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大寒波
今年の冬は冷え込んでいる。町の住人がそう話していた翌日から連日気温が軒並み低下。氷点下を記録する日もあったそうだ。この寒さのお陰で背に羽を持つ者、寒さに特別弱い生物たちがぼやいている。日常生活にすら影響が出ると。だが人間も例外ではないものだ。
凍てつく寒波の中、雪の住人と戯れていた彼女は部屋に飛び込んでくるなり暖炉に齧りついたまま動こうとしなかった。毛布を頭から被った本人の言い分はこうだ。「雪がちらついている程度だった。まさかこんなに気温が下がるとは思わなかった」と。
「最近寒すぎやしません?氷河期でも来るんじゃないですか」
「予報では週末まで冷え込む。雪だるまと外で戯れるのはお勧めできんな。生身の人間には厳しいと身を持って知っただろう」
「こんなに冷え込むとは思わなかったんですう。……私と違って雪だるまさんは調子が良さそうでした」
「あまり調子が良いのも困りものだが、な」
その言葉にふと先日あった出来事を思い出した。今日の様に寒い日の事だ。塔出現により攻略隊の一員として赴いたのは良い。先陣を切っていく雪だるまが些か暴走していた。あれは酷かった。無事に帰還出来たからいいものの。
「何かあったんですか?」
毛布の塊がこちらを振り向く。
暖炉にくべていた薪が炭化して間もなく朽ちようとしていた。暖炉の脇に積んだ薪を幾つか手に取り、燃え盛る炎の中へ頃合いを見て放り込む。乾いた音を立てた後、赤く燃えていた薪は朽ちた。火力を上げているせいで薪の消費も早い。そうかといって下げる訳にもいかなかった。寒い寒いと訴えている者がいる限り。
「もう少し火を強めるか」
「あ、いえ。このままで……というか既に地獄の業火の如く燃えているしこれ以上火力上げたら暖炉ぶっ飛びますよ」
「暖炉の耐久性を考慮すればまだいける」
「いや、止めときましょう。朱鳥術士の部屋で火災があったとか洒落にならないです」
轟々と唸りを上げている暖炉に向かって「むしろ少し弱めた方が」と心配そうに呟く。唸りは風の影響だ。しかしそう不安な顔を向けられてはな。暖炉へ手をかざし、火力の調整を行えば火の勢いが穏やかとなった。小さな歓声が傍で起こる。
「それで、雪だるまさんがどうしたんですか」
「……ああ。先日塔の攻略へ赴いた時だ。その日も寒かったんだが、どうも気温が低いと形振り構わず突っ走る傾向がある。前線で倒れたレッドの回復をポルカが頼んでいたが、聞かずに敵に突っ込んでいった」
「それガンガン行こうぜ状態じゃないですか…。レッド君、大丈夫でした?」
「三度の声掛けで気づいたからな。事無きを得た」
「そっか。良かったあ。それにしても」
毛布から顔だけを覗かせた彼女がどこか可笑しそうに笑みを零す。
「ボルカノさんが他の人と共闘してるなんて意外だなあ。ポドールイの時だって渋々だったし」
「オレの力が必要だというのなら、その求めには応じる」
塔士の力となってほしい。その声が聞こえた直後、この未来の世界に足を踏み入れていた。
攫われた妹を奪還するべく躍起になっているポルカと行動を共にする事も多い。奴を放っておけないと思う節がある。それは彼女の影響を受けているのだと此処に来てから思い知らされた。弟子に留まらず多大な影響を己に与えていった彼女とまた出逢えたのは奇跡に等しいもの。
暖炉の火が安定したところで自分もそこへ腰を下ろし、片膝を立てる。霧華の方へ腕を伸ばし、こちらへ来るように促す。
「火を緩めた分オレが温めてやる」
パッと顔を綻ばせたまでは良い。しかし毛布に包まったまま体を預けてくるのはどうなんだ。全くもってオレの意図が伝わっていないではないか。それも彼女らしいと言えばそうなのだが。
「……オレは毛布の塊ではなく、君を抱きしめたいと言っているつもりなんだが」
「あ。すみません」
一度毛布を取り払ってから片腕に彼女を抱え込む。氷の様に冷たい体だ。冷えた空気に晒されないようその背にまた毛布を掛ける。ぴたりと胸元に頭を寄せて「ボルカノさんの側は暖かいから好きです」と宣う。
