軽率なコラボシリーズ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
変装実習其の二
「あ、お疲れ様です。葉月……今は池田先輩でしたね。すみません」
土井先生の元を訪れ、教員長屋を離れようとした時だ。
かつて忍術学園で瓜二つと言われた忍たま。その片割れが私に話しかけてきた。
この時点で私の中にある秤が右にやや傾く。柔らかな物腰でいて、穏やかな声の調子。しかしこれだけでは決定打に欠ける。
だが、次の言葉で確信に変わった。
「……いや、もしかしたら先輩は池田ではなく今まで通り葉月と呼ばれたいと思っているのやも。でもお二方は仲睦まじい……いやいやそれでも先輩の本心は」
「不破。私のことは池田で呼んでくれ」
顎に手を当て、額にシワをこれでもかと寄せて悩むその姿。放っておけば延々と悩み続けるであろうこの男。
右に完全に傾いた秤――不破雷蔵は頭を掻く仕草と共に引きつった笑いを浮かべた。
「やっぱり、そうですよね。ご無沙汰しております」
「元気そうだな。悩み癖は相変わらずみたいだが。……お前がいるということは」
「はい。三郎も来ています」
ふと嫌な予感が過った。
先日、学園に特別講師として招かれた鉢屋は四年生に変装実習を課した。
ざっくりとその内容を言うならば、兵助、不二子さん、小松田さんに気付かれないようにするというもの。
実習結果は一名を除き惨敗。詳しいことはこの際割愛するが、その後兵助が面倒なことになったと四年生に愚痴と不満を聞かされた。
◇
嫌な予感は直ぐに的中した。
変装した忍たまがやたらと私に構いに来る。しかも数人規模、誰もが三郎次の顔を纏ってだ。
直ぐに正体を暴かれた奴らはその場から尻尾を巻いて逃げていった。
恐らくは鉢屋の変装実習其の弐といったところか。追試として設けているのならば、全部で十一人。あの鉢屋の考えることだ。標的は私と三郎次だろう。
あちらにも代わる代わるに私の顔をした忍たまが向かっていったに違いない。
そしてこれが実習だと気づいたのか、本物が私の所へ訪れることはなかった。
三郎次のことだ。騙されることはないだろう。実習中の四年生には気の毒なことだが、致し方あるまい。
いや、それにしても入れ替わり立ち替わりに来るのは明らか不自然過ぎる。それをそうと思わなかった不二子さんはなんというか、やはり。
「霧華さん」
医務室からの帰り、廊下を進む途中でまたも三郎次が姿を現した。
六人目の三郎次は背格好もそれなりに似ており、声も似せている。
そういえば四年生の中で音声忍を志したいと話していた奴がいた。この三郎次の中身は恐らくそいつだろう。
「良かった。こちらに居られたんですね」
「どうかしたのか」
「いや、なんか四年生が変装の実習授業中らしくて。さっき俺の所にも何人か来ていて」
ほう、そう来たか。
自ら犠牲者を演じる手段。と言うことは、既に正体を見破られた四年生間での連絡が行き届いている。仲間同士の連携は見事なものだが、まだまだだな。
「もしかしたら俺の顔で何かやらかしていったんじゃないかと」
「ああ、その事なら心配ない。私が見抜けない訳がないだろう?」
「そうですね」
私が普段通り口角を上げて笑って見せれば、どこか強張った表情を見せる池田三郎次。
今までの生徒もそうだが、全体的に余裕が少ない。ちょっとした揺さぶりに動揺を見せる。
「ああ、そうだ。三郎次、お前には言っておかなければならないことがある」
「なんでしょう」
「最近、体調が芳しくない」
刹那、その面が曇る。
「身体が重怠く、不意の目眩も増えた。悪心もする。それで、そのことを伊作に相談したのだが」
深みを持たせ、思わせぶりに語る。
眼前で私の話を聞いていた人物は目を満月のように丸くし、口を半開きにさせたまま数秒固まった。
その後、私の両手を取り上下にぶんぶんと振り出す。実に喜ばしい、めでたいといった風に笑顔を輝かせていた。
「御目出度う御座います……! ああ、本当に慶ばしい。きっと池田先生似の可愛いややが生まれてきますよ。本当に嬉しい……あっ、お身体は冷やさぬように。それと無理な力仕事や体勢はせず」
息を吐く間もなくそこまで話すも、はたと動きを止めた。その様はゼンマイが切れたからくり人形の如く。
自ら化けの皮を脱いだ四年生忍たまは熟れた柿の様に顔を紅潮させる。
