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奇跡があるならば
それは雪がチラつき始める季節だった。
身震いするような気温の中、魔塔の攻略からバンガードへ戻って来た時にオレは彼女を見つけた。本当にそれは偶然だった。見覚えのある顔だけど、戦士の中に彼女は居ない。ただ、町の住人で度々見かけたから覚えているだけかと最初は思った。でも、そうじゃなかったんだ。ヴィジョンの中で見た彼女はボルカノの想い人だ。
彼女は空から降ってくる雪を物珍しそうに両手の平と顔を上に向けていた。彼女の吐息が白く曇り、消えていく。雪を眺める様はどこか物憂げに見えたのはオレの気のせいだろうか。
声を掛けようと踏み出した足は雪で滑り、濡れた石畳の上に無様に転んでしまった。まだ雪が薄っすらとしか積もっていないせいで、打ち付けた箇所に強い衝撃を受ける。元曲芸師だというのに、受け身も取れないなんてあまりにも情けない。
傷む腰をさすっていると、オレの目の前に手が差し出された。視線を上に向けた先には、オレが遠巻きに見ていた彼女だった。
「大丈夫?」
「……あ、ありがとう」
「雪が降ってくると滑るから危ないよね。怪我してない?」
彼女の手を借りて身体を起こす。もう転んだりはしない。さっきは少し気を取られていたせいで自分に注意が向かなかっただけだ。
近くで見る彼女は霧華さんに間違いなかった。ボルカノに喚び出された異世界の人間。今すぐにボルカノへ伝えに行きたい気持ちで一杯だった。だけど、彼女が彼の事を知っているかどうか。もしかしたら、ボルカノに出逢う前の彼女かもしれない。そうとなれば二人を逢わせてもまた歪みが生じてしまう。
この霧華さんがどの時点の人なのか、どうにか確かめないと。でもどうやって。
「あ、あの……」
「うん?」
「…助けてもらったお礼に、その…お茶を」
何故かは分からないが、ユリアンが以前言っていた事を思い出してそれを真似て口に出していた。ちょっと待て、これじゃあナンパしているみたいだ。案の定、霧華さんは「やだなあ。ナンパ?」と茶化したように笑った。口にしたことが恥ずかしくなってオレは彼女から目を逸らしてしまった。
「ち、違う。……知り合いに、似てたから」
「どこかで会った事あったかな。……あ!君がポルカくん?」
「オレのこと、知ってるんですか」
「うん。ジニーから聞いてたの。元曲芸師の塔士がいるって」
つまり、オレがサーカス団の一員だったということも、曲芸師だったことも彼女には知られている。益々恥ずかしくなってきた。身のこなしには自信があるのに、滑稽に転んでしまった姿を見られたのだ。
腕に大粒の雪が張り付いて、溶けて消えていく。段々降り方が激しくなってきた。今夜は積もるのかもしれない。
「こんな所で立ち話もなんだし、喫茶店に入ろうか。美味しい紅茶がある店を教えてもらったの」
すぐそこにある店だと南の方角を指した彼女の柔らかい表情はヴィジョンで視たそのままの女性だった。
◇
霧華さんおススメの店に入り、一番隅のテーブル席で紅茶を二つ注文。店は繁盛しているようで、二十代から三十代の客によく利用されているようだった。こういうお洒落な店にはあまり踏み入らないせいか、少し肩身が狭い。オレみたいな奴には場違いなんじゃないかと思えてくる。
「ポルカくん、あんまりこういう店来ない?」
「……人が集まるような場所は苦手で」
「そっか…ごめんね。無理に誘って」
「いえ、気にしないでください。元はと言えばオレが変な事言ったせいなんだし。こっちこそ、すみません」
「じゃあ、お相子ってことで」
紅茶が運ばれてくるまでの間、特にオレ達にこれといった会話は無かった。人見知りの自分が恨めしいとさえ思えてくる。でも、ヴィジョンで視た彼女はもっと明るい感じだったのに。オレの前に居る霧華さんはどことなく寂しそうな雰囲気を纏っている。やっぱり、ボルカノと逢う前の彼女なんだろうか。
