RS Re;univerSe舞台
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香料を求めて
「邪魔をするぞ」
モウゼスの南に構える館。使い勝手知る近道から最上階へ。
ドアを開けると同時にもう一人自分が視界に映った。相手は自分を映す鏡とはよくいった例え話。今のオレは向こうと同じ様に渋い顔をしていた。
「今日は何の用だ」
「御前にではなく、フィリアに用がある」
書類の束を抱えていた彼女に目を向けると「私ですか?」と訊き返すので、そうだとさらに返した。
「此処から北に群生している薬草を採りに行きたい。護衛を頼む。……例の件も含め、一万オーラムで依頼しよう」
提示した額に二人は目を丸くする。こちらとしてはそれ相応のつもりだ。フィリアは「例の件……あっ」と独り言の様に呟き、二度頷いた。どうやら覚えていてくれたようだ。
しかし、赤毛の術士は彼女を護衛に貸すつもりは無いと言った風に羽ペンを些か乱暴に伏せる。
「そこの群生地ならば魔物の活動も活発じゃない。御前一人でも事足りる。わざわざフィリアの手を煩わせる必要もあるまい。それに何だその大袈裟な額は」
「大袈裟ではない。彼女の実力に敬意を払った上で相応の金額だ」
「何が目的だ」
蛇の様に睨みを利かせてきた相手を同様に睨み返す。一触即発とも言い難い雰囲気に割って入るのはどうやら彼女も得意とするようで、オレ達を宥め賺した。
「その依頼お受けします。ボルカノさん心配しないでください。これは霧華さんに関わる事なので」
「……内密にと頼んだはずだ」
「だってはっきりしておかないと。後々拗れますよ。大丈夫です、霧華さんには黙ってますので」
「成程な。……先の件とやらも彼女に関わる事か」
無言は即ち肯定。その癖を良く知る目の前の朱鳥術士は一思案の後「いいだろう」と手の平を返す。話が早いのは助かるがどうも腑に落ちない。
愛刀を腰に下げ、短いグローブを両手に嵌めたフィリアが口元に笑みを浮かべた。
「ボルカノ違いさん、行きましょう。今からなら夕暮れにはバンガードに戻れます」
「ああ」
◇
モウゼスの北へ赴いたことは数えるぐらいしかない。元より北はウンディーネの支配下にあった為、そこを含めた一帯をうろつくのは気が引けたせいもある。
オレ達は小さな森に足を踏み入れ、探している植物の群生地を探す。木漏れ日が差し込み、陽気に包まれているこの森は確かに魔物の気配を感じられない。
「探しているのはこれと、香料になる植物ですよね」
「そうだ。……なにせ量がいる。定期的に来てはいるが、一人では時間も手も足りん」
「それならうちのボルカノさんも連れてくれば良かったですね」
「あいつは手伝わんだろう」
オレが同じ立場ならば勝手にしろと突き放している所だ。
暫く歩いた先で香料となるラベンダーの群生地を発見した。顔を近づけずとも甘い香りが鼻腔をくすぐる。
ラベンダーを小型のナイフで根本から刈り取り、束に集めたそれを籠へ放り込んでいく。
「あ、忘れないうちに伝えておきますね」
オレと同じ作業をする彼女は「怪しまれない様に聞くの大変だったんですから」と零す様に呟いた。その気苦労も考慮した上であの報酬額だ。大袈裟では決してない。
「霧華さん、意外とさっぱりした香りが好きみたいですよ。柑橘系とか」
「柑橘系か」
「でも、このラベンダーみたいにふわっと薫る甘い香りも好きだって言ってました。あとはバニラ系も」
「統一性が無いな。……一つには絞れない、か」
恐らくは一番に好む香りを決められないのだろう。霧華の好む香りが判別するまでは出来得る限り香料の元を集めている。そこから数種類を掛け合わせて香水の調香に入るつもりだった。しかし、どれでもいいとなると逆に悩む。好き嫌いはハッキリしている性格だと思っていたのだが。
ラベンダーを籠一杯に詰め込んだ後、屈めていた腰を反らした。
「私が思うには……霧華さん、ラベンダーが好きだと思いますよ」
「何故そう思う」
「その話を聞いた時にこう言ってたんです。前の世界に居た時、ボルカノさんから珍しくラベンダーがふわっと薫った。その香りに安心できた……って」
フィリアのその言い方がまるで彼女の様で、俄かに顔が火照る。
それはいつの話だ。自分がその香りを纏う事など普段は無い。ならば、調合の過程で衣服に染み付いたものか。確かにこの香料を用いた薬は何度か調合している。
まさかそんな風に思われていたとは、全く思いもしない。
「……ボルカノさんって顔赤らめるんですね。なんだか新鮮」