話術に引っかかったのがあまりにも可笑しく、私は吹き出して笑いだしてしまった。
「……最初から見抜いてましたね?」
「まあな。それにしてもぼろが出すぎだぞ」
「うっ……。あの、先程の話は」
「嘘だよ。どこも不調はない」
「では、医務室に寄られていたのは」
「新野先生に薬草の群生地調査を頼まれていたんだ。その報告に寄っただけだよ」
「そうでしたか。……お怪我もなく、体調も芳しいようで安心しました」
そう言って四年生の忍たまは安堵の溜息を吐いた。
体調不良、伊作への話、そして医務室に寄った私を都合よく見掛けたので嘘に箔が付いたのだろうな。
「声は三郎次に似ていた。まあ、もう少し低めだな。音声忍を目指しているのだろう? 頑張りなさい」
「はいっ!」
顔を輝かせて笑う仕草。そこには本人らしいものが滲み出ていた。
あどけなさが残るその顔が少し懐かしい。素直で可愛かった三郎次を思わせる。
その後幾つか会話を交わし、恭しく一礼をして去っていく背を見送った。
さて。あと何人の三郎次が来るやら。
◇
今日はやたらと霧華さんに変装した忍たまが何人も絡みに来る。
雑談で装ったり、火薬の知識をひけらかしてきたり。色を仕掛けてきた奴もいた。
敢えて問い詰める様な真似はしていないが、俺に正体を暴かれた忍たまたちは全員尻尾を巻いて逃げていった。
これは実習授業とみた。
標的は恐らくこの自分と霧華さんだろう。四年生は現在十二人。どの割合で振ったかは知らないけど、さっきので四人目だ。まさかとは思うが、全員俺を騙そうと来るんじゃないだろうな。
甘く見られたもんだな。これが授業じゃなければ懲らしめてやるのに。
見飽きるはずがない顔だというのに、今だけは言わせてほしい。見飽きてきた。
あの人がするはずのない表情とか仕草、言葉の選び方とか。いい加減にしろと叫びたくなる。
早く本物と合流したいとこだけど、授業の一環ならそうもいかない。特別講師として招かれてる以上は協力しないと。土井先生の顔に泥を塗ってしまう。
一先ず食堂に顔を出そうと向かった矢先にまた同じ顔と出くわした。
食堂に続く廊下で霧華さんと一緒に居るのは久々知さんだ。
俺に気づいた霧華さんらしき人が視線をこちらに向け、久々知さんがにこっと不自然な笑みを浮かべた。
怪しすぎる。
この二人が揃っているのは自然なことだ。それは認めよう。最近は霧華さんも久々知さんと話をしによく食堂に顔を出しているから。だから不自然ではない。
が、裏を読めば訝しい点が幾つも沸いて出てくる。
一つ、気配がそもそも違う。
二つ、凛とした雰囲気がない。
三つ、仕草が全く持ってなっていない。
四つ、久々知さんの樣子が明らかにおかしい。
これ以上は挙げるときりがないので割愛する。
具体的に久々知さんの樣子がどう変かというと、愛想笑いが過ぎる。
ぎこちなく「どうしたのー池田くん?」と話しかけてくるのだ。手足を同時に出して歩きそうなほど。
二人の態度、発言の何から何まで「私は何か嘘をついています」という等式が成り立つ。
いい加減疲れてきた。
俺はわざと相手方に聞こえる様な溜息をついてみせる。刹那、偽物の表情に焦りが僅かに浮かんだ。
この程度の圧で揺さぶられるようじゃ鉢屋先生の課題は合格できないぞ。
俺は何も気づいていないフリをして、二人に笑い掛けた。
「お疲れ様です久々知さん、霧華さん」
「お疲れサマー」
「先生方への報告は済ませたのか」
「ええ、もうとっくに。直ぐ合流しようと思っていたんですけど、今日はやけに横槍が多すぎて」
わざとらしくそう言いながら俺は相手の顔色を窺う。ぴくりと瞼が痙攣した。その目と視線がかち合えば、非常に気まずそうに、それが下方へ向く。
ここでさっき仕入れた情報を使って更に揺さぶりをかけることにした。
「そういえば、聞きましたよ久々知さん」
「え、何?」
「先日、利吉さんが来られた時に手を仲睦まじく取り合っていたそうじゃあないですか」
多少の脚色はあるけれど、これは事実でもある。俺がニヤニヤと笑えば焦るのは本人ではなく、隣にいる忍たまのみ。
因みに久々知さんはケロッとしていた。こういった類の煽りはこの人に効かないんだよな。そもそも気づかないんだ。鈍いから。
「久々知先輩にバレたら大変なんじゃないですか?」
そしてとどめの一言。
