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ペンコレ
「フィリアさん!」
霧華はクラヴィス本部の受付にいた女性を見つけると、駆け寄りながら声を掛けた。鮮やかなアザレア色の髪を翻し、自身の方へ振り向いた彼女に満面の笑みを浮かべる。
「こんにちは。霧華さんもいらしてたんですね」
「はい。バンガードに用があって、ボルカノさんと一緒に。フィリアさんはクラヴィスの依頼ですか?」
フィリアの手には金一封が入った封筒。かなりの厚みがある。
彼女はクラヴィスからの依頼を度々受けていた。依頼内容は魔獣退治を始めとして荷物運び、資材や材料の調達など。多岐に渡る依頼をこなす。「クラヴィスに所属した方が効率が良いのに」とも思うだろう。だが、フィリアは組織に所属するのを嫌う。その理由を憶えていた霧華は何も言わず、こうして時たま会える事を喜んでいた。
フィリアは小さく頷いてみせた。
「さっき終わらせてきたばかりです」
「お疲れ様です。いつもありがとうございます」
「どうして霧華さんがお礼を……?」
「だってバンガード周辺の魔獣退治をしてくれてるってことは、私達が安心して町に立ち寄れるってことじゃないですか。だから、ありがとうございます」
「……いえ、仕事ですから」
感謝の気持ちを向けられたフィリアはすっと視線を逸らした。どことなくバツが悪い、そんな様子でいる。報酬を得る為に当然の事をしているだけ。それだけだというのに、別方面から感謝を述べられて素直に受け止められずにいた。
戸惑いにも似た表情を浮かべるフィリアに対し、霧華は眉を下げる。
「すみません。なんていうか……癖なんです。えーと、人に感謝することが」
「霧華さんが謝る事じゃないです。……私の方こそ」
「霧華。あまり先に行くなと言っているだろう」
二人の会話を遮る真紅。目を向けた先ではボルカノが入口を背にして立っていた。
「ボルカノさん。すみません、フィリアさんの後ろ姿見つけたからつい」
「双方に注意を払う身にもなってくれ。君までこのペンギンの様に突然走り去られては……」
ボルカノはそう言い切ろうとして、右傍らにいる筈の小さな生物の姿がないことに気がついた。先程までは確かにいた。そのペンギンがいない。ボルカノはバッと辺りを見渡す。
「ぴゃあー」
可愛らしい鳥の様な鳴き声が聞こえた。
窓際にボルカノが探しているペンギンの姿が見える。彼の頭を撫でる人の姿も。
頭を撫でている人物はこの調査機関のリーダーであるダリアスであった。
「よしよし。よく来たな。元気にしてたか?」
「ぴぃ! ぴゃーあ。ぴぃー」
「ははっ。そいつは残念だったなぁ。後で市場に行ってこいよ。美味い魚があるぞ」
「ぴゃあ!」
ダリアスはぺんちゃんの頭をぽんぽんと優しく撫でる。その眼差しは柔らかく、口元も緩やかに弧を描いた。
彼らは互いの言語にまるで隔たりがない様に、会話を楽しんでいる。ダリアスはモンスター種のキャンディとも意思疎通が出来るので、似たような感覚で話を掴んでいるのかもしれない。
「ダリアスさん、こんにちは。お久し振りです!」
「よう。二人とも元気そうだな。それにフィリアも一緒か。そうだ、依頼があって……」
「バンガード周辺の魔獣退治の件ですか? それなら先程済ませてきました。暫くは魔獣も寄り付かないと思います」
「早いな。昨日募集掛けたばかりなのに。助かるよ。何せ猫の手も借りたいぐらい人手が足りてないからなぁ」
街周辺の治安維持、昏睡事件と扉世界の調査。クラヴィス所属メンバーだけでは人員が足りず、外部に住む戦士たちに協力を仰ぐことも。先のフィリアの様にだ。
「……こら。縦横無尽に走り回るなと言ってるだろう」
ぺんちゃんはダリアスやボルカノの周りをちょこまかと歩き回っていた。彼は何にでも興味を示す性格で、受付の花瓶を首をにゅっと伸ばして眺めたり、ロビーを行き来する人を目で一生懸命に追いかけたりする。そして突然走り出したかと思えば、ぴたりと立ち止まった。そこで両翼のフリッパーをパタパタとさせ、首をぶるぶると震わせた。
