軽率なコラボシリーズ
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全校一斉料理テストの段(前編)
『忍たま諸君には食堂のおばちゃん及び不二子さんの料理を再現してもらう!』
「……と、言うわけで。学園長先生の突然の思いつきにより夕飯は自分たちで煮炊きすることになったのですが。まさか僕がくじを引くハメになるとは」
僕はがくりと肩を落とした。
六年は組の代表としてくじを引く役目を請け負ってしまうことになってしまうなんて。
日頃から不運大魔王とか変な二つ名がついてるっていうのに、どうして留三郎も紅蓮も僕に任せようと思ったのか。
「もはや俺たちは運命共同体だ! お前が何を引いてこようと恨みはしない!」
「今日はまだ落とし穴や塹壕に落ちていないし、何もない所で躓いてもいないだろ。この調子ならば良いレシピが引けると私も信じているよ」
なんて、二人は言っていたけれど。
結果はどうなることやら。
全生徒が校庭に集められた後、学園長先生からの有難い言葉を頂いてから、レシピのメモが入った抽選箱が順に渡っていった。
引いたメモを見た一年生と二年生の中には首を傾げる生徒もいた。「これ何て書いてあるの?」という声も聞こえてきた。ああ、きっとそれは不二子さんが書いた物なんだろうなぁ。あの人、筆で字を書くことに慣れてないと言っていたから。僕は愛嬌がある個性的な文字だと思えるけど。
【審査員席】と書かれた席には食堂のおばちゃんと不二子さんが座っていた。
二人は何か雑談を交わしているようで、時折笑顔が零れる。柔らかく微笑んでいるその人の顔を見ると、自然と頬も緩む。
「おい、伊作。見惚れてるバヤイじゃないだろ。くじを引け」
「み、見惚れてなんていないってば。よし……良いのが引けますようにっと」
留三郎に脇をつつかれ、口の端を引き攣らせた。
僕は六年は組のくじを引く前に四角い箱に向かって手を合わせて拝む。
深呼吸を一つ。それから潔く箱の中に右手を突っ込んだ。思っていた以上にレシピの数が多いのか、紙の嵩を感じる。
ぐるぐると箱の中身を適当に掻き回す最中。「ねえねえ」と、誰かが話し掛けてきた。
声の主は思ってもいなかった人物。いや、さっきまでそこの審査員席に座っていましたよね、不二子さん。
いつの間にこちらにやってきたのか。あまりに驚いてしまった僕は箱に突っ込んでいた手を引き抜いてしまった。指先に掴んだ紙がするりと抜け出しそうになったので、慌ててそれを掴み直す。
「びっ、びっくりした」
「え、そんなに驚くようなこと私した? 普通に声掛けたつもりなんだけど」
「上の空だったんだろ。なあ、伊作」
「違うってば。それより不二子さん、審査員席に座っていなくて良いんですか」
「抽選箱を回収しに来たんだよ。伊作くんの所で最後だし、残ったレシピメモは私とおばちゃんので分けとかないと」
このレシピはおばちゃんたちの大事なメモだ。ふとした時に見返すから失くされたら困るという。
ということは、これも汚したり失くしたりしてはいけない。
「そうだった。おばちゃんたちの貴重なレシピ有難う御座います。残りは一先ずお返ししますね」
「はい、確かに。伊作くんたちのところは何が当たったの?」
「そうだ。何が当たったんだ伊作」
右前から不二子さん、左側から留三郎が僕の手元を覗き込んできた。やや離れた後ろから紅蓮の視線も感じる。
メモの文字は読みやすい。一番上に『肉じゃが』と書かれていた。
レシピには必要な材料と分量、作り方がざっと書かれていた。読みやすいけど、走り書き程度のメモで詳しい作り方は載っていない。当然、隠し味は載っていないわけで。
