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秋のお茶会~ある喫茶店 in バンガード~
バンガード市内は暖かい陽気に包まれていた。
昼間は上着が要らない日もあるが、朝と晩はぐっと冷え込む。この寒暖差によって山が彩り始めるのだ。
「鮮やかな赤や黄色、橙色に染まった木々は美しいものだ」そう話した朱鳥術士は最後にこう付け加えた「特に赤のコントラストが良い」と。
日本の暦で言えば秋と呼べる季節。
この世界でも同等の季節に値するのか、店舗に並ぶ品々も秋を思わせる。オレンジ色の小さな花、栗や芋を使用したデザート。紅葉と小鳥をうまくあしらった練りきり。これは東の国から取り寄せた菓子だそうだ。
モンブランにするか、スイートポテトのチーズケーキか。はたまた採れたてリンゴをふんだんに使ったアップルパイか。
霧華とフィリアは頭を並べ、ショーケースの中を覗き込む。どのスイーツを紅茶のお供にするか五分ほど悩んでいた。
その様子をボルカノが少し離れた場所で見守る。
「マスカットのタルトも美味しそうですね」
「美味しそう~! フィリアさん、こっちは新作みたいですよ。あっ、カボチャのプリンも美味しそう」
甘い物に目がないとはまさに彼女たちのこと。気兼ねなく対話をする二人にボルカノも頬を僅かに緩めた。
「フィリアさんとまた友達になりたい」と言っていた霧華の願いがこうして叶えられたのだ。以前この世界に訪れた際、菓子を通じて交友を深めたと聞いた。よもや"自分たち"もかと問えば「それはないですね」ときっぱり返されてしまった。それはそうだ。自分同士とはいえ、少し話をしただけで馬が合わないと感じた。彼女たちの様に肩を並べ仲睦まじく、などとは程遠い夢話のようなもの。
「オレは席を取る。ゆっくり選ぶといい」
ボルカノは二人にそう声を掛け、テラス席の方に向かった。
◇
「今日は秋晴れで良かったですね。お外出るなら天気良い方がいいし」
「こうしてテラスでお茶とケーキを食べるなら尚更ですね」
「よそカノさんも来れば良かったのに」
「彼奴はどう声を掛けようがこまい」
この時期に咲く花をブレンドした紅茶を嗜む。「悪くないブレンドティーだ」とボルカノはカップをソーサーに戻した。
瓜二つまでとはいかないが、似た所作をするボルカノに翠色の瞳をフィリアは向けた。
「そちらのボルカノさんは何故?」
「街中とはいえ、いつ魔獣が侵入するかわからん。武器はおろか、対抗する術を持たない霧華を歩かせるには危険だ」
「……過保護だと思いません?」
「そうですね」
「何か言ったか」
「いえ、何も。フィリアさん、スイートポテトのチーズケーキ美味しいですか?」
「最高です」
チーズケーキを土台とし、その上にサツマイモのペーストがたっぷりと塗られている。サツマイモの甘みが濃厚で大変美味しい。舌鼓が打てるとフィリアもご満悦な様子。
「マスカットのタルトはどうですか?」
「美味しいです! 美味しすぎてほっぺたが落ちそうなくらい」
「良かった。私もここの喫茶店で販売されるケーキ、気になってたんです。誘ってくれてありがとうございます霧華さん」
「こちらこそ来てくれてありがとうございます。フィリアさんとお茶ができて嬉しいです」
フィリアはニコニコと笑う彼女の横にちらりと視線を向けた。特段「オレは無視か」などと声を上げるような様子も見せず、紅い紳士はただ静かに紅茶を飲む。
「このお店、ダリアスさんが教えてくれたんですよ。美味しいケーキを食べられる店ができたって。自分も行きたいけど中々行く暇がないって嘆いてました」
