RS Re;univerSe舞台
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夏が来た
陽射しが燦々とビーチに降り注ぐ。
三百年以上も前からリゾート地として栄えているグレートアーチ。青い海がきらきらと輝いている。穏やかな波の音が心地良い。
温かくて過ごしやすいことから余生を此処で暮らす人も多いそうだ。
バンガローの窓から見える浜辺には人が沢山いた。波打ち際で遊んでいる人、寝そべって日光浴を楽しんでいる人。若い子達のきゃあきゃあとはしゃぐ声が聞こえてくる。
爽やかな夏風がガラスの無い窓から直接吹き込んでくる。のんびりと私達はその様子を窓際で眺めていた。
「海を見てると、なんていうかこう、夏が来た!って感じがしますね」
「そうだな」
「グレートアーチは観光客も多いし、賑わってますね。まあ、私達も例に漏れずそれですけど」
「……懲りずに海賊ブラックの財宝目当てに来ている者も多いようだ」
夏仕様の装いをしたボルカノさんの視線が浜辺の一角に留まる。厳つい風貌の男の人達が顔を寄せ合って、手元の羊皮紙を見ながら何か話しているようだ。
明らかに観光客ではなさそう。どうやらブラックのお宝はまだまだ隠されているみたいだ。
私達は二泊三日の旅程でグレートアーチに訪れ、バンガローを一つ借りていた。のんびりと観光する為に。
遡ること一週間前。グレートアーチに観光でもしてきなさいと言いだしたのはウンディーネさんだ。最初は数日も空けるわけにはいかないと反対していたんだけど、ジョーが「たまには羽伸ばしてきなよ。あたしは大人しくウンディーネおばさんと留守番してるから、行ってきて!」と後押しされたことで渋々出掛けてきたというわけ。
「でもなんで急にグレートアーチなんですかね」
「近場では羽を伸ばすこともできまい。暫く二人で遠出もしていなかったしな。あいつらなりの気遣いだろう」
「……あ、そっか。それもそうですね」
折角だからとフェイルくんも誘おうと口にしたら、二人に「それは駄目」と口を揃えて反対された。それが今頃になって水入らずで行ってこいという気遣いだと気づく。
ふっと笑う息遣いが隣から聞こえてきた。
「君は相変わらずだ」
「…すみません。別にボルカノさんと二人で出掛けるのが嫌なわけじゃなくて」
「分かっている。交友関係を保とうとするのは良いことだ」
「……ボルカノさん、なんか丸くなりましたよね。さらに」
十五年前、ボルカノさんとウンディーネさんはリズからジョーを預かることになった。朱鳥術士と玄武術士の血を引いたジョーは双方の地術に恵まれ、二人の術士に今日まで育てられてきた。愛情が湧いてきたんじゃないかと言っても否定されるけど、過保護っぷりが垣間見える。それはボルカノさんだけじゃなく、ウンディーネさんにも言えること。
さっきの台詞だって昔じゃ出てこないようなものだ。考え方も、態度も柔らかくなった。
「やっぱり保護者になると情が湧いて甘くなるもんですね」
「監督者だ。それに言動が丸くなったのは今に始まったことではない」
「…まあそれもそうですね。真面目で責任感強いところは前から変わらないし。この間の始まりの島、でしたっけ。その時も真っ先に追いかけていったし」
玄竜と仲良くなったジョーは彼の背に乗ってあちこち飛び回るようになった。前回もエレン達の後をこっそりつけていったのを察知し、単独で追いかけていったんだ。あの子を護るのは私の役目だと言って。
「任された以上、務めを果たさなければならん」
「立派に務めてると思いますよ。ボルカノさんもウンディーネさんも」
「君もな」
「私は近所の人ぐらいの役割ですから。…それにしても、もう十五年も経つんですね。元々この時代にいた人たちは年を重ねていくのに、他所から喚ばれた私達はそのまんまの姿」
この世界に喚ばれた時から体内に流れる時間は止まっていた。それに気づいたのは数年経ってからだった。
ジョーはすくすくと育っていき、街の人達は年齢を少しずつ重ねていく。世界は一秒毎に変化していくのに対し、私達はそのままの姿で在り続けている。妖魔の時間感覚、それに似たようなものなんだろう。人間から半妖になってしまったアセルスの気持ちが今なら痛い程わかる。
「肉体が老いることが無いのはむしろ都合が良い」
「まあ現状はそうですよね。…でも元の時代に帰った時、急に年を取ったらどうします?浦島太郎みたいに」
昔、私の世界にある昔話をボルカノさんに幾つか話したことがある。その時は「人を瞬時に加齢させるなど馬鹿らしい」とあしらわれた。それが今では神妙な面持ちで暫く黙っていた。
「あながち有り得ないとも言い切れん」
「ちょ、やめてくださいよ。ホントにそうなったら怖いじゃないですか」
