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二人の優勝者
ランスの道具屋に頼まれた荷物運び。最初は「術士に頼むような案件ではない」と彼は渋っていた。そこへ偶然にも現れた一人の剣士。依頼を渋るボルカノさんに彼は「剣士が必要ならば私が同行しよう」と協力を申し出た。
彼の容姿はどこか神々しく、太陽の化身かと思う程だった。腰まである長いシルバーブロンドの髪は陽の光を受けるとキラキラと輝いていた。首から提げた太陽を象った首飾り。どこか、見覚えのある人だと私はその時思っていた。
彼が同行したおかげもあり、野盗が蔓延るヤーマスへの街路を難なく突破。彼の容姿、扱う剣術や天術に益々覚えがあったが思い出せず、ようやく思い出せたのはヤーマスに到着した時。
彼はこことは違う世界に存在するアバロン帝国を統治していた最後の皇帝だ。
何故皇帝陛下がこの世界に居るのかは分からなかった。さっきツヴァイク城の前で再会した時には「暇を潰しに世界を廻っている」とだけ話してくれた。
そしてその彼は今、ツヴァイク公主催のバトルトーナメント最終戦でボルカノさんと剣を交えている。
「ライトボール!」
皇帝が唱えた術はこの世界であまり見ないものだった。球状に形を変えた光がボルカノさん目掛けて飛んでいく。それをギリギリの所で避けた彼は唱えていた術の詠唱を中断せずに朱鳥術を発動させた。熱風が試合会場を包み込む。観覧席を巻き込み兼ねない戦いに私はハラハラしていた。
ボルカノさんは昨日まで研究資料を纏める為に宿屋に缶詰だった。そのせいで身体も思考も鈍っているのではと心配もしていたが、どうやら要らない心配のようだ。普段通りに戦えている。
彼はこのトーナメントに最初は全然乗り気じゃなかった。こんなものは資産家の道楽に過ぎんと。それを皇帝が参加すると知ったら掌を返したように彼は申し込みにサインをしていた。
重ねた術の爆風で皇帝との距離が開いた。それを好機にと彼は大ぶりの弓を構える。矢を番え、的を射る様に見据える眼差し。まさかと思い、成り行きを見守っているとそのまさかだった。彼の弓から放たれた矢に只ならぬ気を感じ取る。一部の観客もざわついていた。もしやあれが噂の死ね矢。
その矢は皇帝の肩を掠め、地面に突き刺さった。どうやら大事には至らなかったようだ。それにしても流石皇帝陛下。七英雄を打ち倒してきた実力の持ち主。それを踏まえると皇帝の方が有利だ。でも、ボルカノさんの殺気が半端ないので勝負の行方が全く見えない。なんであんなに殺気立っているんだろうか。三日も籠っていたストレスの発散かな。
反対側の観覧席から歓声が上がった。彼らが戦う会場から少し離れた場所で展開されているもう一つのトーナメント。向こうはツヴァイク公が選りすぐりの戦士を相手に勝ち抜いていく形式だと聞いた。
隣人から「向こうの挑戦者も朱鳥術を扱うらしい」という話し声が聞こえた。「あっちも決勝戦みたいだな」とも。「向こうの試合も気になるな」と聞いた話に釣られて私も反対側の試合会場へ目を向けた。
挑戦者は女性だ。既に決勝戦が始まっているようで、鎧を着こんだ強面の大男と剣を交えている。私と同世代の女性が曲刀を華麗に振るう姿に目が釘付けになった。
その女性は八重に咲いた桜の様な濃い桃色の髪を高く結わえ、その毛先が曲刀を振るう度に軽やかに揺れる。彼女の動きに合わせて真紅のロングベストも靡いていた。大男の剣を薙ぎ払うも、力に押し負けて後ずさり、体勢が崩されそうになる。でもそこは曲刀を扱う戦士、倒れることなくすぐさま体勢を整えて大男目掛けて走り寄った。
目にも留まらぬ速さですれ違うと、彼女の残像が疾風の様に何度も駆け抜けた。男の悲鳴がここまで聞こえてくる。けど、まだ相手は倒れない。
踵を返して振り向いた彼女は術の詠唱を既に終えていた。曲刀を持つ手とは反対の腕を突き出し、朱鳥術を放つ。
「大気を駆け抜け、灼熱の羽で全てを焼き尽くせ火の鳥!」
彼女の頭上に現れた尾羽を美しく輝かせた巨大な火の鳥。それは甲高い鳴き声を上げ、大男目掛けて一直線に駆け抜けた。その軌跡に火の粉が舞い散る。術をまともに喰らった大男は断末魔の様な叫び声を上げ、地に伏した。