「おばちゃんの肉じゃが美味しいよね」
「みんな大好きですからね。とりあえず馴染みのある料理で良かった」
「それ、私が作る料理がヘンテコって暗に言ってる?」
「や、やだなぁそんなこと。不二子さんが作る料理も美味しいじゃないですか」
確かに不二子さん考案の定食――というか料理は僕らにとって馴染みのないものが多い。
唐柿を油漬けにした鮪と不思議な調味料で和えたり、卵白豆腐というものを拵えたり。とりわけ、豆腐を使った料理が多い気もする。
「この時代にあるもので全部作れるものだよー」と食堂の第二の主がのほほんと言うけど。配合の仕方でだいぶ違うものが出来るんだ。そう考えると、薬の調合と料理は似てるかもしれない。
「……肉じゃがの隠し味、か」
後ろからメモを覗き込んでいた紅蓮のぽつりと呟く声。
思いつくものといえば味噌、唐辛子、辣韮 。果たしてどれが正解なのか。
「ヒントはあげられないんだよね。ごめんね」
「そういう決まりですし、不二子さんが謝ることじゃ。それに、こっちには」
強い味方がいますから。
そう言いかけた僕を遮るように留三郎が「この勝負、貰ったぁ!」と声を張り上げた。しかも、そのしたり顔と言葉はい組の方――というよりも、文次郎に向けられている。
刹那、文次郎の眉と目が三角に吊り上がった。
「こっちにはおばちゃんの肉じゃがを飽きる程食ってる強い味方がいる! 俺たちは組が勝ったも同然」
「馬鹿を言えっ! い組の俺たちが完っ璧に再現してみせる!」
犬猿と呼ばれる二人の睨み合いは最早お馴染み。
周囲の視線が一気に集まるし、なんなら二人は今にも取っ組み合いを始めそうだ。
「留くんも潮江も血の気が多すぎるよね」
「本当に。いつも怪我ばかりしていますよ」
「保健委員の伊作くんは大変だね。そうだ、肉じゃが飽きる程食べてるのって誰のこと?」
呆れた目を二人に向けていると、珍しく紅蓮と不二子さんの会話が耳に入ってきた。
けど、僕が振り向いた時にはもうその会話が途切れてしまった。文次郎たちに巻き込まれまいと離れてきた仙蔵に目を留めた紅蓮が「仙蔵のところは何を作るんだ」と話を振ったからだ。
「教えると思うのか」
「えっ、それは仙蔵くん流石に冷たくない?」
「内情を知らせるということは、弱みを敵に握られるようなもの」
「それもそうだな。妨害される可能性も出てくる」
「そこまでなの?」
忍者の世界は厳しいんですよ。二人にそう諭された不二子さんは「そうなんだ」と一度頷き、留三郎たちの方を見た。
まあ、僕らの課題料理はさっき留三郎が大声で叫んだから全校生徒にバレてしまったんですけどね。
「さてと。そろそろ準備に取り掛からねば。おい、文次郎。材料の調達に行くぞ!」
「留三郎。役割分担をするから戻ってこい」
二人が殴り合いになる寸前に引き剝がしてくれたおかげで、保健委員の仕事は増えずに済んだから助かったよ。
それから気が昂ってる留三郎を何とか宥め、竈と場所の準備を任せることにした。
材料の調達は僕と紅蓮がすることになり、全体的な指揮は紅蓮が担う。レシピも預けた。
学園内の菜園に向かう紅蓮の表情はどこか険しい。
「伊作。隠し味は何が使われていると思う」
「これといって目立つ味はないよね。隠し味っていうぐらいだし、目立っていたら意味がないんだろうけど」
「辛みは感じたことがない。……こくを出す為に味噌を少し入れているんじゃないだろうか」
「……ああ! 確かにそうかも。それだよきっと」
自ら導き出した答えに納得がいかないのか、紅蓮に浮かぶ不安の色。
