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クリスマス後日談
バンガード市内にあるショップで私は一人で店番を任されていた。
クリスマスも無事に終わってからすぐにいつもの日常が戻ってきた。プレゼント集めや梱包にあれだけ忙しかったのが嘘のように今は暇である。今日は知っている人はみんな遠征や鍛錬に出かけているし、ジニーも遠征についていってしまった。
午前中にお店に来た人は数える程度。午後になった今は一人も来ていない。このまま誰もお客さんが来なければ眠ってしまいそうだ。
カウンターで頬杖をつきながら欠伸を一つ。午後の日差しにウトウトしかけた頃、ドアベルがからんからんと鳴った。
「いらっしゃいませ!」
それと同時に体をがばっと起こして待っていた客を出迎える。その客は見知った顔で、鍛錬に行っているはずのユリアンだった。
「ユリアン。もう鍛錬終わったの?」
「やあ。さっき終わらせた所だ。…ちょっとヘマして。傷薬貰いに来たんだ」
「うわ…痛そう。ちょっと待ってて」
赤くなった手の甲を摩るユリアンは口の端を歪ませていた。急いで薬の棚から傷薬の瓶を取り出し、それとエーデルワイスを一束掴んでカウンターへ並べた。紙袋に入れていく。
「傷薬だけでいいよ」
「これはサービス。ユリアンが今日の午後一番のお客さんだから」
「……暇みたいだな。ジニーも居ないんだ」
「うん。だから退屈で。はい、お大事に」
「ありがとう」
お会計を済ませてから品物が入った紙袋を渡す。もう帰っちゃうのかなと少し残念な気持ちでいた。少しぐらい立ち話してくれたら暇が潰せるんだけど。その心の声が伝わったのか、ユリアンはすぐに帰るような様子が無かった。
「霧華ちゃんはクリスマスパーティーの方を手伝ったんだって?」
「うん。大変だったけどみんな喜んでくれたから良かったよ。ユリアンはムー探しに行ってたんでしょ?結構大変だったて聞いた」
「魔物だらけだったからなあ……まあ、オレ達にかかれば楽勝だったよ」
洞窟内に逃げ込んだムーが奥へ奥へと逃げ込んだ為にそれを追いかけるのが大変だったと言う。魔物自体は難なく撃退できたらしい。先日、朱鳥術士が「全て焼き払っておいた」と言ってたからしばらくその洞窟内に魔物が湧く事は無さそうだ。
「そうだ。今度二人で出掛けない?可愛いお店見つけたんだ。霧華ちゃんが好きそうなお店。オレでよければ案内するよ」
ユリアンは紙袋を抱えたままカウンターに頬杖をついてニコニコと笑う。これは所謂ナンパというやつだ。鈍い鈍いと言われている私でも流石に分かる。それにしてもユリアンってこんなにチャラチャラしたキャラだったかな。私の記憶違いだろうか。
「あー……その、気持ちは嬉しいんだけど。二人ではちょっと……」
両手をひらひらと遠慮がちに胸の前で振って御免なさいと意思表示。ここでオーケーなんて言った日には後が怖い。でもその可愛いお店はちょっと気になる。ジニーなら知ってるかな。
私がやんわりと断っていると、ユリアンの視線が私の左手に注がれた。薬指に嵌められた指輪を見て顔を顰めている。
「……その指輪ってこの前までしてなかった、よな?」
よく見てるなあ。観察眼が鋭い。
口をへの字に曲げたユリアンはじっとそれを見ていた。
「彼氏?」
「まあ、そんなところかなあ…。だから二人で出掛けるのはちょっと」
「じゃあエレンやトムも誘って行こう。それならいいだろ?みんなで出掛ければさ」
「え、えっと」
幾ら言っても引いてくれそうにない。私は次第に焦りを感じた。
トーマスの方は快く受けてくれそうだけど、エレンは果たして彼の誘いに乗るのだろうか。物語冒頭で彼に塩対応だったし、これ断られたら結局女一人になってしまう。それにトーマスだって急用ができてしまったとかで断ってきたら。それこそ二人きりになってしまう。それは色んな意味でマズイ。何がマズイって、彼の後方で無言の圧を掛けているボルカノさんが立っている。お願いだから早く気付いてほしい。彼が消し炭となってしまう前に。
「……ユリアン、後ろ」