私は瞬きをするのも忘れてその試合に見入っていた。やがて歓声が沸き起こり、戦いの勝者がこの女性に決まる。彼女は曲刀を鞘に収め、両腕を頭上に伸ばして肩の力を抜いていた。
真剣な眼差しで戦っていた彼女の姿に見惚れている間、こちら側の観覧席でも歓声が不意に沸いた。慌てて私は前に向き直り、彼らの戦いの行く末を見守る。現在優勢なのは皇帝の様だ。ところが彼は自分が劣勢だとは露とも思っていないようで、不敵な笑みを浮かべていた。
◇◆◇
「……って感じで、まるで蝶の様に舞い、蜂の様に刺す戦いをしてた人がいたんですよ!カッコよかったなあ…曲刀を扱いながら朱鳥術も使ってて、ホント凄かったんですから」
ボルカノさんが出場したトーナメントは彼が無事に勝利を収めた。結構ギリギリな戦いだったらしく、徹夜明けには堪えるとも零していた。大きな怪我をすることも無く、ほっとしたけどね。
もう一つのトーナメントの優勝者の話を熱弁する傍ら、彼の視線が突き刺さって来た。
「つまり、君はオレの勇姿を見ていなかった、と」
「そっ、そんなわけないじゃないですか!ちゃんと見てましたから!皇帝陛下相手に死ね矢打ち込む強者なんてボルカノさんぐらいしかいないですよね!」
「……あれが掠めただけだったのは惜しかった」
この人、本気で殺ろうとしていたのでは。真顔でそう言うものだから、顔が引きつりそうになる。一体皇帝に何の恨みがあるというのか。
ツヴァイクを早々に出た私達はキドラントへ進路を取っていた。その途中「そういえば」と思い出す様に彼が口を開く。
「玉座の前で表彰された時、その相手とすれ違ったんだが」
「何かあったんですか」
「オレの顔を見て妙な表情を浮かべていた。まるで幽霊を見たかのような目で」
「……生き別れた兄弟と似ていたとか」
「さあてな」
それにしても、と手の平に丁度収まるゴールドに輝くメダルに苦々しい視線を落とす。表面にはツヴァイク公の横顔が彫られており、裏面は魔女の顔が彫られているメダルだ。報奨金一万オーラムと共に授かった賞品。
「これはどうしたものか。……持ち歩くには気が引けるぞ」
「売りましょう。金製だから五百オーラムで買い取ってもらえますよ」
「それも罰当たりな話だな」
「だって魅力だって下がるし、持ってても邪魔になるだけですよ?」
「君も案外容赦がないな」
◆
ツヴァイクで開催された今回のバトルトーナメントの覇者は二人。未だかつて無いほどの熱気に会場が包まれたという話だ。参加者対戦のバトルトーナメントを制した朱鳥術士、片や挑戦者バトルトーナメントを圧倒的な速さで勝ち抜いた曲刀の朱鳥術戦士。どちらの戦いも目が離せないと人気を博していた。
彼らはツヴァイク公から報奨金と賞品を受け取ると、風の様にその町を去っていったという。
優勝者の一人であるフィリアは報奨金の詰まった麻袋を片手にし、顔をこれでもかという位に綻ばせていた。その様子がツヴァイク城の前を通りかかった時とは一変していたので、これにはボルカノも呆れている。
「トーナメントなど興味がない、と言っていたのが嘘のようだな」
「だって報奨金一万オーラムですよ?参加者対戦は少し無理がありますけど、こっちのトーナメントなら腕に自信がありましたし。それに試してみたい術も成功して言うことなしです」
「あの火の鳥は確かに見事なものだった。……一命を取り留めたのが相手にもお前にとっても幸いだったようだしな」
ボルカノがそう言うと、フィリアは気まずそうに目を逸らした。朱鳥術の扱いに長けてはいるが、新たな術の制御がまだ上手く出来ていない。欲が絡んだせいもあったのだろうと彼女に一喝。いくら腕っぷしに自信がある者たちが集うトーナメントとは言え、闇雲に生命を奪ってはならない。それがルールに記載されていた。危うく失格となる所だったのだ。
「……今後の課題として術を極めたいと思います」
「いい心がけだな」
ボルカノは朱鳥術に関しては手厳しい。それが自身の向上にも繋がることはフィリアも理解しているつもりだ。とまあ、それは二の次で報奨金を手に出来た事が何よりも嬉しいと彼女は思っていた。
町を出て道なりに歩く途中、彼女は並んで歩く彼の顔をじっと見ていた。その視線に最初こそは気にせずにいたが、次第にそれが鬱陶しくなり苛立った口調でボルカノは問いかけた。