相手をジロジロと不躾に見ていたせいか、彼女は「やっぱり変?」と不安げに聞いてきた。何の事かと言葉を選んでいると「今日は前髪の寝ぐせが酷くて。何とか直したんだけど」と前髪を随分気にしていた。
テーブルに運ばれてきたティーセットはシンプルな白に統一されていた。香り立つ琥珀色の紅茶。霧華さんは砂糖もミルクも使わずにストレートのままそれを楽しんでいる。大人だな、と思いながら自分は砂糖を一つカップの中へ落とした。
温かい紅茶で身体が温まってきたせいもあり、ようやく会話が続くようになってきた。
「ポルカくんは妹さんを探しているんでしょ?早く見つかるといいね」
「…はい。ありがとうございます」
「大丈夫だよ。絶対に見つかる」
根拠も何もない。それなのに彼女の言葉には魔力でも込められているのか、不思議と安心できるものだった。事情を良く知らない人間だからこそ、本心でそう言える。それが、今の自分には響いたのかもしれない。
この流れで聞いてしまえば不自然にはならないだろうか。あまり変な言い方をすれば勘繰られる。でも、確かめるチャンスは今しかない。
「霧華さんはどうして此処に喚ばれたんですか。…失礼かもしれないけど、見た限り貴女は戦えるような人じゃない。だから、何のために…此処に」
差支えの無い部分から。しかしそのポイントが悪かったのか。霧華さんは目を丸くして、首を少し傾けた。
「あれ……私、此処の世界の人間じゃないってポルカくんに話したっけ」
「えっ!?あ、その……えっと」
しまった。今までの会話で彼女が異世界から来たことなんて一言も話していない。これじゃあ最初から貴女のことを知っていると暴露しているようなものじゃないか。口にしてしまった以上、今更誤魔化す事も出来そうにない。これ以上ボロが出ない様にと自分の口を片手で覆うも、上手い切り返しが全く浮かばない。
「……ほ、ほら。知り合いみたい、で。どこかで見かけたような気がするって…言っただろ。それで、その…もしかしたらと思って」
とりあえずと話してみるも、自分でも驚く程に上手く話せていない。支離滅裂な上に話の内容も纏まっていない。恐らくは顔にも出ているんだろう。だから絶対に怪しまれていると思った。
ところが、呆けていた霧華さんの表情が柔らかい笑みに変わっていく。
「なんだ。そっか…案外知られてるんだね。…そ、ポルカくんの言う通り私は戦えない。剣も扱えないし、術も使えない。ただのお荷物なんだけどね。……どうしてかまたこの世界に来ちゃった」
「……前にも、この世界に来たことが?」
一度頷いてみせた霧華さんの顔からは笑みが消えていた。代わりに浮かんだのは薄暗い雲を纏った哀しい表情。この先を聞いていいものかオレは躊躇っていた。この時にもう確信していたんだ。彼女はボルカノと出逢う前の人でもなく、その中間でもない。三百年前の世界から還った後の人だと。そういえば、彼女の左手には赤い指輪が無い。これらからある事が推測された。だからオレは彼の事を話すかどうか、迷ってもいた。
「ちょっとややこしい話なんだけどね。私、この世界の三百年前に居た人に異世界から喚び出されたの。しかも手違いでだよ?迷惑極まりないよね。……でも、一生懸命私を還す方法を探してくれた。そのおかげで自分の世界へ無事に還れたんだけど」
――フェイルくんにこれ返しておいてください。
――ああ、分かった。
――この指輪はボルカノさんに返しますね。
――いい。……餞別として君に渡しておく。
以前視たヴィジョンの断片が頭の中に浮かんで、消えていった。
霧華さんは本当に還りたかったんだろうか。最後に視たヴィジョンでは彼女は浮かない表情をしていた。何か言いたそうにも。今の霧華さんはその時と同じ様に悲しんでいるように思えた。やっぱり、この二人の気持ちは同じだったんじゃないか。本当は離れたくなかったんじゃないのか。
「まさかまたこんな形で戻って来るなんて、思いもしなかった」
ぽつりと呟かれた霧華さんの言葉と視線がティーカップの中に落ちる。
聞いてはいけないのかもしれない。余計なお世話だとこの人にも怒られてしまうかもしれない。でも、彼らのヴィジョンを視てしまった以上。黙っていることができない。ああ、だからお前はお人好しだって言われるのか。