これが効いたのも当人の久々知さんではなく、脇にいる忍たまだ。サッと顔を青ざめるその様はちょっと新鮮かもしれないが、あの人はそんな風に驚かない。
久々知さんは「え、それいつの話?」と慌てた様子一つなく、呑気にいつの話かと思い出そうとしている。
代わりにわなわなと口を開いたのは口調も態度も素に戻っていた忍たまだった。
「ちょ……今の話は聞かなかったことに」
「どうしてだ」
「どうしてって、久々知先生に知られたら何が起きるか……!」
「間違いなく睨み合い、いや合戦になるかもな」
「マジで食堂が合戦場になってしまう! それだけは避けてください、久々知さん! 僕も黙っていますから!」
そう忍たまに懇願された久々知さんは未だに「なんで?」という表情。なんかその惚け方、久々知先輩に似てきた気がする。
「だって、あの時手を拭いてもらってただけだよ? 転んで手のひらが泥だらけになっちゃったから」
「……手を拭いてもらってた、だけ?」
「うん」
「久々知さん。転んで手を泥だらけにするとか子どもじゃあるまいし」
「久々に綺麗な前のめりで転んだんだもの」
「じゃあ、別に手を仲睦まじく取り合っていたわけじゃ……?」
「手拭いで拭いてもらっただけだよ」
真相を聞いた忍たまの強張っていた表情から力が抜ける。これ、だいぶ久々知先輩にやられてるんだな。
いや、それよりもだ。
俺はすっかり気が抜けて素に戻ってしまった忍たまをひと睨みする。
「お前、変装する気があるのか」
「あっ」
◇
食堂の一角がまるでお通夜状態だった。
十一人の四年生が卓を挟んで座り込み、俯いている。
因みに彼らは変装をまだ解いていない。
そして配膳口側に立つ特別講師の皆さん。
左から順に鉢屋くん、不破くん。そして今回の被害者である霧華さんと池田くん。この二人は腕組みの仁王立ち。顔はニコニコと笑っているけど、逆になんかコワイ雰囲気が。
「まさか追試対象者全員が見破られるとはなぁ。こりゃあ池田先生方に一本取られたな」
「笑い事じゃないだろ三郎」
「そうですよ鉢屋先輩。巻き込まれた方の身にもなってください。そもそもお粗末過ぎるんですよ。言葉遣い、仕草、表情全部がまるでなってない」
ぐさ、ぐさ、ぐさと池田くんの放った見えない矢が四年生たちに刺さった。
この二人を騙そうって言うのもかなり難しいんじゃないかなぁと私も思っていたけど。
「まあ、精度が高い生徒もいたぞ」
霧華さんがそう言いながら目線を一人の忍たまに向ける。目が合ったその子はちょっと嬉しそうな顔をしていた。
「久々知さんの協力も得たっていうのに一瞬でバレた奴もいたしなぁ」
「私も直ぐバレると思うよーって言ったんだけどね」
この二人がお互いを見間違うことないと思うから。
何故か池田くんの視線が私の方に向いた。何かすごく言いたそう。私の演技、そこそこだったと思うんだけどね。
ここでがたりと勢いよく立ち上がった一人。池田くんの変装をした子が鉢屋くんに物申すと言わんばかりに目を見開く。
「昨日の今日なんですよ? 追試課題やるって聞いたのは。準備も何も出来やしないじゃないですか」
「そうだそうだ!」
ブーイングが束の間沸き起こる。
顔が二人の顔だからちょっと不思議な光景だ。
「よく見たらすごい光景だよねこれ。ほんとコスプレ大会」
「実習授業じゃなきゃ一人ずつその面割ってやってますよ」
「ウワァー! 池田先生の手刀痛いから嫌だぁぁ!」
「当たり前だ。武術の基本だからな。今から順にやってやろうか?」
「ぎゃああー!」
「こらこら、みんな食堂で騒いじゃ駄目だよ。食堂のおばちゃんと久々知さんに迷惑がかかってしまうから」
右手をすっと構える池田くんは笑ってるけど、額に青筋が浮かんでいた。
まあまあと場を鎮めようとしたのは不破くんで、意外なことに霧華さんは黙っていてむしろ「やってしまえ」というそれはいい笑顔。
「先輩も黙ってないで止めてくださいよ!」
「いや、止める必要もないと思った。まあ、それは冗談として。忍者はいつ何時でも応じなければならない。潜入先の下調べ等は勿論入念に行うことに越したことはない。だが、急を要する場合も多いことを覚えておいてほしい」
みんなの顔を一人ずつ、しっかりと見ながら霧華さんが語りかける。その表情は真剣でいて、どこか愁いも含まれているような気がほんのりとした。