「心当たりがある食材と調味料も幾つか見繕っていこう」
「了解。大丈夫、きっと上手くいくよ」
『忍たま諸君には食堂のおばちゃん及び不二子さんの料理を再現してもらう!』
「……と、言うわけで。学園長先生の突然の思いつきにより夕飯は自分たちで煮炊きすることになったのですが。まさか僕がくじを引くハメになるとは」
僕はがくりと肩を落とした。
六年は組の代表としてくじを引く役目を請け負ってしまうことになってしまうなんて。
日頃から不運大魔王とか変な二つ名がついてるっていうのに、どうして留三郎も紅蓮も僕に任せようと思ったのか。
「もはや俺たちは運命共同体だ! お前が何を引いてこようと恨みはしない!」
「今日はまだ落とし穴や塹壕に落ちていないし、何もない所で躓いてもいないだろ。この調子ならば良いレシピが引けると私も信じているよ」
なんて、二人は言っていたけれど。
結果はどうなることやら。
全生徒が校庭に集められた後、学園長先生からの有難い言葉を頂いてから、レシピのメモが入った抽選箱が順に渡っていった。
引いたメモを見た一年生と二年生の中には首を傾げる生徒もいた。「これ何て書いてあるの?」という声も聞こえてきた。ああ、きっとそれは不二子さんが書いた物なんだろうなぁ。あの人、筆で字を書くことに慣れてないと言っていたから。僕は愛嬌がある個性的な文字だと思えるけど。
【審査員席】と書かれた席には食堂のおばちゃんと不二子さんが座っていた。
二人は何か雑談を交わしているようで、時折笑顔が零れる。柔らかく微笑んでいるその人の顔を見ると、自然と頬も緩む。
「おい、伊作。見惚れてるバヤイじゃないだろ。くじを引け」
「み、見惚れてなんていないってば。よし……良いのが引けますようにっと」
留三郎に脇をつつかれ、口の端を引き攣らせた。
僕は六年は組のくじを引く前に四角い箱に向かって手を合わせて拝む。
深呼吸を一つ。それから潔く箱の中に右手を突っ込んだ。思っていた以上にレシピの数が多いのか、紙の嵩を感じる。
ぐるぐると箱の中身を適当に掻き回す最中。「ねえねえ」と、誰かが話し掛けてきた。
声の主は思ってもいなかった人物。いや、さっきまでそこの審査員席に座っていましたよね、不二子さん。
いつの間にこちらにやってきたのか。あまりに驚いてしまった僕は箱に突っ込んでいた手を引き抜いてしまった。指先に掴んだ紙がするりと抜け出しそうになったので、慌ててそれを掴み直す。
「びっ、びっくりした」
「え、そんなに驚くようなこと私した? 普通に声掛けたつもりなんだけど」
「上の空だったんだろ。なあ、伊作」
「違うってば。それより不二子さん、審査員席に座っていなくて良いんですか」
「抽選箱を回収しに来たんだよ。伊作くんの所で最後だし、残ったレシピメモは私とおばちゃんので分けとかないと」
このレシピはおばちゃんたちの大事なメモだ。ふとした時に見返すから失くされたら困るという。
ということは、これも汚したり失くしたりしてはいけない。
「そうだった。おばちゃんたちの貴重なレシピ有難う御座います。残りは一先ずお返ししますね」
「はい、確かに。伊作くんたちのところは何が当たったの?」
「そうだ。何が当たったんだ伊作」
右前から不二子さん、左側から留三郎が僕の手元を覗き込んできた。やや離れた後ろから紅蓮の視線も感じる。
メモの文字は読みやすい。一番上に『肉じゃが』と書かれていた。
レシピには必要な材料と分量、作り方がざっと書かれていた。読みやすいけど、走り書き程度のメモで詳しい作り方は載っていない。当然、隠し味は載っていないわけで。