「霧華さんはその人の事…どう思っているんですか。その朱鳥術士の事。……すみません。オレ、貴女のこと知っているんです。彼の、ボルカノのヴィジョンに貴女が居て…それで」
「……そっか。ポルカくん、塔士だもんね」
塔士が塔の最上階に囚われていた戦士を解放する力を持つ。それをこの人は知っている素振りだった。その際に視る断片的な過去の事も。
「ボルカノは貴女のことを探してる。……彼に会ってもらえませんか」
二人の時間軸は恐らく同一時点。それなら話が早い。オレはそう切り出した。でも彼女は浮かない表情のまま、口をつぐんでしまった。それから寂しげに笑って、こう言った。
「ほんと、勝手な人だな。……ごめんね。今は会えない」
「……っ、どうして?」
「だって、どんな顔して、何を話せばいいのか。……分からないもの」
「それは、そうかもしれない。でも!」
「やっと割り切ったんだよ。一年もかかった。それなのに、また……どうしていいのか、私分からない。薄々思ってたよ。エレンやノーラさん達が居たから、もしかして彼も来ているんじゃないか。でもその彼が私の事を知っているとは限らない。お前なんか知らないって言われたらイヤだなって」
「ボルカノは貴女を元の世界に還した後の人だ。だから霧華さんの事をよく知っているし、今でも」
これはオレが首を突っ込んではいけない話のようだった。ただ、オレは二人が一緒に居られるようになればと。そう、思っただけだった。それなのに、目の前にいる彼女が涙ぐむ目を抑えているのを見て、居たたまれない気持ちで満たされてしまう。
「……すみません。オレ、余計な事ばかり」
「ううん。ポルカくんのせいじゃないよ。…私、鈍いせいで彼の気持ちに気づけなかった。自分の気持ちに気づくのも遅すぎた。だから彼に会わせる顔が無い。上手く話せる自信も無い」
考える時間が欲しいと彼女はそっと目を伏せた。
どうか、二人がまた心を通わせ合えるように。もうすぐクリスマスだ。奇跡が起きてもいいはずだ。
それは雪がチラつき始める季節だった。
身震いするような気温の中、魔塔の攻略からバンガードへ戻って来た時にオレは彼女を見つけた。本当にそれは偶然だった。見覚えのある顔だけど、戦士の中に彼女は居ない。ただ、町の住人で度々見かけたから覚えているだけかと最初は思った。でも、そうじゃなかったんだ。ヴィジョンの中で見た彼女はボルカノの想い人だ。
彼女は空から降ってくる雪を物珍しそうに両手の平と顔を上に向けていた。彼女の吐息が白く曇り、消えていく。雪を眺める様はどこか物憂げに見えたのはオレの気のせいだろうか。
声を掛けようと踏み出した足は雪で滑り、濡れた石畳の上に無様に転んでしまった。まだ雪が薄っすらとしか積もっていないせいで、打ち付けた箇所に強い衝撃を受ける。元曲芸師だというのに、受け身も取れないなんてあまりにも情けない。
傷む腰をさすっていると、オレの目の前に手が差し出された。視線を上に向けた先には、オレが遠巻きに見ていた彼女だった。
「大丈夫?」
「……あ、ありがとう」
「雪が降ってくると滑るから危ないよね。怪我してない?」
彼女の手を借りて身体を起こす。もう転んだりはしない。さっきは少し気を取られていたせいで自分に注意が向かなかっただけだ。
近くで見る彼女は霧華さんに間違いなかった。ボルカノに喚び出された異世界の人間。今すぐにボルカノへ伝えに行きたい気持ちで一杯だった。だけど、彼女が彼の事を知っているかどうか。もしかしたら、ボルカノに出逢う前の彼女かもしれない。そうとなれば二人を逢わせてもまた歪みが生じてしまう。
この霧華さんがどの時点の人なのか、どうにか確かめないと。でもどうやって。
「あ、あの……」
「うん?」
「…助けてもらったお礼に、その…お茶を」
何故かは分からないが、ユリアンが以前言っていた事を思い出してそれを真似て口に出していた。ちょっと待て、これじゃあナンパしているみたいだ。案の定、霧華さんは「やだなあ。ナンパ?」と茶化したように笑った。口にしたことが恥ずかしくなってオレは彼女から目を逸らしてしまった。
