「あ、先輩方はそのままでお願いします。霧華さん冷えちゃうんで」
その場にいた全員が目を丸くした。
これが兵助くんなら誰が相手だろうと「退いてもらっていいですか」と薙ぎ払う様に真顔で言うし、実力行使も辞さない。
それと比べて、池田くんはちょっと不満そうにしてるだけ。これが立花くんだとまた違うんだろうね。問答無用で引き剥がしてそう。
「大人だね、池田くん」
「ああ、大人だ」
「成長したよねぇ」
「僕のこと馬鹿にしてません?」
「怒らない、怒らない」
せっかく場が丸く収まってるんだから、機嫌損ねないようにしないと。
池田くんは回り込んで留くんたちの前の席に腰を下ろした。潮江が気を使って霧華さんの前を空け渡したので、そこにちゃっかりと座ってる。
「三郎次」
「なんですか」
「学園に来る時はミケを連れて行こうと考えてるんだが。懐に入れてくれば安全に連れて来られるし、不二子さんにも会わせてやれるし」
「それ本気で言ってませんよね。来て貰った方が断然早いですよ」
「うん。そうだね……万が一猫ちゃん飛び出していったら大変だし。今度遊びに行かせてもらうね、兵助くんと」
猫ちゃん懐に入れたら温かいもんね。気持ちはわかるけど。
暖を取るためなら何でも試みる霧華さんの為に、私は熱いお茶をもう一度淹れてあげました。
「なんか、近くない?」
私は番茶を運んできた折にそう言った。
お昼を過ぎた食堂の一角。
いつもの様にお馴染みの顔ぶれがそこに集まる。
何気なく会話を楽しむこの場所。最早ありきたりとも言える風景。そんな日常を過ごせるのが私はちょっと嬉しい。
その食堂で霧華さんと池田くんは並んで座るのが常。うん、それは良いんだけどね。
今日は距離がなんか近い気がした。
二人の間が拳一つ分どころか、指一本も入らないぐらい近い。肩を寄せてる。
それを指摘したんだけど、二人はけろっとしていた。少なくとも霧華さんは「そうですよね」って距離を取りそうな気がしたのに。
「そうですか? 気の所為だと思いますが」
「えっ。……ええっ?」
それどころか、霧華さんにこう言われてしまって私は動揺を隠せずにいる。
一体どんな心境の変化があったんだろう。あの文騒動のせいかな。
「いつもよりだいぶ近いよ」
「いつもこんな感じですけど」
池田くんは池田くんで「何か?」って言いたそうに、至って「これが普通ですけど」みたいな顔をしている。
「私の思い違い……なのかな。そうなのかなぁ。でもちょっとくっつきすぎじゃない?」
首を傾げながら私がそう言えば「久々知夫婦に言われたくないんですけど」ぴしゃりと返された。
何やら様子がおかしいなぁと訝しみながらも私は二人の前に腰掛ける。
うん。前から見てもやっぱり近いよ。
「池田先生は居られますか!」
食堂に駆け込んできた三年生の忍たまが顔を出した。
呼ばれた該当者が二人、同時にそっちを向く。それはそう。
二人揃ってることに気づいた彼は慌てて言い直した。
「あ、えっと……池田三郎次先生!」
「どうしたんだ」
「ご歓談中申し訳ございません。小松田さんが探しておられます」
「小松田さんが?」
「まさか、入門表にサインし忘れたとか」
「二人揃って入ってきたんですよ。そんなこと」
池田くんは最後まで言い切らずに、そこで「まさか」と顔を顰めた。
湯飲みを持ち上げた霧華さんが「ああ」と何か思い出したように口を開いた。
「入門表にサインをした直後に襟巻きが風に拐われて、一度門の外へ出ただろう。そういえば」
「つまりこういうこと? 一度門の外に出た分の出門表と再入門した分の入門表が池田くんの分だけない」
「でしょうね」
「細かすぎるっ!」
そこはまあ、小松田さんだから。
私と霧華さんは顔を見合わせて、うんうんと頷いた。
「……と、言うわけなんです。出門表と入門表にサインをしてきて頂けますか」
