軽率なコラボシリーズ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
おまじない
「おまじないって信じる?」
「呪いですか」
「うん。なんかその言い方だと違うやつっぽく聞こえる」
霧華さんの言葉だと漢字で“のろい”って書く方がしっくりくる気がした。いやまあ、あながち間違ってはいないと思うんだけど。
今は霧華さんと二人でお泊り会中。
兵助くんと池田くんは一緒に任務へ出かけている。だから、今日こそは女子会ならぬ恋バナをしようと霧華さんに声を掛けた。前回の温泉旅行では兵助くんに邪魔されてしまったから。
邪魔者もいないし、思う存分に恋バナ中なわけです。
ついさっきまで口吸いの話をしていて、意外にも霧華さんが照れてしまっていて。
かっこかわいいのに照れ屋さんなのはギャップが激しい。
私の部屋に二組布団を敷いて、修学旅行よろしくお喋りを楽しんでいるところだ。
霧華さんは丁寧に櫛で髪を梳かしている。
桜彫りの半月櫛。もしかしてと思って聞いてみると、まさに池田くんが渡しそびれていた物らしく。裏面にも模様が彫ってあると霧華さんに言われたので見せてもらう。そこに彫られていたのは猫の輪郭と、足跡二つ。名前じゃなかった。
「可愛らしいでしょう。三郎次が彫ってくれたんです」と、いつになくゆるゆるの笑顔を浮かべる。
まるでそれは裏面の方が気に入っているみたいな言い方だった。
彫ったの名前じゃないんだ。
「御守り、願掛け、験担ぎのようなものでしょうか」
「うん。近いかも。験担ぎは受験の時にもよく聞くし」
「そちらではどのようなものが呪いに?」
「んー……私が知ってるおまじないだと、消しゴムに好きな人の名前書いて、誰にも知られずに使い切れたら両思いになれるとか。リップクリームも似たようなのがあるんだよ」
「……どちらも聞き慣れない言葉ですね」
髪の毛先を梳かしていた霧華さんの手がふと止まった。
「枝毛が」と小声で呟かれた。ああ、うん。それは手入れしとかないと怒られるやつだね。
「消しゴムは書いた文字を消す時に使う道具。リップクリームは紅の色ついてない、なんていうか……保湿剤」
そこまで言って数ヶ月前にあった出来事を思い出してしまった。
霧華さんも同じこと思い出したみたいで、それ以上ツッコミを入れてこなくなる。うん、この話はここでもう止めとこう。
「え、えっとぉ。あとは好きな人の写真や絵を枕の下に入れて眠るとその人が夢に出てくるおまじないもあるかなぁ」
「ほう」
「あ、興味ある?」
こういうのは興味ないかもと思ってたけど、意外にも食いついてくれた。
霧華さんは男らしさ前面に出てるかと思いきや、こうして女の子っぽい一面が垣間見える。
「それは二つでも良いのですか」
「二つ」
「猫と戯れている三郎次を見たいと思いまして」
「ああ、そっち」
「現実ではそう叶いそうにないので」
「前は三毛猫ちゃんにむしろ遊ばれてたんだっけ」
三毛猫の仔猫が遊んでほしくてちょっかいをかけたり、わざと逃げてみたりしていたと聞く。それでいざ池田くんが遊んであげようとしたら「構わないで」とツンな一面を見せたとか。
三毛猫ちゃんに振り回されてる場面見てみたかったかも。
いつか三毛猫ちゃん戻ってきたら遊びに行かせてほしいなぁ。
「好きなもの二つ出てきたら嬉しいもんね」
「不二子さんならば兵助と豆腐ですか」
「いや別に私豆腐の夢は見たくないよ?」
「……ああ、豆腐を添えるのは兵助の方だったか」
どちらにしろ豆腐とセットにされる。なんかもうそれ、現実と夢どっちかわからなくなりそう。