「お前たちの学年から実技も厳しくなる。合戦場や出城に忍び込む実践も増えていく。臨機応変に対応できる力を、生き抜く術を身に着けてくれ」
霧華さんの言葉が静かに響いた。
四年生のみんなは思うことが何かあるんたろう。それぞれ神妙な面持ちで話を受け止めているようだった。
「そういうわけで、私たちからは以上だ。鉢屋、お前に教鞭を返すぞ」
「いや〜私の出る幕がないと思って黙っていましたよ。流石、六年間忍たまとして過ごされた先輩のお言葉だ」
ぱちばちと鉢屋くんの乾いた拍手に送られながら霧華さんが空いている席に腰を下ろした。その隣に池田くんも続く。
ここで本来の講師がわざとらしく咳払いを一つ。
「では、お二人に改めて意見を窺うとしようか。何がいけなかったのかしっかり、詳しく聞いておくように」
「はい! お二人はそもそも僕たちが姿を見せただけで気づかれていたようですが」
「瞬時に見抜けるものなんですか?」
真っ先に手を上げたのは私に協力を仰いだ子だ。側で見ていたけど、確かに池田くんの目は瞬時に偽物だと見抜いてた気がする。
彼らの質問に霧華さんたちは顔を見合わせ、ほぼ同時にこう答えた。
「そもそも気配が違う」
「ほら、やっぱりそんな感じでわかるんだよ。前に私もなんとなくでわかるって言ったじゃない?」
「不二子さん。貴女が言うと皆納得いかない顔をするんですよ。ほら」
私が彼らの方を振り返ると「納得いかねぇ」と言った風に顔を歪ませた。なんで。同じようなものじゃないの。
「先生お二人は忍者だけど、御内儀は一般人じゃないですか!」
「甘いぞお前たち。確かに久々知さんは平々凡々な一般人だが、それを補えるほどの力がある。それは、愛だ! しかも兵助だけに発動する力! 愛は兵助を救う!」
「ごめん三郎。ちょっと言ってる意味がわからない」
拳を握り熱弁する鉢屋くんに冷静なツッコミを入れた不破くんに同意しかない。
兵助くんしか救わない愛って、むしろそれは豆腐なんじゃ。兵助くんは豆腐と相思相愛だから。あれ、それだと豆腐にも意志が宿っていることに。
「まあ、とにかく。感覚というか、好きな人のことだからわかるってこと。普段お互いに見てないとわからない、本当にちょっとした癖とか言葉の使い方とか」
「久々知さんの言う事には一理ありますよ。俺も一瞬の仕草や表情で気づいたので」
(伊達に四年間追い続けてないよな、池田先生)
(さっき池田先生、夫はもっと男前だって惚気てた)
(……先生方も爆発してほしい)
(元火薬委員なだけに)
(誰うま)
(久々知先生方もだけどさ、池田先生方ってケンカすんのかな)
急に静かになったかと思えば、池田くんがじろりと数人を睨みつけた。
「矢羽音聞こえてるぞ」
「すっすみません」
「うーん。それにしても、だ。ここまで惨敗だと私も悔しい。変装の特別講師として」
両腕を組んで、ぐぬぬと唸る鉢屋くん。眉間にはこれでもかというほどシワが寄ってる。不破くんの面外れないのかなあれ。そこも考慮して変装してるのかな。不破くんはいつも悩みすぎるとあんな顔をしているから。
と、ここで鉢屋くんの頭上に閃きの電球がパッと浮かび上がり、手をぽんと打った。
「そうだ! 次回は全員で兵助の顔に変装して久々知さんの前に並ぶとしよう!」
「ええ……まだやるの?」
「このままでは変装の名人と謳われた私の気が収まらない」
「三郎の本音が出ちゃったよ」
「よーし。みんな、次回までに兵助の顔を磨いておくように! こんな風にな」
言うが早いか鉢屋くんが顔に手を翳した次の瞬間、兵助くんの姿に変わっていた。
おおーっと歓声が四年生のみんなから沸き起こる。
「顔を磨くって……三郎、お前なぁ」
「雷蔵もしっかり磨いておけよ」
「僕もやるのかい⁉」
「当然だ。我々の方が学友として兵助と共に過ごした時間は長い! 負けてられんぞ」
食堂の一角がお通夜状態から急にわいわいと盛り上がり始めた。気持ちの切り替えは大事だけど、ちょっと内容があれ。
特別講師と四年生たちを他所に霧華さんと池田くんは素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。
「どう思います、霧華さん」
「まあ、無駄な足掻きだとは思う。不二子さんの勘は鋭いからな」
そうこうしてるうちに、食堂に同じ顔がずらりと並んだ。私と霧華さんと池田くんを除き、総勢十三人の兵助くんがいる。ちょっと流石にこれ、怖くない?