「え?」
小声でこっそり教えたはいいけど、遅かった。彼の肩にボルカノさんの手が置かれ、そこで初めて存在に気が付いたのか驚いて振り返っていた。
「ぼ、ボルカノ!?いつからそこに」
「本人の目の前で人の女を口説くとは……いい度胸をしているようだな」
「えっ!?あ、え……ええっ?!」
私とボルカノさんを交互に見返す。そしてさっきの話に上がった渦中の人物が彼だと分かったのか、かなり驚いていた。そして、不敵な笑みを浮かべる朱鳥術士は完全に悪人面をしている。
「火葬をお望みならば塵一つ残さずに業火で燃やしてやるが」
「……っじゃ、じゃあオレはこれで!」
彼の手を振り払い、尻尾を巻いて店を出て行ってしまった。店のドアをバタンと閉められたせいでドアベルがガランガランンとやかましく鳴る。少し焦げ臭いのは気のせいだと思いたい。
「……ボルカノさん遠征お疲れ様です」
「ああ。魔物がアンデットやスライムばかりだったからな。すぐに片付いた」
「じゃあジニーもそろそろ戻ってくる……なんです?」
私の方を睨むように、不満があるような目でじっと見てきた。さっきのは不可抗力だから咎めないでほしいのだけど。
「随分親し気に話す間柄のようだな」
「まあ、よくお店に来てくれるから話し相手にもなってるし。常連さんですし」
「それは完全に君目当てだ。……まったく。油断も隙もあったものじゃない」
額に手を当てて大袈裟な溜息をつかれてしまう。ここでユリアンのフォローをしては今度こそ命に危険が及ぶ。幾多の塔士がいれど、仲違いは当然ある。そこにわざわざ揉め事を増やさない方がいい。ただでさえ馬が合わなくていがみ合う人たちもいるから。
徐にボルカノさんが私の左手を取った。先日直してもらった指輪に目を落としている。
「……他の虫よけを考えた方がいいか」
「それで指輪のサイズ直したんですか?」
「こうでもしないと君に声を掛ける輩が居る。現にさっきもそうだ」
「ところで、この指輪外せないんですけど」
水仕事をしようと思った時に指輪を外そうとした。けれど何故か指から抜けなかった。くるくると回るからサイズが小さいわけでもなく、関節に引っかかってもいない。
「ああ。その指輪は呪われているから一度つけたら外せないぞ」
「ちょっ、呪われたアイテムを堂々と私に押し付けないでくれますう?!」
「何が不満なんだ」
「呪われた物にはいい思い出がないこと、ボルカノさんも知ってますよね!」
レオニード城の地下で書庫を閲覧しに行った時のことだ。ブラッディソードに身体を乗っ取られた苦い思い出がある。その時の記憶が全く無くて、聞いても詳しく教えてはくれなかった。ただ、大変だったとしか。剣を手放した後は身体中が痛くて、普段は持ち上げられもしない剣を振り回していた事は分かった。
それからというもの、道端に落ちているアイテム類に触る時は慎重になった。私は心の隙間に付け入れられやすい体質らしいから。
「負の効果は無い。ただ外せないだけだ」
「それでも日常生活に少し影響は出るんですけど。水仕事する時困るし」
「心配するな。防水加工も施してある。……どうしても外したいというならば、呪いをかけた術士が命を落とすしか他ない」
「それは、イヤです」
一年前にも同じような台詞を聞いた。私を元の世界に還す為には、呼び出した張本人の命を絶てば還ることができるかもしれないと。私は今と同じ様にそれを望まなかった。自分の為に誰かが犠牲になるのは嫌だ。それに今では別の理由もある。
「此処には様々な奴がいる。……霧華を誰かに盗られやしないかと不安が募るんだ」
「自信家なボルカノさんはどこにいったんです?ここまで鈍い私を振り向かせたんですよ。もっと自信持ってください」
珍しく弱気になっている。私の知っている南モウゼスの朱鳥術士はもっと胸を張って堂々としているはず。
私がそう話せば彼は伏せていた目を上げ、柔らかい笑みを口元に浮かべて見せた。
「それもそうだな」
「……ボルカノさんってそんな風に笑う人でしたっけ」
