軽率なコラボシリーズ
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変わらない三人
三毛猫の落とし物――蝉ふぁいなる――に驚いた左近は足を挫いてしまった。
その手当てが済んだ後、もう遅いから霧華さんは「泊まっていきなさい」と、俺の友人二人にそう言った。
「我々は日が沈んでからが活動時間帯になるが、怪我をしているなら話は別。日が昇ってから出発した方が良い」
「今の左近は山賊の格好の的にされそうだしな。でも俺まで良いんですか?」
「私は構わない。三郎次も良しとするだろうし」
貴女にそう言われたら否とは言いにくいんですよ。
「その三郎次は無茶苦茶イヤそうな顔をしてますが」
「友人は大切にした方が良いぞ」
「そうだそうだ」
「まだ何も言ってないだろ! 久作まで怪我されたら夢見が悪い。二人とも泊まっていけよ。言っておくが、大したもてなしは出来ないからな」
こうして隣町から帰ってきて休む間もなかったわけで。
夕食の支度を五人前用意して、来客用の湯呑みを軽く洗ってから食後の番茶も淹れた。
霧華さんが後片付けをしている間に予備の布団を引っ張り出し、奥の部屋に敷いた。
「二人とも運が良いぞ。この間天日干ししたばかりなんだ。ふかふかの布団で寝られること感謝しろよな」と、言ったら左近と久作は顔を見合わせた。
「なんというか、大したどころじゃなくて大層なおもてなしされてる気分」
「べっ、別にお前らの為じゃないからな! 本当に偶々だ!」
「はいはい。有り難く厚意を頂戴させてもらうよ」
「三郎次の心遣いが身に染みるー」
左近は左端の布団にぱたりと倒れ込んで「ふかふかだあ」と呑気な声を出した。完全に緊張の糸が緩んでいる。
こんなやり取りを傍から見ていた霧華さんが可笑しそうに、そしてどこか楽しそうな顔を見せる。
「私は居間で眠るから、お前たちはそっちの部屋で寝ると良い」
「えっ。でも流石に夫婦水入らずのところを」
「何を言ってんだ今更。俺たちが上がり込んだ時点でそうじゃなくなってるんだよ」
「久作の言う通りだ。まったく。隣町からの帰りで疲れてるっていうのに」
不意の来客にバタバタとする夜。おかげで買った櫛を渡す機会も完全に失ってしまった。
「まあ、そうカリカリするな三郎次。友人と久しぶりに語らうのも悪くない」
「そりゃ、そうですけど」
「ああ、枕投げをするなら戸に気をつけてくれると有り難い。最近この引き戸の調子が悪くてな」
「先輩。僕、怪我人です」
左近は捻った足首に巻かれた包帯をちらりと見た。苦笑いも添えて。この状態で枕投げなんてしない、と言いたそうに。
「それにいい年して枕投げは」
「そうか? 久々にやると楽しいものだぞ。まあ、何にせよゆっくり過ごしてくれ。おやすみ」
「あ、はい。おやすみなさい」
戸が完全に閉められる前に俺と久作が遅れて挨拶を返した。
しんと静まり返ったのもつかの間。
横向きになった左近が頭を支えながら俺の方を向いた。
「先輩、変わらないなぁ。後輩に甘いところがさ」
「そこが先輩の良い所でもある。お元気そうで良かったよ」
「俺は」
「三郎次はひと目で健康優良男児ってわかるし」
「バカにしてるのか左近」
「まあそう怒るなよ」
反対側へ目をやると、久作はすっかり布団に潜り込んでいた。枕の脇には背負ってきた荷物がきっちりと整えられている。
左近はまだ眠るつもりがないのか、掛け布団の上でごろごろしていた。
この並びはなんだか、懐かしいな。
「三郎次って猫好きだった?」
「好きだよ」
「そんなぶっきらぼうに答えられても信憑性が薄いぞ」
「好きだって言ってるだろ。あの三毛猫の置き物だって霧華さんが俺の為に買ってきてくれたんだぞ。可愛らしいだろ」
あの三毛猫は文机の隅にちょこんと置かれることになった。
俺よりも霧華さんの方が大変気に入ったみたいで、その前を通る度に目を向ける。