「ち、違う。……知り合いに、似てたから」
「どこかで会った事あったかな。……あ!君がポルカくん?」
「オレのこと、知ってるんですか」
「うん。ジニーから聞いてたの。元曲芸師の塔士がいるって」
つまり、オレがサーカス団の一員だったということも、曲芸師だったことも彼女には知られている。益々恥ずかしくなってきた。身のこなしには自信があるのに、滑稽に転んでしまった姿を見られたのだ。
腕に大粒の雪が張り付いて、溶けて消えていく。段々降り方が激しくなってきた。今夜は積もるのかもしれない。
「こんな所で立ち話もなんだし、喫茶店に入ろうか。美味しい紅茶がある店を教えてもらったの」
すぐそこにある店だと南の方角を指した彼女の柔らかい表情はヴィジョンで視たそのままの女性だった。
◇
霧華さんおススメの店に入り、一番隅のテーブル席で紅茶を二つ注文。店は繁盛しているようで、二十代から三十代の客によく利用されているようだった。こういうお洒落な店にはあまり踏み入らないせいか、少し肩身が狭い。オレみたいな奴には場違いなんじゃないかと思えてくる。
「ポルカくん、あんまりこういう店来ない?」
「……人が集まるような場所は苦手で」
「そっか…ごめんね。無理に誘って」
「いえ、気にしないでください。元はと言えばオレが変な事言ったせいなんだし。こっちこそ、すみません」
「じゃあ、お相子ってことで」
紅茶が運ばれてくるまでの間、特にオレ達にこれといった会話は無かった。人見知りの自分が恨めしいとさえ思えてくる。でも、ヴィジョンで視た彼女はもっと明るい感じだったのに。オレの前に居る霧華さんはどことなく寂しそうな雰囲気を纏っている。やっぱり、ボルカノと逢う前の彼女なんだろうか。
相手をジロジロと不躾に見ていたせいか、彼女は「やっぱり変?」と不安げに聞いてきた。何の事かと言葉を選んでいると「今日は前髪の寝ぐせが酷くて。何とか直したんだけど」と前髪を随分気にしていた。
テーブルに運ばれてきたティーセットはシンプルな白に統一されていた。香り立つ琥珀色の紅茶。霧華さんは砂糖もミルクも使わずにストレートのままそれを楽しんでいる。大人だな、と思いながら自分は砂糖を一つカップの中へ落とした。
温かい紅茶で身体が温まってきたせいもあり、ようやく会話が続くようになってきた。
「ポルカくんは妹さんを探しているんでしょ?早く見つかるといいね」
「…はい。ありがとうございます」
「大丈夫だよ。絶対に見つかる」
根拠も何もない。それなのに彼女の言葉には魔力でも込められているのか、不思議と安心できるものだった。事情を良く知らない人間だからこそ、本心でそう言える。それが、今の自分には響いたのかもしれない。
この流れで聞いてしまえば不自然にはならないだろうか。あまり変な言い方をすれば勘繰られる。でも、確かめるチャンスは今しかない。
「霧華さんはどうして此処に喚ばれたんですか。…失礼かもしれないけど、見た限り貴女は戦えるような人じゃない。だから、何のために…此処に」
差支えの無い部分から。しかしそのポイントが悪かったのか。霧華さんは目を丸くして、首を少し傾けた。
「あれ……私、此処の世界の人間じゃないってポルカくんに話したっけ」
「えっ!?あ、その……えっと」
しまった。今までの会話で彼女が異世界から来たことなんて一言も話していない。これじゃあ最初から貴女のことを知っていると暴露しているようなものじゃないか。口にしてしまった以上、今更誤魔化す事も出来そうにない。これ以上ボロが出ない様にと自分の口を片手で覆うも、上手い切り返しが全く浮かばない。
「……ほ、ほら。知り合いみたい、で。どこかで見かけたような気がするって…言っただろ。それで、その…もしかしたらと思って」
とりあえずと話してみるも、自分でも驚く程に上手く話せていない。支離滅裂な上に話の内容も纏まっていない。恐らくは顔にも出ているんだろう。だから絶対に怪しまれていると思った。