「クラヴィスのリーダーは色々やる事が多いみたいですもんね。クラヴィス内だけじゃなく、市政にも協力を仰がれているし。でも、意外です。甘いものお好きなんですね」
ダリアスの実家は商家だとフィリアも耳にしていた。情報収集に手を抜かないのは想像がつくも、そのケーキを食べたいと言うことに意外性をつかれたのだ。
「んー……それよりは、あの子と一緒に行きたいんじゃないのかなぁ。そうだ、お土産に買っていこうかな。こんなに美味しいケーキだし、お店の情報をくれたお礼にも」
霧華が話した「あの子」とは誰のことなのか。フィリアが訊くよりも早く、霧華はテーブルに設置されたメニュー表に手を伸ばした。まぁ、大体の予想はついている。温かいダージリンティーを一口含んだ。
「いいですね。私もボルカノさんに買っていこうかな」
「よそカノさん、他人が作ったものって敬遠しがちなんじゃ」
「食べなかったら私の胃袋に収まるだけなので。どれにしようかな……マスカットのタルトは私の分で、モンブランも。ボルカノさんにはかぼちゃのプリンと真っ赤なリンゴの形をしたケーキ」
「それ喜びそうですね。赤いから」
ツヤツヤのコーティングを施したリンゴの形をしたケーキ。これは赤いから喜ぶだろうとふたりは笑いながら頷いた。
和気藹々とした空気。何故か居心地が良いと感じる。
まるで昔からの知り合いのような気さえした。
その理由はやはり「以前にもこの世界で邂逅を果たした」からであろう。ボルカノ自身にその記憶はないが、霧華が持ち合わせていた。「リズちゃんの娘を甘やかしていた」「死食を迎えた世界を救う為に協力的だった」「ウンディーネさんとは犬猿の仲のままでした」など。数々の耳が痛くなる話も聞いた。
それら全てをボルカノは信じた。彼女が話すことは信じると決めたのだ。あの日以来から。
秋風にふわりと運ばれてきた甘い香り。風の精霊たちが囁く楽しげな声も聞こえる。
お土産のケーキを選ぶふたりにボルカノは静かに目を細めた。
バンガード市内は暖かい陽気に包まれていた。
昼間は上着が要らない日もあるが、朝と晩はぐっと冷え込む。この寒暖差によって山が彩り始めるのだ。
「鮮やかな赤や黄色、橙色に染まった木々は美しいものだ」そう話した朱鳥術士は最後にこう付け加えた「特に赤のコントラストが良い」と。
日本の暦で言えば秋と呼べる季節。
この世界でも同等の季節に値するのか、店舗に並ぶ品々も秋を思わせる。オレンジ色の小さな花、栗や芋を使用したデザート。紅葉と小鳥をうまくあしらった練りきり。これは東の国から取り寄せた菓子だそうだ。
モンブランにするか、スイートポテトのチーズケーキか。はたまた採れたてリンゴをふんだんに使ったアップルパイか。
霧華とフィリアは頭を並べ、ショーケースの中を覗き込む。どのスイーツを紅茶のお供にするか五分ほど悩んでいた。
その様子をボルカノが少し離れた場所で見守る。
「マスカットのタルトも美味しそうですね」
「美味しそう~! フィリアさん、こっちは新作みたいですよ。あっ、カボチャのプリンも美味しそう」
甘い物に目がないとはまさに彼女たちのこと。気兼ねなく対話をする二人にボルカノも頬を僅かに緩めた。
「フィリアさんとまた友達になりたい」と言っていた霧華の願いがこうして叶えられたのだ。以前この世界に訪れた際、菓子を通じて交友を深めたと聞いた。よもや"自分たち"もかと問えば「それはないですね」ときっぱり返されてしまった。それはそうだ。自分同士とはいえ、少し話をしただけで馬が合わないと感じた。彼女たちの様に肩を並べ仲睦まじく、などとは程遠い夢話のようなもの。
「オレは席を取る。ゆっくり選ぶといい」
ボルカノは二人にそう声を掛け、テラス席の方に向かった。
◇
