RS Re;univerSe舞台
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正反対
道具屋の店番をしていれば、そりゃ変な客の一人や二人に遭遇することはある。これは接客業に置いて避けては通れないもの。例えば酔っ払いやナンパ紛いの声掛け。適当にあしらえば解決することもあるけれど、今回ばかりはかなり面倒な客に絡まれてしまった。というよりは巻き込まれてしまった。
現在カウンターの上には紫色の小さな花をつけたハーブが一つ。そのヘリオトロープを巡って二人の術士が争っていた。
赤と青を象徴とした術士達。どちらも術士としては優秀な戦士で塔士にとって欠かせない存在だと聞いたことがある。それだけ実力を認められているんだろうけど。
真っ赤なタキシードに身を包んだ男性は朱鳥術士ボルカノ。少年時代に朱鳥術を独学で身に着け、天才術士と謳われるようになった。燃えるような髪と瞳、まさに赤尽くしの人。
かたや彼と対面している男性は青い瞳に長い金髪を高い位置で結わえている。青い胴衣を身に着け、太陽を象った首飾りを下げていた。彼はマジックキングダムという魔術学院の卒業生、ブルー。双子である自身の片割れを抹殺する為に術を磨く旅に出る。
その片割れが今はこの世界で戦士として存在しているけれど、互いに静観している様子。不思議な事に因縁がある者同士が集っても、事を荒立てない。それは私としても有難い事だった。
前置きはこのぐらいにしておいて。事の次第を説明すると単純明快。二人は道具屋にほぼ同時に来店し、同じ商品をカウンターで注文した。そこまでは良かった。この時点で二人とも争う気は全く無かったんだもの。ただ、ヘリオトロープが残り一つしかなかったのが問題だったのかもしれない。残り一つですけどどうしますかと尋ねれば、ボルカノさんがブルーに譲ろうとした。取り合いにならなくてホッとしたのも束の間。
「貴様に譲られる義理は無い」と青い瞳が三角に吊り上がった。しかもかなり強い口調で突っぱねたのだ。
それに対して最初こそ物腰が柔らかいボルカノさんだったけど、淡々とした口論が段々とヒートアップしてしまった。
「私の視界に貴様が映ることが気に喰わん」
「ならばその目を閉ざせばいい。貴殿が不快とする色を認識しなくなる」
「言葉の意味が分からんのか。私の前から消えろと言っている」
「何故私がこの場を去らなければならない」
正直、この場に居るのがコワイ。冷静な態度を装っている二人の術士だけど、なんかただならぬオーラが出始めている。なんで今日に限って店番が私一人なのか。せめてジニーが居てくれれば何とかなったかもしれないのに。
売り言葉に買い言葉。そのやりとりをしている間、店内に居たはずのお客さん達は巻き込まれないようにと出ていってしまった。我関せずという考え方はどこの世界でも同じみたいだ。
とは言え、私はこの店の従業員。店をほっぽりだして逃げる訳にもいかない。幸いにも命に危機を感じる程の問題じゃない。今の所は。
「あー……二人ともそんなにイライラしてたら身体に悪いと思うんだけど」
下手に声を掛けようものなら逆上するのは目に見えていた。当たり障りのなさそうな言葉を掛けてみたはいいものの、二人の睨み合いは止まらなかった。あろうことか矛先が私の方へ向いてくる。とんだとばっちりだ。
「赤…下劣な色だ。気分を害する色だと君も思わないか」
「え、えっと…」
「彼女を巻き込むな。好き嫌いを他人に強要する真似は不粋だ」
それを貴方が言うのか。というツッコミたい気持ちを抑えて、ブルーには苦笑いだけを返しておく。すると苦々しい舌打ちが聞こえた。それが私に向けられたものかは分からない。ただ、ボルカノさんの表情に皺がまた一つ増えた。
やばい。このままだと一触即発になるのでは。明らかな空気の変化に身がすくみそうになる。
からん、からん。
ピリピリとした肌を刺す空気に一筋の変化が訪れた。
鳴り響いたドアベルの余韻を聞きながら、こんな時に来店する客はどんな強者かと目を向けると、そこにはウンディーネさんが立っていた。