「わかった。サインしないと小松田さん煩いからな。地の果てまで追いかけてくるだろうし。じゃあ、ちょっと行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ぶつくさと文句を言いつつも池田くんは三年生の忍たまを連れて食堂を去っていった。
流石というか、すごいなぁ。すっと何の躊躇いも未練もなく立ち上がったよね。ここが兵助くんと違うところだ。
私が池田くんたちを長く見送っていたせいか、熱い湯飲みで暖を取る霧華さんが不思議そうにしていた。
「どうされました」
「兵助くんだと百回声かけても退かなさそうだと思って」
「……ああ。一時も貴女の傍を離れようとしませんからね、兵助は」
一人ポツンと残された霧華さんはどことなく寒そうに肩を竦めていた。
湯飲みで相変わらず暖を取っているし、もしかすると寒がりなのかな。
「そうだ、不二子さん。良い話がありまして」
「え、何々? 美味しいうどん屋さんでも見つけた?」
「いえ。……時に不二子さんは私を食いしん坊だと思っている節がありませんか」
「えっ。そんなことないよぉ。珍しい物好きだなぁとは思ってるけど」
豆腐の唐揚げを手始めに、おからドーナツやカレーパン、麻婆カレー。池田くんが前に話してた通り、霧華さんは私が考案した料理を気に入っていた。それこそ「美味しくなかったです」みたいな反応は見たことがない。
こほんと咳払いが一つ。
うどん屋さんじゃなければ、吉報はなんだろう。
「実は、以前話した三毛猫が戻ってきまして」
「えっ、ほんと! 怪我したのを助けてあげたっていう仔猫だよね」
「はい。自分から家に上げてくれと言わんばかりに裏口に居りました。すっかり成長して大きくなっていましたよ」
自分たちのことを憶えていてくれた。
名を呼べば尻尾をぴんと立ち上げて駆け寄ってくる。
寝る支度をしていると、いつの間にか布団に潜り込んでいる。
相変わらず三郎次にちょっかいを出してはいるが。
ここ数日のエピソードを話してくれた霧華さんは柔らかい微笑みを浮かべていた。
三毛猫ちゃんがまた姿を見せてくれて本当に嬉しい。そんな様子が伝わってきて、聞いてるこっちも頬が緩む。
「猫がどうしたって?」
「生物委員会がまた何か逃がしたんですか」
そこに二人が珍しく揃ってやってきた。
大体は留くんか、善法寺くんの片方だけが顔を見せる。こうして二人、いや三人揃っているのが珍しい。
「前に助けた仔猫が戻ってきてくれたんだって。三毛猫ちゃん」
「へぇ。三毛猫かぁ」
「ま、紅蓮のことだから怪我してたのを放っておけずに連れて帰ったてとこだろ」
「お前らしいよ」一つ笑いながら留くんたちが空いている席に並んで腰掛けた。拳二つ分くらいのスペースを空けて。
うん、そのくらいの距離が普通だよね座る時って。
「名前は付けたのかい」
「ああ。ミケと名付けたよ。賢い子で直ぐに覚えた」
「意外と普通の名前だな。お前のことだから後輩の名前付けそうなのに。サブロウジとか」
「……」
「付けそうになったんだ」
「却下されたよ」
「それはそう」
三人の漫才染みたやり取りを傍目に私はお茶を淹れに厨へ。
湯呑みを二つ取り出して、お茶セットをお盆に用意した。
準備が終わって戻ってみると、さっきと人の配置が微妙に変わっていた。
霧華さんがさっきまで座っていた場所にいない。どこに行ったのかとよく見れば、留くんと善法寺くんの間に挟まっていた。
仲が良いなぁ。と言うより、それ無理やり間に割って入った感じで座ってるね。
「めちゃくちゃ身体ねじ込んでるよねその体勢。満員電車で空いてる僅かなスペースに無理やり座ってる人に近いよ」
「寒い日はいつもこうなんですよ、こいつ」
「今日は一段と冷え込んでるからねぇ」