「それだけか?オレを好きな理由は。……行火か何かと思っているならその考え、改めてもらおうか」
顎先に指を掛けて上を向かせ、体温の低い唇を掠めとる。唯の行火だと思われるのは癪だ。額へ一つ、瞼から頬へと滑らせるように短い口づけを。先程よりも幾分か温度を上げた唇へもう一度。熱を少しずつ分け与えるように口づけを深く落としていった。
過ぎた戯れに抗議しようと睨みつけてはくるが、酸欠を訴えて潤む瞳についその先を求めたくなる。が、腕を突っぱねてくるのでこれ以上強引に事を進めない方がいいか。名残惜しくも額に軽く口づけてからその頭を胸元へ抱き寄せた。僅かに上昇した温もりを逃がさないように。
「少しは温まったようだな」
「充分すぎます」
「いい加減朱鳥術を学んでみたらどうだ」
「まだ言うんですか」
「こうも冷えた身体に触れているとな。無理にでも教え込みたくなる。この世界にまた訪れたのも何かの縁だと思えばいい」
冷えは万病の元。体内の熱生産量を上げることができれば、冷えも改善されるというもの。彼女の体調を気遣って何度か勧めてきたが、頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。
「だって、私が朱鳥術覚えたらボルカノさんに近寄らなくなりますよ。熱いから……っていうのは冗談ですけど」
「オレは構わない。熱さなら歓迎しよう、君の熱ならば特に」
「……考えておきます」
「ああ。是非そうしてくれ」
窓から見える景色は完全に白の世界へと姿を変えていた。一メートル先の視界すら不鮮明だ。幾度も唸りを上げる暖炉の音を聞いては彼女が肩を震わせる。コントロールをしているから心配は要らないと言えばこくりと頷いた。
雪の町を訪れた日もこんな風に荒れた天気だった。あの時も互いに身を寄せ合いながら他愛の無い話をしていたものだ。
「元の世界へ帰ってからどういう生活を送っていたんだ」
「どういうって、フツーの日常ですよ。何の変哲もない、ありきたりな」
「そのありきたりがオレ達の世界とは異なる。天術、地術の無い世界。魔物に脅かされる心配の無い平穏な暮らし……後者は望む人間も多いが、術の無い世界はオレには到底考えられん。一度この目で見てみたいものだ」
「文明の機器に驚きますよ、きっと。ボタン一つでお湯が沸いたり、ご飯が炊けたり……思えば便利な世の中だったんだなあって有難みを感じました」
術ではなく機械が発達した世界。その環境で育った彼女は慣れないかまどに手を焼いていたようだった。器量の良さから使い方を直ぐに覚えてはいたが。
仕事に明け暮れる日々、趣味として細工品をまた作り始めた事。体力作りにと筋トレをしては挫折を繰り返している事。それらを話し終えた後に「一年はあっという間だったなあ」と呟く。それからそっちはどうだったのかと眠そうな声で尋ねてきた。
「ピドナを出て諸国を巡っていた。弟子の様子を見に行くのも兼ねてな」
話の半分は嘘だった。送還術を執り行った後にピドナを出たのは事実。だが、目的は持ち合わせずにいた。彼女と過ごしたあの場所に留まり続ける事ができなかった。忘れ形見の様に追いかけてくる。しかしそれは何処に居ようとたいして変わりはしなかった。彼女から預かった物を弟子に返した際、事の顛末を話せば馬鹿なのかと罵られもした。
「……フェイル君に会えました?」
「ああ。預かったタリスマンも返しておいた」
「良かった。ありがとうございます。……元気にしてましたか」
「ああ。師に対して悪口雑言を吐くぐらいにな」
「……ふふ。彼らしい」
そう言いながらも彼女は既に微睡みの中。身体が温まってきたと同時に睡魔が訪れてきたようだ。うつらうつらと舟を漕ぎながらも睡魔に抗っている。その瞼に口づけを落とし、幼子をあやす様に頭を撫でた。
「眠いなら眠るといい。…オレの傍なら安心して眠れるのだろう?」
雪の町でそう言われ、異性として意識されていないと発覚した時は少なからず衝撃を受けた。だが、そう嘆くこともない。安らげる相手だからこそ過度な緊張をせずに心を預けられるものだと。築き上げられた信頼関係が最終的には功を成した。
