軽率なコラボシリーズ
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大豆調達制限及び制裁
「葉月せんぱぁぁい!」
教員長屋の廊下を歩く紅蓮に突如泣きついてきたのは忍術学園の教師――臨時雇用ではある――の久々知兵助。その顔面は一つ下とは思えないほどの泣き崩れよう。しかも紅蓮の旧姓を口にする程切羽詰まっている。
何か一大事でも起きたか。そう頭を過るも、直ぐにその考えを改めさせられることになる。
「不二子さんが、不二子さんが……大豆を買い付けてくれないんですっ!」
やはり豆腐絡みであったか。
今しがた過った緊急事態に備えた僅かばかりの時間を返してほしい。そう思う紅蓮である。
この後輩は在学時から「豆腐を作るための大豆を買う資金が足りなくて」と言う男だった。
兵助の悩み=豆腐全般という等式が成り立ってしまうほど豆腐に人生を注ぎ込んでいるといっても過言ではなかった。が、それも嫁を取ってからはそればかりではなくなったのだが。
紅蓮は大きな溜息をついてみせた。それはもう相手に聞こえるほどの大きさで。
とはいえ廊下で、しかも教員長屋のど真ん中で説教をするのは些か可哀想でもある。年が近いといえど、後輩には変わりなし。
紅蓮は一先ず兵助を自室に戻るよう背中を押して促し、戸をしっかりと閉めた。
「……で、今回は何をやらかしたんだ」
部屋の中央に正座をさせられた兵助は項垂れ、肩を上下に震わせていた。
その前に胡座をかき、両腕を組む紅蓮。口調は少しばかり威圧感がある。
「……何もした憶えはないんですけど」
「本当にそう思うか? 己の胸に手を当てて聞いてみろ」
豆腐制限に留まらず、大豆の仕入れまでも制限をかけた食堂の番人。先程顔を合わせて話を交わした様子ではこれといった異変を感じなかった。
「兵助くんはね、五日間豆腐抜きなの」と笑顔で言っていたが。
まあそれでも先日起きた“豆腐離縁”とまではいかない程度の痴話喧嘩だろう。そしてその原因は大方と言っていいほどこの兵助にある。
兵助は自身の左胸に手を当て、拍動をその手に受ける。
「……やっぱり思い当たる節がないんですが」
何一つ疑わないその純真な眼差し。
これには紅蓮も顔を手のひらで覆った。いや、そもそもこの男に自分で気がつけと言うほうが無理な話か。これでよく夫婦生活を続けていられる。ざっと数え、小さな喧嘩を数えるだけでも自分たちより大幅に多い。
喧嘩するほど仲が良いとは言う。だが、この夫婦に関しては一方的なバヤイがとても多いのだ。
良く言うならば不二子の不満を兵助は全て受け止めるかと思いきや受け流すどころか気づかない。
「……そろそろ、いやいい加減に兵助は御内儀がどういった時に怒りを覚えるのか学んだ方がいい」
「えっ……不二子さん、怒ってるんですか……?」
「そうでなければ豆腐に限らず大豆禁止にはならんだろ」
「それは、そうですね……今は口も利いてくれないので」
大豆禁止どころか会話を交わすことも禁じられた。それを知った紅蓮は雨でずぶ濡れになり震える子犬さながらの兵助の姿を見て溜息を一つ零す。
「わかった。兵助、表に出ろ」
「い、いや……それは、ちょっと……ご遠慮願います」
「ほう。私の申し出には直ぐ察するというのに、不二子さんの感情には気づかんのか」
「先輩のその言い方は本気の組手なんですよ! 明日の授業に支障が出る程度なんです!」
「それはお前が言えた事ではなかろう」
睨む紅蓮にたじろぐ兵助。年が一つしか違わないといえど、この実力差は大きい。それは忍たまとして在学していた時から感じたものでもある。
翌日に身動きが取れなくなるといった不満を抱えるのは御内儀の方である。その辛さと恥を知らしめるべく、手甲に忍ばせていた棒手裏剣を兵助の顔面目掛け、素早く打ち込んだ。
忍たま相手に対した避けられる際どい所を狙ったわけではないそれ。確実に相手を仕留める殺気が込められた忍器をギリギリの所で兵助はかわした。
後方の壁に深々と突き刺さった棒手裏剣。これを見た兵助の背に冷や汗が伝う。
「お前と組手をするのは演習以来だな。その時より勿論実力もついているだろう?」
そこでにこりと紅蓮は微笑んだ。
「手加減はしなくとも良いな」
兵助の顔から今度は血の気がさっと引いた。
翌日、久々知兵助が担当する授業は急遽外部からの講師による授業に変わったという。
◇
「……今度から何かあったら霧華さんに頼もうかな。兵助くんにとって良い薬になると思うし」