「おばちゃんの肉じゃが美味しいよね」
「みんな大好きですからね。とりあえず馴染みのある料理で良かった」
「それ、私が作る料理がヘンテコって暗に言ってる?」
「や、やだなぁそんなこと。不二子さんが作る料理も美味しいじゃないですか」
確かに不二子さん考案の定食――というか料理は僕らにとって馴染みのないものが多い。
唐柿を油漬けにした鮪と不思議な調味料で和えたり、卵白豆腐というものを拵えたり。とりわけ、豆腐を使った料理が多い気もする。
「この時代にあるもので全部作れるものだよー」と食堂の第二の主がのほほんと言うけど。配合の仕方でだいぶ違うものが出来るんだ。そう考えると、薬の調合と料理は似てるかもしれない。
「……肉じゃがの隠し味、か」
後ろからメモを覗き込んでいた紅蓮のぽつりと呟く声。
思いつくものといえば味噌、唐辛子、
「ヒントはあげられないんだよね。ごめんね」
「そういう決まりですし、不二子さんが謝ることじゃ。それに、こっちには」
強い味方がいますから。
そう言いかけた僕を遮るように留三郎が「この勝負、貰ったぁ!」と声を張り上げた。しかも、そのしたり顔と言葉はい組の方――というよりも、文次郎に向けられている。
刹那、文次郎の眉と目が三角に吊り上がった。
「こっちにはおばちゃんの肉じゃがを飽きる程食ってる強い味方がいる! 俺たちは組が勝ったも同然」
「馬鹿を言えっ! い組の俺たちが完っ璧に再現してみせる!」
犬猿と呼ばれる二人の睨み合いは最早お馴染み。
周囲の視線が一気に集まるし、なんなら二人は今にも取っ組み合いを始めそうだ。
「留くんも潮江も血の気が多すぎるよね」
「本当に。いつも怪我ばかりしていますよ」
「保健委員の伊作くんは大変だね。そうだ、肉じゃが飽きる程食べてるのって誰のこと?」
呆れた目を二人に向けていると、珍しく紅蓮と不二子さんの会話が耳に入ってきた。
けど、僕が振り向いた時にはもうその会話が途切れてしまった。文次郎たちに巻き込まれまいと離れてきた仙蔵に目を留めた紅蓮が「仙蔵のところは何を作るんだ」と話を振ったからだ。
「教えると思うのか」
「えっ、それは仙蔵くん流石に冷たくない?」
「内情を知らせるということは、弱みを敵に握られるようなもの」
「それもそうだな。妨害される可能性も出てくる」
「そこまでなの?」
忍者の世界は厳しいんですよ。二人にそう諭された不二子さんは「そうなんだ」と一度頷き、留三郎たちの方を見た。
まあ、僕らの課題料理はさっき留三郎が大声で叫んだから全校生徒にバレてしまったんですけどね。
「さてと。そろそろ準備に取り掛からねば。おい、文次郎。材料の調達に行くぞ!」
「留三郎。役割分担をするから戻ってこい」
二人が殴り合いになる寸前に引き剝がしてくれたおかげで、保健委員の仕事は増えずに済んだから助かったよ。
それから気が昂ってる留三郎を何とか宥め、竈と場所の準備を任せることにした。
材料の調達は僕と紅蓮がすることになり、全体的な指揮は紅蓮が担う。レシピも預けた。
学園内の菜園に向かう紅蓮の表情はどこか険しい。
「伊作。隠し味は何が使われていると思う」
「これといって目立つ味はないよね。隠し味っていうぐらいだし、目立っていたら意味がないんだろうけど」
「辛みは感じたことがない。……こくを出す為に味噌を少し入れているんじゃないだろうか」
「……ああ! 確かにそうかも。それだよきっと」
自ら導き出した答えに納得がいかないのか、紅蓮に浮かぶ不安の色。
「心当たりがある食材と調味料も幾つか見繕っていこう」
「了解。大丈夫、きっと上手くいくよ」