「なあ、その三毛猫とあの三毛猫。もしかして何か関係があるのか?」
「話せば長くなる」
「じゃあ、それはまた今度聞かせてもらうことにするよ」
手負いの仔猫を拾ってきたとか。霧華さんの後ろはちょこちょこついて歩いた癖に、俺には懐かず気まぐれだったとか。姿を晦ました後も恩返しのつもりか、鼠や蝉を玄関口にそっと置いていくとか。
兎に角、一連の流れを話すと長くなってしまう。けど、これだけは言える。あの時も今日も、仔猫は霧華さんが連れて帰ってくるもんなんだと。
「そういえば三郎次。先輩とはどうなんだ」
「どうって、何がだよ」
「恙無く 過ごせてるのかってこと」
「ま、二人の顔見たら平穏無事って感じはする」
左近と久作の視線が直線上で交わった気がした。
「ほら、久々知先輩方の噂を風の便りで聞いたもんだから」
「どの噂だ? この数ヶ月でもいっぱいあり過ぎるんだ」
「そんなに。俺が聞いたのは鉢屋先輩を瀕死に追いやったとか、豆腐料理をごり押しするべく学園中好きな豆腐料理を聞き回ったとか」
「一緒に居る時はずっと手を繋いでるとか」
「久々知先輩が浮気して離縁騒ぎになったとも聞いた」
それ、ほぼ全部じゃないか。
なんかもう、学園内で起きていることは人伝で卒業生に知れ渡っていそうな気もする。
「当たらずと雖も遠からず、だ。鉢屋先輩は両足骨折しただけだし、久々知先輩の浮気は白だよ」
「骨折しただけって、結構大事じゃないかそれ」
「二週間医務室に世話になったらしいぞ。これは霧華さんに聞いた話だけど、そこで久々知兵助物語を語り種にしたとか。講談料一回一文で」
「なんだそれ」
豆腐小僧の二つ名を得た理由の物語か。
左近がすっとぼけたことを言うもんだから「そんな話は聞きたくない」と返しておいた。豆腐料理の名前が羅列するに決まってる。聞くだけでお腹がはち切れそうだ。
「久々知先輩と御内儀の出会いと別れ、再会についてを物語風にしたらしい」
「へえ。ちょっと聞いてみたい気もする。今度鉢屋先輩に会ったら頼んでみようかな」
「物好きだな久作。ああ、でも池田三郎次物語なら久作でも語れるんじゃない?」
「だからやめろって言ってるだろ!」
「なんだよ。まだ何も言ってないのに。まあ、語る内容は先輩自慢ぐらい? 三郎次の先輩自慢は僕たち飽きるほど浴びたからなぁ」
断じて飽きられるほど語ってなどいない。そう反論しても二人の反応は薄かった。
滝夜叉丸先輩みたいにぐだぐだ語ったつもりは全くないんだけど。
「ああ、そうだ。さっき先輩に三郎次の惚気話を一つ話して差し上げたら、それはもうにこにこされていた」
「いつの間に!?」
「なんか心配するだけ無駄だったなぁ。お二人とも仲睦まじく過ごされてるようだし」
「そうだな」
久作がそう答えた直後、しんと空気が静まり返った。
それがあまりにも急だったので、心配になった俺の代わりに左近が「久作?」と声を掛ける。
「もう寝る」そう返ってきた言葉に「急すぎないか」と二人でボヤいた。
「明日は早起きして薪割りでも手伝わないと。一宿一飯の恩義と言うだろ」
「相変わらず律儀で真面目だなぁ。別にそこまで気にしなくていいって」
「久作は真面目が服を着て歩いているようなもんだから」
「左近。お前は怪我の手当てまでしてもらったんだ」
「わかってる。僕も明日の朝餉の準備手伝うよ。それじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
こうして三人並びで眠るのも、両隣から聞こえた声も久しぶりだ。
懐かしさで溢れた胸の真ん中辺りが温かくなって、少しこそばゆくなる。
その日は忍術学園で授業を受けている夢を久しぶりに見た。
二年生の制服を着て、文机に三人並んで座る。教壇に立っていたのは何故か霧華さんだった。私服ではなく、教員の制服を身に纏い、火薬の説明を講じていた。