「見ないでくれ」
オレは籠を小脇に抱え、足早に森の奥へ進んでいった。
「邪魔をするぞ」
モウゼスの南に構える館。使い勝手知る近道から最上階へ。
ドアを開けると同時にもう一人自分が視界に映った。相手は自分を映す鏡とはよくいった例え話。今のオレは向こうと同じ様に渋い顔をしていた。
「今日は何の用だ」
「御前にではなく、フィリアに用がある」
書類の束を抱えていた彼女に目を向けると「私ですか?」と訊き返すので、そうだとさらに返した。
「此処から北に群生している薬草を採りに行きたい。護衛を頼む。……例の件も含め、一万オーラムで依頼しよう」
提示した額に二人は目を丸くする。こちらとしてはそれ相応のつもりだ。フィリアは「例の件……あっ」と独り言の様に呟き、二度頷いた。どうやら覚えていてくれたようだ。
しかし、赤毛の術士は彼女を護衛に貸すつもりは無いと言った風に羽ペンを些か乱暴に伏せる。
「そこの群生地ならば魔物の活動も活発じゃない。御前一人でも事足りる。わざわざフィリアの手を煩わせる必要もあるまい。それに何だその大袈裟な額は」
「大袈裟ではない。彼女の実力に敬意を払った上で相応の金額だ」
「何が目的だ」
蛇の様に睨みを利かせてきた相手を同様に睨み返す。一触即発とも言い難い雰囲気に割って入るのはどうやら彼女も得意とするようで、オレ達を宥め賺した。
「その依頼お受けします。ボルカノさん心配しないでください。これは霧華さんに関わる事なので」
「……内密にと頼んだはずだ」
「だってはっきりしておかないと。後々拗れますよ。大丈夫です、霧華さんには黙ってますので」
「成程な。……先の件とやらも彼女に関わる事か」
無言は即ち肯定。その癖を良く知る目の前の朱鳥術士は一思案の後「いいだろう」と手の平を返す。話が早いのは助かるがどうも腑に落ちない。
愛刀を腰に下げ、短いグローブを両手に嵌めたフィリアが口元に笑みを浮かべた。
「ボルカノ違いさん、行きましょう。今からなら夕暮れにはバンガードに戻れます」
「ああ」
◇
モウゼスの北へ赴いたことは数えるぐらいしかない。元より北はウンディーネの支配下にあった為、そこを含めた一帯をうろつくのは気が引けたせいもある。
オレ達は小さな森に足を踏み入れ、探している植物の群生地を探す。木漏れ日が差し込み、陽気に包まれているこの森は確かに魔物の気配を感じられない。
「探しているのはこれと、香料になる植物ですよね」
「そうだ。……なにせ量がいる。定期的に来てはいるが、一人では時間も手も足りん」
「それならうちのボルカノさんも連れてくれば良かったですね」
「あいつは手伝わんだろう」
オレが同じ立場ならば勝手にしろと突き放している所だ。
暫く歩いた先で香料となるラベンダーの群生地を発見した。顔を近づけずとも甘い香りが鼻腔をくすぐる。
ラベンダーを小型のナイフで根本から刈り取り、束に集めたそれを籠へ放り込んでいく。
「あ、忘れないうちに伝えておきますね」
オレと同じ作業をする彼女は「怪しまれない様に聞くの大変だったんですから」と零す様に呟いた。その気苦労も考慮した上であの報酬額だ。大袈裟では決してない。
「霧華さん、意外とさっぱりした香りが好きみたいですよ。柑橘系とか」
「柑橘系か」
「でも、このラベンダーみたいにふわっと薫る甘い香りも好きだって言ってました。あとはバニラ系も」
「統一性が無いな。……一つには絞れない、か」
恐らくは一番に好む香りを決められないのだろう。霧華の好む香りが判別するまでは出来得る限り香料の元を集めている。そこから数種類を掛け合わせて香水の調香に入るつもりだった。しかし、どれでもいいとなると逆に悩む。好き嫌いはハッキリしている性格だと思っていたのだが。
ラベンダーを籠一杯に詰め込んだ後、屈めていた腰を反らした。
「私が思うには……霧華さん、ラベンダーが好きだと思いますよ」
「何故そう思う」
「その話を聞いた時にこう言ってたんです。前の世界に居た時、ボルカノさんから珍しくラベンダーがふわっと薫った。その香りに安心できた……って」
フィリアのその言い方がまるで彼女の様で、俄かに顔が火照る。
それはいつの話だ。自分がその香りを纏う事など普段は無い。ならば、調合の過程で衣服に染み付いたものか。確かにこの香料を用いた薬は何度か調合している。
まさかそんな風に思われていたとは、全く思いもしない。
「……ボルカノさんって顔赤らめるんですね。なんだか新鮮」
「見ないでくれ」
オレは籠を小脇に抱え、足早に森の奥へ進んでいった。