今はダリアスの元へ戻ってきてコートの裾を嘴で摘もうと躍起になっている。
「ああ、ぺんちゃん駄目だよ。ダリアスさんのコートが」
「気にしなくていいさ。遊びたい盛りなんだろ。そうだ、丁度良い。見せたいものがあるんだが、今から応接間の方に来てくれないか」
「いいですよ。ね、ボルカノさん」
「時間を要しないのであれば構わない」
「よし。フィリアも一緒にどうだ?」
「私もですか」
自分にも声を掛けてきたことに驚いたフィリアは不思議そうに訊ね返した。
「面白いものが見られるぜ」
そう言うとダリアスは口の端を上げて笑ってみせた。
◇
乾いた風が吹き荒ぶ荒野。夕陽に照らされた大地。口笛が聞こえるこの土地に一匹のペンギンが佇んでいた。
彼は相棒のピースメイカーを胴体に携え、砂塵色のポンチョをなで肩に羽織り、丸い頭にはカウボーイハットをちょんと被る。
彼――ペンダウン・キッドは稲妻のように今日も荒野を駆け抜ける。
「……」
「自由奔放な彼の前に待ち受けていたのは、一人の男。朱鳥術士ボルカノ、彼は荒野を流離うペンダウン・キッドの前に立ちはだかる。今ここで二人の視線がぶつかり合った。両者ともに睨み合いが続き、一歩も譲らない……一触即発となってしまうのか」
「妙な寸劇を仕立て上げるんじゃない」
ボルカノを見上げるぺんちゃんはフリッパーをご機嫌な様子でパタパタと上下させた。衣装が気に入っているのだろうか。
応接間に案内されたボルカノ達。彼らはそこでありとあらゆる衣装を目にした。西部劇の保安官、サボテン、魔法使い、コウモリなど。多種に渡る衣装もとい着ぐるみが用意されていた。ずらりと並ぶそれらに目を輝かせたのは霧華であり、次から次へとぺんちゃんに着せ替えていくのであった。
「西部劇と言えばのアテレコをしてみました。それにしても、ぺんちゃん何を着せても似合ってカワイイ~! ね、フィリアさん」
「え? は、はい」
「フィリアさんはどれが可愛かったですか?」
「えっと」
カウボーイ姿で短い脚を動かし、もてもてと歩き回るぺんちゃんを目で追っていたフィリア。脇から急に声を掛けられ、ぴくりと肩を震わせた。それから衣装が置かれたテーブルの上を見る。そこには先程まで試着されていた着ぐるみがあった。人間の衣装や動物を模ったものが多いのだが、稀に異彩を放つものも紛れている。それらの中でフィリアはオレンジ色のふっくらとした着ぐるみに目を留めた。
「かぼちゃの衣装可愛かったです。ヘタの帽子を頭に被っていて」
「うんうん、可愛かったですよね!」
「もてはやすのは構わんが、その格好で町中を歩けば注目される」
外出は控えるように。そう続けたボルカノの表情は渋い。
確かに誰もが振り向いて注視する格好には違いない。しかし、衣装の試着を提案したダリアスはどうやらそれが目的のようで。
ダリアスは側に寄ってきたぺんちゃんのカウボーイハットをそっと頭から取り、テーブルの上に置く。代わりに鮮やかな黄緑色の着ぐるみを手にした。
「クラヴィスのマスコットキャラクターにと思ってたんだけどなぁ」
「ダリアスさん、キャンディというマスコットキャラが既にいるじゃないですか」
「マスコットというよりもうちの大事な戦闘力だよ。もうちょっと可愛い系の方がキャラ的に売れるんじゃないかと思って」
「それを言うならばこのペンギンも朱鳥術を扱う上に火も噴く。それに体当たりをどこかのモンスターに感化されて覚えたようだが」
ぺんちゃんは誰とでも打ち解ける処世術を心得ている。この世界に集まったモンスターと直ぐに仲良くなり、技を見様見真似で覚えていく。それで先程のボルカノの嫌みだ。自己を鍛えることに異義はないが、スキンシップにそれが現れる。悪気なく体当たりを、しかも何の前触れもなくかましてくる。当人は遊んでほしい、構ってほしいアピールかもしれないが、ボルカノにとっては調合や細工の最中に背中をドンっとされてはたまったものではないのだ。