「……ああ、オレはもう少しこのままで。君の鼓動を感じていたい」
互いの心音を胸に感じながら夢現の彼女にそう告げた。
今年の冬は冷え込んでいる。町の住人がそう話していた翌日から連日気温が軒並み低下。氷点下を記録する日もあったそうだ。この寒さのお陰で背に羽を持つ者、寒さに特別弱い生物たちがぼやいている。日常生活にすら影響が出ると。だが人間も例外ではないものだ。
凍てつく寒波の中、雪の住人と戯れていた彼女は部屋に飛び込んでくるなり暖炉に齧りついたまま動こうとしなかった。毛布を頭から被った本人の言い分はこうだ。「雪がちらついている程度だった。まさかこんなに気温が下がるとは思わなかった」と。
「最近寒すぎやしません?氷河期でも来るんじゃないですか」
「予報では週末まで冷え込む。雪だるまと外で戯れるのはお勧めできんな。生身の人間には厳しいと身を持って知っただろう」
「こんなに冷え込むとは思わなかったんですう。……私と違って雪だるまさんは調子が良さそうでした」
「あまり調子が良いのも困りものだが、な」
その言葉にふと先日あった出来事を思い出した。今日の様に寒い日の事だ。塔出現により攻略隊の一員として赴いたのは良い。先陣を切っていく雪だるまが些か暴走していた。あれは酷かった。無事に帰還出来たからいいものの。
「何かあったんですか?」
毛布の塊がこちらを振り向く。
暖炉にくべていた薪が炭化して間もなく朽ちようとしていた。暖炉の脇に積んだ薪を幾つか手に取り、燃え盛る炎の中へ頃合いを見て放り込む。乾いた音を立てた後、赤く燃えていた薪は朽ちた。火力を上げているせいで薪の消費も早い。そうかといって下げる訳にもいかなかった。寒い寒いと訴えている者がいる限り。
「もう少し火を強めるか」
「あ、いえ。このままで……というか既に地獄の業火の如く燃えているしこれ以上火力上げたら暖炉ぶっ飛びますよ」
「暖炉の耐久性を考慮すればまだいける」
「いや、止めときましょう。朱鳥術士の部屋で火災があったとか洒落にならないです」
轟々と唸りを上げている暖炉に向かって「むしろ少し弱めた方が」と心配そうに呟く。唸りは風の影響だ。しかしそう不安な顔を向けられてはな。暖炉へ手をかざし、火力の調整を行えば火の勢いが穏やかとなった。小さな歓声が傍で起こる。
「それで、雪だるまさんがどうしたんですか」
「……ああ。先日塔の攻略へ赴いた時だ。その日も寒かったんだが、どうも気温が低いと形振り構わず突っ走る傾向がある。前線で倒れたレッドの回復をポルカが頼んでいたが、聞かずに敵に突っ込んでいった」
「それガンガン行こうぜ状態じゃないですか…。レッド君、大丈夫でした?」
「三度の声掛けで気づいたからな。事無きを得た」
「そっか。良かったあ。それにしても」
毛布から顔だけを覗かせた彼女がどこか可笑しそうに笑みを零す。
「ボルカノさんが他の人と共闘してるなんて意外だなあ。ポドールイの時だって渋々だったし」
「オレの力が必要だというのなら、その求めには応じる」
塔士の力となってほしい。その声が聞こえた直後、この未来の世界に足を踏み入れていた。
攫われた妹を奪還するべく躍起になっているポルカと行動を共にする事も多い。奴を放っておけないと思う節がある。それは彼女の影響を受けているのだと此処に来てから思い知らされた。弟子に留まらず多大な影響を己に与えていった彼女とまた出逢えたのは奇跡に等しいもの。
暖炉の火が安定したところで自分もそこへ腰を下ろし、片膝を立てる。霧華の方へ腕を伸ばし、こちらへ来るように促す。
「火を緩めた分オレが温めてやる」
パッと顔を綻ばせたまでは良い。しかし毛布に包まったまま体を預けてくるのはどうなんだ。全くもってオレの意図が伝わっていないではないか。それも彼女らしいと言えばそうなのだが。
「……オレは毛布の塊ではなく、君を抱きしめたいと言っているつもりなんだが」
「あ。すみません」
一度毛布を取り払ってから片腕に彼女を抱え込む。氷の様に冷たい体だ。冷えた空気に晒されないようその背にまた毛布を掛ける。ぴたりと胸元に頭を寄せて「ボルカノさんの側は暖かいから好きです」と宣う。