その姿がとても様になっていた。もしかすると、そういう未来もあったのかもしれないな。
三毛猫の落とし物――蝉ふぁいなる――に驚いた左近は足を挫いてしまった。
その手当てが済んだ後、もう遅いから霧華さんは「泊まっていきなさい」と、俺の友人二人にそう言った。
「我々は日が沈んでからが活動時間帯になるが、怪我をしているなら話は別。日が昇ってから出発した方が良い」
「今の左近は山賊の格好の的にされそうだしな。でも俺まで良いんですか?」
「私は構わない。三郎次も良しとするだろうし」
貴女にそう言われたら否とは言いにくいんですよ。
「その三郎次は無茶苦茶イヤそうな顔をしてますが」
「友人は大切にした方が良いぞ」
「そうだそうだ」
「まだ何も言ってないだろ! 久作まで怪我されたら夢見が悪い。二人とも泊まっていけよ。言っておくが、大したもてなしは出来ないからな」
こうして隣町から帰ってきて休む間もなかったわけで。
夕食の支度を五人前用意して、来客用の湯呑みを軽く洗ってから食後の番茶も淹れた。
霧華さんが後片付けをしている間に予備の布団を引っ張り出し、奥の部屋に敷いた。
「二人とも運が良いぞ。この間天日干ししたばかりなんだ。ふかふかの布団で寝られること感謝しろよな」と、言ったら左近と久作は顔を見合わせた。
「なんというか、大したどころじゃなくて大層なおもてなしされてる気分」
「べっ、別にお前らの為じゃないからな! 本当に偶々だ!」
「はいはい。有り難く厚意を頂戴させてもらうよ」
「三郎次の心遣いが身に染みるー」
左近は左端の布団にぱたりと倒れ込んで「ふかふかだあ」と呑気な声を出した。完全に緊張の糸が緩んでいる。
こんなやり取りを傍から見ていた霧華さんが可笑しそうに、そしてどこか楽しそうな顔を見せる。
「私は居間で眠るから、お前たちはそっちの部屋で寝ると良い」
「えっ。でも流石に夫婦水入らずのところを」
「何を言ってんだ今更。俺たちが上がり込んだ時点でそうじゃなくなってるんだよ」
「久作の言う通りだ。まったく。隣町からの帰りで疲れてるっていうのに」
不意の来客にバタバタとする夜。おかげで買った櫛を渡す機会も完全に失ってしまった。
「まあ、そうカリカリするな三郎次。友人と久しぶりに語らうのも悪くない」
「そりゃ、そうですけど」
「ああ、枕投げをするなら戸に気をつけてくれると有り難い。最近この引き戸の調子が悪くてな」
「先輩。僕、怪我人です」
左近は捻った足首に巻かれた包帯をちらりと見た。苦笑いも添えて。この状態で枕投げなんてしない、と言いたそうに。
「それにいい年して枕投げは」
「そうか? 久々にやると楽しいものだぞ。まあ、何にせよゆっくり過ごしてくれ。おやすみ」
「あ、はい。おやすみなさい」
戸が完全に閉められる前に俺と久作が遅れて挨拶を返した。
しんと静まり返ったのもつかの間。
横向きになった左近が頭を支えながら俺の方を向いた。
「先輩、変わらないなぁ。後輩に甘いところがさ」
「そこが先輩の良い所でもある。お元気そうで良かったよ」
「俺は」
「三郎次はひと目で健康優良男児ってわかるし」
「バカにしてるのか左近」
「まあそう怒るなよ」
反対側へ目をやると、久作はすっかり布団に潜り込んでいた。枕の脇には背負ってきた荷物がきっちりと整えられている。
左近はまだ眠るつもりがないのか、掛け布団の上でごろごろしていた。
この並びはなんだか、懐かしいな。
「三郎次って猫好きだった?」
「好きだよ」
「そんなぶっきらぼうに答えられても信憑性が薄いぞ」
「好きだって言ってるだろ。あの三毛猫の置き物だって霧華さんが俺の為に買ってきてくれたんだぞ。可愛らしいだろ」
あの三毛猫は文机の隅にちょこんと置かれることになった。
俺よりも霧華さんの方が大変気に入ったみたいで、その前を通る度に目を向ける。