現にボルカノは背後にその気配を感じ、ぱっと振り向いた。
ボルカノの前にサボテンが立ちはだかっていた。鮮やかな黄緑色のボディ。鋭い幾つもの棘を生やし、頂点には真っ赤な花を一輪咲かせている。そのサボテンから黄色い嘴が飛びでていた。
ボルカノは一度びくりと驚きはしたが、それがぺんちゃんによる仮装だと分かると途端に怪訝そうに顔を顰めた。
「カウボーイとサボテン、どっちがいいかな」
「コアな層を狙わないならカウボーイが無難じゃないですかね」
「俺はサボテンの方に賭けてみたい気もする。意外性がウケるかもしれないだろ」
サボテンを被ったぺんちゃんは首をぐいっと伸ばし、フリッパーをパタパタパタと羽ばたかせる。この格好も気に入ったのか、サボテン姿のまま室内を走り回りだした。
それを微笑ましく見守るフィリアと霧華。ダリアスは「荒野を走るサボテンとカウボーイってのいいかもな」と顎を擦りながらぺんちゃんを目で追っていた。
ふと、ぺんちゃんは何かを察したのか室内に通じるドアの前でぴたりと足を止める。間もなくしてそのドアが開かれた。
「失礼する。こちらにフィリアが……?!」
新たな来客はすぐ目の前にいたぺんちゃんを見てびくりと肩を震わせた。奇妙奇天烈な黄緑色の生命体。もう一人のボルカノの目にはそう映っていたようだ。
「新種の魔獣か……!」
「針千本打ってきそうですよね」
「うわ……名前だけで痛そう」
「落ち着いてよく見るといい。皮はサボテンだが、中身はお前もよく知るペンギンだ」
「ぴゃーあ。ぴゃあー」
棘が生えた黄緑色の腕をぱたつかせた後、ぺんちゃんはボルカノの脇をすっと抜ける。そのまま廊下を駆け抜けていってしまった。
これにはボルカノ両者も驚きを隠せず、ほぼ同時に「待て!」と叫んでいた。
部屋を抜け出したぺんちゃんは風の様に廊下を駆け抜け、クラヴィスの受付を通り過ぎ、外へと飛び出した。街を歩く人々が見かけたぺんちゃんに対して「奇妙な生命体がいる」「教授の新しいペットか」と様々な噂が。
暫くの間、バンガードでそれが話題になったという。
「フィリアさん!」
霧華はクラヴィス本部の受付にいた女性を見つけると、駆け寄りながら声を掛けた。鮮やかなアザレア色の髪を翻し、自身の方へ振り向いた彼女に満面の笑みを浮かべる。
「こんにちは。霧華さんもいらしてたんですね」
「はい。バンガードに用があって、ボルカノさんと一緒に。フィリアさんはクラヴィスの依頼ですか?」
フィリアの手には金一封が入った封筒。かなりの厚みがある。
彼女はクラヴィスからの依頼を度々受けていた。依頼内容は魔獣退治を始めとして荷物運び、資材や材料の調達など。多岐に渡る依頼をこなす。「クラヴィスに所属した方が効率が良いのに」とも思うだろう。だが、フィリアは組織に所属するのを嫌う。その理由を憶えていた霧華は何も言わず、こうして時たま会える事を喜んでいた。
フィリアは小さく頷いてみせた。
「さっき終わらせてきたばかりです」
「お疲れ様です。いつもありがとうございます」
「どうして霧華さんがお礼を……?」
「だってバンガード周辺の魔獣退治をしてくれてるってことは、私達が安心して町に立ち寄れるってことじゃないですか。だから、ありがとうございます」
「……いえ、仕事ですから」
感謝の気持ちを向けられたフィリアはすっと視線を逸らした。どことなくバツが悪い、そんな様子でいる。報酬を得る為に当然の事をしているだけ。それだけだというのに、別方面から感謝を述べられて素直に受け止められずにいた。
戸惑いにも似た表情を浮かべるフィリアに対し、霧華は眉を下げる。
「すみません。なんていうか……癖なんです。えーと、人に感謝することが」
「霧華さんが謝る事じゃないです。……私の方こそ」
「霧華。あまり先に行くなと言っているだろう」
二人の会話を遮る真紅。目を向けた先ではボルカノが入口を背にして立っていた。
「ボルカノさん。すみません、フィリアさんの後ろ姿見つけたからつい」