「なんだ。言いたいことがあるなら言え」
「……やっぱり他人の空似レベルじゃないなあって」
「またその話か。さっきも話した通り、オレは観覧席に居た。お前の試合を最初から最後まで見ていたと言っただろ」
彼が苛立つその理由は数時間前に遡る。フィリアが優勝者として玉座の間で称えられ、その手に報奨金の袋と賞品を持ったままボルカノの元へ駆け寄って来た。そして開口一番に「ボルカノさん、トーナメントに出場してません……よね?」と宣った。
確かに反対側で繰り広げられていた戦いに朱鳥術士が居たとボルカノも聞いていた。彼女はそれに出場していたのではと意味不明な疑いを掛けてくるのだ。何を言っているんだと一蹴をするも、彼女は納得がいかない様子だった。
「だって、そのまんまボルカノさんだったんですよ。……もしかして双子だったり」
「兄弟は居ない。他人の空似だ」
「まあ……言われてみればそんな気もしますね。ちょっと雰囲気が違うような気もしたし」
目の前にいるボルカノと、玉座で見かけた彼のそっくりさんを思い浮かべたフィリアは僅かな違いを見つけたのか一人で頷いていた。どこがどう違うのかと問えばまた話が長引きそうなので、ここで終止符を打つべく別の話をボルカノは持ち出した。
「ところで、この気味の悪いメダルはどうするんだ」
「ツヴァイク公が自分の有難い顔が彫られたメダルだって言ってましたよ」
「全く有難みを感じられないが。荷物になるだけだぞ」
「そこは抜かりありません。金製なので五百オーラムで売れます」
彼女がゴールドメダルの表と裏を一度ずつ反転させ、得意げにそう話した。何故そう自信満々に言えるのか。こんなメダルは二十オーラム程度の価値しかないだろうとボルカノは踏んでいた。
「城門前で偶然耳にしたんです。『報奨金は一万オーラムで、賞品はゴールドメダル。メダルは売れば五百オーラムになるんですよ』って。だから優勝すれば合計一万五百オーラムが稼げるなあって」
「……換金は離れた町でした方がいい」
「分かってますって」
どこの町で換金しようか。足取り軽く進むフィリアの後を「まったく現金な奴だ」と思いながらもついていくボルカノであった。
ランスの道具屋に頼まれた荷物運び。最初は「術士に頼むような案件ではない」と彼は渋っていた。そこへ偶然にも現れた一人の剣士。依頼を渋るボルカノさんに彼は「剣士が必要ならば私が同行しよう」と協力を申し出た。
彼の容姿はどこか神々しく、太陽の化身かと思う程だった。腰まである長いシルバーブロンドの髪は陽の光を受けるとキラキラと輝いていた。首から提げた太陽を象った首飾り。どこか、見覚えのある人だと私はその時思っていた。
彼が同行したおかげもあり、野盗が蔓延るヤーマスへの街路を難なく突破。彼の容姿、扱う剣術や天術に益々覚えがあったが思い出せず、ようやく思い出せたのはヤーマスに到着した時。
彼はこことは違う世界に存在するアバロン帝国を統治していた最後の皇帝だ。
何故皇帝陛下がこの世界に居るのかは分からなかった。さっきツヴァイク城の前で再会した時には「暇を潰しに世界を廻っている」とだけ話してくれた。
そしてその彼は今、ツヴァイク公主催のバトルトーナメント最終戦でボルカノさんと剣を交えている。
「ライトボール!」
皇帝が唱えた術はこの世界であまり見ないものだった。球状に形を変えた光がボルカノさん目掛けて飛んでいく。それをギリギリの所で避けた彼は唱えていた術の詠唱を中断せずに朱鳥術を発動させた。熱風が試合会場を包み込む。観覧席を巻き込み兼ねない戦いに私はハラハラしていた。
ボルカノさんは昨日まで研究資料を纏める為に宿屋に缶詰だった。そのせいで身体も思考も鈍っているのではと心配もしていたが、どうやら要らない心配のようだ。普段通りに戦えている。
彼はこのトーナメントに最初は全然乗り気じゃなかった。こんなものは資産家の道楽に過ぎんと。それを皇帝が参加すると知ったら掌を返したように彼は申し込みにサインをしていた。
重ねた術の爆風で皇帝との距離が開いた。それを好機にと彼は大ぶりの弓を構える。矢を番え、的を射る様に見据える眼差し。まさかと思い、成り行きを見守っているとそのまさかだった。彼の弓から放たれた矢に只ならぬ気を感じ取る。一部の観客もざわついていた。もしやあれが噂の死ね矢。