現実で毎日兵助くんの顔を見て、お豆腐も食べる。夢でも同じことやってたら、ねぇ。
私は布団の中に潜り込んで寝返りを打った。ちょうど霧華さんが髪を梳かし終えた所が目に映る。櫛を着物の上にそっと置いた。大事に扱ってるのが目に見えてわかる。
布団に潜り込んだ霧華さんと目が合った。
じーっと見ていると、困った様に笑い返される。
「どうかしましたか」
「霧華さん、赤い糸とか信じるかなぁって」
「赤い糸? それは反物を織る糸のことですか」
「ちょっと違う。運命の相手は生まれた時から決まってて、自分の小指と相手の小指が赤い糸で結ばれてるっていう話。どんな困難や佳境に立たされても、必ずその人と最後は結ばれる」
その糸は目には見えないんだけどね。
私はそう言って右手の小指をぴっと立てて見せた。
霧華さんの視線が私の小指に留まった後、自分の指を眺めた。まるで物珍しいものを見るかのように。
「その糸を手繰った先に居る、ということですね」
じっと手指を見つめた後、ぽつりと零した。
「そうそう。そんな感じ。その反応は信じる系?」
「まあ、似たような物に引き留められたことがありますので。私の場合は糸ではなく、紐に繋ぎ留められたのですが」
「紐?」
もしや、この時代にも似たような言い伝えが。半ばワクワクしながら霧華さんの次の言葉を待つ。
けど、女子同士で盛り上がるようなレベルのものじゃなかった。
「私が三年程前に死線を彷徨った時の話になります」
「急に怖い話だぁ」
「何故怖いと……私は生きて此処にいますが」
「そういうことじゃなくてね」
幽霊だの怪奇現象だの。とどのつまりは生きた人間が一番怖いという話に収まるんだろうけどさ。
私がこの手の話にあまりにも弱いと知ってか、霧華さんは一度口を噤んだ。
「では止めておきましょうか。貴女をあまり怖がらせると兵助が煩いので」
「……気になるから聞きたい」
「良いんですか」
「う……どの程度の怖さ?」
「程度。……彼の世に渡った人間が出てきます」
「それを世間一般的には幽霊と呼ぶ」
「私の友人なので怖くはありませんが」
「それ霧華さん基準だよね」
まあでも、血塗れのとか急に出てきて驚かすとか。そういうことしてこないなら。そう念を押してから話してもらうことにした。
「この際なので詳細は割愛しましょう。私が賽の河原を前に佇んでいたところ、腕に結びつくものが三つばかりあることに気が付きました。黒、茶、鮮やかな青を織り込んだ柳色。その三本の紐がそれ以上は先に進ませまいと、強い力で私を現世に繋ぎ留めようとしていたんです」
仰向けのまま、天井に伸ばされた左腕。
そこに三本の紐が結ばれていたんだろう。その数だけの強い想いが霧華さんを引き留めたんだ。きっとその一つは間違いなく池田くんのもの。
「そのおかげで私は今此処に居ます」
「……そっか」
「あいつにも怒られましたよ。まだこっちには来るなと」
こっちが怒りたいくらいだ。
私の前には姿を見せないくせに。
そうボヤいた霧華さんは左腕で目元を覆った。
「あのね、聞いた話ではあるんだけど。現世で亡くなった人のことを想うと、彼の世にいるその人の頭上に花が降るんだよ。だから、その……なんて言ったらいいのかな」
きっと寂しくないんだと思う。
そう言ってしまったら、霧華さんの方が傷ついてしまいそうな気がした。
私が上手い言葉を見つけられずに言い淀んでいると、隣から小さな笑い声が聞こえた。
「きっと大量に降り注ぐ花に埋もれ、花の池で溺れているかもしれませんね」
「うん」
「ところで、この恋バナはいつ終わるんですか」
今のは恋バナに含まれるんだろうか。
私が思ってた恋バナじゃないし、かなり重い話だった。
「眠くなるまで?」