「なあ、その三毛猫とあの三毛猫。もしかして何か関係があるのか?」
「話せば長くなる」
「じゃあ、それはまた今度聞かせてもらうことにするよ」
手負いの仔猫を拾ってきたとか。霧華さんの後ろはちょこちょこついて歩いた癖に、俺には懐かず気まぐれだったとか。姿を晦ました後も恩返しのつもりか、鼠や蝉を玄関口にそっと置いていくとか。
兎に角、一連の流れを話すと長くなってしまう。けど、これだけは言える。あの時も今日も、仔猫は霧華さんが連れて帰ってくるもんなんだと。
「そういえば三郎次。先輩とはどうなんだ」
「どうって、何がだよ」
「
「ま、二人の顔見たら平穏無事って感じはする」
左近と久作の視線が直線上で交わった気がした。
「ほら、久々知先輩方の噂を風の便りで聞いたもんだから」
「どの噂だ? この数ヶ月でもいっぱいあり過ぎるんだ」
「そんなに。俺が聞いたのは鉢屋先輩を瀕死に追いやったとか、豆腐料理をごり押しするべく学園中好きな豆腐料理を聞き回ったとか」
「一緒に居る時はずっと手を繋いでるとか」
「久々知先輩が浮気して離縁騒ぎになったとも聞いた」
それ、ほぼ全部じゃないか。
なんかもう、学園内で起きていることは人伝で卒業生に知れ渡っていそうな気もする。
「当たらずと雖も遠からず、だ。鉢屋先輩は両足骨折しただけだし、久々知先輩の浮気は白だよ」
「骨折しただけって、結構大事じゃないかそれ」
「二週間医務室に世話になったらしいぞ。これは霧華さんに聞いた話だけど、そこで久々知兵助物語を語り種にしたとか。講談料一回一文で」
「なんだそれ」
豆腐小僧の二つ名を得た理由の物語か。
左近がすっとぼけたことを言うもんだから「そんな話は聞きたくない」と返しておいた。豆腐料理の名前が羅列するに決まってる。聞くだけでお腹がはち切れそうだ。
「久々知先輩と御内儀の出会いと別れ、再会についてを物語風にしたらしい」
「へえ。ちょっと聞いてみたい気もする。今度鉢屋先輩に会ったら頼んでみようかな」
「物好きだな久作。ああ、でも池田三郎次物語なら久作でも語れるんじゃない?」
「だからやめろって言ってるだろ!」
「なんだよ。まだ何も言ってないのに。まあ、語る内容は先輩自慢ぐらい? 三郎次の先輩自慢は僕たち飽きるほど浴びたからなぁ」
断じて飽きられるほど語ってなどいない。そう反論しても二人の反応は薄かった。
滝夜叉丸先輩みたいにぐだぐだ語ったつもりは全くないんだけど。
「ああ、そうだ。さっき先輩に三郎次の惚気話を一つ話して差し上げたら、それはもうにこにこされていた」
「いつの間に!?」
「なんか心配するだけ無駄だったなぁ。お二人とも仲睦まじく過ごされてるようだし」
「そうだな」
久作がそう答えた直後、しんと空気が静まり返った。
それがあまりにも急だったので、心配になった俺の代わりに左近が「久作?」と声を掛ける。
「もう寝る」そう返ってきた言葉に「急すぎないか」と二人でボヤいた。
「明日は早起きして薪割りでも手伝わないと。一宿一飯の恩義と言うだろ」
「相変わらず律儀で真面目だなぁ。別にそこまで気にしなくていいって」
「久作は真面目が服を着て歩いているようなもんだから」
「左近。お前は怪我の手当てまでしてもらったんだ」
「わかってる。僕も明日の朝餉の準備手伝うよ。それじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
こうして三人並びで眠るのも、両隣から聞こえた声も久しぶりだ。
懐かしさで溢れた胸の真ん中辺りが温かくなって、少しこそばゆくなる。
その日は忍術学園で授業を受けている夢を久しぶりに見た。
二年生の制服を着て、文机に三人並んで座る。教壇に立っていたのは何故か霧華さんだった。私服ではなく、教員の制服を身に纏い、火薬の説明を講じていた。
その姿がとても様になっていた。もしかすると、そういう未来もあったのかもしれないな。