「オレは別に構わない。この時代から帰る時に君さえいれば、それで。…年を幾つ重ねていようと、傍に霧華がいればいい」
そう、真剣な表情で言うものだから。ただでさえ暑いのにさらに顔が火照ってくる。手で団扇を作り、ぱたぱたと風を送っても涼しくなりそうになかった。
「…あーあ。ボルカノさんの近くにいると暑くてたまんないなあ。特に夏は」
「朱鳥術士への称賛として受けとっておくが……暑さで頭痛や目眩を感じる前にウンディーネかジョーを頼るといい。オレには涼を扱えないからな」
「そういうとこですよ、丸くなったの」
犬猿の仲だった二人が互いに足りない部分を補うようになった。少し前、と言っても十五年前は目くじら立てて頼ろうとしなかったし。それが今ではこういう時はあいつを頼れとまで言うんだから。ものすごい進歩だと思う。
「いいことですよ。柔軟に対応できることって。……今は二人を頼ることできないし、私トロピカルジュース買ってきますね。ボルカノさんも同じのでいいです?」
日焼け対策に薄くて風通しの良いパーカーを羽織る。今日は海に入るつもりはなかったから、バンガードから来たままの服。折角だしリゾート気分を味わいたい気持ちもある。どこかのお店でワンピースでも見繕おうかな。
店頭で可愛い柄を見かけたのを思い出し、そこのお店を見ようと考えていたところにボルカノさんから「待て」と声を掛けられた。
「オレも行こう」
「こんな近距離で迷ったりしませんから。お店すぐそこですし」
「リゾート地を訪れているのは観光客、海賊の財宝目当てだけではない。ナンパ目的の輩もいる。そいつらに声を掛けられているのを見過ごすことはできんぞ」
「…グレートアーチが灼熱地獄になるのは勘弁ですね」
ファイアストームの一つでも放たれてはリゾート地が一変してしまう。火傷どこじゃ済まなくなりそうだ。
こういう過保護な所は昔から変わらない。
ボルカノさんは自分の首から麦わら帽子を外し、それを私の頭にすぽっと被せた。
「被っていろ。すぐそこだからとはいえ、太陽光を侮るな」
「ん…ありがとうございます。麦わら帽子、もう一つ買いに行きましょ。あと折角だしリゾート仕様のワンピースも買いに行きたいです」
「それは構わないが、露出の多いものは控えるように」
「はーい」
被せられた麦わら帽子を直す。久しぶりにゆっくり二人で過ごせそう。ウキウキしていたら、またボルカノさんが目を優しく細めて笑っていた。
陽射しが燦々とビーチに降り注ぐ。
三百年以上も前からリゾート地として栄えているグレートアーチ。青い海がきらきらと輝いている。穏やかな波の音が心地良い。
温かくて過ごしやすいことから余生を此処で暮らす人も多いそうだ。
バンガローの窓から見える浜辺には人が沢山いた。波打ち際で遊んでいる人、寝そべって日光浴を楽しんでいる人。若い子達のきゃあきゃあとはしゃぐ声が聞こえてくる。
爽やかな夏風がガラスの無い窓から直接吹き込んでくる。のんびりと私達はその様子を窓際で眺めていた。
「海を見てると、なんていうかこう、夏が来た!って感じがしますね」
「そうだな」
「グレートアーチは観光客も多いし、賑わってますね。まあ、私達も例に漏れずそれですけど」
「……懲りずに海賊ブラックの財宝目当てに来ている者も多いようだ」
夏仕様の装いをしたボルカノさんの視線が浜辺の一角に留まる。厳つい風貌の男の人達が顔を寄せ合って、手元の羊皮紙を見ながら何か話しているようだ。
明らかに観光客ではなさそう。どうやらブラックのお宝はまだまだ隠されているみたいだ。
私達は二泊三日の旅程でグレートアーチに訪れ、バンガローを一つ借りていた。のんびりと観光する為に。
遡ること一週間前。グレートアーチに観光でもしてきなさいと言いだしたのはウンディーネさんだ。最初は数日も空けるわけにはいかないと反対していたんだけど、ジョーが「たまには羽伸ばしてきなよ。あたしは大人しくウンディーネおばさんと留守番してるから、行ってきて!」と後押しされたことで渋々出掛けてきたというわけ。
「でもなんで急にグレートアーチなんですかね」
「近場では羽を伸ばすこともできまい。暫く二人で遠出もしていなかったしな。あいつらなりの気遣いだろう」
「……あ、そっか。それもそうですね」
折角だからとフェイルくんも誘おうと口にしたら、二人に「それは駄目」と口を揃えて反対された。それが今頃になって水入らずで行ってこいという気遣いだと気づく。
ふっと笑う息遣いが隣から聞こえてきた。
「君は相変わらずだ」
「…すみません。別にボルカノさんと二人で出掛けるのが嫌なわけじゃなくて」
「分かっている。交友関係を保とうとするのは良いことだ」
「……ボルカノさん、なんか丸くなりましたよね。さらに」