「双方に注意を払う身にもなってくれ。君までこのペンギンの様に突然走り去られては……」
ボルカノはそう言い切ろうとして、右傍らにいる筈の小さな生物の姿がないことに気がついた。先程までは確かにいた。そのペンギンがいない。ボルカノはバッと辺りを見渡す。
「ぴゃあー」
可愛らしい鳥の様な鳴き声が聞こえた。
窓際にボルカノが探しているペンギンの姿が見える。彼の頭を撫でる人の姿も。
頭を撫でている人物はこの調査機関のリーダーであるダリアスであった。
「よしよし。よく来たな。元気にしてたか?」
「ぴぃ! ぴゃーあ。ぴぃー」
「ははっ。そいつは残念だったなぁ。後で市場に行ってこいよ。美味い魚があるぞ」
「ぴゃあ!」
ダリアスはぺんちゃんの頭をぽんぽんと優しく撫でる。その眼差しは柔らかく、口元も緩やかに弧を描いた。
彼らは互いの言語にまるで隔たりがない様に、会話を楽しんでいる。ダリアスはモンスター種のキャンディとも意思疎通が出来るので、似たような感覚で話を掴んでいるのかもしれない。
「ダリアスさん、こんにちは。お久し振りです!」
「よう。二人とも元気そうだな。それにフィリアも一緒か。そうだ、依頼があって……」
「バンガード周辺の魔獣退治の件ですか? それなら先程済ませてきました。暫くは魔獣も寄り付かないと思います」
「早いな。昨日募集掛けたばかりなのに。助かるよ。何せ猫の手も借りたいぐらい人手が足りてないからなぁ」
街周辺の治安維持、昏睡事件と扉世界の調査。クラヴィス所属メンバーだけでは人員が足りず、外部に住む戦士たちに協力を仰ぐことも。先のフィリアの様にだ。
「……こら。縦横無尽に走り回るなと言ってるだろう」
ぺんちゃんはダリアスやボルカノの周りをちょこまかと歩き回っていた。彼は何にでも興味を示す性格で、受付の花瓶を首をにゅっと伸ばして眺めたり、ロビーを行き来する人を目で一生懸命に追いかけたりする。そして突然走り出したかと思えば、ぴたりと立ち止まった。そこで両翼のフリッパーをパタパタとさせ、首をぶるぶると震わせた。
今はダリアスの元へ戻ってきてコートの裾を嘴で摘もうと躍起になっている。
「ああ、ぺんちゃん駄目だよ。ダリアスさんのコートが」
「気にしなくていいさ。遊びたい盛りなんだろ。そうだ、丁度良い。見せたいものがあるんだが、今から応接間の方に来てくれないか」
「いいですよ。ね、ボルカノさん」
「時間を要しないのであれば構わない」
「よし。フィリアも一緒にどうだ?」
「私もですか」
自分にも声を掛けてきたことに驚いたフィリアは不思議そうに訊ね返した。
「面白いものが見られるぜ」
そう言うとダリアスは口の端を上げて笑ってみせた。
◇
乾いた風が吹き荒ぶ荒野。夕陽に照らされた大地。口笛が聞こえるこの土地に一匹のペンギンが佇んでいた。
彼は相棒のピースメイカーを胴体に携え、砂塵色のポンチョをなで肩に羽織り、丸い頭にはカウボーイハットをちょんと被る。
彼――ペンダウン・キッドは稲妻のように今日も荒野を駆け抜ける。
「……」
「自由奔放な彼の前に待ち受けていたのは、一人の男。朱鳥術士ボルカノ、彼は荒野を流離うペンダウン・キッドの前に立ちはだかる。今ここで二人の視線がぶつかり合った。両者ともに睨み合いが続き、一歩も譲らない……一触即発となってしまうのか」
「妙な寸劇を仕立て上げるんじゃない」
ボルカノを見上げるぺんちゃんはフリッパーをご機嫌な様子でパタパタと上下させた。衣装が気に入っているのだろうか。
応接間に案内されたボルカノ達。彼らはそこでありとあらゆる衣装を目にした。西部劇の保安官、サボテン、魔法使い、コウモリなど。多種に渡る衣装もとい着ぐるみが用意されていた。ずらりと並ぶそれらに目を輝かせたのは霧華であり、次から次へとぺんちゃんに着せ替えていくのであった。
「西部劇と言えばのアテレコをしてみました。それにしても、ぺんちゃん何を着せても似合ってカワイイ~! ね、フィリアさん」
「え? は、はい」
「フィリアさんはどれが可愛かったですか?」
「えっと」