「……な、なんだこれ」
そこへ運悪くも兵助くん御本人が食堂に入ってきた。そして間もなくこの光景を見て絶句。ここまでいるともうドッペルゲンガーどこじゃない。
「お前ら……俺の顔で遊ぶんじゃなーい!」
兵助くんが顔を引き攣らせた後、外まで聞こえそうな声量で叫んだものだから何事かと野次馬が集まってきたのは言うまでもない。
「あ、お疲れ様です。葉月……今は池田先輩でしたね。すみません」
土井先生の元を訪れ、教員長屋を離れようとした時だ。
かつて忍術学園で瓜二つと言われた忍たま。その片割れが私に話しかけてきた。
この時点で私の中にある秤が右にやや傾く。柔らかな物腰でいて、穏やかな声の調子。しかしこれだけでは決定打に欠ける。
だが、次の言葉で確信に変わった。
「……いや、もしかしたら先輩は池田ではなく今まで通り葉月と呼ばれたいと思っているのやも。でもお二方は仲睦まじい……いやいやそれでも先輩の本心は」
「不破。私のことは池田で呼んでくれ」
顎に手を当て、額にシワをこれでもかと寄せて悩むその姿。放っておけば延々と悩み続けるであろうこの男。
右に完全に傾いた秤――不破雷蔵は頭を掻く仕草と共に引きつった笑いを浮かべた。
「やっぱり、そうですよね。ご無沙汰しております」
「元気そうだな。悩み癖は相変わらずみたいだが。……お前がいるということは」
「はい。三郎も来ています」
ふと嫌な予感が過った。
先日、学園に特別講師として招かれた鉢屋は四年生に変装実習を課した。
ざっくりとその内容を言うならば、兵助、不二子さん、小松田さんに気付かれないようにするというもの。
実習結果は一名を除き惨敗。詳しいことはこの際割愛するが、その後兵助が面倒なことになったと四年生に愚痴と不満を聞かされた。
◇
嫌な予感は直ぐに的中した。
変装した忍たまがやたらと私に構いに来る。しかも数人規模、誰もが三郎次の顔を纏ってだ。
直ぐに正体を暴かれた奴らはその場から尻尾を巻いて逃げていった。
恐らくは鉢屋の変装実習其の弐といったところか。追試として設けているのならば、全部で十一人。あの鉢屋の考えることだ。標的は私と三郎次だろう。
あちらにも代わる代わるに私の顔をした忍たまが向かっていったに違いない。
そしてこれが実習だと気づいたのか、本物が私の所へ訪れることはなかった。
三郎次のことだ。騙されることはないだろう。実習中の四年生には気の毒なことだが、致し方あるまい。
いや、それにしても入れ替わり立ち替わりに来るのは明らか不自然過ぎる。それをそうと思わなかった不二子さんはなんというか、やはり。
「霧華さん」
医務室からの帰り、廊下を進む途中でまたも三郎次が姿を現した。
六人目の三郎次は背格好もそれなりに似ており、声も似せている。
そういえば四年生の中で音声忍を志したいと話していた奴がいた。この三郎次の中身は恐らくそいつだろう。
「良かった。こちらに居られたんですね」
「どうかしたのか」
「いや、なんか四年生が変装の実習授業中らしくて。さっき俺の所にも何人か来ていて」
ほう、そう来たか。
自ら犠牲者を演じる手段。と言うことは、既に正体を見破られた四年生間での連絡が行き届いている。仲間同士の連携は見事なものだが、まだまだだな。
「もしかしたら俺の顔で何かやらかしていったんじゃないかと」
「ああ、その事なら心配ない。私が見抜けない訳がないだろう?」
「そうですね」
私が普段通り口角を上げて笑って見せれば、どこか強張った表情を見せる池田三郎次。
今までの生徒もそうだが、全体的に余裕が少ない。ちょっとした揺さぶりに動揺を見せる。
「ああ、そうだ。三郎次、お前には言っておかなければならないことがある」
「なんでしょう」
「最近、体調が芳しくない」
刹那、その面が曇る。
「身体が重怠く、不意の目眩も増えた。悪心もする。それで、そのことを伊作に相談したのだが」
深みを持たせ、思わせぶりに語る。
眼前で私の話を聞いていた人物は目を満月のように丸くし、口を半開きにさせたまま数秒固まった。
その後、私の両手を取り上下にぶんぶんと振り出す。実に喜ばしい、めでたいといった風に笑顔を輝かせていた。
「御目出度う御座います……! ああ、本当に慶ばしい。きっと池田先生似の可愛いややが生まれてきますよ。本当に嬉しい……あっ、お身体は冷やさぬように。それと無理な力仕事や体勢はせず」
息を吐く間もなくそこまで話すも、はたと動きを止めた。その様はゼンマイが切れたからくり人形の如く。