十五年前、ボルカノさんとウンディーネさんはリズからジョーを預かることになった。朱鳥術士と玄武術士の血を引いたジョーは双方の地術に恵まれ、二人の術士に今日まで育てられてきた。愛情が湧いてきたんじゃないかと言っても否定されるけど、過保護っぷりが垣間見える。それはボルカノさんだけじゃなく、ウンディーネさんにも言えること。
さっきの台詞だって昔じゃ出てこないようなものだ。考え方も、態度も柔らかくなった。
「やっぱり保護者になると情が湧いて甘くなるもんですね」
「監督者だ。それに言動が丸くなったのは今に始まったことではない」
「…まあそれもそうですね。真面目で責任感強いところは前から変わらないし。この間の始まりの島、でしたっけ。その時も真っ先に追いかけていったし」
玄竜と仲良くなったジョーは彼の背に乗ってあちこち飛び回るようになった。前回もエレン達の後をこっそりつけていったのを察知し、単独で追いかけていったんだ。あの子を護るのは私の役目だと言って。
「任された以上、務めを果たさなければならん」
「立派に務めてると思いますよ。ボルカノさんもウンディーネさんも」
「君もな」
「私は近所の人ぐらいの役割ですから。…それにしても、もう十五年も経つんですね。元々この時代にいた人たちは年を重ねていくのに、他所から喚ばれた私達はそのまんまの姿」
この世界に喚ばれた時から体内に流れる時間は止まっていた。それに気づいたのは数年経ってからだった。
ジョーはすくすくと育っていき、街の人達は年齢を少しずつ重ねていく。世界は一秒毎に変化していくのに対し、私達はそのままの姿で在り続けている。妖魔の時間感覚、それに似たようなものなんだろう。人間から半妖になってしまったアセルスの気持ちが今なら痛い程わかる。
「肉体が老いることが無いのはむしろ都合が良い」
「まあ現状はそうですよね。…でも元の時代に帰った時、急に年を取ったらどうします?浦島太郎みたいに」
昔、私の世界にある昔話をボルカノさんに幾つか話したことがある。その時は「人を瞬時に加齢させるなど馬鹿らしい」とあしらわれた。それが今では神妙な面持ちで暫く黙っていた。
「あながち有り得ないとも言い切れん」
「ちょ、やめてくださいよ。ホントにそうなったら怖いじゃないですか」
「オレは別に構わない。この時代から帰る時に君さえいれば、それで。…年を幾つ重ねていようと、傍に霧華がいればいい」
そう、真剣な表情で言うものだから。ただでさえ暑いのにさらに顔が火照ってくる。手で団扇を作り、ぱたぱたと風を送っても涼しくなりそうになかった。
「…あーあ。ボルカノさんの近くにいると暑くてたまんないなあ。特に夏は」
「朱鳥術士への称賛として受けとっておくが……暑さで頭痛や目眩を感じる前にウンディーネかジョーを頼るといい。オレには涼を扱えないからな」
「そういうとこですよ、丸くなったの」
犬猿の仲だった二人が互いに足りない部分を補うようになった。少し前、と言っても十五年前は目くじら立てて頼ろうとしなかったし。それが今ではこういう時はあいつを頼れとまで言うんだから。ものすごい進歩だと思う。
「いいことですよ。柔軟に対応できることって。……今は二人を頼ることできないし、私トロピカルジュース買ってきますね。ボルカノさんも同じのでいいです?」
日焼け対策に薄くて風通しの良いパーカーを羽織る。今日は海に入るつもりはなかったから、バンガードから来たままの服。折角だしリゾート気分を味わいたい気持ちもある。どこかのお店でワンピースでも見繕おうかな。
店頭で可愛い柄を見かけたのを思い出し、そこのお店を見ようと考えていたところにボルカノさんから「待て」と声を掛けられた。
「オレも行こう」
「こんな近距離で迷ったりしませんから。お店すぐそこですし」
「リゾート地を訪れているのは観光客、海賊の財宝目当てだけではない。ナンパ目的の輩もいる。そいつらに声を掛けられているのを見過ごすことはできんぞ」
「…グレートアーチが灼熱地獄になるのは勘弁ですね」
ファイアストームの一つでも放たれてはリゾート地が一変してしまう。火傷どこじゃ済まなくなりそうだ。
こういう過保護な所は昔から変わらない。
ボルカノさんは自分の首から麦わら帽子を外し、それを私の頭にすぽっと被せた。
「被っていろ。すぐそこだからとはいえ、太陽光を侮るな」
「ん…ありがとうございます。麦わら帽子、もう一つ買いに行きましょ。あと折角だしリゾート仕様のワンピースも買いに行きたいです」
「それは構わないが、露出の多いものは控えるように」
「はーい」
被せられた麦わら帽子を直す。久しぶりにゆっくり二人で過ごせそう。ウキウキしていたら、またボルカノさんが目を優しく細めて笑っていた。