「それだけか?オレを好きな理由は。……行火か何かと思っているならその考え、改めてもらおうか」
顎先に指を掛けて上を向かせ、体温の低い唇を掠めとる。唯の行火だと思われるのは癪だ。額へ一つ、瞼から頬へと滑らせるように短い口づけを。先程よりも幾分か温度を上げた唇へもう一度。熱を少しずつ分け与えるように口づけを深く落としていった。
過ぎた戯れに抗議しようと睨みつけてはくるが、酸欠を訴えて潤む瞳についその先を求めたくなる。が、腕を突っぱねてくるのでこれ以上強引に事を進めない方がいいか。名残惜しくも額に軽く口づけてからその頭を胸元へ抱き寄せた。僅かに上昇した温もりを逃がさないように。
「少しは温まったようだな」
「充分すぎます」
「いい加減朱鳥術を学んでみたらどうだ」
「まだ言うんですか」
「こうも冷えた身体に触れているとな。無理にでも教え込みたくなる。この世界にまた訪れたのも何かの縁だと思えばいい」
冷えは万病の元。体内の熱生産量を上げることができれば、冷えも改善されるというもの。彼女の体調を気遣って何度か勧めてきたが、頑なに首を縦に振ろうとはしなかった。
「だって、私が朱鳥術覚えたらボルカノさんに近寄らなくなりますよ。熱いから……っていうのは冗談ですけど」
「オレは構わない。熱さなら歓迎しよう、君の熱ならば特に」
「……考えておきます」
「ああ。是非そうしてくれ」
窓から見える景色は完全に白の世界へと姿を変えていた。一メートル先の視界すら不鮮明だ。幾度も唸りを上げる暖炉の音を聞いては彼女が肩を震わせる。コントロールをしているから心配は要らないと言えばこくりと頷いた。
雪の町を訪れた日もこんな風に荒れた天気だった。あの時も互いに身を寄せ合いながら他愛の無い話をしていたものだ。
「元の世界へ帰ってからどういう生活を送っていたんだ」
「どういうって、フツーの日常ですよ。何の変哲もない、ありきたりな」
「そのありきたりがオレ達の世界とは異なる。天術、地術の無い世界。魔物に脅かされる心配の無い平穏な暮らし……後者は望む人間も多いが、術の無い世界はオレには到底考えられん。一度この目で見てみたいものだ」
「文明の機器に驚きますよ、きっと。ボタン一つでお湯が沸いたり、ご飯が炊けたり……思えば便利な世の中だったんだなあって有難みを感じました」
術ではなく機械が発達した世界。その環境で育った彼女は慣れないかまどに手を焼いていたようだった。器量の良さから使い方を直ぐに覚えてはいたが。
仕事に明け暮れる日々、趣味として細工品をまた作り始めた事。体力作りにと筋トレをしては挫折を繰り返している事。それらを話し終えた後に「一年はあっという間だったなあ」と呟く。それからそっちはどうだったのかと眠そうな声で尋ねてきた。
「ピドナを出て諸国を巡っていた。弟子の様子を見に行くのも兼ねてな」
話の半分は嘘だった。送還術を執り行った後にピドナを出たのは事実。だが、目的は持ち合わせずにいた。彼女と過ごしたあの場所に留まり続ける事ができなかった。忘れ形見の様に追いかけてくる。しかしそれは何処に居ようとたいして変わりはしなかった。彼女から預かった物を弟子に返した際、事の顛末を話せば馬鹿なのかと罵られもした。
「……フェイル君に会えました?」
「ああ。預かったタリスマンも返しておいた」
「良かった。ありがとうございます。……元気にしてましたか」
「ああ。師に対して悪口雑言を吐くぐらいにな」
「……ふふ。彼らしい」
そう言いながらも彼女は既に微睡みの中。身体が温まってきたと同時に睡魔が訪れてきたようだ。うつらうつらと舟を漕ぎながらも睡魔に抗っている。その瞼に口づけを落とし、幼子をあやす様に頭を撫でた。
「眠いなら眠るといい。…オレの傍なら安心して眠れるのだろう?」
雪の町でそう言われ、異性として意識されていないと発覚した時は少なからず衝撃を受けた。だが、そう嘆くこともない。安らげる相手だからこそ過度な緊張をせずに心を預けられるものだと。築き上げられた信頼関係が最終的には功を成した。
「……ああ、オレはもう少しこのままで。君の鼓動を感じていたい」
互いの心音を胸に感じながら夢現の彼女にそう告げた。