「眠くなってきました。そろそろ寝ましょう」
「あっ、ずるい」
「おまじないって信じる?」
「呪いですか」
「うん。なんかその言い方だと違うやつっぽく聞こえる」
霧華さんの言葉だと漢字で“のろい”って書く方がしっくりくる気がした。いやまあ、あながち間違ってはいないと思うんだけど。
今は霧華さんと二人でお泊り会中。
兵助くんと池田くんは一緒に任務へ出かけている。だから、今日こそは女子会ならぬ恋バナをしようと霧華さんに声を掛けた。前回の温泉旅行では兵助くんに邪魔されてしまったから。
邪魔者もいないし、思う存分に恋バナ中なわけです。
ついさっきまで口吸いの話をしていて、意外にも霧華さんが照れてしまっていて。
かっこかわいいのに照れ屋さんなのはギャップが激しい。
私の部屋に二組布団を敷いて、修学旅行よろしくお喋りを楽しんでいるところだ。
霧華さんは丁寧に櫛で髪を梳かしている。
桜彫りの半月櫛。もしかしてと思って聞いてみると、まさに池田くんが渡しそびれていた物らしく。裏面にも模様が彫ってあると霧華さんに言われたので見せてもらう。そこに彫られていたのは猫の輪郭と、足跡二つ。名前じゃなかった。
「可愛らしいでしょう。三郎次が彫ってくれたんです」と、いつになくゆるゆるの笑顔を浮かべる。
まるでそれは裏面の方が気に入っているみたいな言い方だった。
彫ったの名前じゃないんだ。
「御守り、願掛け、験担ぎのようなものでしょうか」
「うん。近いかも。験担ぎは受験の時にもよく聞くし」
「そちらではどのようなものが呪いに?」
「んー……私が知ってるおまじないだと、消しゴムに好きな人の名前書いて、誰にも知られずに使い切れたら両思いになれるとか。リップクリームも似たようなのがあるんだよ」
「……どちらも聞き慣れない言葉ですね」
髪の毛先を梳かしていた霧華さんの手がふと止まった。
「枝毛が」と小声で呟かれた。ああ、うん。それは手入れしとかないと怒られるやつだね。
「消しゴムは書いた文字を消す時に使う道具。リップクリームは紅の色ついてない、なんていうか……保湿剤」
そこまで言って数ヶ月前にあった出来事を思い出してしまった。
霧華さんも同じこと思い出したみたいで、それ以上ツッコミを入れてこなくなる。うん、この話はここでもう止めとこう。
「え、えっとぉ。あとは好きな人の写真や絵を枕の下に入れて眠るとその人が夢に出てくるおまじないもあるかなぁ」
「ほう」
「あ、興味ある?」
こういうのは興味ないかもと思ってたけど、意外にも食いついてくれた。
霧華さんは男らしさ前面に出てるかと思いきや、こうして女の子っぽい一面が垣間見える。
「それは二つでも良いのですか」
「二つ」
「猫と戯れている三郎次を見たいと思いまして」
「ああ、そっち」
「現実ではそう叶いそうにないので」
「前は三毛猫ちゃんにむしろ遊ばれてたんだっけ」
三毛猫の仔猫が遊んでほしくてちょっかいをかけたり、わざと逃げてみたりしていたと聞く。それでいざ池田くんが遊んであげようとしたら「構わないで」とツンな一面を見せたとか。
三毛猫ちゃんに振り回されてる場面見てみたかったかも。
いつか三毛猫ちゃん戻ってきたら遊びに行かせてほしいなぁ。
「好きなもの二つ出てきたら嬉しいもんね」
「不二子さんならば兵助と豆腐ですか」
「いや別に私豆腐の夢は見たくないよ?」
「……ああ、豆腐を添えるのは兵助の方だったか」
どちらにしろ豆腐とセットにされる。なんかもうそれ、現実と夢どっちかわからなくなりそう。
現実で毎日兵助くんの顔を見て、お豆腐も食べる。夢でも同じことやってたら、ねぇ。