自ら化けの皮を脱いだ四年生忍たまは熟れた柿の様に顔を紅潮させる。
話術に引っかかったのがあまりにも可笑しく、私は吹き出して笑いだしてしまった。
「……最初から見抜いてましたね?」
「まあな。それにしてもぼろが出すぎだぞ」
「うっ……。あの、先程の話は」
「嘘だよ。どこも不調はない」
「では、医務室に寄られていたのは」
「新野先生に薬草の群生地調査を頼まれていたんだ。その報告に寄っただけだよ」
「そうでしたか。……お怪我もなく、体調も芳しいようで安心しました」
そう言って四年生の忍たまは安堵の溜息を吐いた。
体調不良、伊作への話、そして医務室に寄った私を都合よく見掛けたので嘘に箔が付いたのだろうな。
「声は三郎次に似ていた。まあ、もう少し低めだな。音声忍を目指しているのだろう? 頑張りなさい」
「はいっ!」
顔を輝かせて笑う仕草。そこには本人らしいものが滲み出ていた。
あどけなさが残るその顔が少し懐かしい。素直で可愛かった三郎次を思わせる。
その後幾つか会話を交わし、恭しく一礼をして去っていく背を見送った。
さて。あと何人の三郎次が来るやら。
◇
今日はやたらと霧華さんに変装した忍たまが何人も絡みに来る。
雑談で装ったり、火薬の知識をひけらかしてきたり。色を仕掛けてきた奴もいた。
敢えて問い詰める様な真似はしていないが、俺に正体を暴かれた忍たまたちは全員尻尾を巻いて逃げていった。
これは実習授業とみた。
標的は恐らくこの自分と霧華さんだろう。四年生は現在十二人。どの割合で振ったかは知らないけど、さっきので四人目だ。まさかとは思うが、全員俺を騙そうと来るんじゃないだろうな。
甘く見られたもんだな。これが授業じゃなければ懲らしめてやるのに。
見飽きるはずがない顔だというのに、今だけは言わせてほしい。見飽きてきた。
あの人がするはずのない表情とか仕草、言葉の選び方とか。いい加減にしろと叫びたくなる。
早く本物と合流したいとこだけど、授業の一環ならそうもいかない。特別講師として招かれてる以上は協力しないと。土井先生の顔に泥を塗ってしまう。
一先ず食堂に顔を出そうと向かった矢先にまた同じ顔と出くわした。
食堂に続く廊下で霧華さんと一緒に居るのは久々知さんだ。
俺に気づいた霧華さんらしき人が視線をこちらに向け、久々知さんがにこっと不自然な笑みを浮かべた。
怪しすぎる。
この二人が揃っているのは自然なことだ。それは認めよう。最近は霧華さんも久々知さんと話をしによく食堂に顔を出しているから。だから不自然ではない。
が、裏を読めば訝しい点が幾つも沸いて出てくる。
一つ、気配がそもそも違う。
二つ、凛とした雰囲気がない。
三つ、仕草が全く持ってなっていない。
四つ、久々知さんの樣子が明らかにおかしい。
これ以上は挙げるときりがないので割愛する。
具体的に久々知さんの樣子がどう変かというと、愛想笑いが過ぎる。
ぎこちなく「どうしたのー池田くん?」と話しかけてくるのだ。手足を同時に出して歩きそうなほど。
二人の態度、発言の何から何まで「私は何か嘘をついています」という等式が成り立つ。
いい加減疲れてきた。
俺はわざと相手方に聞こえる様な溜息をついてみせる。刹那、偽物の表情に焦りが僅かに浮かんだ。
この程度の圧で揺さぶられるようじゃ鉢屋先生の課題は合格できないぞ。
俺は何も気づいていないフリをして、二人に笑い掛けた。
「お疲れ様です久々知さん、霧華さん」
「お疲れサマー」
「先生方への報告は済ませたのか」
「ええ、もうとっくに。直ぐ合流しようと思っていたんですけど、今日はやけに横槍が多すぎて」
わざとらしくそう言いながら俺は相手の顔色を窺う。ぴくりと瞼が痙攣した。その目と視線がかち合えば、非常に気まずそうに、それが下方へ向く。
ここでさっき仕入れた情報を使って更に揺さぶりをかけることにした。
「そういえば、聞きましたよ久々知さん」
「え、何?」
「先日、利吉さんが来られた時に手を仲睦まじく取り合っていたそうじゃあないですか」
多少の脚色はあるけれど、これは事実でもある。俺がニヤニヤと笑えば焦るのは本人ではなく、隣にいる忍たまのみ。
因みに久々知さんはケロッとしていた。こういった類の煽りはこの人に効かないんだよな。そもそも気づかないんだ。鈍いから。
「久々知先輩にバレたら大変なんじゃないですか?」
そしてとどめの一言。
これが効いたのも当人の久々知さんではなく、脇にいる忍たまだ。サッと顔を青ざめるその様はちょっと新鮮かもしれないが、あの人はそんな風に驚かない。