その矢は皇帝の肩を掠め、地面に突き刺さった。どうやら大事には至らなかったようだ。それにしても流石皇帝陛下。七英雄を打ち倒してきた実力の持ち主。それを踏まえると皇帝の方が有利だ。でも、ボルカノさんの殺気が半端ないので勝負の行方が全く見えない。なんであんなに殺気立っているんだろうか。三日も籠っていたストレスの発散かな。
反対側の観覧席から歓声が上がった。彼らが戦う会場から少し離れた場所で展開されているもう一つのトーナメント。向こうはツヴァイク公が選りすぐりの戦士を相手に勝ち抜いていく形式だと聞いた。
隣人から「向こうの挑戦者も朱鳥術を扱うらしい」という話し声が聞こえた。「あっちも決勝戦みたいだな」とも。「向こうの試合も気になるな」と聞いた話に釣られて私も反対側の試合会場へ目を向けた。
挑戦者は女性だ。既に決勝戦が始まっているようで、鎧を着こんだ強面の大男と剣を交えている。私と同世代の女性が曲刀を華麗に振るう姿に目が釘付けになった。
その女性は八重に咲いた桜の様な濃い桃色の髪を高く結わえ、その毛先が曲刀を振るう度に軽やかに揺れる。彼女の動きに合わせて真紅のロングベストも靡いていた。大男の剣を薙ぎ払うも、力に押し負けて後ずさり、体勢が崩されそうになる。でもそこは曲刀を扱う戦士、倒れることなくすぐさま体勢を整えて大男目掛けて走り寄った。
目にも留まらぬ速さですれ違うと、彼女の残像が疾風の様に何度も駆け抜けた。男の悲鳴がここまで聞こえてくる。けど、まだ相手は倒れない。
踵を返して振り向いた彼女は術の詠唱を既に終えていた。曲刀を持つ手とは反対の腕を突き出し、朱鳥術を放つ。
「大気を駆け抜け、灼熱の羽で全てを焼き尽くせ火の鳥!」
彼女の頭上に現れた尾羽を美しく輝かせた巨大な火の鳥。それは甲高い鳴き声を上げ、大男目掛けて一直線に駆け抜けた。その軌跡に火の粉が舞い散る。術をまともに喰らった大男は断末魔の様な叫び声を上げ、地に伏した。
私は瞬きをするのも忘れてその試合に見入っていた。やがて歓声が沸き起こり、戦いの勝者がこの女性に決まる。彼女は曲刀を鞘に収め、両腕を頭上に伸ばして肩の力を抜いていた。
真剣な眼差しで戦っていた彼女の姿に見惚れている間、こちら側の観覧席でも歓声が不意に沸いた。慌てて私は前に向き直り、彼らの戦いの行く末を見守る。現在優勢なのは皇帝の様だ。ところが彼は自分が劣勢だとは露とも思っていないようで、不敵な笑みを浮かべていた。
◇◆◇
「……って感じで、まるで蝶の様に舞い、蜂の様に刺す戦いをしてた人がいたんですよ!カッコよかったなあ…曲刀を扱いながら朱鳥術も使ってて、ホント凄かったんですから」
ボルカノさんが出場したトーナメントは彼が無事に勝利を収めた。結構ギリギリな戦いだったらしく、徹夜明けには堪えるとも零していた。大きな怪我をすることも無く、ほっとしたけどね。
もう一つのトーナメントの優勝者の話を熱弁する傍ら、彼の視線が突き刺さって来た。
「つまり、君はオレの勇姿を見ていなかった、と」
「そっ、そんなわけないじゃないですか!ちゃんと見てましたから!皇帝陛下相手に死ね矢打ち込む強者なんてボルカノさんぐらいしかいないですよね!」
「……あれが掠めただけだったのは惜しかった」
この人、本気で殺ろうとしていたのでは。真顔でそう言うものだから、顔が引きつりそうになる。一体皇帝に何の恨みがあるというのか。
ツヴァイクを早々に出た私達はキドラントへ進路を取っていた。その途中「そういえば」と思い出す様に彼が口を開く。
「玉座の前で表彰された時、その相手とすれ違ったんだが」
「何かあったんですか」
「オレの顔を見て妙な表情を浮かべていた。まるで幽霊を見たかのような目で」
「……生き別れた兄弟と似ていたとか」
「さあてな」
それにしても、と手の平に丁度収まるゴールドに輝くメダルに苦々しい視線を落とす。表面にはツヴァイク公の横顔が彫られており、裏面は魔女の顔が彫られているメダルだ。報奨金一万オーラムと共に授かった賞品。
「これはどうしたものか。……持ち歩くには気が引けるぞ」
「売りましょう。金製だから五百オーラムで買い取ってもらえますよ」
「それも罰当たりな話だな」