間に割り込まれた二人はやれやれと呆れながらも優しく笑っていた。
当の本人はさっきよりも身体を縮こませている。寒くて丸まってる猫みたいに。
「でも意外。霧華さん寒いってあまり言わないよね」
「俺たちの前だとしょっちゅうこれですよ。冬は引っ付き虫になる」
「……身体を動かしていればそうでもない。こうして待ちの時間が冷えてくるんだ」
霧華さんを挟んでる二人は特に嫌な顔をしていなかった。
善法寺くんが昔を懐かしむように、ふふっと笑みを零す。
「それにしても懐かしいなぁ。よくこうして団子になって固まってたよね」
「文次郎の奴には呆れた顔もされてたしな」
「してたねぇ。それはそうと、冷えに効くお茶を後で持たせるから冬はそれを飲むこと」
「わかった」
霧華さんは両手を擦り合わせ、暫くの間その手に視線を落とした。
自身の指先をきゅっと握りしめた後、手を半纏の袖にしまい込んだ。
「なんだこりゃ」
食堂に入って来て早々、その塊を目にした潮江から間の抜けた声。
うん、物凄くわかる。
「文次郎か」
「その声は紅蓮。ああ、成程な」
「それだけで全てを察した潮江。流石すぎる」
「察するも何も見りゃわかるだろこれは。にしても、久々に見たな。"は組冬の名物メジロ団子"」
「メジロ団子?」
メジロって鳥の方かな。それともブリの方。
一瞬だけ魚を思い浮かべたけど、潮江が言うのは前者の方だった。
「メジロの群れは木に止まる時に押し合いへし合いで、ぎゅうぎゅうになって止まってることがあるんだよ。今のこいつらみたいに」
「ああ、なるほどね。目白押しの語源でもある光景の」
寒風に目を細め、木の枝で耐え忍ぶメジロたちを思い浮かべる。
どうやら一年生の頃からそうだったらしく。ちょっとその光景カワイイかも。
「湯呑み潮江の分も持ってくるね。あ、お帰り池田くん。小松田さん無事に見つかった?」
「見つかりました、けど。……なんだこれ」
サイドワインダー小松田さんの追跡を無事に回避した池田くんは、戻ってくるなり潮江と同じ言葉を口にした。
霧華さんの姿を目聡く発見し、旧友二人に挟まれてる状態に眉を顰める。
「お帰り三郎次」
「ただいま戻りました。いや、そうじゃなく。なんなんですか、この状況」
「冬の名物メジロ団子らしいよ」
「言いたいことは何となくわかりますけど」
「ほら、紅蓮。旦那が来たからそっちに温めてもらえ」
「……この温もりを一度無に還せと? 鬼か」
「誰が鬼だ。大袈裟な言い方しやがって」
「あ、先輩方はそのままでお願いします。霧華さん冷えちゃうんで」
その場にいた全員が目を丸くした。
これが兵助くんなら誰が相手だろうと「退いてもらっていいですか」と薙ぎ払う様に真顔で言うし、実力行使も辞さない。
それと比べて、池田くんはちょっと不満そうにしてるだけ。これが立花くんだとまた違うんだろうね。問答無用で引き剥がしてそう。
「大人だね、池田くん」
「ああ、大人だ」
「成長したよねぇ」
「僕のこと馬鹿にしてません?」
「怒らない、怒らない」
せっかく場が丸く収まってるんだから、機嫌損ねないようにしないと。
池田くんは回り込んで留くんたちの前の席に腰を下ろした。潮江が気を使って霧華さんの前を空け渡したので、そこにちゃっかりと座ってる。
「三郎次」
「なんですか」
「学園に来る時はミケを連れて行こうと考えてるんだが。懐に入れてくれば安全に連れて来られるし、不二子さんにも会わせてやれるし」
「それ本気で言ってませんよね。来て貰った方が断然早いですよ」
「うん。そうだね……万が一猫ちゃん飛び出していったら大変だし。今度遊びに行かせてもらうね、兵助くんと」
猫ちゃん懐に入れたら温かいもんね。気持ちはわかるけど。
暖を取るためなら何でも試みる霧華さんの為に、私は熱いお茶をもう一度淹れてあげました。