久々知さんは「え、それいつの話?」と慌てた様子一つなく、呑気にいつの話かと思い出そうとしている。
代わりにわなわなと口を開いたのは口調も態度も素に戻っていた忍たまだった。
「ちょ……今の話は聞かなかったことに」
「どうしてだ」
「どうしてって、久々知先生に知られたら何が起きるか……!」
「間違いなく睨み合い、いや合戦になるかもな」
「マジで食堂が合戦場になってしまう! それだけは避けてください、久々知さん! 僕も黙っていますから!」
そう忍たまに懇願された久々知さんは未だに「なんで?」という表情。なんかその惚け方、久々知先輩に似てきた気がする。
「だって、あの時手を拭いてもらってただけだよ? 転んで手のひらが泥だらけになっちゃったから」
「……手を拭いてもらってた、だけ?」
「うん」
「久々知さん。転んで手を泥だらけにするとか子どもじゃあるまいし」
「久々に綺麗な前のめりで転んだんだもの」
「じゃあ、別に手を仲睦まじく取り合っていたわけじゃ……?」
「手拭いで拭いてもらっただけだよ」
真相を聞いた忍たまの強張っていた表情から力が抜ける。これ、だいぶ久々知先輩にやられてるんだな。
いや、それよりもだ。
俺はすっかり気が抜けて素に戻ってしまった忍たまをひと睨みする。
「お前、変装する気があるのか」
「あっ」
◇
食堂の一角がまるでお通夜状態だった。
十一人の四年生が卓を挟んで座り込み、俯いている。
因みに彼らは変装をまだ解いていない。
そして配膳口側に立つ特別講師の皆さん。
左から順に鉢屋くん、不破くん。そして今回の被害者である霧華さんと池田くん。この二人は腕組みの仁王立ち。顔はニコニコと笑っているけど、逆になんかコワイ雰囲気が。
「まさか追試対象者全員が見破られるとはなぁ。こりゃあ池田先生方に一本取られたな」
「笑い事じゃないだろ三郎」
「そうですよ鉢屋先輩。巻き込まれた方の身にもなってください。そもそもお粗末過ぎるんですよ。言葉遣い、仕草、表情全部がまるでなってない」
ぐさ、ぐさ、ぐさと池田くんの放った見えない矢が四年生たちに刺さった。
この二人を騙そうって言うのもかなり難しいんじゃないかなぁと私も思っていたけど。
「まあ、精度が高い生徒もいたぞ」
霧華さんがそう言いながら目線を一人の忍たまに向ける。目が合ったその子はちょっと嬉しそうな顔をしていた。
「久々知さんの協力も得たっていうのに一瞬でバレた奴もいたしなぁ」
「私も直ぐバレると思うよーって言ったんだけどね」
この二人がお互いを見間違うことないと思うから。
何故か池田くんの視線が私の方に向いた。何かすごく言いたそう。私の演技、そこそこだったと思うんだけどね。
ここでがたりと勢いよく立ち上がった一人。池田くんの変装をした子が鉢屋くんに物申すと言わんばかりに目を見開く。
「昨日の今日なんですよ? 追試課題やるって聞いたのは。準備も何も出来やしないじゃないですか」
「そうだそうだ!」
ブーイングが束の間沸き起こる。
顔が二人の顔だからちょっと不思議な光景だ。
「よく見たらすごい光景だよねこれ。ほんとコスプレ大会」
「実習授業じゃなきゃ一人ずつその面割ってやってますよ」
「ウワァー! 池田先生の手刀痛いから嫌だぁぁ!」
「当たり前だ。武術の基本だからな。今から順にやってやろうか?」
「ぎゃああー!」
「こらこら、みんな食堂で騒いじゃ駄目だよ。食堂のおばちゃんと久々知さんに迷惑がかかってしまうから」
右手をすっと構える池田くんは笑ってるけど、額に青筋が浮かんでいた。
まあまあと場を鎮めようとしたのは不破くんで、意外なことに霧華さんは黙っていてむしろ「やってしまえ」というそれはいい笑顔。
「先輩も黙ってないで止めてくださいよ!」
「いや、止める必要もないと思った。まあ、それは冗談として。忍者はいつ何時でも応じなければならない。潜入先の下調べ等は勿論入念に行うことに越したことはない。だが、急を要する場合も多いことを覚えておいてほしい」
みんなの顔を一人ずつ、しっかりと見ながら霧華さんが語りかける。その表情は真剣でいて、どこか愁いも含まれているような気がほんのりとした。
「お前たちの学年から実技も厳しくなる。合戦場や出城に忍び込む実践も増えていく。臨機応変に対応できる力を、生き抜く術を身に着けてくれ」
霧華さんの言葉が静かに響いた。
四年生のみんなは思うことが何かあるんたろう。それぞれ神妙な面持ちで話を受け止めているようだった。