彼女は店の中を見渡し、それからカウンター前の二人を一瞥。細い腕を体の前に組んで、呆れた溜め息を溢した。
「買い物に来たんだけど、誰も店の中に入っていこうとしないからおかしいと思ったのよ。原因は貴方達ね。営業妨害になってること、分かってるのかしら」
そう言われて外を見れば、立ち往生している人が何人かいた。店の中を控えめに覗き込んではパッと目を反らす。そりゃ、入れませんよね。
予想外の相手に乱入された二人は感情的な言動は起こさなかった。黙って唇を一文字に結んでいる。というよりはへの字に近い。
「喧嘩するなら外でしなさい。店や一般人を巻き込むような真似は止めて頂戴」
「…モウゼスでの件、お前も町民に迷惑をかけていたはずだが」
「あら、それはお互い様でしょ。これでも反省しているのよ」
彼女は嫌味もさらりと受け流し、私の方へと向き直る。カツカツとヒールを鳴らしながら二人の間を割る様にしてカウンターへついた。そこで「買い物に来た」という台詞を思い出し、私は慌てて「いらっしゃいませ!」とお客さんを出迎えた。
「傷薬を三つ、ラベンダーを一束。それとヘリオトロープも頂戴」
「…あ、ヘリオトロープは」
「何か問題でも?」
他の物は不足なく用意ができる。ただ、ヘリオトロープはこの二人の言い合いの素だ。でもこれをウンディーネさんに譲ってしまえば場は丸く収まるんじゃないだろうか。
「これ、最後の一つだったんです。それでどっちが買うのかで揉めて」
「呆れた。そんなことで言い争っていたの?……まったく。しょうがない人達ね。これは私が頂くわ。異議があるなら言いなさい」
「私は買うつもりは無い。好きにしろ」
「…オレも急ぎではない。それはウンディーネお前に譲ろう」
「そう、なら有難く譲り受けるわ。お会計お願い」
私は商品を紙袋に詰めて、代金と引き換えにそれをウンディーネさんへ手渡した。
争いの火種は無くなったけど、ブルーの表情が未だにコワイ。眉間に皺を寄せたまま不貞腐れている。
「ああ、そうだわ。ブルー、貴方は自身の魔術を向上させる為に旅をしていたのでしょう?」
「そうだが」
「役に立つ話があるわ。聞けば貴方は単身で術を磨いているようだけど、他者の術者と連携を取る事も時には必要よ。あらゆる状況下での戦い方を身に着けておけば、どんな相手とも優位に戦うことができる。そう、どんな相手だろうと。興味があるならお話させてもらうわ」
「……いいだろう。その話、聞かせてもらおうか」
ブルーは少し悩んでからそう返事をした。この世界でルージュと一時休戦状態とはいえ、やっぱり彼を倒す事が第一目的のようだ。きっと向こうも同じ様に考えているんだろう。彼等は双子だから。
「それなら訓練所まで来て頂戴。私の弟子もいるからそこで実演も交えて説明するわ」
快い返事ににこりと微笑んだウンディーネさんはブルーを連れて店を後にした。このままブルーを残しておくとまた言い合いになると考えて連れだしてくれたんだろう。彼女の計らいに私は心から感謝した。
「はあ……一難去った」
「事を荒立てすまなかった」
「いーですよ。きっとブルーとボルカノさんは相性悪いんだろうなあとは思ってましたから」
私はカウンターにへたりと伏せて、顔だけ上げてみせた。ボルカノさんは「さっきの争いは不本意だ」とでも言いたげにしている。
「あの男の赤嫌いは異常な程だな。それ程までに宿敵を妬んでいるようだ」
「仕方ないですよ。…あの二人、ブルーとルージュは正反対なんだから。……仕方ないこと、なんですよね」
「霧華はあの二人の事も知っているようだな」
その問い掛けに私は重く頷いてみせた。
彼等の結末を知っている。内情も知っている。でも、それを本人達に話した所で何も変わらないだろう。マジックキングダムの双子が互いに理解し合える日は来ない。
「…中途半端にみんなの事知ってると、辛いです」
伏せた頭に温かい手が触れた。その温もりに思わず涙ぐみそうになって、腕に顔を埋める。