ついと目を逸らせた後、赤らめた顔を隠すように口元を手で覆う。もごもごと聞こえてきた声は「君が変えたんだろ」と言っていた。
バンガード市内にあるショップで私は一人で店番を任されていた。
クリスマスも無事に終わってからすぐにいつもの日常が戻ってきた。プレゼント集めや梱包にあれだけ忙しかったのが嘘のように今は暇である。今日は知っている人はみんな遠征や鍛錬に出かけているし、ジニーも遠征についていってしまった。
午前中にお店に来た人は数える程度。午後になった今は一人も来ていない。このまま誰もお客さんが来なければ眠ってしまいそうだ。
カウンターで頬杖をつきながら欠伸を一つ。午後の日差しにウトウトしかけた頃、ドアベルがからんからんと鳴った。
「いらっしゃいませ!」
それと同時に体をがばっと起こして待っていた客を出迎える。その客は見知った顔で、鍛錬に行っているはずのユリアンだった。
「ユリアン。もう鍛錬終わったの?」
「やあ。さっき終わらせた所だ。…ちょっとヘマして。傷薬貰いに来たんだ」
「うわ…痛そう。ちょっと待ってて」
赤くなった手の甲を摩るユリアンは口の端を歪ませていた。急いで薬の棚から傷薬の瓶を取り出し、それとエーデルワイスを一束掴んでカウンターへ並べた。紙袋に入れていく。
「傷薬だけでいいよ」
「これはサービス。ユリアンが今日の午後一番のお客さんだから」
「……暇みたいだな。ジニーも居ないんだ」
「うん。だから退屈で。はい、お大事に」
「ありがとう」
お会計を済ませてから品物が入った紙袋を渡す。もう帰っちゃうのかなと少し残念な気持ちでいた。少しぐらい立ち話してくれたら暇が潰せるんだけど。その心の声が伝わったのか、ユリアンはすぐに帰るような様子が無かった。
「霧華ちゃんはクリスマスパーティーの方を手伝ったんだって?」
「うん。大変だったけどみんな喜んでくれたから良かったよ。ユリアンはムー探しに行ってたんでしょ?結構大変だったて聞いた」
「魔物だらけだったからなあ……まあ、オレ達にかかれば楽勝だったよ」
洞窟内に逃げ込んだムーが奥へ奥へと逃げ込んだ為にそれを追いかけるのが大変だったと言う。魔物自体は難なく撃退できたらしい。先日、朱鳥術士が「全て焼き払っておいた」と言ってたからしばらくその洞窟内に魔物が湧く事は無さそうだ。
「そうだ。今度二人で出掛けない?可愛いお店見つけたんだ。霧華ちゃんが好きそうなお店。オレでよければ案内するよ」
ユリアンは紙袋を抱えたままカウンターに頬杖をついてニコニコと笑う。これは所謂ナンパというやつだ。鈍い鈍いと言われている私でも流石に分かる。それにしてもユリアンってこんなにチャラチャラしたキャラだったかな。私の記憶違いだろうか。
「あー……その、気持ちは嬉しいんだけど。二人ではちょっと……」
両手をひらひらと遠慮がちに胸の前で振って御免なさいと意思表示。ここでオーケーなんて言った日には後が怖い。でもその可愛いお店はちょっと気になる。ジニーなら知ってるかな。
私がやんわりと断っていると、ユリアンの視線が私の左手に注がれた。薬指に嵌められた指輪を見て顔を顰めている。
「……その指輪ってこの前までしてなかった、よな?」
よく見てるなあ。観察眼が鋭い。
口をへの字に曲げたユリアンはじっとそれを見ていた。
「彼氏?」
「まあ、そんなところかなあ…。だから二人で出掛けるのはちょっと」
「じゃあエレンやトムも誘って行こう。それならいいだろ?みんなで出掛ければさ」
「え、えっと」
幾ら言っても引いてくれそうにない。私は次第に焦りを感じた。
トーマスの方は快く受けてくれそうだけど、エレンは果たして彼の誘いに乗るのだろうか。物語冒頭で彼に塩対応だったし、これ断られたら結局女一人になってしまう。それにトーマスだって急用ができてしまったとかで断ってきたら。それこそ二人きりになってしまう。それは色んな意味でマズイ。何がマズイって、彼の後方で無言の圧を掛けているボルカノさんが立っている。お願いだから早く気付いてほしい。彼が消し炭となってしまう前に。
「……ユリアン、後ろ」
「え?」