「あの、霧華さんもそこまで暇じゃないんで……。あと流石に久々知先輩の命が普通に心配になります」
「葉月せんぱぁぁい!」
教員長屋の廊下を歩く紅蓮に突如泣きついてきたのは忍術学園の教師――臨時雇用ではある――の久々知兵助。その顔面は一つ下とは思えないほどの泣き崩れよう。しかも紅蓮の旧姓を口にする程切羽詰まっている。
何か一大事でも起きたか。そう頭を過るも、直ぐにその考えを改めさせられることになる。
「不二子さんが、不二子さんが……大豆を買い付けてくれないんですっ!」
やはり豆腐絡みであったか。
今しがた過った緊急事態に備えた僅かばかりの時間を返してほしい。そう思う紅蓮である。
この後輩は在学時から「豆腐を作るための大豆を買う資金が足りなくて」と言う男だった。
兵助の悩み=豆腐全般という等式が成り立ってしまうほど豆腐に人生を注ぎ込んでいるといっても過言ではなかった。が、それも嫁を取ってからはそればかりではなくなったのだが。
紅蓮は大きな溜息をついてみせた。それはもう相手に聞こえるほどの大きさで。
とはいえ廊下で、しかも教員長屋のど真ん中で説教をするのは些か可哀想でもある。年が近いといえど、後輩には変わりなし。
紅蓮は一先ず兵助を自室に戻るよう背中を押して促し、戸をしっかりと閉めた。
「……で、今回は何をやらかしたんだ」
部屋の中央に正座をさせられた兵助は項垂れ、肩を上下に震わせていた。
その前に胡座をかき、両腕を組む紅蓮。口調は少しばかり威圧感がある。
「……何もした憶えはないんですけど」
「本当にそう思うか? 己の胸に手を当てて聞いてみろ」
豆腐制限に留まらず、大豆の仕入れまでも制限をかけた食堂の番人。先程顔を合わせて話を交わした様子ではこれといった異変を感じなかった。
「兵助くんはね、五日間豆腐抜きなの」と笑顔で言っていたが。
まあそれでも先日起きた“豆腐離縁”とまではいかない程度の痴話喧嘩だろう。そしてその原因は大方と言っていいほどこの兵助にある。
兵助は自身の左胸に手を当て、拍動をその手に受ける。
「……やっぱり思い当たる節がないんですが」
何一つ疑わないその純真な眼差し。
これには紅蓮も顔を手のひらで覆った。いや、そもそもこの男に自分で気がつけと言うほうが無理な話か。これでよく夫婦生活を続けていられる。ざっと数え、小さな喧嘩を数えるだけでも自分たちより大幅に多い。
喧嘩するほど仲が良いとは言う。だが、この夫婦に関しては一方的なバヤイがとても多いのだ。
良く言うならば不二子の不満を兵助は全て受け止めるかと思いきや受け流すどころか気づかない。
「……そろそろ、いやいい加減に兵助は御内儀がどういった時に怒りを覚えるのか学んだ方がいい」
「えっ……不二子さん、怒ってるんですか……?」
「そうでなければ豆腐に限らず大豆禁止にはならんだろ」
「それは、そうですね……今は口も利いてくれないので」
大豆禁止どころか会話を交わすことも禁じられた。それを知った紅蓮は雨でずぶ濡れになり震える子犬さながらの兵助の姿を見て溜息を一つ零す。
「わかった。兵助、表に出ろ」
「い、いや……それは、ちょっと……ご遠慮願います」
「ほう。私の申し出には直ぐ察するというのに、不二子さんの感情には気づかんのか」
「先輩のその言い方は本気の組手なんですよ! 明日の授業に支障が出る程度なんです!」
「それはお前が言えた事ではなかろう」
睨む紅蓮にたじろぐ兵助。年が一つしか違わないといえど、この実力差は大きい。それは忍たまとして在学していた時から感じたものでもある。
翌日に身動きが取れなくなるといった不満を抱えるのは御内儀の方である。その辛さと恥を知らしめるべく、手甲に忍ばせていた棒手裏剣を兵助の顔面目掛け、素早く打ち込んだ。
忍たま相手に対した避けられる際どい所を狙ったわけではないそれ。確実に相手を仕留める殺気が込められた忍器をギリギリの所で兵助はかわした。
後方の壁に深々と突き刺さった棒手裏剣。これを見た兵助の背に冷や汗が伝う。
「お前と組手をするのは演習以来だな。その時より勿論実力もついているだろう?」
そこでにこりと紅蓮は微笑んだ。
「手加減はしなくとも良いな」
兵助の顔から今度は血の気がさっと引いた。
翌日、久々知兵助が担当する授業は急遽外部からの講師による授業に変わったという。
◇
「……今度から何かあったら霧華さんに頼もうかな。兵助くんにとって良い薬になると思うし」
「あの、霧華さんもそこまで暇じゃないんで……。あと流石に久々知先輩の命が普通に心配になります」