私は布団の中に潜り込んで寝返りを打った。ちょうど霧華さんが髪を梳かし終えた所が目に映る。櫛を着物の上にそっと置いた。大事に扱ってるのが目に見えてわかる。
布団に潜り込んだ霧華さんと目が合った。
じーっと見ていると、困った様に笑い返される。
「どうかしましたか」
「霧華さん、赤い糸とか信じるかなぁって」
「赤い糸? それは反物を織る糸のことですか」
「ちょっと違う。運命の相手は生まれた時から決まってて、自分の小指と相手の小指が赤い糸で結ばれてるっていう話。どんな困難や佳境に立たされても、必ずその人と最後は結ばれる」
その糸は目には見えないんだけどね。
私はそう言って右手の小指をぴっと立てて見せた。
霧華さんの視線が私の小指に留まった後、自分の指を眺めた。まるで物珍しいものを見るかのように。
「その糸を手繰った先に居る、ということですね」
じっと手指を見つめた後、ぽつりと零した。
「そうそう。そんな感じ。その反応は信じる系?」
「まあ、似たような物に引き留められたことがありますので。私の場合は糸ではなく、紐に繋ぎ留められたのですが」
「紐?」
もしや、この時代にも似たような言い伝えが。半ばワクワクしながら霧華さんの次の言葉を待つ。
けど、女子同士で盛り上がるようなレベルのものじゃなかった。
「私が三年程前に死線を彷徨った時の話になります」
「急に怖い話だぁ」
「何故怖いと……私は生きて此処にいますが」
「そういうことじゃなくてね」
幽霊だの怪奇現象だの。とどのつまりは生きた人間が一番怖いという話に収まるんだろうけどさ。
私がこの手の話にあまりにも弱いと知ってか、霧華さんは一度口を噤んだ。
「では止めておきましょうか。貴女をあまり怖がらせると兵助が煩いので」
「……気になるから聞きたい」
「良いんですか」
「う……どの程度の怖さ?」
「程度。……彼の世に渡った人間が出てきます」
「それを世間一般的には幽霊と呼ぶ」
「私の友人なので怖くはありませんが」
「それ霧華さん基準だよね」
まあでも、血塗れのとか急に出てきて驚かすとか。そういうことしてこないなら。そう念を押してから話してもらうことにした。
「この際なので詳細は割愛しましょう。私が賽の河原を前に佇んでいたところ、腕に結びつくものが三つばかりあることに気が付きました。黒、茶、鮮やかな青を織り込んだ柳色。その三本の紐がそれ以上は先に進ませまいと、強い力で私を現世に繋ぎ留めようとしていたんです」
仰向けのまま、天井に伸ばされた左腕。
そこに三本の紐が結ばれていたんだろう。その数だけの強い想いが霧華さんを引き留めたんだ。きっとその一つは間違いなく池田くんのもの。
「そのおかげで私は今此処に居ます」
「……そっか」
「あいつにも怒られましたよ。まだこっちには来るなと」
こっちが怒りたいくらいだ。
私の前には姿を見せないくせに。
そうボヤいた霧華さんは左腕で目元を覆った。
「あのね、聞いた話ではあるんだけど。現世で亡くなった人のことを想うと、彼の世にいるその人の頭上に花が降るんだよ。だから、その……なんて言ったらいいのかな」
きっと寂しくないんだと思う。
そう言ってしまったら、霧華さんの方が傷ついてしまいそうな気がした。
私が上手い言葉を見つけられずに言い淀んでいると、隣から小さな笑い声が聞こえた。
「きっと大量に降り注ぐ花に埋もれ、花の池で溺れているかもしれませんね」
「うん」
「ところで、この恋バナはいつ終わるんですか」
今のは恋バナに含まれるんだろうか。
私が思ってた恋バナじゃないし、かなり重い話だった。
「眠くなるまで?」
「眠くなってきました。そろそろ寝ましょう」
「あっ、ずるい」