「そういうわけで、私たちからは以上だ。鉢屋、お前に教鞭を返すぞ」
「いや〜私の出る幕がないと思って黙っていましたよ。流石、六年間忍たまとして過ごされた先輩のお言葉だ」
ぱちばちと鉢屋くんの乾いた拍手に送られながら霧華さんが空いている席に腰を下ろした。その隣に池田くんも続く。
ここで本来の講師がわざとらしく咳払いを一つ。
「では、お二人に改めて意見を窺うとしようか。何がいけなかったのかしっかり、詳しく聞いておくように」
「はい! お二人はそもそも僕たちが姿を見せただけで気づかれていたようですが」
「瞬時に見抜けるものなんですか?」
真っ先に手を上げたのは私に協力を仰いだ子だ。側で見ていたけど、確かに池田くんの目は瞬時に偽物だと見抜いてた気がする。
彼らの質問に霧華さんたちは顔を見合わせ、ほぼ同時にこう答えた。
「そもそも気配が違う」
「ほら、やっぱりそんな感じでわかるんだよ。前に私もなんとなくでわかるって言ったじゃない?」
「不二子さん。貴女が言うと皆納得いかない顔をするんですよ。ほら」
私が彼らの方を振り返ると「納得いかねぇ」と言った風に顔を歪ませた。なんで。同じようなものじゃないの。
「先生お二人は忍者だけど、御内儀は一般人じゃないですか!」
「甘いぞお前たち。確かに久々知さんは平々凡々な一般人だが、それを補えるほどの力がある。それは、愛だ! しかも兵助だけに発動する力! 愛は兵助を救う!」
「ごめん三郎。ちょっと言ってる意味がわからない」
拳を握り熱弁する鉢屋くんに冷静なツッコミを入れた不破くんに同意しかない。
兵助くんしか救わない愛って、むしろそれは豆腐なんじゃ。兵助くんは豆腐と相思相愛だから。あれ、それだと豆腐にも意志が宿っていることに。
「まあ、とにかく。感覚というか、好きな人のことだからわかるってこと。普段お互いに見てないとわからない、本当にちょっとした癖とか言葉の使い方とか」
「久々知さんの言う事には一理ありますよ。俺も一瞬の仕草や表情で気づいたので」
(伊達に四年間追い続けてないよな、池田先生)
(さっき池田先生、夫はもっと男前だって惚気てた)
(……先生方も爆発してほしい)
(元火薬委員なだけに)
(誰うま)
(久々知先生方もだけどさ、池田先生方ってケンカすんのかな)
急に静かになったかと思えば、池田くんがじろりと数人を睨みつけた。
「矢羽音聞こえてるぞ」
「すっすみません」
「うーん。それにしても、だ。ここまで惨敗だと私も悔しい。変装の特別講師として」
両腕を組んで、ぐぬぬと唸る鉢屋くん。眉間にはこれでもかというほどシワが寄ってる。不破くんの面外れないのかなあれ。そこも考慮して変装してるのかな。不破くんはいつも悩みすぎるとあんな顔をしているから。
と、ここで鉢屋くんの頭上に閃きの電球がパッと浮かび上がり、手をぽんと打った。
「そうだ! 次回は全員で兵助の顔に変装して久々知さんの前に並ぶとしよう!」
「ええ……まだやるの?」
「このままでは変装の名人と謳われた私の気が収まらない」
「三郎の本音が出ちゃったよ」
「よーし。みんな、次回までに兵助の顔を磨いておくように! こんな風にな」
言うが早いか鉢屋くんが顔に手を翳した次の瞬間、兵助くんの姿に変わっていた。
おおーっと歓声が四年生のみんなから沸き起こる。
「顔を磨くって……三郎、お前なぁ」
「雷蔵もしっかり磨いておけよ」
「僕もやるのかい⁉」
「当然だ。我々の方が学友として兵助と共に過ごした時間は長い! 負けてられんぞ」
食堂の一角がお通夜状態から急にわいわいと盛り上がり始めた。気持ちの切り替えは大事だけど、ちょっと内容があれ。
特別講師と四年生たちを他所に霧華さんと池田くんは素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。
「どう思います、霧華さん」
「まあ、無駄な足掻きだとは思う。不二子さんの勘は鋭いからな」
そうこうしてるうちに、食堂に同じ顔がずらりと並んだ。私と霧華さんと池田くんを除き、総勢十三人の兵助くんがいる。ちょっと流石にこれ、怖くない?
「……な、なんだこれ」
そこへ運悪くも兵助くん御本人が食堂に入ってきた。そして間もなくこの光景を見て絶句。ここまでいるともうドッペルゲンガーどこじゃない。
「お前ら……俺の顔で遊ぶんじゃなーい!」
兵助くんが顔を引き攣らせた後、外まで聞こえそうな声量で叫んだものだから何事かと野次馬が集まってきたのは言うまでもない。