カウボーイ姿で短い脚を動かし、もてもてと歩き回るぺんちゃんを目で追っていたフィリア。脇から急に声を掛けられ、ぴくりと肩を震わせた。それから衣装が置かれたテーブルの上を見る。そこには先程まで試着されていた着ぐるみがあった。人間の衣装や動物を模ったものが多いのだが、稀に異彩を放つものも紛れている。それらの中でフィリアはオレンジ色のふっくらとした着ぐるみに目を留めた。
「かぼちゃの衣装可愛かったです。ヘタの帽子を頭に被っていて」
「うんうん、可愛かったですよね!」
「もてはやすのは構わんが、その格好で町中を歩けば注目される」
外出は控えるように。そう続けたボルカノの表情は渋い。
確かに誰もが振り向いて注視する格好には違いない。しかし、衣装の試着を提案したダリアスはどうやらそれが目的のようで。
ダリアスは側に寄ってきたぺんちゃんのカウボーイハットをそっと頭から取り、テーブルの上に置く。代わりに鮮やかな黄緑色の着ぐるみを手にした。
「クラヴィスのマスコットキャラクターにと思ってたんだけどなぁ」
「ダリアスさん、キャンディというマスコットキャラが既にいるじゃないですか」
「マスコットというよりもうちの大事な戦闘力だよ。もうちょっと可愛い系の方がキャラ的に売れるんじゃないかと思って」
「それを言うならばこのペンギンも朱鳥術を扱う上に火も噴く。それに体当たりをどこかのモンスターに感化されて覚えたようだが」
ぺんちゃんは誰とでも打ち解ける処世術を心得ている。この世界に集まったモンスターと直ぐに仲良くなり、技を見様見真似で覚えていく。それで先程のボルカノの嫌みだ。自己を鍛えることに異義はないが、スキンシップにそれが現れる。悪気なく体当たりを、しかも何の前触れもなくかましてくる。当人は遊んでほしい、構ってほしいアピールかもしれないが、ボルカノにとっては調合や細工の最中に背中をドンっとされてはたまったものではないのだ。
現にボルカノは背後にその気配を感じ、ぱっと振り向いた。
ボルカノの前にサボテンが立ちはだかっていた。鮮やかな黄緑色のボディ。鋭い幾つもの棘を生やし、頂点には真っ赤な花を一輪咲かせている。そのサボテンから黄色い嘴が飛びでていた。
ボルカノは一度びくりと驚きはしたが、それがぺんちゃんによる仮装だと分かると途端に怪訝そうに顔を顰めた。
「カウボーイとサボテン、どっちがいいかな」
「コアな層を狙わないならカウボーイが無難じゃないですかね」
「俺はサボテンの方に賭けてみたい気もする。意外性がウケるかもしれないだろ」
サボテンを被ったぺんちゃんは首をぐいっと伸ばし、フリッパーをパタパタパタと羽ばたかせる。この格好も気に入ったのか、サボテン姿のまま室内を走り回りだした。
それを微笑ましく見守るフィリアと霧華。ダリアスは「荒野を走るサボテンとカウボーイってのいいかもな」と顎を擦りながらぺんちゃんを目で追っていた。
ふと、ぺんちゃんは何かを察したのか室内に通じるドアの前でぴたりと足を止める。間もなくしてそのドアが開かれた。
「失礼する。こちらにフィリアが……?!」
新たな来客はすぐ目の前にいたぺんちゃんを見てびくりと肩を震わせた。奇妙奇天烈な黄緑色の生命体。もう一人のボルカノの目にはそう映っていたようだ。
「新種の魔獣か……!」
「針千本打ってきそうですよね」
「うわ……名前だけで痛そう」
「落ち着いてよく見るといい。皮はサボテンだが、中身はお前もよく知るペンギンだ」
「ぴゃーあ。ぴゃあー」
棘が生えた黄緑色の腕をぱたつかせた後、ぺんちゃんはボルカノの脇をすっと抜ける。そのまま廊下を駆け抜けていってしまった。
これにはボルカノ両者も驚きを隠せず、ほぼ同時に「待て!」と叫んでいた。
部屋を抜け出したぺんちゃんは風の様に廊下を駆け抜け、クラヴィスの受付を通り過ぎ、外へと飛び出した。街を歩く人々が見かけたぺんちゃんに対して「奇妙な生命体がいる」「教授の新しいペットか」と様々な噂が。
暫くの間、バンガードでそれが話題になったという。