小声でこっそり教えたはいいけど、遅かった。彼の肩にボルカノさんの手が置かれ、そこで初めて存在に気が付いたのか驚いて振り返っていた。
「ぼ、ボルカノ!?いつからそこに」
「本人の目の前で人の女を口説くとは……いい度胸をしているようだな」
「えっ!?あ、え……ええっ?!」
私とボルカノさんを交互に見返す。そしてさっきの話に上がった渦中の人物が彼だと分かったのか、かなり驚いていた。そして、不敵な笑みを浮かべる朱鳥術士は完全に悪人面をしている。
「火葬をお望みならば塵一つ残さずに業火で燃やしてやるが」
「……っじゃ、じゃあオレはこれで!」
彼の手を振り払い、尻尾を巻いて店を出て行ってしまった。店のドアをバタンと閉められたせいでドアベルがガランガランンとやかましく鳴る。少し焦げ臭いのは気のせいだと思いたい。
「……ボルカノさん遠征お疲れ様です」
「ああ。魔物がアンデットやスライムばかりだったからな。すぐに片付いた」
「じゃあジニーもそろそろ戻ってくる……なんです?」
私の方を睨むように、不満があるような目でじっと見てきた。さっきのは不可抗力だから咎めないでほしいのだけど。
「随分親し気に話す間柄のようだな」
「まあ、よくお店に来てくれるから話し相手にもなってるし。常連さんですし」
「それは完全に君目当てだ。……まったく。油断も隙もあったものじゃない」
額に手を当てて大袈裟な溜息をつかれてしまう。ここでユリアンのフォローをしては今度こそ命に危険が及ぶ。幾多の塔士がいれど、仲違いは当然ある。そこにわざわざ揉め事を増やさない方がいい。ただでさえ馬が合わなくていがみ合う人たちもいるから。
徐にボルカノさんが私の左手を取った。先日直してもらった指輪に目を落としている。
「……他の虫よけを考えた方がいいか」
「それで指輪のサイズ直したんですか?」
「こうでもしないと君に声を掛ける輩が居る。現にさっきもそうだ」
「ところで、この指輪外せないんですけど」
水仕事をしようと思った時に指輪を外そうとした。けれど何故か指から抜けなかった。くるくると回るからサイズが小さいわけでもなく、関節に引っかかってもいない。
「ああ。その指輪は呪われているから一度つけたら外せないぞ」
「ちょっ、呪われたアイテムを堂々と私に押し付けないでくれますう?!」
「何が不満なんだ」
「呪われた物にはいい思い出がないこと、ボルカノさんも知ってますよね!」
レオニード城の地下で書庫を閲覧しに行った時のことだ。ブラッディソードに身体を乗っ取られた苦い思い出がある。その時の記憶が全く無くて、聞いても詳しく教えてはくれなかった。ただ、大変だったとしか。剣を手放した後は身体中が痛くて、普段は持ち上げられもしない剣を振り回していた事は分かった。
それからというもの、道端に落ちているアイテム類に触る時は慎重になった。私は心の隙間に付け入れられやすい体質らしいから。
「負の効果は無い。ただ外せないだけだ」
「それでも日常生活に少し影響は出るんですけど。水仕事する時困るし」
「心配するな。防水加工も施してある。……どうしても外したいというならば、呪いをかけた術士が命を落とすしか他ない」
「それは、イヤです」
一年前にも同じような台詞を聞いた。私を元の世界に還す為には、呼び出した張本人の命を絶てば還ることができるかもしれないと。私は今と同じ様にそれを望まなかった。自分の為に誰かが犠牲になるのは嫌だ。それに今では別の理由もある。
「此処には様々な奴がいる。……霧華を誰かに盗られやしないかと不安が募るんだ」
「自信家なボルカノさんはどこにいったんです?ここまで鈍い私を振り向かせたんですよ。もっと自信持ってください」
珍しく弱気になっている。私の知っている南モウゼスの朱鳥術士はもっと胸を張って堂々としているはず。
私がそう話せば彼は伏せていた目を上げ、柔らかい笑みを口元に浮かべて見せた。
「それもそうだな」
「……ボルカノさんってそんな風に笑う人でしたっけ」
ついと目を逸らせた後、赤らめた顔を隠すように口元を手で覆う。もごもごと聞こえてきた声は「君が変えたんだろ」と言っていた。