「君は優しすぎる。…他者の事まで背負いすぎない方がいい」
「……はい」
道具屋の店番をしていれば、そりゃ変な客の一人や二人に遭遇することはある。これは接客業に置いて避けては通れないもの。例えば酔っ払いやナンパ紛いの声掛け。適当にあしらえば解決することもあるけれど、今回ばかりはかなり面倒な客に絡まれてしまった。というよりは巻き込まれてしまった。
現在カウンターの上には紫色の小さな花をつけたハーブが一つ。そのヘリオトロープを巡って二人の術士が争っていた。
赤と青を象徴とした術士達。どちらも術士としては優秀な戦士で塔士にとって欠かせない存在だと聞いたことがある。それだけ実力を認められているんだろうけど。
真っ赤なタキシードに身を包んだ男性は朱鳥術士ボルカノ。少年時代に朱鳥術を独学で身に着け、天才術士と謳われるようになった。燃えるような髪と瞳、まさに赤尽くしの人。
かたや彼と対面している男性は青い瞳に長い金髪を高い位置で結わえている。青い胴衣を身に着け、太陽を象った首飾りを下げていた。彼はマジックキングダムという魔術学院の卒業生、ブルー。双子である自身の片割れを抹殺する為に術を磨く旅に出る。
その片割れが今はこの世界で戦士として存在しているけれど、互いに静観している様子。不思議な事に因縁がある者同士が集っても、事を荒立てない。それは私としても有難い事だった。
前置きはこのぐらいにしておいて。事の次第を説明すると単純明快。二人は道具屋にほぼ同時に来店し、同じ商品をカウンターで注文した。そこまでは良かった。この時点で二人とも争う気は全く無かったんだもの。ただ、ヘリオトロープが残り一つしかなかったのが問題だったのかもしれない。残り一つですけどどうしますかと尋ねれば、ボルカノさんがブルーに譲ろうとした。取り合いにならなくてホッとしたのも束の間。
「貴様に譲られる義理は無い」と青い瞳が三角に吊り上がった。しかもかなり強い口調で突っぱねたのだ。
それに対して最初こそ物腰が柔らかいボルカノさんだったけど、淡々とした口論が段々とヒートアップしてしまった。
「私の視界に貴様が映ることが気に喰わん」
「ならばその目を閉ざせばいい。貴殿が不快とする色を認識しなくなる」
「言葉の意味が分からんのか。私の前から消えろと言っている」
「何故私がこの場を去らなければならない」
正直、この場に居るのがコワイ。冷静な態度を装っている二人の術士だけど、なんかただならぬオーラが出始めている。なんで今日に限って店番が私一人なのか。せめてジニーが居てくれれば何とかなったかもしれないのに。
売り言葉に買い言葉。そのやりとりをしている間、店内に居たはずのお客さん達は巻き込まれないようにと出ていってしまった。我関せずという考え方はどこの世界でも同じみたいだ。
とは言え、私はこの店の従業員。店をほっぽりだして逃げる訳にもいかない。幸いにも命に危機を感じる程の問題じゃない。今の所は。
「あー……二人ともそんなにイライラしてたら身体に悪いと思うんだけど」
下手に声を掛けようものなら逆上するのは目に見えていた。当たり障りのなさそうな言葉を掛けてみたはいいものの、二人の睨み合いは止まらなかった。あろうことか矛先が私の方へ向いてくる。とんだとばっちりだ。
「赤…下劣な色だ。気分を害する色だと君も思わないか」
「え、えっと…」
「彼女を巻き込むな。好き嫌いを他人に強要する真似は不粋だ」
それを貴方が言うのか。というツッコミたい気持ちを抑えて、ブルーには苦笑いだけを返しておく。すると苦々しい舌打ちが聞こえた。それが私に向けられたものかは分からない。ただ、ボルカノさんの表情に皺がまた一つ増えた。
やばい。このままだと一触即発になるのでは。明らかな空気の変化に身がすくみそうになる。
からん、からん。
ピリピリとした肌を刺す空気に一筋の変化が訪れた。
鳴り響いたドアベルの余韻を聞きながら、こんな時に来店する客はどんな強者かと目を向けると、そこにはウンディーネさんが立っていた。