「だって魅力だって下がるし、持ってても邪魔になるだけですよ?」
「君も案外容赦がないな」
◆
ツヴァイクで開催された今回のバトルトーナメントの覇者は二人。未だかつて無いほどの熱気に会場が包まれたという話だ。参加者対戦のバトルトーナメントを制した朱鳥術士、片や挑戦者バトルトーナメントを圧倒的な速さで勝ち抜いた曲刀の朱鳥術戦士。どちらの戦いも目が離せないと人気を博していた。
彼らはツヴァイク公から報奨金と賞品を受け取ると、風の様にその町を去っていったという。
優勝者の一人であるフィリアは報奨金の詰まった麻袋を片手にし、顔をこれでもかという位に綻ばせていた。その様子がツヴァイク城の前を通りかかった時とは一変していたので、これにはボルカノも呆れている。
「トーナメントなど興味がない、と言っていたのが嘘のようだな」
「だって報奨金一万オーラムですよ?参加者対戦は少し無理がありますけど、こっちのトーナメントなら腕に自信がありましたし。それに試してみたい術も成功して言うことなしです」
「あの火の鳥は確かに見事なものだった。……一命を取り留めたのが相手にもお前にとっても幸いだったようだしな」
ボルカノがそう言うと、フィリアは気まずそうに目を逸らした。朱鳥術の扱いに長けてはいるが、新たな術の制御がまだ上手く出来ていない。欲が絡んだせいもあったのだろうと彼女に一喝。いくら腕っぷしに自信がある者たちが集うトーナメントとは言え、闇雲に生命を奪ってはならない。それがルールに記載されていた。危うく失格となる所だったのだ。
「……今後の課題として術を極めたいと思います」
「いい心がけだな」
ボルカノは朱鳥術に関しては手厳しい。それが自身の向上にも繋がることはフィリアも理解しているつもりだ。とまあ、それは二の次で報奨金を手に出来た事が何よりも嬉しいと彼女は思っていた。
町を出て道なりに歩く途中、彼女は並んで歩く彼の顔をじっと見ていた。その視線に最初こそは気にせずにいたが、次第にそれが鬱陶しくなり苛立った口調でボルカノは問いかけた。
「なんだ。言いたいことがあるなら言え」
「……やっぱり他人の空似レベルじゃないなあって」
「またその話か。さっきも話した通り、オレは観覧席に居た。お前の試合を最初から最後まで見ていたと言っただろ」
彼が苛立つその理由は数時間前に遡る。フィリアが優勝者として玉座の間で称えられ、その手に報奨金の袋と賞品を持ったままボルカノの元へ駆け寄って来た。そして開口一番に「ボルカノさん、トーナメントに出場してません……よね?」と宣った。
確かに反対側で繰り広げられていた戦いに朱鳥術士が居たとボルカノも聞いていた。彼女はそれに出場していたのではと意味不明な疑いを掛けてくるのだ。何を言っているんだと一蹴をするも、彼女は納得がいかない様子だった。
「だって、そのまんまボルカノさんだったんですよ。……もしかして双子だったり」
「兄弟は居ない。他人の空似だ」
「まあ……言われてみればそんな気もしますね。ちょっと雰囲気が違うような気もしたし」
目の前にいるボルカノと、玉座で見かけた彼のそっくりさんを思い浮かべたフィリアは僅かな違いを見つけたのか一人で頷いていた。どこがどう違うのかと問えばまた話が長引きそうなので、ここで終止符を打つべく別の話をボルカノは持ち出した。
「ところで、この気味の悪いメダルはどうするんだ」
「ツヴァイク公が自分の有難い顔が彫られたメダルだって言ってましたよ」
「全く有難みを感じられないが。荷物になるだけだぞ」
「そこは抜かりありません。金製なので五百オーラムで売れます」
彼女がゴールドメダルの表と裏を一度ずつ反転させ、得意げにそう話した。何故そう自信満々に言えるのか。こんなメダルは二十オーラム程度の価値しかないだろうとボルカノは踏んでいた。
「城門前で偶然耳にしたんです。『報奨金は一万オーラムで、賞品はゴールドメダル。メダルは売れば五百オーラムになるんですよ』って。だから優勝すれば合計一万五百オーラムが稼げるなあって」
「……換金は離れた町でした方がいい」
「分かってますって」
どこの町で換金しようか。足取り軽く進むフィリアの後を「まったく現金な奴だ」と思いながらもついていくボルカノであった。