ところが、呆けていた霧華さんの表情が柔らかい笑みに変わっていく。
「なんだ。そっか…案外知られてるんだね。…そ、ポルカくんの言う通り私は戦えない。剣も扱えないし、術も使えない。ただのお荷物なんだけどね。……どうしてかまたこの世界に来ちゃった」
「……前にも、この世界に来たことが?」
一度頷いてみせた霧華さんの顔からは笑みが消えていた。代わりに浮かんだのは薄暗い雲を纏った哀しい表情。この先を聞いていいものかオレは躊躇っていた。この時にもう確信していたんだ。彼女はボルカノと出逢う前の人でもなく、その中間でもない。三百年前の世界から還った後の人だと。そういえば、彼女の左手には赤い指輪が無い。これらからある事が推測された。だからオレは彼の事を話すかどうか、迷ってもいた。
「ちょっとややこしい話なんだけどね。私、この世界の三百年前に居た人に異世界から喚び出されたの。しかも手違いでだよ?迷惑極まりないよね。……でも、一生懸命私を還す方法を探してくれた。そのおかげで自分の世界へ無事に還れたんだけど」
――フェイルくんにこれ返しておいてください。
――ああ、分かった。
――この指輪はボルカノさんに返しますね。
――いい。……餞別として君に渡しておく。
以前視たヴィジョンの断片が頭の中に浮かんで、消えていった。
霧華さんは本当に還りたかったんだろうか。最後に視たヴィジョンでは彼女は浮かない表情をしていた。何か言いたそうにも。今の霧華さんはその時と同じ様に悲しんでいるように思えた。やっぱり、この二人の気持ちは同じだったんじゃないか。本当は離れたくなかったんじゃないのか。
「まさかまたこんな形で戻って来るなんて、思いもしなかった」
ぽつりと呟かれた霧華さんの言葉と視線がティーカップの中に落ちる。
聞いてはいけないのかもしれない。余計なお世話だとこの人にも怒られてしまうかもしれない。でも、彼らのヴィジョンを視てしまった以上。黙っていることができない。ああ、だからお前はお人好しだって言われるのか。
「霧華さんはその人の事…どう思っているんですか。その朱鳥術士の事。……すみません。オレ、貴女のこと知っているんです。彼の、ボルカノのヴィジョンに貴女が居て…それで」
「……そっか。ポルカくん、塔士だもんね」
塔士が塔の最上階に囚われていた戦士を解放する力を持つ。それをこの人は知っている素振りだった。その際に視る断片的な過去の事も。
「ボルカノは貴女のことを探してる。……彼に会ってもらえませんか」
二人の時間軸は恐らく同一時点。それなら話が早い。オレはそう切り出した。でも彼女は浮かない表情のまま、口をつぐんでしまった。それから寂しげに笑って、こう言った。
「ほんと、勝手な人だな。……ごめんね。今は会えない」
「……っ、どうして?」
「だって、どんな顔して、何を話せばいいのか。……分からないもの」
「それは、そうかもしれない。でも!」
「やっと割り切ったんだよ。一年もかかった。それなのに、また……どうしていいのか、私分からない。薄々思ってたよ。エレンやノーラさん達が居たから、もしかして彼も来ているんじゃないか。でもその彼が私の事を知っているとは限らない。お前なんか知らないって言われたらイヤだなって」
「ボルカノは貴女を元の世界に還した後の人だ。だから霧華さんの事をよく知っているし、今でも」
これはオレが首を突っ込んではいけない話のようだった。ただ、オレは二人が一緒に居られるようになればと。そう、思っただけだった。それなのに、目の前にいる彼女が涙ぐむ目を抑えているのを見て、居たたまれない気持ちで満たされてしまう。
「……すみません。オレ、余計な事ばかり」
「ううん。ポルカくんのせいじゃないよ。…私、鈍いせいで彼の気持ちに気づけなかった。自分の気持ちに気づくのも遅すぎた。だから彼に会わせる顔が無い。上手く話せる自信も無い」
考える時間が欲しいと彼女はそっと目を伏せた。
どうか、二人がまた心を通わせ合えるように。もうすぐクリスマスだ。奇跡が起きてもいいはずだ。