彼女は店の中を見渡し、それからカウンター前の二人を一瞥。細い腕を体の前に組んで、呆れた溜め息を溢した。
「買い物に来たんだけど、誰も店の中に入っていこうとしないからおかしいと思ったのよ。原因は貴方達ね。営業妨害になってること、分かってるのかしら」
そう言われて外を見れば、立ち往生している人が何人かいた。店の中を控えめに覗き込んではパッと目を反らす。そりゃ、入れませんよね。
予想外の相手に乱入された二人は感情的な言動は起こさなかった。黙って唇を一文字に結んでいる。というよりはへの字に近い。
「喧嘩するなら外でしなさい。店や一般人を巻き込むような真似は止めて頂戴」
「…モウゼスでの件、お前も町民に迷惑をかけていたはずだが」
「あら、それはお互い様でしょ。これでも反省しているのよ」
彼女は嫌味もさらりと受け流し、私の方へと向き直る。カツカツとヒールを鳴らしながら二人の間を割る様にしてカウンターへついた。そこで「買い物に来た」という台詞を思い出し、私は慌てて「いらっしゃいませ!」とお客さんを出迎えた。
「傷薬を三つ、ラベンダーを一束。それとヘリオトロープも頂戴」
「…あ、ヘリオトロープは」
「何か問題でも?」
他の物は不足なく用意ができる。ただ、ヘリオトロープはこの二人の言い合いの素だ。でもこれをウンディーネさんに譲ってしまえば場は丸く収まるんじゃないだろうか。
「これ、最後の一つだったんです。それでどっちが買うのかで揉めて」
「呆れた。そんなことで言い争っていたの?……まったく。しょうがない人達ね。これは私が頂くわ。異議があるなら言いなさい」
「私は買うつもりは無い。好きにしろ」
「…オレも急ぎではない。それはウンディーネお前に譲ろう」
「そう、なら有難く譲り受けるわ。お会計お願い」
私は商品を紙袋に詰めて、代金と引き換えにそれをウンディーネさんへ手渡した。
争いの火種は無くなったけど、ブルーの表情が未だにコワイ。眉間に皺を寄せたまま不貞腐れている。
「ああ、そうだわ。ブルー、貴方は自身の魔術を向上させる為に旅をしていたのでしょう?」
「そうだが」
「役に立つ話があるわ。聞けば貴方は単身で術を磨いているようだけど、他者の術者と連携を取る事も時には必要よ。あらゆる状況下での戦い方を身に着けておけば、どんな相手とも優位に戦うことができる。そう、どんな相手だろうと。興味があるならお話させてもらうわ」
「……いいだろう。その話、聞かせてもらおうか」
ブルーは少し悩んでからそう返事をした。この世界でルージュと一時休戦状態とはいえ、やっぱり彼を倒す事が第一目的のようだ。きっと向こうも同じ様に考えているんだろう。彼等は双子だから。
「それなら訓練所まで来て頂戴。私の弟子もいるからそこで実演も交えて説明するわ」
快い返事ににこりと微笑んだウンディーネさんはブルーを連れて店を後にした。このままブルーを残しておくとまた言い合いになると考えて連れだしてくれたんだろう。彼女の計らいに私は心から感謝した。
「はあ……一難去った」
「事を荒立てすまなかった」
「いーですよ。きっとブルーとボルカノさんは相性悪いんだろうなあとは思ってましたから」
私はカウンターにへたりと伏せて、顔だけ上げてみせた。ボルカノさんは「さっきの争いは不本意だ」とでも言いたげにしている。
「あの男の赤嫌いは異常な程だな。それ程までに宿敵を妬んでいるようだ」
「仕方ないですよ。…あの二人、ブルーとルージュは正反対なんだから。……仕方ないこと、なんですよね」
「霧華はあの二人の事も知っているようだな」
その問い掛けに私は重く頷いてみせた。
彼等の結末を知っている。内情も知っている。でも、それを本人達に話した所で何も変わらないだろう。マジックキングダムの双子が互いに理解し合える日は来ない。
「…中途半端にみんなの事知ってると、辛いです」
伏せた頭に温かい手が触れた。その温もりに思わず涙ぐみそうになって、腕に顔を埋める。
「君は優しすぎる。…他者の事まで背負いすぎない方がいい」
「……はい」