「今日は秋晴れで良かったですね。お外出るなら天気良い方がいいし」
「こうしてテラスでお茶とケーキを食べるなら尚更ですね」
「よそカノさんも来れば良かったのに」
「彼奴はどう声を掛けようがこまい」
この時期に咲く花をブレンドした紅茶を嗜む。「悪くないブレンドティーだ」とボルカノはカップをソーサーに戻した。
瓜二つまでとはいかないが、似た所作をするボルカノに翠色の瞳をフィリアは向けた。
「そちらのボルカノさんは何故?」
「街中とはいえ、いつ魔獣が侵入するかわからん。武器はおろか、対抗する術を持たない霧華を歩かせるには危険だ」
「……過保護だと思いません?」
「そうですね」
「何か言ったか」
「いえ、何も。フィリアさん、スイートポテトのチーズケーキ美味しいですか?」
「最高です」
チーズケーキを土台とし、その上にサツマイモのペーストがたっぷりと塗られている。サツマイモの甘みが濃厚で大変美味しい。舌鼓が打てるとフィリアもご満悦な様子。
「マスカットのタルトはどうですか?」
「美味しいです! 美味しすぎてほっぺたが落ちそうなくらい」
「良かった。私もここの喫茶店で販売されるケーキ、気になってたんです。誘ってくれてありがとうございます霧華さん」
「こちらこそ来てくれてありがとうございます。フィリアさんとお茶ができて嬉しいです」
フィリアはニコニコと笑う彼女の横にちらりと視線を向けた。特段「オレは無視か」などと声を上げるような様子も見せず、紅い紳士はただ静かに紅茶を飲む。
「このお店、ダリアスさんが教えてくれたんですよ。美味しいケーキを食べられる店ができたって。自分も行きたいけど中々行く暇がないって嘆いてました」
「クラヴィスのリーダーは色々やる事が多いみたいですもんね。クラヴィス内だけじゃなく、市政にも協力を仰がれているし。でも、意外です。甘いものお好きなんですね」
ダリアスの実家は商家だとフィリアも耳にしていた。情報収集に手を抜かないのは想像がつくも、そのケーキを食べたいと言うことに意外性をつかれたのだ。
「んー……それよりは、あの子と一緒に行きたいんじゃないのかなぁ。そうだ、お土産に買っていこうかな。こんなに美味しいケーキだし、お店の情報をくれたお礼にも」
霧華が話した「あの子」とは誰のことなのか。フィリアが訊くよりも早く、霧華はテーブルに設置されたメニュー表に手を伸ばした。まぁ、大体の予想はついている。温かいダージリンティーを一口含んだ。
「いいですね。私もボルカノさんに買っていこうかな」
「よそカノさん、他人が作ったものって敬遠しがちなんじゃ」
「食べなかったら私の胃袋に収まるだけなので。どれにしようかな……マスカットのタルトは私の分で、モンブランも。ボルカノさんにはかぼちゃのプリンと真っ赤なリンゴの形をしたケーキ」
「それ喜びそうですね。赤いから」
ツヤツヤのコーティングを施したリンゴの形をしたケーキ。これは赤いから喜ぶだろうとふたりは笑いながら頷いた。
和気藹々とした空気。何故か居心地が良いと感じる。
まるで昔からの知り合いのような気さえした。
その理由はやはり「以前にもこの世界で邂逅を果たした」からであろう。ボルカノ自身にその記憶はないが、霧華が持ち合わせていた。「リズちゃんの娘を甘やかしていた」「死食を迎えた世界を救う為に協力的だった」「ウンディーネさんとは犬猿の仲のままでした」など。数々の耳が痛くなる話も聞いた。
それら全てをボルカノは信じた。彼女が話すことは信じると決めたのだ。あの日以来から。
秋風にふわりと運ばれてきた甘い香り。風の精霊たちが囁く楽しげな声も聞こえる。
お土産のケーキを選ぶふたりにボルカノは静かに目を細めた。